71、橋梁の上の虎
➖祝勝!(¥10000) ➖ラフィきゅん!やったね!(¥1500) ➖ラフィきゅんに群がられたい人生だった(¥1000) ➖アングルスの治安貢献に乾杯!(¥500) ➖お姉ちゃん応援してるから!(¥15000)
R.A.F.I.S.Sを切り、目前に転がるカネコさんを一瞥。ふと気になってコメント欄を覗けば大量のひねコメが飛び交っていた。カネコさんが死んじゃわないよう天使の羽を展開し、最低限頭部を復元して止血を済ませておく。思えば結構過激な配信になっちゃったけど大丈夫かな?
『フォロワー10万人突破!)ARチューバーリコリコ』
Tubeはエロ以外規制ゆるゆるだから問題なし!開拓者系ARチューバーの動画配信とか結構エグいの多いよ?このくらい序の口だから!
そうなんだ。Tubeで見る動画ってゲーム実況と可愛いペット系動画ばっかりだったし知らなかった。
ーてか自走砲台持ってるのヤバすぎない? ー何処で手に入れたのよ ーあれ億普通に超えてたよな ー実はラフィって上級国民? ー←いや孤児院出身なのは裏取れてるぞ ー謎が多すぎる ーくっそ複雑な動きする武器使ってるし普通の開拓者はあんな武器使わない ー俺開拓者だけど今月の強化外装メンテ代だけで巡回依頼2回分くらい吹き飛んだわ ーその割には未踏地産っぽい雑銃も使ってるんだよな
コメント欄ではボクの出生について議論されてるけど、ボク自身もよく知らないんだから仕方ない。でも他の開拓者さん達の話を聞いていると、お金で苦労してるヒトって結構多いんだ。
開拓者って依頼で百万単位でどかっと稼いで、新しい武器とか買ってどどっと派手にお金を使い込むイメージがある。でもコメント欄で聞いた話だと、ランク10を超えるまでは一回10万いくか行かないかくらいの依頼を同期と奪い合っているらしい。都市警戒区域の巡回とか列車の護衛とか前線基地の駐在員とか‥
タマさんに感謝しなきゃ。
そう思うとふと、タマさんに会いたくなる。タマさんはビルの方だっけ。でも配信と護衛もあるし。うう、我慢しなきゃ。
「ラフィきゅん!どうだった?!ほら、感想とか!」
興奮で顔を紅潮させるリコリコさんがパパッと駆け寄ってきて、気持ちを切り替えたボクは笑顔で応える。そんな傍ヒメコさんはカネコさんを見下ろしていた。
「カネコに勝つなんてやるなぁ。結構クロザキ組の中でも強かったんだぞ?」
「クロザキ組って何ですか?」
気になっていた。ヒメコさんは同じL.Cのカネコさんに対しても何処か無関心な素振りを見せてたし、仲間が倒されても他人事のようにしている。
「うーん、カメラの前で話すのはね。ま、今度教えるよ。」
「はい!」
この頭部をどうしようか?って悩みを感じ始めたその時。スッとボクの影の中から黒装束が現れた。ぴゃあっ?!と驚いて後退り、顔を黒い布で隠した黒子さんのような人影を凝視する。あれ?でも何処かで。
そうだ。タマさんを真っ二つにしてヤブシキさんを殺した凄腕の暗殺者!
R.A.F.I.S.Sを起動、スッと無表情になって身構えるボクを放って黒装束はカネコさんの頭部を拾い上げる。
だけどボクは動かなかった。R.A.F.I.S.Sの感知範囲内に入った黒装束から送られてきた生体情報は見知ったもので。前は正体を隠すジャミング装甲のせいで分からなかったけど、前より成長した今なら分かる。
毎日胡蝶之夢の休憩室でボクを抱いて寝ていたアモルさん。
「どうして。」
そんなボクの呟きに正体がバレた事を察したアモルさんは、不意にボクへ近付いてくる。そして顔を隠す黒布を少しだけ片手でたくし上げ、ボクの頬を唇で突いた。
きゃあっ?!
驚くボクを他所にアモルさんは影の中へ潜り込んで消えてしまう。な、なんでキスするの?!うう。アモルさんの行動は今ひとつ分からない。動揺するボクはほっぺを押さえたままカメラから目線を逸らしたのだった。
「なんだ?黒子と知り合いかい?」
怪訝な目のヒメコさんに苦笑いで返す。
「ラフィ、護衛感謝する。」
わっ!イトウさんもう動けるの?!
