16話 束の間の食卓
リュミエールが戻ってきた。
リュックいっぱいに魔石を背負って。
国は、戦うことを選んだ。
そうするしかないことは明白だった。
ここからは国の兵士たちが立ち向かう。
それが終われば、またいつもの日常に——
魔石を探して、師匠に怒られて……リュミエールと過ごして……
「魔石を囮にして戦えばいいじゃない!」
そんなことを言い出したリュミエールに、俺は呆気にとられた。
もちろん、俺だって戦いたい気持ちはある。
あの夜、悔しくて悔しくてたまらなかった。
でも、人にはそれぞれ出来ることがある。
俺の仕事は魔石を探す探索師。
それが、俺にできることだと思っていた。
「油断させて、後ろからズバ…! よ!」
えぇ……なんだそのちょっと弱い悪役みたいなノリは。
いや、でも……そうだ。
綺麗事なんて言ってられない。
兵士のように戦えなくても、やれることがあるならやるべきだ。
そうして、師匠とリュミエールの作戦会議に俺も加わった。
あーでもない、こーでもないと、3人でたくさん話し合った。
その中で決めたことがある。
リュミエールが“エルフ”であるということは、誰にも明かさない。
もし彼女の正体が知られれば、世界中が彼女を奪い合うだろう。
彼女がいれば、国は永遠に栄えるかもしれない。
だからこそ——彼女の存在は、決して明かさない。
敵への反撃は、シンプルで大胆なものにした。
師匠と俺がもう一度地下に潜り、リュミエールが持ち帰った魔石を「見つけたこと」にする。
敵が現れたら、それを差し出すつもりで、こちらが弱い立場を演じる。
油断させた隙に、リュミエールの言う「ズバっ!」……ではなく、
国の兵士たちが一斉に捕らえる。
あとは——国の判断に任せる。
「それにしても……ほんとに魔石って“作られた”ものなんだな。どうやって作るんだ?」
「うーん。あんまり意識したことなかったけど……簡単に言うと、ぎゅっとしてポイって感じかな?」
「簡単すぎだろ……」
「だって……!説明できないのよ!」
リュミエールはむきになったように言って、少し顔を赤らめた。
師匠は、そんなふたりのやりとりに大口を開けて笑っている。
いつ作戦決行の日が来るかはわからない。
それまでに、この怪我はちゃんと治るだろうか。
明るく笑うリュミエールを見て、俺はようやく気づき始めていた。
また——
また、リュミエールと街でのんびり過ごせたらいいな。
「よし!飯にするか!」
バルドが立ち上がり、キッチンへと向かった。
「やったー!めしめしー!お腹減ったー!」
リュミエールがぴょんと跳ねるようにしてバルドを追いかける。
森にいた頃は、栄養さえ摂れればいいって感じの食事だったのに……。
この街に来てから、ずいぶん食事を楽しむようになったな。
よく笑うようになったし……よく寝るところは、変わってないけど。
ふっと微笑んだカイは、師匠の後ろを走っていくリュミエールの姿を目で追った。
その様子に、胸の奥がぽっと温かくなる。
「あ!ねえカイ!ちゃんとお水飲んでる?」
突然振り返ったリュミエールが声をかける。
「ああ、飲んでる……よ?」
「たくさんたくさん飲んでね!おまじないかけてあるから!」
「………医者もびっくりしてたんだけど、怪我の治りが早いのって……まさか…」
「ふふ……ほら、私ってわるーい魔女だから…」
そう言って不気味な笑みを浮かべてみせたリュミエールに、カイはすかさずツッコむ。
「エルフだろ!」
その言葉に明るく笑ったリュミエールは、そのままキッチンへと消えていった。
カイは自分の腕の怪我を一度じっと見つめたあと、椅子に深く腰を下ろし、
「はあっ……」と、ひとつ息を吐いた。