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83、燃え尽きる星々

「ははっ、なかなかやるじゃねぇか。」


「ケッ!このご時世にお侍なんて古いんだよ!ダボが!」


ケンザキの通った先。錆びたゴミ箱、街灯、崩れた壁面までもが一刀の下斬り捨てられ地に転がる。眼帯の向こうに捉えるのは赤い皮膚の一人のオーガ。イシダは斬り傷を負いながらも、なお活力漲る。


ケンザキの振るう刀剣は、純粋に切れ味に特化したクラスC規格の質量兵器。居合のマギアーツと併用すれば大抵の強化外装を斬り伏せられる程の威力を出す。そして光学機構が無いからこそ頑丈であり、例え居合の一刀が廃墟の大きな瓦礫片に引っかかったとしても故障はない。


イシダの手に握られるのはこれまたクラスC規格の質量兵器、鬼の金棒。ドワーフの鍛冶場製のオーダーメイド品、そして数多くの敵を叩き伏せたイシダの相棒。


ケンザキとイシダの武器がかち合い火花を散らす、と同時にケンザキが大きく吹き飛ばされる。


「ハッハッ!踏ん張りが足りてねぇな!」


鬼の金棒は衝撃のマギアーツが付与されており、ぶつかった物に多大なノックバックを引き起こした。吹き飛べば体勢が崩れ、猛進するイシダの追撃はより苛烈になっていく。


しかしケンザキも着地と同時に居合を放ちイシダの勇足を強引に止めた。


「兄貴ィ!こっちは任せておいてくだせぇや!」


背後で両手で携えたずんぐりな機関銃を持つコバヤシは、次から次へと殺到するケンザキの部下の黒服達をお嬢と共に食い止めていた。個の力では優位、数では劣勢。しかしこそっと顔を覗かせるプチフィーが、癒すと同時に初めて戦場を共にする面々の連携を強固なものにしていた。


何となく、イケると思ったコバヤシが徐にケンザキへガトリング砲を薙ぎ払った。当然その射線にはイシダも居たが、同時に動き出していたイシダは壁を駆け上がって弾幕を躱していた。一切の示し合わせも無い突然の味方諸共な攻撃はケンザキの意表を突き、見開いた目で飛び上がった先。ピッタリなタイミングでのイシダの金棒が左肩を叩き抉った。


砂煙を上げ地面に激突したケンザキ。弾幕の一部が大きくバリア装甲を削り取り守りを崩す。追撃の金棒を飛び退いて避け、壁を蹴って強襲。片手で鞘から抜き放たれた居合と、地面に突き立てた金棒がかち合い火花を散らす。


イシダの拳がケンザキの顔の中央を捉え、バリア装甲越しに鼻骨を容易にへし折った。装甲が無ければ、そのまま顔を貫通する拳の衝撃に地面に叩き伏せられ、それでも手放さなかった刀をイシダに突き出す。


刀はイシダの頭部のバリア装甲を真っ直ぐに貫通し、舞った血は頬の斬り傷。


同時に全体重を掛けて突き出した金棒がケンザキの頭部を叩き潰した。


追い込まれ平生さを欠いたケンザキと、熱くなりながらも集中力が一切切れる気配の無い絶好調なイシダ。勝利に片腕を上げ、ガッツポーズを決めるイシダの背中をプチフィーは見守っていた。





砂塵を巻き上げ爆走する戦車はヨウスケの脳波で機敏に動く。走行から照準、発射に装填まで全て脳波で自動的に行われる。葉巻を咥えたヨウスケに余裕は無い。口内に溜めた煙が口角の端から漏れ、息をするのも忘れて忙しく指示を飛ばす。


護衛の下っ端連中はアゴーニの幹部が連れた配下と交戦中。予想通り敵の主力との直接戦闘にもつれ込む。瞬足のクニークルスが飛び退いた先を砲撃が粉砕し、回転させた砲塔で周囲を飛び回るシロを薙いで吹き飛ばす。が、その上を回転しながら通り過ぎたハクのラインレーザーを纏ったバリア装甲が、再度戦車の装甲に傷を付けた。


「けっ、水商売の嬢ちゃん達が!本職に食い下がってんじゃねぇぞ!」


吐き出した煙の向こう、クニークルスの銃撃が的確に砲塔を揺らし砲撃を妨害する。勢い良く突っ込んで轢き飛ばそうとするも、跳ねて真上から落とされた粘着爆弾が兎の影が過ぎ去った後に爆炎を上げた。車内がひっくり返る衝撃に一瞬意識が遠のく。


