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82、ロケット砲が彼の羅針盤の先を切り拓く

合流一番、メリーさんがハイタッチの構えを見せてくる。ぽん、と合わさった手はきゅっと握られグイグイと引っ張られちゃう。


「んっふっふ、ラフィ助ったら随分強くなったッスね〜。ほらほら、可愛がってあげるッスよ?」


抱きしめられてわちゃわちゃと暴れちゃう。あの!今はそれどころじゃないですってぇ!


「先輩。」


「不埒警察が。」


「白髪頭がラフィ様に触れようなどとは。」


3人のチョップがそれぞれメリーさんを小突き回す。解放されたボクは、早速と言わんばかりに手を伸ばすタマさんの脇を抜け。


「イトウさんが待ってますから早く!」


パパッと駆け出した。


トゥさん達が待ち伏せしていたって事は作戦がバレてるって事。このままじゃイトウさんが危ない!


夜闇をほんのりと足元のブレードランナーが照らす。踏み出された足は崩れた屋上伝いに、通路を避けて現場まで急行。コソコソしても意味ないし、どうにか後詰めの戦車隊が前線に出る前に叩かないと。


屋上の一画に隠れるイトウさんは眼下の戦車隊を見下ろしていた。良かった。まだ居場所まではバレていなかった。状況を確認次第、出来るだけ気配を隠してからこっそりと合流する。


「来たか。遅かったな。」


「襲撃に遭ったのよ。で、いけそう?」


「作戦がバレてるせいか警戒は厚い。が、援護があればいける。」


タマさんの問いに眼鏡をクイっと上げて頷くイトウさんは大きなコートを羽織っていた。いつものスーツ姿の上から着込んだコートの裏側に、幾つもの爆弾が吊り下げられている。


「収納内にも爆薬は詰めてきたが、これだけあれば戦車数台吹き飛ばすくらいできる。」


「イトウさん?!は、早まっちゃ!」


慌てるボクの頭をもふっと大きな手が撫でた。


「この程度では死なん。生憎頑丈なのでね。」


嘘でしょ?!イトウさんの体は何で出来てるの?!


横目に見ていたロゼさんがぼそっと。


「ギフテッド持ちですか?」


イトウさんは一度だけ頷き。援護を頼む、と言い残して屋上から飛び降りてしまった。


「やるなら派手にやりましょうか。」


悪い顔で3M50にEX弾頭を装填するタマさん、


「でしたら当機も。マフィアの人肉ハンバーグを3分クッキングしてやりますね。」


小型のガトリング砲を構えるブランさん。


「では私が注意を引きます!」


ロゼさんは収納のマギアーツから照明弾を取り出し、ボク達の背後に放った。


メリーさんの変形のマギアーツがボク達の背後に瓦礫の壁をせり立たせる。伸びた壁に照明弾が命中するとパァッと眩く光り、通りの戦車隊の面々の目を眩ませた。眩い光を背にするボク達の姿は殆ど見えない。


「シャアッ!」


楽しげな顔で両手の銃で通りを薙ぎ払うタマさんとブランさん。


「敵襲!予定通りだ!慌てるな!」


反撃の銃撃をミスリルシールドを構えたミニフィー達が受け止める。その間からショックライフルを覗かせたロゼさんも、大雑把に銃弾をばら撒き弾幕を形成した。


黒服達が戦車の影に隠れる程イトウさんの奇襲が決まりやすくなる。流石に戦車の分厚い装甲は、凹みはすれど簡単には抜けそうにない。ロゼさんも試しにH.AMRのEX弾頭で一発撃ち込んでみるものの、大きく車体を跳ね上げただけで破壊できる程のダメージが入らない。


戦車はいずれも超高級品質で、EX弾頭による狙撃に対しても対策はバッチリみたいだった。


「機動力を鑑みると恐らくアダマンタイト合金製で御座いますね。純アダマンタイトと比べれば軽量かつ柔らかいですが、それでも防御性能は中々のものです。」


戦車の砲塔がこちらを向き、メリーさんが急遽作り上げた瓦礫の壁に砲撃を止められる。3台の戦車はこちらに砲撃と機銃の掃射を浴びせ始め、立て篭もる廃墟がどんどん崩れ始めた。


なんとかしないと!