「こういうマギアーツに対する防御策も講じている。お陰で復帰は早いんだ。‥今回は負けは負けだ。久々に存分に体を動かせて楽しかったぞ。」
眼鏡を片指で上げたイトウさんは雪を払って踵を返す。表情固く、だけどその足取りは軽かった。
「ここを離れましょう。沢山暴れたから目立っちゃったし。」
そそくさと逃げるボクの後ろを二人は追いかけて行った。
そろそろヒトの減ってきた住宅街と打って変わって、高層ビル跡地のエリアは大盛り上がりだった。やっぱり高低差あるステージの方が戦いやすいからかな?ミニフィーに抱えられたリコリコさんが、風を切って流れていく眼下の景色にリアクションを。
「うひゃーっ?!おち、落ちる!はは、激しいって!」
ビルの谷間に残った高速道路の瓦礫の橋梁の上、防風壁を伝って疾走していた。
「ガキでも容赦しねぇぞ!」
背後から迫る二人のマフィア風の男が雪銃を片手に追い立て、飛んでくる雪玉をヒメコさんの差し指が防ぐ。指された先に突如現れた黒服の大男が重厚な盾で防いだのだ。そして僅か3秒後には、テレポートの際に生じる僅かな光の軌跡を残し、宙に掻き消えた。
リコリコさんを抱えたミニフィーがぽん、と飛び上がる。同時に足先を掠めるように打ち出された二つの雪玉が、背後の二人の内腿で爆ぜた。
防風壁の先から壁面へブレードランナーを走らせ、ギリギリまで一気に路面へ肉薄する事で二人の視界からボクの姿が消える。ともすればレーダーの情報を頼りにボクを探そうと意識を向けた。その一瞬。
壁面を急上昇して駆け上がったボクが突然目の前に飛び出し意表を突いた。互いがすれ違うのは瞬き一つ。振り返った瞬間には、更に上へ飛び上がったボクの姿が視界から消えている。ブレードランナーで宙を踏みその場で一回転。天地逆さまな状態で真上から雪玉の時雨を降らせた。
無防備に射撃された二人は何かを喚きながらもすっ転び、強化外装のバリアを消耗しながら路面を滑走していく。そのまま虚脱のマギアーツでぐったりとしたのだった。
ーめっちゃ動く ー今回も瞬殺だよ ーブレードランナー使い方うま過ぎ ーランク1の新米なのに動きが熟練のそれなんだよなぁ ー目があの状態になると動きが変わるよね ーミニフィーに抱えられるリコっち裏山
コメント欄を横目にヒメコさんの隣まで追いつき、一旦防風壁を背に休む事になった。周囲は車の残骸で囲まれ、ひっくり返った一つにヒメコさんは飛び乗って腰掛ける。
「それで、これからどうするんだい?あと、ほら。癒して欲しいんさ。」
手招きに応じたボクはひょいと隣に移動して手を握った。もっと!と言いたげにぐいぐいとヒメコさんに寄りかかられちゃう。恥ずかしい‥
「まだ終了時間まで暫くありますし、ビル内に突入して戦おうかな‥?でも、ヒメコさんの護衛ですし従います。」
「じゃあこのまま時間までイチャイチャして過ごそっか?」
「うう‥」
顔が熱くなってじっとするボクに、リコリコさんが肩を叩いて後ろを指差した。
「ラフィきゅん!あっち!来てるよ!」
邪魔が入って不満げなヒメコさんが振り向き、その視線の先で一人の女性が腕組みをしてせせら笑う。虎の耳と尾をした獣尾族。紅白のリボンで雑に纏められた派手な金髪を揺らし、覇気のある目でボク達を見回す。ちろりと舌先が唇を舐め指先で揺らされた雪銃を握り直した。
「何だい、ラフィと随分仲良さそうじゃないか。」
「アグニ姐が何のようで?」
「オレもラフィに用事があってね。ちょっかい掛けてもいいかい?」
この街の半分を仕切るマフィア、アゴーニ。そのボスが居た。だけど雪合戦をする目的だよね?雪合戦なら受けて立つよ!
ぴょん、と飛び降りたボクはちょっとワクワク顔で。だけどR.A.F.I.S.Sを起動するとスン、と表情を無くしちゃう。
「いやいや、邪魔されたウチにもちょっかい掛けさせな。」
ヒメコさんの指を指した先、アグニさんの四方を囲むよう現れた黒服達が雪銃を発射した。しかしそこにアグニさんの姿はなくて。身軽に飛び上がって包囲を難なく突破する。その着地点には車の残骸の影を走り抜けて待機していたミニフィーが。
着地を邪魔するようスライディングで突っ込み、だけどアグニさんの尻尾で絡め取られて退かされてしまった。
「今の連携、いいねぇ。楽しくなってきた。」
「あはは、さぁさぁ虎狩りの時間だよ!」
「負けません!」
既に傾いた高速道路の橋梁の上、3者は激突する。
ー今度はマフィアのボスか?! ー今年の雪祭り激アツなんだけど! ーアグニってヤバいくらい強いって話だよな? ー←通りで公開陵辱プレイをする変態的なヤバさの方が有名 ーラフィきゅんの貞操が危ない!
好き勝手騒ぐコメント欄にこそこそと返信するリコリコさんは、早速実況の準備を始めたのだった。