『アゴーニは俺が相手をする。いいか?これはクロザキ組とアゴーニの一騎打ち、水商売の嬢ちゃん達は適当にあしらっとけ。』


ヨウスケの脳裏に浮かんだ戦前の記憶。日頃からコソコソとお世話になっていたお嬢達が、戦力的にこうも厄介だとは考えてもいなかった。女は産んで育て、ガキの世話をしていればいい。暴力は男の領分だ。ヨウスケの主義と反する結果に目を白黒させ、激しく憤る。


「舐めんじゃねぇ!」


ドリフトした戦車が周囲の瓦礫片を履帯に巻き込み、細かく砕いて周囲に散らす。散弾のような瓦礫片をバリア装甲で防いだシロが砲塔に飛び付いた。そのまま砲塔でポールダンスでもするかのように纏わり付き、ラインレーザーが幾度無く車体に叩き込まれる。


「そろそろ限界なんじゃない?!」


「っるせぇ!!」


振り払う急な砲塔の動きがシロを突き飛ばし、向いた砲口を頭上から落ちたガブミィのヘビーナックルが僅かに照準をずらした。放たれた砲弾がシロの半身を吹き飛ばし、同時に突っ込んたクニークルスが履帯にウィップを絡ませる。


履帯に絡んだウィップが馬力で引き千切られる一瞬の隙、背後から迫ったハクによるラインレーザーの一閃が車体を真っ直ぐ両断した。


抗光学装甲が破られ、赤熱して溶けた一本線がヨウスケの視界に映る。コックピット内で腹回りに裂かれ、僅かに外の景色が見えた。


「はは、は。んなバカな‥」


少しずつズレたヨウスケの視界が傾き、戦車は沈黙した。ヨウスケの着る強化外装は、あくまで戦車の操縦にその大部分の演算要領を割いたパイロットスーツに過ぎず、直接戦闘に耐え得る代物では無かった。


「シロ!」


ハクが駆け寄った先、シロは苦笑を浮かべながら横たわっていた。半身が吹き飛んだシロは頭部の生命維持装置で命を繋ぐ事しか出来ない。ため息一つ残したハクはシロを抱き上げてクニークルスに会釈する。


「ごめんね、私達は戦線離脱する。胡蝶之夢で他の傷付いた子達と一緒に居るよ。」


「はいはい、無理しないでいいから。こっちも部隊の再編とかで暫く動かないだろうし、戦車隊倒した功績だけでも十分役目は果たしたってね。」


大きな地揺れに見上げれば、片手に巨大な棍棒を携えたトメが進軍する他の戦車隊と殴り合っている所だった。


「あっはっはっは!!坊主共!ここが地獄の一丁目だよぉ!!」


絶好調なトメの振るう棍棒はまるでビル。地形を活かして逃げ回る戦車の場所へ、的確に振り下ろされ追い詰めていく。話せずとも肩のプチフィーが他のプチフィーと交信し、戦車の居場所を共有すれば、R.A.F.I.S.Sの影響下にあるトメの無意識に情報が差し込まれる。


今日は何だか恐ろしく勘が冴えている。


たった今装甲ごと叩き潰した戦車を前に、トメは獰猛な表情で舌舐めずりをした。





各地の激戦を見下ろす影。それはこの狂乱を招いた張本人。ピクルスはフルフェイスヘルメットの下、無邪気に目を輝かせて悦に浸っていた。


「ねぇねぇねぇ!見てよ!アゴーニと比べれば胡蝶之夢なんて雑魚なんて思ってたのに!めっちゃ善戦してるんだけど?!」


しきりに肩を叩かれたチャガマは苦笑いで返す。


相変わらず趣味が悪い。責任感を親の子宮に置き忘れたピクルスは刹那主義に生きていた。欲しい物の為に我慢して街に留まった何年間。目標金額に達するや否や即座に街を放り出して元の放浪生活へ。根無草の開拓者崩れ集団を纏める首領は、最後に特に愛着も無い治外街に打ち上がった花火を楽しむ為にここに居た。


「オヤジはいつまでここで遊んでる気だい?そうだ次はキョウトへ行こうだなんて言い出したのはオヤジだろ?」


「目見たまえ我が子よ。どんなお祭りも楽しむには旬というものがあってだな。この騒ぎを後でSNSなんかで見たって面白く無いだろう?」


全部終わるまでは何日でもここから動く気無いな。ヒメコは呆れ顔で胡座をかく。


「そういやクロキはどうしたん?」


ヒメコの言葉にナナフシが答える。


「何やらラフィがここを去るまでは街から動く気がないとの事で。後からキョウトで合流するのだとか。」


はいはい、とヒメコは片手をひらひらさせてナナフシに返した。


「あっ!そうだ!実況配信なんてしたらどうかな?!」


ついにはそんな事まで言い出したピクルスにヒメコは興味を示さず、


(ラフィは怪我とか無いといいけど。また会えるのはいつになるんかな。)


そんな事を考えていたのだった。

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