80、燃え上がる夜の帳は血に濡れる
イシダはコバヤシと廃墟街をバイクで疾走、銃撃をものともせずバリア装甲頼りに黒服達のバリケードを突破していく。
「ほうらくらいやがれ!」
通り過ぎ様にサイドカーに乗ったコバヤシが撃ったナパーム弾が火を噴き上げ、火炎の煌々を背に二人は通りを爆走する。側面、屋根上を駆ける数人のお嬢は質の良いライフルを携える。足に付けた駆動魔具がピンクの光の線を残しながらもバイクに並走していた。
そんな快進撃も長くは続かず。
「ここは通行止めだ!」
同じくバイクに乗った眼帯の黒服、ケンザキが刀を片手に猛然と迫る。
「ハッ!ハッーァー!!」
「かますぜ兄貴ィ!」
サイドカーを切り離し持ち上がった前輪で奇襲、顔を抉るように突っ込む前輪を居合の一閃で切り飛ばす。飛び降りたイシダは片手に握った鉄棒を振り上げ飛び掛かり、再び居合の構えを見せるケンザキに構わず振り下ろす。その脇をコバヤシが後方から伸ばした”舌”が突き抜け、ケンザキの居合の初動を潰した。
イシダの振り下ろした渾身の一打に対しケンザキが取ったのは更なる前進。飛び掛かって頭突きを放つ。イシダの額とケンザキの額がバリア装甲越しにかち合い、火花を散らした。
一方屋上でも援護しようと動くお嬢達に黒服の一部隊が銃口を向ける。一瞬の間に交わされた銃弾の数は100を超し、少数精鋭のお嬢と数に任せて戦う黒服達の戦火が夜空を照らした。
闇夜を瞬足で飛び回り、まずは敵の幹部連中を潰すべく目を光らせるクニークルス。その後ろに付いて動くはシロとハク。裏路地から細い隊列で動く黒服の一団を捕捉、向こうもレーダーで探知し銃口を構えるが既にそこにクニークルスの姿は無い。
ラビットマンの瞬発力を最大限活かす専用の駆動魔具の速度は、並のレーダーの追跡を一時的に振り切る瞬足を実現する。次にレーダー上に姿を現した時は最後尾の黒服の背後に着地した際。黒服達の間には黒くしなやかなニトロウィップが置き去りに靡いていた。
その場から再び大きく飛び退きながらニトロウィップを起爆、爆音が空気を揺らし建物を倒壊させる。治安が地を這う街、アングルスで幼少期から育ったクニークルスは一切の躊躇が無かった。
「いっちょ上がりっと。」
残ったニトロウィップの持ち手を放るクニークルスを、飛び降りて盾を展開させたシロが守る。派手に立ち回れば勿論注意を引き、その分敵の幹部を引き寄せるだけじゃなく周囲の味方の負担も減る。あちこちから飛び出し銃口を焼け付かせる黒服達の合間を、ハクがラインレーザー纏うバリアを展開させながら駆け抜けた。高出力のラインレーザーは、直撃すれば並の強化外装では一撃で切断されかねない。
光学兵器はそもそも高額であり、それの直撃に耐えるのなら相応の装備が必要になる。田舎マフィアの下っ端が用意できるようなものじゃなかった。着古され、日頃のメンテナンス状態も危うい強化外装は大して機能せず。
何個もの頭が飛び、避けようとした数人が額から上を失って転倒する。
「おー、派手にやってるねぇ!」
両手にサブマシンガンを構えたガブミィが、追いつくなり屋上から通りに銃弾を雑にばら撒いて牽制した。
後詰の部隊を率いる幹部が一人、ヨウスケは剃りの甘い“青髭”を片指で撫で麗しい美女達の奮闘を眺める。
(はぁ‥勿体ねぇ。何とか頭だけでも残して捕まえられねぇか。)
そんな事を考えるも首を振って捨てた。ヨウスケの乗る戦車は脳波操作で動く一人乗り。市街地で楽に取り回せるが売りの小型戦車。しかしながら砲塔から発射される一撃はそこらの建物程度簡単に吹き飛ばす。組に数える程しかない戦車の一つを任されたヨウスケは熟練の戦車乗りだった。
「おーい、俺らも出るぞ。クロザキ組の怖さを教えてやんねぇと。」
動き出す戦車の影に、クニークルスは追加のニトロウィップを取り出し少しだけ笑む。
「ようやく幹部さんのお出ましだ!ここで首を獲ればボーナスが出るぞ!」
「新しい光学銃欲しかったんだよね〜!」
「ラフィくんと旅行デートの資金とか!」
吠える砲塔、飛び退き戦車に銃口を向けるお嬢達。戦車備え付けの機銃が火を吹けば、横合いから質量兵器であるヘビーナックルを装着したガブミィの拳が殴りつけて照準を逸らす。
囲むように動く黒服達を、ガブミィの連れて来たアゴーニの構成員の銃撃が背後を突く。まさに戦争と言うべき発砲音の嵐が廃墟に吹き荒れた。
あちこちで開かれる戦端、無数の発砲音、何処からか聞こえる悲鳴。そんな戦場全体の情報がプチフィー経由でボクに流れてくる。癒しの力のお陰か誰もが英気に満ち溢れ、途切れぬ集中力と疲労のない肉体が数で勝るクロザキ組を押し始めていた。
「こりゃ相当派手な戦いね。」
既に数マガジン分弾丸を吐き出し、銃口が赤熱する3M50をタマさんがリロードする。タマさんとブランさんが飛び掛かれば、散発的に襲撃を仕掛ける黒服達は瞬く間に倒されていった。
