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81、全てが足りたこの時代に満足するには

常に冷静沈着なカネコと違い、兄弟ながらトゥは自制心が足りていなかった。組に入ったキッカケもカネコだったか。スラム街の自警団の一つ、クロザキ団を名乗る組織の構成員と喧嘩したトゥをカネコが守ってくれた。引き抜かれた銃口を前にカネコは物怖じせず睨み返す。背中で守られるトゥは、腫れた頬の痛みも忘れてそんな背中を見つめていた。


突き付けた銃口は一切の躊躇無しに銃弾を吐き出し、憎きラフィへと怒りをぶつける。その姿は突然大きく跳ね上がり上空へ。代わりに出現した自走砲台の銃口がこちらを向く。


四方八方からの銃撃は、4体のミニフィーの持つミスリルシールドが遮蔽を作り仲間を庇う。盾に銃弾の時雨が叩きつけられたのと同時、黒服達の悲鳴が上がった。


見やれば胴を貫通して転移してきた鉄骨が数人纏めて串刺しにしていた。爆破された廃墟を白く小さな影が、転移を繰り返しながら動き回る姿があった。


トゥは最初から部隊への指示出しは放棄していた。いつも熱くなると自分でも何を言ってるか分からなくなってしまう。ならば最初から部下に任せておいた方がいい。飛び上がってラフィに銃を乱射するトゥは、互いに宙を踏みながらの空中戦へと身を投じる。照準の先、小さな影は視界の外へ。レーダー上に映る姿は5体に分裂し四方に散らばった。


「9時の方向!」


部下からの通信に見もせず引き金を引く。本体のラフィは顔を逸らして銃弾を躱していた。展開した背中の真っ青な蝶の羽は羽ばたき、中から更に3体のミニフィーが飛び出す。その手には虎薙。姿を現すと同時に伸ばされた3本のダマスカス鋼が、瞬き一つの間にトゥの両肩と脇を抉った。


「下へ参ります。」


体勢を崩したトゥの足を真下から掴んだブランはブースターの勢い任せに遠心力を付けて投げ落とす。2発の反撃、そして宙で体勢を立て直し足元にヒビを入れながら屋根上でステップを踏んだ。


強い。トゥもラフィも互いに下した戦力評価に顔を顰めた。


踏み潰さんと急降下して迫るブランとすれ違って飛び上がる。未だ宙に居るラフィへ銃弾を叩き込み、その全てがイルシオンの1薙ぎで防がれた事にやや落胆。イルシオンを蹴り飛ばしラフィにぶつけようとするが、イルシオンから突き出した雑多な銃器が突如として砲火を上げた。


「うおぉ?!」


至近距離で回避は困難。ダメージを甘んじて装甲で受け止め、宙を革靴型の駆動魔具で踏んだ勢いのままにラフィに飛びついた。胸ぐらを掴み猛然と拳を振るう。


顔を砕くストレート、顔が逸れて掠りもしない。左フック、上を向くように逸らされまたもやスカ。振り下ろした拳に対し、一点に頭部のバリア装甲を集中させ頭突きでカウンター。拳にヒビを入れられ思わず拘束が緩む。


胸ぐらを掴むトゥの腕に小さな体が飛び付く。そしてブレードランナーで宙を踏み、腕を掴んだまま錐揉み回転。宙で踏ん張りの効かないトゥの体も一緒に錐揉んだ。ドラゴンスクリューと言ったか、デスロールと言ったか。腕を捻り折られまいと速度を合わせて抵抗。そのまま腕を伝ってラフィの手がトゥの首へ伸びる。


サッと背の冷えたトゥは片腕の脱臼と引き換えに錐揉む軌道を変更、ラフィを振り落として一瞬の安堵を得た。が、ラフィと入れ替わりにブランがトゥの胸ぐらを掴む。


顔を砕くストレート、反応する間も無く直撃。鼻を粉砕される。左フック、側頭部を殴り抜かれ片耳が千切れ飛ぶ。振り下ろした拳がトゥの脳天へ、頭蓋骨にヒビを入れた。バリア装甲越しに殴られてこの威力。もし途中で装甲が抜かれていたら顔が文字通り爆砕していた。


「クソが!」


飛びかけた意識から根性で覚醒、ブランの肩を掴み全力の頭突きを見舞う。が、バトロイドの整った顔は歪まず。しかし零距離でEX弾頭を全弾腹部へ叩き込んだ一撃は効いたようで、手を離して怯むブランを蹴り飛ばして距離を取った。そして近場の建物の屋上へと着地する。