ユリシスから呼び出したエクエス自走砲台にミニフィーが搭乗、戦車に脅威と見なされる破壊力を振り撒きながら飛び上がる。空中を浮遊するエクエスは滑るよう、自在に宙を駆ける事ができる。大きく回り込むよう動けば、砲身の回転が追いつかない戦車を守る為黒服達の攻撃が集中した。


しかし彼らの持つ火器では傷を付けるのも難しい重装甲。背面以外は分厚い壁に囲われているお陰で防御力はピカイチ。側面を突いて20mm機関砲が火砲を噴いた。発射されるのは40mmサイズに変形するEX弾頭。その火力は戦車は倒せずとも、黒服達は装甲を粉砕されながら逃げ惑う事しか出来ない。


飛び出した一人がロゼさんの狙撃で吹き飛び、タマさんの弾幕がボクの攻撃と合わさって十字砲火となった。


黒服を守るよう戦車が軽快に動き、3台の戦車が密集体形を取って内部に立籠らせる。戦車の重装甲に守られた彼らは堅実に反撃し、戦車砲と機銃が全方位を攻撃できる隙のない即席要塞に。普通なら増援が来るまでの短期決戦を諦めるしかないかもしれない。


だけど。


密集した瞬間、コートの光学迷彩を作動させたイトウさんが弾幕の中駆け出した。コート付属の全身を覆うバリア装甲が光学迷彩を発動、暗がりに姿を溶け込ませる。姿は見えずともレーダー上には映る。だけど、実際に見た情報との齟齬が反応を鈍らせた。光学迷彩による奇襲は多分警戒していたと思うけど、それでもこの土壇場でまさか単騎で突っ込んでくるとは思わない筈。


自爆特攻でも無い限り出来る事は少ないから。光学迷彩の刺客に先制を貰っても、被害軽微で蜂の巣に出来る自信があったと思う。


その僅かな間。密集した内部に飛び込んだイトウさんは、躊躇なくコート下と収納のマギアーツ内の全爆弾を起爆させ‥


ボクが爆風で飛ばされないようブランさんが飛びつき、それより一瞬早くボクの体を抱き上げたタマさんのせいで地面に身を投げる結果に。大半が既に粉になった瓦礫片をなんとか練り上げて壁を作るメリーさん、タマさんとボクの前に立ち重厚そうなシールドを展開するロゼさん。そんな一瞬のやり取りの中一瞬夜空に夕陽が差す。


天まで伸びた爆炎の柱が黒を朱に染め、そして巻き上がった砂煙が再び黒を空に呼び起こした。ボク達の居た廃墟は一瞬で瓦礫片に。吹き飛ばされたボク達は、それぞれ強化外装の装甲を削りながらもふらふらと立ち上がる。


ミニフィー達の持ってたミスリルシールドも空間固定が解除されて転がっていた。ちょっと壊れちゃったかもだけど、盾としてはまだ使えるよね?伸ばしたイルシオンがスルスルと回収していく。


「イトウさん!」


ぼんやりな意識が呼び起こされ、ハッとしたボクは砂煙の向こうに五体満足で横たわるイトウさんに駆け寄った。装備は壊れて一糸纏わぬ姿となっている。パッと見は無傷だけど口から血を流して起き上がる気配が無い。