「あまり突っ込みすぎないで下さい!あくまで私達は戦線を支えるラフィさんの護衛ですよ。」
数度半光学兵器同士で斬り合い、至近距離での銃撃で黒服を屋根上から叩き落としたロゼさんは、突っ込みがちなタマさんに注意を飛ばす。
「あははっ、まぁいいじゃないッスか?亀みたいにじっとしてても包囲されて面倒ッスよ〜。」
手をひらひらさせるメリーさんは、足跡に変形した瓦礫の壁に押し潰された黒服の残骸を残して笑っていた。
光学迷彩で姿を隠した刺客が、ビームシュナイダーを片手にボクへ襲い掛かる。背後からの一撃を一歩進んで避けた拍子に、袖口から伸びたイルシオンが体に巻き付いて光を放った。数秒で抗光学装甲を削り切られて悲鳴も無く蒸発するも、残った肩上の部分は通りへ落下していく。何となく、止めまで刺す気がしなかった。
「お、あいつはクロザキ組三次団体の奴ッス。」
メリーさんが指差した先、顔に傷のある男がタマさんと格闘していた。その速度はほぼ互角、しかし体回しはタマさんが上。スピードに付いていきながらも一撃入れる事も叶わない。
「ほらほら、こうやんの!」
至近距離で引き金を引かれた拳銃の先にはタマさんの姿は無く。銃撃に意識を取られた男の首に尻尾が巻き付き、ビームシュナイダーの光刃で何度も腹部を穿つ。軽い光学兵器ならではの素早い攻撃は、一瞬の隙に装甲を削るのに最適で。
尻尾を掴んで抵抗する男は、ブレードランナーを履いた足でのハイキックで顔を縦に切り裂かれていた。ピッタリ最後の蹴りで装甲ごと切り裂けるよう、直前の攻撃で削り取っていたのだ。
「シマネ組だったスかね。そこの若頭ッス。もうやられちゃったッスね。」
徐にH.AMRを構えるロゼさんがメリーさんの声を発射音でかき消す。
「よくもアニキを‥」
飛び出した一人の男の腹部が吹き飛び、それ以上の声も無く通りに消えていった。
「ラフィ様、そろそろ。」
ボクのスマイルにもメッセージが届いた。イトウさんの今回の戦いでの役割は破壊工作。後詰として控えていたクロザキ組の戦車部隊に奇襲を仕掛け破壊する。ボク達も戦闘を最低限に、ここからは建物内を通ってイトウさんの援護へ向かう予定だった。
「じゃあ行くわよ!」
タマさんが目の前の長く繋がった集合住宅の3階の窓を蹴り破って中へ。ボク達もその後ろに続く。既に廃墟の壁は穴だらけ。塞がっていたら2階へ、1階へ、また3階へと登り降りしながら作戦現場まで直行する。あまり無理に壁を抜くと崩落しそうだし、建物へのダメージは最低限にする方向性だった。
ボロボロのカーテンが揺れ、薄い月光が埃の積もったベッドを照らす。その上を駆け抜けるボク達は無言で。かつてここにもヒトが住んでいたけど、アングルスの政変で放棄されてしまった。ここいたヒト達はクロザキ組が影響力を失うと同時に居場所を失い、多くがスラム街へと流れたって聞いた。廃墟街は元々クロザキ組の関係者が多く住まう街だったんだ。
通行の邪魔で蹴飛ばされた壊れた机が宙を舞う。月明かりが割れた写真立てを照らし、微笑む男女をボクの目が捉えた。壁に貼り付いたまま風化した、幼児の描いた家族の絵が目に留まる。
ここで生活し、色んな思い出を作ってきた人々の故郷で戦争をしている。それもこの街の支配者を巡る政変で。ここを決戦の地に選んだのはアゴーニと胡蝶之夢だけど、なんだかやるせ無い気分になってしまう。
そんな感傷的なボクはふと迫る危険を察知し声を上げる。
「罠です!建物から緊急離脱!」
メリーさんが大きく場を変化させ、部屋を破壊し跳ね上がった床がボク達を外に放り出した。直後前方の建物内が大爆発を起こし、爆風で吹き飛ぶボクをタマさんが抱えて着地する。
「よぉ。待ってたぜ。」
そこは丁度黒服達に囲まれた広場の真ん中。ボクの前にどこか見覚えのある顔立ちが立ち塞がった。
「俺はトゥ。カネコの兄弟でよ。‥分かるよな?」
歯軋りするトゥさんは両手の二丁拳銃を腰から取り出し構えた。雪祭りでボクが倒したカネコさんの兄弟。
ふと、クロキさんとの会話を思い出す。
逃げちゃダメだ。ボクが戦った結果買った恨みなら、受け止めないと。ボクの目に浮かぶ演算陣が一層淡く光る。
「タマさん、ロゼさん、メリーさん。援護をお願いします。ボクとブランさんでトゥさんを。」
袖口から伸ばしたイルシオンが月光のように白く輝き、宙をうねって大きく展開していく。
「ラフィ、気負いすぎないでよ。」
ボクの肩を尻尾で叩くタマさんは両手の銃を構え、皆も次の瞬間に来るであろう銃弾の豪雨に備えた。
「カネコ兄弟の仇!ラフィには手を出すな!俺がぶち殺す!兄弟を超えるんなら今だ!!」
「受けて立ちます!」
ボクが飛び出したのとトゥさんが踏み出したのは同時だった。




