73、激突する赤と黒
すやすやと眠ってしまった二人をエンジェルウイングの両翼で包んだまま、ボクは目の前を流れていくカラフルな“ノーツ”を眺めていた。共有モードになったホロウインドウを上から下に流れるノーツ達は、ヒップホップな音楽にノッて爪先で宙をタップする度に気持ちの良いエフェクトを残して消えていく。
「ガガーランさんはこういうの好きなんですか?」
「ふむ。音ゲーはヒトの作り出した娯楽性に富んだ至高の芸術。ふふ、手持ち無沙汰の時はコレをやるに限る。」
タマさんはあんまりスマイルアプリのゲームはやらないんだよね。ボクも音ゲーは経験ないなぁ。でも見てると陽気な音楽に思わず肩が揺れる。踊っちゃいたくなるけど、今は二人を癒しているから我慢。
ふとミニフィーの一体がピクピクと体を震わし、音ゲーの曲の抑揚と同期してぴょこぴょこと動き出す。
踊りたいって思ったからかな?でもミニフィーの体を通して体を動かしたい欲求を叶えるのはいいかも。
4体のミニフィーが小さく飛んで、跳ねて。両腕を交互にフリフリ上下。テンションが上がってくると、きゃーっ!って感じに笑顔になってはしゃいじゃう。指先の出ない袖で口元を隠し、ノリノリでお尻をふりふり。そんな様子をタマさんがスマイルでコソッと録画して、リコリコさんも目をキラキラさせて実況を。
「ラフィきゅんが踊ってるよ!息ぴったりだし動きがこう‥!ぷにぷにしてる!可愛いんですけど!」
ー可愛い ーあざとい ー自分が可愛いって分かってやってるだろ ーアイドル系開拓者 ーこんなに可愛いのに戦う時は冷酷な殺人マシーンとか興奮する ーあの無表情とのギャップいいよね ーはぁはぁ‥
変なコメントが沢山付いちゃう。うう、ただじっとしてられなくて気晴らしをしただけなのに。
「ふむ。ミニフィーだったか?いい余興だ。しかしオスとしてもうちょっと威厳をだな。」
「ニホンコクじゃオスメスじゃなくて男女呼びよ。コンプラ的にアウトだから。」
ぼやくガガーランさんにツッコミを入れるタマさん。威厳‥ボクには難しいかな?
「ラフィきゅん!後で踊ってみた動画とかどう?!」
「か、考えておきます。」
苦笑いで返したのだった。
橋梁の上でじっとしている間も何度か参加者が雪銃を片手に様子を見に来るものの、感知内に入った途端ミニフィー達の視線に射抜かれ驚いたように逃げてしまう。配信の内容は同じ参加者として確認しているのかな?正面から正々堂々と言うより、不意打ちを狙う感じでこっそり来る。
そんな折、空から急に飛び降りてきた赤い影があった。大きな魔女帽子、顔半分を隠した立て襟の魔女のローブ。その上から羽織られた重厚な厚みを持つマント。赤黒いマントで適当に薙がれた廃車が、発泡スチロールのように粉砕しながら橋梁から落ちていく。
着地点には大きなヒビが入り、崩れかかった橋梁に更に追い打ちを掛けたようだった。
「ルーフスさん?!」
彩色祭で出会ったウィッチワークス旅団の一人、突撃隊長のルーフスさん。少女の幼なげな目元と対照的に重装感ある魔女姿が印象的なヒトだった。
「アンタ達も参加するのね?」
「今度は勝つ。ラフィにカッコいい所見せる。」
ややカタコトな喋り方で帽子の下で睨むルーフスさん、ウィッチワークス旅団がアングルスに居る事を事前に知っている風なタマさんの反応。
タマさんをロックオンしてるみたいだけど、ボクもヒメコさんを守れるよう身構えないと。ガガーランさんもそっとアグニさんを抱き上げ、距離を取って動けるように構える。リコリコさんの元には一体のミニフィーが向かい、腰に抱きついて様子を伺っていた。
と、一瞬姿が消えたように急加速したタマさんが横合いから雪銃を撃ち込み、翻された重厚なマントが飛ぶ雪玉を粉に帰す。ならばとマントに蹴りかかった衝撃はあっさり防がれ、ルーフスさんは微動だにせず。
「ヘビーカーボンを纏うなんて酔狂な事をするのね。」
「そんな蹴りじゃ無駄。」
ルーフスさんが飛び上がろうと腰を一瞬屈め、足元に赤い稲妻が走る。しかしその衝撃は橋梁を粉砕するには十分すぎる威力だったみたいで、ボク達まで巻き込んで高速道路の一部が砕けて崩壊した。
「きゃあああっ?!」
宙に投げ出されたリコリコさんをミニフィーが受け止め、ボクもヒメコさんを抱いたまま飛び上がる。そして目の前のビルの中へ、崩れた壁からエントリー!ブレードランナーで滑るように滑走して飛び込んだ先、丁度他の参加者との雪合戦を制した直後のクリムゾン・イシダさんが?!
