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67、冬の到来

秋も終わり、冬の訪れを告げる冷たい風がアングルスの街を吹き抜けていった。


この世界に転移してきた“異界地”はどの国も、元の世界に近い環境が維持される。ニホンコクに四季があるのもそんな影響のお蔭なんだとか。元の世界の事は知らないけど、寒いのはあんまり得意じゃないや。うう、肌寒い。


冬がやってくると胡蝶之夢の休憩室にも暖房が入れられる。空間全体を温める暖房機器は薄赤く光る棒状、それが部屋の四隅に設置されていた。如何にも熱そうだけど触れても大丈夫。火事の心配も無いみたい。アングルスではあまり見かけない最新型の暖房器具だった。


「もうこの時期かねぇ。」


女将のミケさんの膝上でボクは寛いでいた。さっきから尻尾の先でシロさんとハクさんが突いてくる。こそばゆくてつい握ろうとすると、しゅるりと尻尾が指の間を抜けて腕に絡んできた。


「今年もやるんでしょ?雪祭り。」


「年に一度くらい童心に帰って楽しみたいよね〜。」


雪祭りですか?


気になったボクにミケさんが説明を。


「そうさね。アングルスの町中で雪合戦したり屋台出してお祭り騒ぎすんのさ。ま、うちもその日は営業は夜からになるしそれまで楽しんできな。」


「楽しそうですね。雪合戦‥‥わくわくします。」


ふと気になってスマイルの天気予報アプリを見やれば確かに一週間後に大雪の日が。


「雪が降る日に合わせてやるんだよ。だからだいたいこの時期ってだけで具体的な日にちは毎年変わるね。」


ハクさんの尻尾の先っぽを捕まえたボクは、何となく尾先をいじいじしながら説明を聞いていた。


「今年こそ雪合戦勝つぞー!」


シロさんはやる気満々、まだよく分かってないボクはキョトンとしてて。


「当日は強化外装に感知チップを仕込むんさ。雪玉を当てられたらマイナス、当てたらプラスに得点が入ってね。最初の持ち点は10、マイナスになったら退場さね。」


強化外装を持っていない参加者はあくまで楽しむだけ。ゲームには参加しないらしい。毎年大勢の開拓者、ARチューバーが街を賑やかし大盛り上がりだって。ふんす、面白そう!


「でも雪玉を防ぐんじゃ無くて回避ってのが難しいよね。」


「私達の戦い方回避重視ってタイプじゃないから不利だよー。」


使うのは雪玉を発射する雪玉銃。雪玉は収納に事前に仕込み、それを取り出しながら撃ち合う。


楽しげな説明を聞くボクのスマイルがペポっと通知を鳴らした。


『(フォロワー10万人突破!)ARチューバーリコリコ』

ねぇねぇ!雪祭り当日組まない?ポチを貸し出すからラフィくん視点でお祭りを配信したいの!絶対めちゃバズるって!


この前の一件からちょくちょくリコリコさんに誘われて一緒に雑談配信とか、FD(フルダイブ)VRのゲーム配信とか、街を一緒にお散歩配信とか顔を出している。いつの間にブランさんも人気を集めてカメラに無表情で手を振るだけでおひねりコメント‥‥通称ひねコメが飛び交いポンポンと気安くお金が投げられるようになった。


「ハン、チョロいですねあなた達は。当機はラフィ様のモノですが、精々当機を妄想の中で(不適切な表現の為自動検閲システムにより規制済み)しやがって下さい。」


ブランさんが悪い顔をして反応すればよく規制によって音声が誤魔化され、その度により一層盛り上がりを見せていた。


面白そうな企画だな。いいですよっと返信っ!


タマさん達は参加するのかな?後で聞いてみようとワクワク顔のボクは小さく鼻歌を歌ったのだった。


雪祭りに参加するのは組合警察の方以外の皆だった。メリーさんとロゼさんは開拓者がはっちゃけ過ぎないよう、会場の警備にあたって睨みを効かせるつもりらしい。


イトウさんも参加するって話で、なんだか会うのが久しぶりで楽しみ!そんな中ボクに一つの依頼が来たのだった。


呼び出しを受けて胡蝶之夢の応接室に向かったボクを待つのは、まさかのL.Cのナナフシさんだった。

相変わらずなギョロ目に口元の傷跡、極彩色の派手なスーツにスラリと細長い両手足。


どうも、とニタリと笑って中折れ帽を指先で摘み上げる。その傍に見覚えのある女の子が座っていた。


「あっ!やっぱりオマエか!あん時見た顔覚えてるで!」


古来より伝わる歌舞伎役者の動画で一回見たことある。ええと、腰に巻かれたおっきな赤い綱。それにサラシを巻いた胸元を派手な和服から覗かせていた。


「あん?この衣装が珍しいかい?アッハッハ、バサラって言うのさ。なんかこう、和風ロック的な?派手でカッコいいじゃん?」


一纏めにされた髪を揺らし、ニィっと笑ってボクを見やった。ちょっと反応に困りながらもいそいそと対面のソファーに腰掛ける。いつの間に紅茶を用意したブランさんがボクの隣に座り込み、自分の分をズズっと啜る。そして顎で自己紹介するよう促した。


