表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/31

17話 地下へ

翌日、バルドは作戦の提案をするため国へ向かった。

カイとリュミエールは作戦の細部を確認しながら、それぞれの役割に集中していた。


カイの折れていた腕も、まだ痛みは残るものの、ある程度動かせるようになっていた。


夕方、国から戻ってきたバルドが報告をした。

兵士たちはバルドチームに紛れる形で地下へと潜入することになったらしい。

そこで一定の待機場所を設け、敵が現れるその時まで身を潜めて過ごすという。


バルドチームは表向きには通常通り魔石の探索を続ける。

バルドとカイが「見つけたこと」になっている魔石は、いつも通り地下の一時保管場所へと運ばれる。


敵襲があれば、まずは抵抗の素振りを見せつつ魔石を差し出す。

その瞬間、待機している兵士たちが一斉に動き出すというのが今回の作戦だった。


リュミエールには街の家で待機していてもらう予定だったが、

「探索チームのご飯係として同行します!」と勝手に準備に紛れ込み、結局一緒に行くことに。


当然カイは強く反対したが、

「何かあっても、私が守れるから!」

そう真っ直ぐ言い切られ、思わず納得してしまった。

……情けないけど、それが事実だ。


敵襲がいつ来るかは分からない。

そのため、今夜から地下に潜ることが決まった。


皆、緊張した面持ちで、それでも力強く——

静かに、確実に、地下へと足を運んだ。



地下に潜って、二日が経った。


暗く、湿った空気。岩肌に囲まれた空間に、人の気配だけが静かに満ちていた。

誰も口には出さないが、全員が緊張している。

その中で唯一、普段通りに動いているのは——


「はーい、朝ごはん運んできましたー!」


リュミエールだった。

やかましいほど明るい声とともに、彼女は湯気の立つスープとパンの入った籠を持って現れた。


「……料理してないんだよな?」


「失礼ね!ちゃんと“運ぶ”係なんだから!」


実際、料理は兵士の中の手際の良い人たちが作っている。

リュミエールがキッチンに立とうものなら、鍋は焦げるし、パンは岩のように固くなる。

だから、運ぶ係に専念してもらっているのだ。


「でもね、おまじないはかけてるの。疲れがちょっと和らぐようにって。効果は……たぶん、ある、かも?」


「”かも”か……」


俺は半分あきれながらパンを受け取った。

それでも、こんな風に明るく振る舞ってくれる存在は、今のこの重い空気の中では本当にありがたかった。


——そして、三日目の朝。

その時は、突然やってきた。


地響きと共に、地下通路の奥から聞こえてくる靴音。

誰かの声が、微かに響いた。


「……来た」


師匠がぽつりと呟いた。


バルドの声を聞いた雑用係は奥へと引っ込んだ。その中にリュミエールの姿もある。

何かあった時のために、リュミエールは影から見守ることになっていた。



その時、敵が現れた。


ゆっくりと、警戒しながらも堂々とした足取りで現れた男。

顔の下半分を布で覆い、鋭い眼光だけが闇に浮かんでいた。


「――魔石を差し出す覚悟は、できたか?」


その声に、場の空気が一瞬止まったように感じた。

探索師たちは手に汗をにぎりながら、動かぬようにじっと息を潜める。

その全員を背負うように、バルドが一歩、前に出た。


「前回お前たちが持って行った分で、当時の全てだった。隠していたわけじゃない。

……だが、それから新たに見つけたものがある」


敵の目がわずかに細まる。


「ならば、それをすべて渡してもらおう。……国中の分までとは言わない」


バルドの表情がほんの一瞬だけ険しくなる。

だがすぐに、いつも通りの不敵な笑みを浮かべて返した。


「全部渡したら、俺たちの暮らしが立ち行かなくなる。

国にも余裕はない。……だが、見つけた半分なら、渡してやる。

それでも足りぬというなら、――こちらも黙ってはいない」


それは明確な警告だった。


辺りの空気がぴり、と張り詰める。

探索師たちは静かに武器を構え、戦闘体制に入る――ように見せかけた。


相手の男はしばし黙ったまま、こちらの様子を観察していた。

まるで、虚勢かどうかを見極めようとしているかのように。

だが、バルドの視線は一度も揺らがなかった。


「……致し方ない。私たちも無謀な殺し合いを望んでいるわけではない。

では、半分を受け取って引き上げよう」


バルドは静かにうなずき、あらかじめ用意していた袋を相手の足元に投げ出す。

その中にはリュミエールが作った魔石が、数十個。

煌めく光がわずかに暗がりを照らした。


敵が袋を確かめようと腰を落とし、警戒を解いたその瞬間――


バルドの手から松明が放たれ、水たまりへと落ちた。


――ジュッ……


激しい音と共に、辺りは一瞬で闇に包まれる。


「――やられた!」


敵の叫びが響く。

自ら松明を振りかざしたその瞬間、影の中から国の兵士たちが飛び出した。


その動きは正確で、無駄がなく、躊躇いもなかった。

準備を重ね、待ち続けた成果がそこにあった。


「くそっ!離せ!!」


敵がもがくが、兵士たちは冷静にロープで捕縛していく。

数人が抵抗を見せたが、逃れるには至らなかった。


物陰からその様子を見つめていたリュミエールは、唇をきゅっと結んでいた。

その手は少しだけ震えていたが、目は決して逸らさなかった。


カイもまた、兵士たちの動きを目で追いながら、深く息をついた。


「……うまく、いったんだ………」


作戦は成功した。

けれどその言葉の奥には、戦わずして終わった安堵と、

それでも起きてしまった現実への静かな重さがあった。







捕えられた敵は、その後すぐに兵によって城へ連行された。

国の判断により処罰されることになるらしい。

俺たちの役目は、そこで終わった。


そして数日後、作戦の成功をたたえて、城からの招待状が届いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