「おう?!ラフィか!いざ尋常にぃ!」
両手で構えたライフル系の雪銃の銃口がボクに向く。同時、騒ぎに目を覚ましていたヒメコさんがイシダさんを指差した。
するとガタイのいい黒服が突如目の前に現れ、イシダさんの体を掴み上げ走り出す。
「うおおおおおっ?!」
そのまま一緒に飛び出し落下!黒服は宙に掻き消え、イシダさんだけが落ちていった。
「兄貴ィ?!おのれヒメコ嬢か?!」
崩れた階下から飛び上がって襲いかかるコバヤシさん。その股下をヒメコさんを抱いたままスライディングで一気に抜き去る。背後に回った瞬間正面の柱を蹴って振り返るコバヤシさんの頭上を通過。しかし入れ替わりに配置され、コバヤシさんに手を振るミニフィーが注意を逸らした。
「んあ?!ヒメコ嬢が居ねぇ!おわっ?!」
背後からゼロ距離で接射したボクとヒメコさんの雪銃が、勢いよくコバヤシさんのポイントを削り取って脱力しながら巨体が階下へ再び落ちていった。
「なんとかなったかな?」
階下で伸びるコバヤシさんを見下ろすボクの首にヒメコさんの腕が伸びる。
「もぅ、ずっと抱いてなくてもウチは逃げんよ?」
あっ、そういえば抱きっぱなしになってたんだった。ヒメコさんも駆動魔具を装備してるし一人で一通りの動きは出来るのに、護衛依頼って意識しちゃうとくっ付きぱなしになりそうになる。
「そのまま終わりまで抱いててもいいのにさ。」
ニヤニヤするヒメコさんを降ろすボクに、追いついてきたリコリコさんが一緒のカメラに映り込んだ。
「まったり休憩時間から急展開!怒涛の勝負を制しました!あっ!さっきの魔法使いちゃんは只今ビルの外で派手に戦ってまーす!」
そう言ってポチの一体のカメラを共有ホロウインドウに映し出す。
二つ並んだビルの間を飛び交い、タマさんとルーフスさんが何度も銃口を向け合っていた。二人ともボクと同じタイプのオートマチックハンドガンの雪銃。だけどタマさんは回避重点、ルーフスさんはマントで悉く銃撃を防いでいた。
どれくらいの重量があるんだろう?ルーフスさんが着地する度に陥没し、なのに動く時は直線的に急加速してタマさんの背後を取ろうとする。対するタマさんもルーフスさんを見失わず。最小限の動きで背中を守り、それどころか突っ込んできた所に掴みかかって反撃する。
その推進力はタマさんでさえも止められない。だけど肩を掴んで推進力に逆らわずに一緒に上空まで移動、至近距離で突き出された銃口を尻尾で叩き銃口を突き付ける。
しかし引き金を引く直前にルーフスさんもその場で勢いよく回転してタマさんを振り落とした。
互いに一歩も引かない激しい攻防は迫力満点でつい見入っちゃう。タマさん、頑張って!
「おっ?!ラフィさんに対戦依頼です!時間的に次で最後!爆裂シャインマスカットさんが勝負を挑んで来ましたよ!」
と、リコリコさんがメッセをボクに転送して見せてくる。そうだ。ボクも配信中なんだから、皆を楽しませないとね。
ー俺らのシャインマスカットキター! ーランク9開拓者にランク1のラフィが勝てる訳ないだろ! ーマスカット兄貴めっちゃ強いんだぞ?! ー←“シャイン”マスカットな?二度と間違えるんじゃねぇ
コメント欄も一気に加熱、ヒメコさんに目配せしたボクは一緒に隣のビルまで飛び出した。
そしてそこで待っていたのはまさに“シャインマスカット”、緑色の粒々が葡萄状に連なった人間大サイズの不思議な物体。そして周囲に脱力して倒れる参加者達に姿だった。
ーソーシャルゲームー
ソシャゲは数多くあるものの、中でも特に音ゲーが亜人達に人気だった。
ニホンコク語が苦手でもなんとなく理解して出来る操作の簡単さ、亜人文化に無い多様な音楽を楽しめ、難度が上がれば腕が問われる奥深さもイイ。
“ファンタスティックライブ!ミリオンエコー!!”が音ゲー業界で覇権を取る今、大勢の亜人達が音ゲーの楽しさに酔いしれた。




