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第二章:もう時は満ちた

「もう十年か……だが、今でもはっきりと思い出せる。村を焼き尽くした炎。人々の悲鳴。そして……血にまみれて倒れていた父の姿。」


「俺は誓った。必ず仇を討つと。」


「この十年間、俺は各地を巡り、剣を鍛え、技を磨いてきた。そしてついに、その時が訪れようとしている。明日、新たなダンジョン探索者の登録がベルズク・エストの街で始まる。」


それは、あの謎の男が姿を消す前に告げたダンジョンだった。


***


カイトはモルグフリークの森にいた。空を覆うほどの巨木が生い茂り、わずかな陽光が葉の隙間からこぼれる。森の奥深くでは獣たちの鳴き声がこだまし、神秘的な雰囲気を醸し出していた。


今、カイトは狩りをしていた。彼の前に、二匹のウルフグが構えている。細身のしなやかな体、四足の獣、その顎には鋭い牙が並び、とりわけ大きな二本の牙は獲物を引き裂くための凶器だった。


「……来る。」


一匹のウルフグが飛びかかってきた。カイトは瞬時に身をひねり、回避。鋭い一閃が獣の胴を斬り裂く。ウルフグは呻きながら地面に崩れ落ちた。


しかし、まだ終わりではない。もう一匹が死角から襲いかかってくる。


(速い!)


カイトは即座に剣を構え、鋭い爪を受け止める。その勢いのまま、剣を押し込んでウルフグの喉元を斬り裂いた。断末魔の叫びとともに、二匹目の獣も倒れた。


「……ちょっと荒かったな。これじゃあ、毛皮の質が落ちる。」


カイトはため息をつきながら、ウルフグの死体に膝をつく。器用な手つきで毛皮を剥ぎ、価値の高い牙を抜き取る。ある程度の収穫を終えたカイトは、戦利品を革袋に詰め込んだ。


「これだけあれば十分だな。日が暮れる前に、近くの村へ向かうか。」


***


森を抜けたカイトは、荷車の轍が残る道を辿り、小さな村へとたどり着いた。


門の前には二人の衛兵が立っている。鉄製の兜をかぶり、軽装の鎧をまとい、槍を構えていた。一人が手を挙げてカイトを制する。


「すまないが、何の用でこの村へ?」


「狩った獲物を売って、旅の支度をしたい。」


「……待て、お前、冒険者か? もしかしてあのダンジョンに行くつもりか?」


「ああ。」


カイトが簡潔に答えると、衛兵は驚いた表情を見せた。


「運がいいな。二週間に一度、ベルズク・エスト行きの荷馬車が来るんだが、次の便が今夜出発するぞ。」


「助かる、ありがとう。」


カイトは短く礼を言い、村へと足を踏み入れた。


村は思ったよりも活気があり、市場では商人たちが威勢よく声を上げ、住人たちが日々の暮らしについて語り合っていた。カイトはしばらく歩き、目的の店を見つけると、扉を開けた。


チリン——と小さな鐘の音が響く。


店の奥から、六十代くらいの老人が現れた。鋭い目つきの口髭を持ち、黒ずんだ革の上着を着ている。


「おう、いらっしゃい。買い物かい? それとも売り物があるのか?」


「狩った獲物を売りたい。」


カイトは革袋をテーブルに置く。老人は中身を確認しながら頷いた。


「ほう、ウルフグの毛皮と牙か。悪くねぇな。……よし、15金貨、20銀貨、5銅貨で買い取ろう。」


「ふむ……。」


「ただし、毛皮の質が少し荒いな。もう少し綺麗に剥げば、値が上がるぜ?」


「……気をつける。」


カイトは無言で金を受け取り、続けて尋ねる。


「ベルズク・エスト行きの荷馬車を探している。運送主の名前と居場所を知らないか?」


「アルベルクって男だな。橋の近くにいるはずだ。」


「感謝する。」


カイトは再び礼を言い、店を後にした。


***


橋へ向かうと、ちょうど一人の男が馬車の側で煙草を吸っていた。中年の男で、疲れた顔をしているが、どこか飄々とした雰囲気を持っていた。


「すみません、あなたがアルベルクさんですか?」


「おう、そうだが?」


アルベルクは煙を吐きながらカイトを見つめた。そして、にやりと笑いながら言う。


「さては、ダンジョンへ向かう冒険者ってわけか?」


「ああ。」


「なら、ちょうどいい。さっさと乗れ、ベルズク・エストまで乗せてやる。」


アルベルクは煙草をもみ消し、荷馬車の座席を叩いた。


カイトは迷わず馬車に乗り込む。


轟——


ムチが一閃されると、馬車を牽くビコルクン——四本足の獣で、二本の太い角と分厚い体毛を持つ生き物——が大地を蹴った。


村を後にし、湿った草原を抜ける。沈みゆく夕陽が地平線を朱に染め、鳥たちが空を横切る。カイトは無言で、その美しい光景を眺めていた。


アルベルクは微笑し、手綱を握る。旅は長かったが、ついに目的地が見えてきた。


「よう坊主、着いたぞ。ベルズク・エストだ。」


カイトは目を覚まし、馬車の窓から外を見た。


そこには——


巨大な街が広がっていた。石造りの高層建築が立ち並び、多種多様な人々が行き交っている。街には異なる文化が混ざり合い、冒険者たちの熱気が満ち溢れていた。


(ここが……ベルズク・エスト……。)


ついに、カイトの旅は本格的に始まる——。


つづく——。

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