そういえばブランさん、食事自体は出来るんだっけ。ボクと味覚をリンクしてるから食べない事も多いけど、タダで出されたものはよく摘んでいた。食べたものは残り滓も無くエネルギーに変換出来るって話だけど、活動の為のエネルギーは別の手段で補給しているから必要性の有る無しなら、無いみたい。


「相変わらず自由なメイドさんですねぇ。」


思わず呆れ顔のナナフシさんは姿勢を正したまま。そしてポカンとした顔で見ていたお嬢は咳払いを一つ。


「アッハッハ!面白いメイドを連れてるね。いいよ、そういうの好きさ。で、ウチはピクルスの親父の娘ヒメコって言うんさ。この前は三途の川に片足突っ込んだウチをよく助けてくれたよ。」


やっぱり。掃討戦の最後に治療したあの女の子だ。


「未だに覚えてる。極楽浄土みてぇに柔らかな光の中、天使様が翼を広げて微笑んでたんだ。ナナフシはそんな事実は無いと誤魔化してたけど、つい最近SNSで流れてきてな。これだっ!て雷に打たれた気分だったね。」


お礼を言う為に来たのかな?ちょっとこそばゆいけどやって良かった。


「だから、次の雪祭りウチをエスコートして貰おうって思ってね。聞いたぞ。チャガマの奴をぶっ倒したんだって?そんくらい強けりゃ背中を任せられるってもんさ。」


やっぱり依頼の話だった。うーん、リコリコさんとの先約があるけど、流石にマフィアのボスの娘さんからの依頼を無碍にする事は出来ないよね。受けるしかないか。後でリコリコさんにも説明しなくちゃ。


「分かりました。頑張って守ります!」


ふんす、と意気込むボクにヒメコさんは眩しい笑顔で応えたのだった。


「と言うわけでナナフシ、当日は暇を出す。遊んできていいぞ?」


「はぁ‥‥ま、お嬢の命令じゃ仕方ありませんね。何かあったら首くらいは持ち帰ってきて下さいよ?」


帽子の下でジロリと睨むナナフシさんにコクコクと頷いた。


『(フォロワー10万人突破!)ARチューバーリコリコ』

ぎゃー?!ヒメコ様?!一緒に?!あああああどうしよ絶対動画にしたら美味しいけど怖い

ラフィきゅん!守ってくれる?!


『ラフィ』

危険なヒトじゃないと思います!守りますから大丈夫です!


SNSでやり取りするボクの隣にどかっと腰を下ろしたヒメコさん。


「じゃあ早速噂の癒しを体験させてくれねぇか?」


「お触りは別料金です。」


食い気味に返すブランさんに宙で4回転した金貨が放られる。金貨はブランさんの前で忽然と姿を消し、ボクの肩に手を置くヒメコさんを見逃すよう紅茶を啜った。


「お、お金は取りませんよ。ですが‥‥ええと、近いです。手を握るとかでぇ‥‥」


急に顔を近づけられ言葉尻がふにゃっとなってしまう。


「うわ〜、不思議な感じ。それにお肌すべっすべ。ちゃんと開拓者してるの?こんな一流モデルみたいなやわすべ肌しちゃってさぁ。どっちかって言うと情夫‥‥」


瞬間ブランさんの振るった手刀から守るよう、ヒメコさんを抱き寄せて頭を低くさせる。って、きゃっ?!体勢が?!


ヒメコさんにしがみ付いたままソファーの上で覆い被さられてしまった。何が起こったか分からない風にきょとんとするも、口元をふにふにさせてボクの前髪を指でなぞる。


「急にどうしたん?ん?ウチに甘えたいんか?それとも‥‥」


「すいません!ええと、依頼は受けましたから後日!」


顔が熱くなったボクはジタバタしてソファーから転げ落ちた。そしてブランさんの手を引いて応接室から駆け出したのだった。

ー異界地の四季ー

異界地にやってきたニホンコクには四季がある。春、夏、秋、冬と巡る四季のメカニズムは未だ解明されていなかった。異界地特有の大気に含まれる魔素が関係している‥という論を有識者が推すものの、真相を解明するには手放した国土が大き過ぎた。

異界地特有の自然現象も多く、季節の変わり目に吹く色彩豊かな風が季節の終わりと始まりを告げていた。オーロラ風と呼ばれるそれはアングルスにも吹いていた。

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