と、イトウさんからスマイルにメッセージが。イトウさんのスマイルは頭部に埋め込むタイプだっけ。スマイルだけは無事のようだった。


イトウ : 熱で内臓をだいぶやられた。安全な場所へ運んで治療を頼む。


イルシオンがイトウさんを包んで持ち上げ、ぴゅーっ!って皆の所まで駆け抜けた。背中からはエンジェルウイング。ふわりとイトウさんを包み込み、キラキラ光る粒子が散布され広がっていく。


「あー、あー、酷い有様ね。」


爆心地を眺めるタマさんの呆れた声。戦車は跡形も無く、ヒトの残骸も残っていなかった。抉れた地面だけがそこに残っていた。


「一先ず移動しましょう。」


ロゼさんの提案に、浮遊型担架を取り出しイトウさんを横たえた。夜闇に紛れて音少なく移動するボク達はその場を後にし、一旦本陣の方へ向かう事にした。


「サクセンセイコウ」


亜人のヒト達でも確実に読めるよう、カタカナの短文でメッセージが送られる。これで戦況の趨勢は決するかな?クロザキ組のヒト達には降伏して欲しい。でも、トゥさんの最期の表情を見ると‥


担架の上、イトウさんの溢した言葉がポツリとボクの耳へ届く。


「開拓者も楽じゃないな‥」


ふと、気になってスマイルで質問を投げかける。


ラフィ : どうして開拓者になったんですか?


少しの後返信が。


イトウ : 俺は頑強のギフテッド持ちだ。この力のせいで会社を追い出されたのだ。一番有効活用出来る場所を選んだまで。


それだけ返すとイトウさんは目を瞑った。





ふと、イトウは担架の上短い夢をみる。


ギフテッドに気付いたあの事件の事を。


仕事の手腕でのし上がった大企業の役員補佐。それは幾つかの商談を済ませた帰り。自動運転で都市の地下高速道路を走る車の運転席にイトウは座っていた。背後の数人の役員は移動中にも、帰った後の会議に向け打ち合わせを続けていた。


例え自動運転だったとしても、急を要する際の為にそこに誰かが座っている必要があった。そして事故が起きた時、車の責任者が必要になる。全ての交通事故がメーカーの責任‥とはいかず、自動運転に関係ない理由での事故は全て運転手のものとなる。


走行中に誤って自動運転モードを切ってしまった時、外部からの攻撃を受けた時‥など。


そんな理由もあってか運転席に座るのはその場で最も立場の弱い人間の役目だった。


企業の重役を乗せた車はしばしば敵対企業の刺客の攻撃を受ける。勿論役員の所在は極秘。しかし内部に裏切り者が居れば‥


対向車が急にドアを開け、即座に構えられたロケット砲が噴射される。急ハンドルを切ったが至近距離。対向車ごと吹き飛ばされた。


爆発し、何度もの錐揉み回転の末車体は大破。後部座席の役員達は2人外に投げ出され、緊急時の備えとしての強化外装の性能に一命を助けられていた。しかし残った一人。潰れた車体の中で完全に圧壊し、頭部を激しく損傷してしまっていた。頭部のバリア装甲ごとひしゃげた車体に挟まれ、ロケット砲の直撃で体の殆どを失っている。


イトウはそんな中、僅かに喉を火傷した程度の軽傷で済んでしまっていた。


襲撃犯は捕まらず、全ての責任はイトウの不注意として断罪される。あまりに理不尽だった。役員の死に対し、軽症で済んでしまった彼を糾弾する声が大きかったのだ。

我が身可愛さに庇わなかったのか?お前が五体満足で生き残ってどーする?出来る事はあった筈だ。お前の怠慢が元凶だ。


彼は企業勤めでいる事に絶望し、開拓者としての人生に足の向く先を変えた。開拓者としてのデビューは凄惨な事件に邪魔をされ、しかし数奇な運命の下生き残り仲間を得た。


社会の隅っこのこの街で。彼を必要とする声が人生を華やかせる。そして再び彼の前に立ちはだかった邪悪な大企業へ、二度と人生を踏み荒らされないようロケット砲を。

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