表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/31

12話 2人の時間後編

それから2人は、少し離れた場所まで足をのばした。

さっきまでのんびりしていた雰囲気とは打って変わって、元気な子どもたちの声があちこちから響いてくる。


「ここは?」


「ここはな、もともと魔石が採れた場所なんだ。今は掘り尽くされて魔石はもう残ってないけど、跡地をそのまま公園にしたんだってさ」


リュミエールがきょろきょろと見渡すと、小さな洞窟の跡や、水の流れていない古い水路があちこちに。

洞窟のような入り口から子どもたちが出たり入ったり、滑ったり登ったりして遊んでいる。


「へぇ〜、ほんとに“跡”って感じね。……あ、看板に何か書いてある」


リュミエールが目をとめた石碑には、かすれた文字が刻まれていた。


「“魔石採掘跡地”……えーっと、探索師・バルド!? ……え、バルドって、あのバルド!?」


「えへへ、すごいだろ!」

カイは胸を張る。


「ここ、師匠が若い頃に掘った場所なんだって! ちょっと自慢なんだよな」


「えー!すごすぎ!さすがカイの師匠だね!」

リュミエールが純粋に感心して目を輝かせると、カイは照れくさそうに頭をかいた。


「ま、あの人はなんでもできるからなー……ゲンコツもすげーし」


「そこもさすがなのね?」

リュミエールがくすっと笑う。


「でさ、もうちょっとしたら、この先の通りで“夕方市”が始まるんだ! 屋台も出てて、ちょっとしたお祭りっぽくてさ。行こっ!」


「えっ、そんなのあるの!? 行く行くー!」


元気よく返事をするリュミエールの手を、カイは思わず軽く引いた。

それに驚いたのか、リュミエールはほんの一瞬だけ動きを止めたが——すぐににっこりと笑った。


夕方市でいろいろ買い込んだ2人は、ふたたび魔石探索跡地の公園へ戻ってきた。


行く時とは雰囲気も変わり、空は夕焼け色からゆっくりと夜のとばりへ。


「楽しかったねー! あれこれ見たし、ゲームもできたし……カイの“射的”は特にすっごく下手だったけど!」

リュミエールは思い出し笑いをしながら、大きく口をあけて笑った。


「ちょっ……言うなそれ! あと一回!あと一回やれてたら絶対当たってたんだって!」


「うそばっかりー。また“あと一回”って言うつもりだったでしょ?」


「うっ……それは……うん、まあ」


悔しそうにむくれるカイの横で、リュミエールはまたふふっと笑って、ふとあたりを見渡した。


「……なんだか不思議。さっきまであんなににぎやかだったのに、今はすごく静かで落ち着く。

ここ、明るくて楽しい場所だったけど……今は、いつまでも座っていたい気分」


まわりにはもう子どもの姿はなく、代わりに、静かに散歩を楽しむ大人たちや、

ベンチに腰かけて話す人の姿がぽつぽつ。

少し離れた市場からは、まだ終わりきっていない賑わいの声が、風に乗ってかすかに届く。


「この場所さ……師匠の名前があるから好きってのもあるけど、実はそれだけじゃないんだ」


「うん?」


「俺、小さい頃よく両親とここに来ててさ。

お弁当食べたり、木に登って怒られたり、妙な水たまりにハマったり……まあいろいろ」


カイは少し照れくさそうに笑ったあと、少し声を落とした。


「両親……戦争で亡くなったんだよね? ……聞いても、大丈夫?」


「……ああ」


カイは空を見上げた。


「2人とも医者だったんだ。

争いで傷ついた人を手当てするために、あちこち飛び回ってて……

で、まぁ……簡単に言えば、それで2人とも」


多くは語らなかったが、リュミエールにはそれだけで十分だった。

そっと、風が通り過ぎる音がした。


カイの言葉を聞いて、しばらくリュミエールは何も言わずに横に座る。

言葉じゃなく、ただ“そばにいる”ことで伝えたい気持ちがあるから。


少しして、そっと袋からお菓子(さっき夕方市で買ったもの)を取り出して、


「……これ、美味しそうだったよね? 一緒に食べよっか」


と、わざといつもの調子で声をかける。

でも、どこかその声がいつもより柔らかい。


それからほんの少しだけ間を置いて、

「…カイの家族がいたこの街に、私も住めるのがうれしいよ」

と、ぽつりと呟くように言う。



カイが優しく微笑みながら「俺も嬉しいよ。リュミエールがここにいるのが」と返した。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