表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

パンの神殿

パンの神殿は、想像を絶する規模だった。

焼きたてのバゲットでできた柱が無数にそびえ、空にはトーストの雲が流れ、床にはクロワッサンが敷き詰められていた。

風が吹くたび、どこからともなく「酵母は意識の源だ」という囁きが聞こえてくる。


ムーンフィッシュ博士は息を飲んだ。

「ここは……生命の発酵槽か……?」


「違う、博士!」

ケルベロス・オルガンが三つの口で同時に叫んだ。

「ここは、意味をパンに変換する場所だ!」


「……パンに変換!?」

マカロニ大尉が困惑するが、すぐに小麦粉の匂いに包まれ、パスタの腕がしんなりと曲がった。


その時、神殿の中央で巨大な食パンがむっくりと起き上がった。

それは喋った。

低く、もったりとした声で。


「お前たちは、意味を求めすぎた。パンはパンであり、それ以上でもそれ以下でもない。」


ムーンフィッシュ博士は息を呑み、震える声で問いかけた。

「ならば、この旅に何の意味があったのだ……!?」


巨大食パンはじっと博士を見つめた。

そして――


「バターを塗るか?」


突如、神殿の空間がぐにゃりと歪み、全てがトーストの断面に吸い込まれていく。

博士は叫んだ。

「待て!俺はまだ何も理解していない!!」

だがケルベロスが冷静に言った。

「博士、あなたは理解したがっているフリをしているだけです。理解など、もはや不可能です。」


マカロニ大尉は空を見上げ、パスタの目に涙を滲ませた。

「俺は、ただアルデンテでいたかった……。」


全てが渦を巻き、ハムスターたちが「バター!バター!」と合唱する中、ナマズ・オブ・ザ・デッドの声が再び響く。


「君たちは結局、バターを塗るのか?塗らないのか?それが全てだ。」


博士は立ち尽くしたまま、自分の手のひらを見つめた。

指先に、じんわりと溶けたバターの感触があった。

その香りが、脳内銀河の奥底で、微かに光を放っていた。


そして彼は気づいた。

「ああ……これが、意味だったのかもしれない。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