12話 2人の時間後編
それから2人は、少し離れた場所まで足をのばした。
さっきまでのんびりしていた雰囲気とは打って変わって、元気な子どもたちの声があちこちから響いてくる。
「ここは?」
「ここはな、もともと魔石が採れた場所なんだ。今は掘り尽くされて魔石はもう残ってないけど、跡地をそのまま公園にしたんだってさ」
リュミエールがきょろきょろと見渡すと、小さな洞窟の跡や、水の流れていない古い水路があちこちに。
洞窟のような入り口から子どもたちが出たり入ったり、滑ったり登ったりして遊んでいる。
「へぇ〜、ほんとに“跡”って感じね。……あ、看板に何か書いてある」
リュミエールが目をとめた石碑には、かすれた文字が刻まれていた。
「“魔石採掘跡地”……えーっと、探索師・バルド!? ……え、バルドって、あのバルド!?」
「えへへ、すごいだろ!」
カイは胸を張る。
「ここ、師匠が若い頃に掘った場所なんだって! ちょっと自慢なんだよな」
「えー!すごすぎ!さすがカイの師匠だね!」
リュミエールが純粋に感心して目を輝かせると、カイは照れくさそうに頭をかいた。
「ま、あの人はなんでもできるからなー……ゲンコツもすげーし」
「そこもさすがなのね?」
リュミエールがくすっと笑う。
「でさ、もうちょっとしたら、この先の通りで“夕方市”が始まるんだ! 屋台も出てて、ちょっとしたお祭りっぽくてさ。行こっ!」
「えっ、そんなのあるの!? 行く行くー!」
元気よく返事をするリュミエールの手を、カイは思わず軽く引いた。
それに驚いたのか、リュミエールはほんの一瞬だけ動きを止めたが——すぐににっこりと笑った。
夕方市でいろいろ買い込んだ2人は、ふたたび魔石探索跡地の公園へ戻ってきた。
行く時とは雰囲気も変わり、空は夕焼け色からゆっくりと夜の帳へ。
「楽しかったねー! あれこれ見たし、ゲームもできたし……カイの“射的”は特にすっごく下手だったけど!」
リュミエールは思い出し笑いをしながら、大きく口をあけて笑った。
「ちょっ……言うなそれ! あと一回!あと一回やれてたら絶対当たってたんだって!」
「うそばっかりー。また“あと一回”って言うつもりだったでしょ?」
「うっ……それは……うん、まあ」
悔しそうにむくれるカイの横で、リュミエールはまたふふっと笑って、ふとあたりを見渡した。
「……なんだか不思議。さっきまであんなににぎやかだったのに、今はすごく静かで落ち着く。
ここ、明るくて楽しい場所だったけど……今は、いつまでも座っていたい気分」
まわりにはもう子どもの姿はなく、代わりに、静かに散歩を楽しむ大人たちや、
ベンチに腰かけて話す人の姿がぽつぽつ。
少し離れた市場からは、まだ終わりきっていない賑わいの声が、風に乗ってかすかに届く。
「この場所さ……師匠の名前があるから好きってのもあるけど、実はそれだけじゃないんだ」
「うん?」
「俺、小さい頃よく両親とここに来ててさ。
お弁当食べたり、木に登って怒られたり、妙な水たまりにハマったり……まあいろいろ」
カイは少し照れくさそうに笑ったあと、少し声を落とした。
「両親……戦争で亡くなったんだよね? ……聞いても、大丈夫?」
「……ああ」
カイは空を見上げた。
「2人とも医者だったんだ。
争いで傷ついた人を手当てするために、あちこち飛び回ってて……
で、まぁ……簡単に言えば、それで2人とも」
多くは語らなかったが、リュミエールにはそれだけで十分だった。
そっと、風が通り過ぎる音がした。
カイの言葉を聞いて、しばらくリュミエールは何も言わずに横に座る。
言葉じゃなく、ただ“そばにいる”ことで伝えたい気持ちがあるから。
少しして、そっと袋からお菓子(さっき夕方市で買ったもの)を取り出して、
「……これ、美味しそうだったよね? 一緒に食べよっか」
と、わざといつもの調子で声をかける。
でも、どこかその声がいつもより柔らかい。
それからほんの少しだけ間を置いて、
「…カイの家族がいたこの街に、私も住めるのがうれしいよ」
と、ぽつりと呟くように言う。
カイが優しく微笑みながら「俺も嬉しいよ。リュミエールがここにいるのが」と返した。