バターよ跳躍せよ
全てがバターの渦に飲まれた次の瞬間、ムーンフィッシュ博士は目を覚ました。
そこは――自分自身の胃袋の中だった。
胃壁には無数の小さなムーンフィッシュ博士が這い回り、ハムスターたちは小さな鍋でバターラーメンを作っていた。
「おい、これを啜れ!意味が溶け出してるぞ!」
ケルベロス・オルガンの声が、どこからともなく響き渡る。
彼は今、脳内と胃袋の中間次元で「歌」そのものになっていた。
「歌詞を書け!早く!歌詞がないと存在が溶ける!」
歌詞が必要だった。だが博士はペンを持っていない。
そこで、マカロニ大尉が自身のスパゲッティの腕を裂き、ペン代わりに差し出した。
「使え、博士!俺のパスタは言葉を記すためにあったんだ!」
博士はパスタの芯で床にこう書いた。
「パンは神を超える。だが神はバターに溶ける。回転する寿司は真理の断面。オムレツは終末の卵黄。」
途端に、胃袋の壁が崩壊し、全てが「スープの一滴」に変換された。
博士たちはスープの分子となり、量子的な存在として無限のカツ丼の間に浮遊した。
そして現れたのは――ナマズ・オブ・ザ・デッドの瞳孔の中にいる「バターの王」だった。
「お前たち、バターを塗るのか?それとも、バターそのものになるのか?」
ナマズの目が無限の鏡像となり、博士たちの存在を無限に映し出した。
一人の博士は頭がカツ丼、もう一人の博士は手が寿司のシャリ、もう一人の博士は脳がトーストの耳だった。
ケルベロス・オルガンは自らの旋律に飲み込まれ、音楽そのものとして「意味とは何か」を歌う円環になっていた。
「意味とは何だ!?」
博士が絶叫すると、全てのハムスターが一斉に合唱した。
「意味は溶けたチーズの下に隠れている!」
「ならば――!」
博士は自身の身体をバターに変え、チーズの下に潜り込んだ。
そこで見たものは、全ての答え、全ての始まり、そして全ての終わりだった。
「俺たちは、最初からバターだった。」
「意味は、意味を求めた瞬間に消滅する。
だが、その消滅すらも、また意味である。」
そして、全てがバターの泡となって溶けていった。