「邪魔すんな!」


トゥの放った銃弾、向かう先は既に虚空の夜闇。ふわりと光るイルシオンがトゥの死角を縫って包囲する。イルシオンから現れたブランのハイキック、片腕を蹴り上げられながらも至近距離から脇腹に撃ち込んだ。バトロイドの硬質な装甲が弾くものの、その体勢を崩させる事に成功する。


「どっか行ってろ!」


すかさずブランに組み付き、トゥは力任せに背負い投げた。その背中を狙う気配に身を翻せば、ピタリと狙撃銃を構えたミニフィーがイルシオンの影から姿を現す。


飛び退いたのに、くの字に体を折り曲げて吹き飛ばされる。遅れて音が聞こえるのと、吹き飛んだ先でブランの回し蹴りを受けたのは同時。複雑な錐揉み回転の末トゥは屋根下の通りに叩き落とされる。


ビタンと5点着地、転がって追撃の銃撃を躱し廃墟の一階へ飛び込む。直後の攻撃が来ない一瞬の不自然な間。トゥは考えるより先に地下室を探す。大抵こう言う部屋には物置用の狭い床収納があった。


時を同じ。ミニフィーの一体が腕に大きな筒を装着して構えていた。それはガトリング砲のように見えて、もっと単純な構造をしたロマン兵器。


12.7x99mm、NATO弾‥それより二回り大きい専用弾頭、ブルドッグ弾。爆発的な出力で同時発射される数は千発。至近距離で撃てば複数体の大怪獣にすら致命傷を与えうる超火力。


一度撃てばマギアーツでしかリロード出来ない上、もう一発撃つ前に収納のマギアーツ内で数十分掛かるメンテナンスを経なければ安全機構上引き金を引けない。勿論破損した部位の交換パーツを一式揃えている事が前提だ。


実用性は皆無。しかし多くのファンがつい手に取り、無謀にも実戦で使おうとする。マガジン価格一発100万円のその威力は。


バウッ!!


吠えたブルドッグのような音と共に、一瞬時が止まったかのような錯覚を覚える。瞬時に押し除けられ圧縮された大気の壁を、無茶苦茶な出力で撃ち出された無数の弾丸が貫き裂いて正面の全てを破壊する。重量級のパワーアーマーですら反動を殺しきれずに転倒する尋常ではない威力。撃ったミニフィーは粉微塵に吹き飛び、一瞬遅れで目前の集合住宅が粉砕して飛び散った。


プロサッカー選手の渾身のシュートを受け止めたお煎餅みたいに、細かくなった瓦礫片が何処かへ消えていった。


地盤ごと抉れて土煙漂う中、トゥは僅かに残った体の一部を横倒れのまま見つめていた。あそこに転がってるのは自分の足か。どこかの内蔵の一部が瓦礫に引っかかって揺れている。体を動かせない。余りにもあっけない幕引き。込み上げる無常感がトゥの口角を僅かに上げた。


スラム街の頃からそうだった。この世は弱肉強食。より強い者が、いい装備を持つ者が、金と地位を持つ者が生き残っていく。純粋な実力も、装備の質も負けたとトゥは納得する。しかしその心に絶望は無かった。


最後まで足掻き切った充足感、ずっと満たしきられていなかった闘争心が満ち足りたのを感じる。


フルダイブVRゲームも、家で映画館を楽しめるスマイルアプリも、あらゆるアイデアが心を躍らせる漫画も、隙間時間を埋めるショート動画でさえも、トゥは満足しなかった。


どんな娯楽もちょっと手を伸ばせば苦労無く味わい尽くせるこの時代に、原始的な本能からくる充足感がただ欲しかった。


追いかけていたのは兄弟の背中。兄弟よりは粘れたのではないかと自己評価する。ずっと遠かった背中を超え、カネコの手を引く事が出来た充足感。


全てが足りたこの時代に満足するには‥


ラフィはトゥを見下ろす。演算陣の浮かんだ顔は無表情ながら少し寂しげで。どうして笑顔なんだろう?心の片隅にトゥの顔を刻みながら、ラフィはその場を後にした。既にトゥの部下達は制圧されている。先を急ぐべくラフィはタマの元へ向かった。

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