65、アイ、アム、ヒーロー
名無しの開拓者
おい、近頃蜘蛛の巣街に出没する化け物の噂どうなんよ?
昔はあそこでよく小銭を稼いでたけどやっぱヤバいんか?
名無しの開拓者
ブラッティエンジェルだよ
SNSで流行った動画だとあんなに天使してたのにちょっと悪さしただけで容赦がねぇ
名無しの開拓者
この前また3人やられたんだとよ
ほら、元ランク5だかなんだかのイキったクソ野郎3人衆
名無しの開拓者
あいつら嫌いだったわ
俺らみてぇなゴミ性能強化外装にすら手が届かねぇ奴らの事マジでゴミだと呼んできてたよな
名無しの開拓者
お嬢に逆レされて借金地獄のクズの癖によ
ちな一人頭かっ飛ばされて首が変な方向に折れてたし、急に天使が振り下ろしたどデカい銃で首潰されてぶっ倒れた奴もいたぞ
名無しの開拓者
ザマァ
名無しの開拓者
しかも天使の後ろに金魚のフンみてぇにくっ付いて回ってる背広組の養分にされてたぞ
いいよなあの女
天使のおこぼれ処理してるだけでボーナスウハウハだぞあいつ
名無しの開拓者
あの背広組のねぇちゃんクッソ美人だよな
あの子にならぶん殴られて馬乗り手錠プレイされてもいい
名無しの開拓者
残念、天使くんにゾッコンだぞ
定期的に後ろから抱きついてごそごそ服に手を入れようと揉み合ってるし
名無しの開拓者
クソが
名無しの開拓者
てかいい加減ブラッティエンジェルどうにかしねぇと俺ら干上がるぞマジで
今度皆んなでボコろうぜ
クソガキに分からせてやるんだよ
名無しの開拓者
天使陵辱オフ会やっか
名無しの開拓者
数集められるだけ集めろ
一斉に銃撃てば死ぬだろ
────かくして開拓者崩れ、アングルス育ちの粗忽者、マフィアの下っ端‥‥ラフィを目の上のたんこぶと見ていたごろつき達が動き出す。手入れの行き届かない銃に錆びたナイフ、刃こぼれしたマチェーテを手に。守りたいのは己の利権‥‥弱肉強食の理に本能的に従って生きていける彼らの日常。
そしてひとつまみの美女を侍らす少年に対する、血涙混じりの嫉妬の炎が彼らを奮起させる。
そして女性の悲鳴に釣り出されたラフィが向かった先、30人が取り囲む裏通りの広場にて一堂に会していた。
「おうおうおう!何だてめぇは!俺達の何が気に入らなねぇんだ?!」
広場に着地するなり激しい剣幕が降り注ぐ。狭い入り口の先の行き止まりの広場には沢山の男達がいて、武器を手に殺気をぶつけてきていた。建物の2階のベランダからは構えられた銃がズラリと並び、目前の汚れたパーカー姿の男はマチェーテを手首で振って揺らしている。
「人々を犯罪で痛めつけ、日常を壊して何も感じないヒトだからです。」
「ここが何処だと思っている?!アングルスだぞ?!シティ上がりのおぼっちゃまには分かんねぇか?!食うに困っても国の庇護なんざねぇドン底の街なんだよ!」
「でも!犯罪に走らず生きているヒト達も沢山いました!」
ボクはR.A.F.I.S.Sを起動してイルシオンを‥‥
ふと、肩を叩かれた。振り向けばベンチで会ったおじさんがそこに居た。
「おい、ボウズ。ちょっとどいてな。」
「危ないですよ?!」
「危ねぇのはテメェだ。まぁ見てな。ヒーロー交代だ。」
おじさんが天を指差す。そして腰に片手を当て、もう片方の手がぐるりと時計回りに回される。その時、吹いた風がおじさんのコートを巻き上げ、腰に巻かれたカッコいいベルトを露わにした。
「どんな悪事も天が知る、地が知る、未踏の大地に不要な邪悪はこの手で刈り取る。あー‥‥ああ、開拓者戦隊黒竜のブラック。ここに見参!」
するとバチバチっ!って体を黒い稲妻が迸って!!きゃーっ?!黒い煙が晴れればそこには全身フルアーマーのおじさんが!!
「おじさん!それって!」
「クロキ、だ。覚えとけボウズ。今更この姿に未練はねぇが、子供の被る泥を肩代わりすんのもヒーローの役目でね。」
カッコよさに思わずR.A.F.I.S.Sを切って大はしゃぎなボク。そしてあんぐりと口を開けて仰天する一同。突然の戦隊ヒーロー(一人)の登場に声も出ない。振向けばロゼさんも口を開けて固まっていた。
そしてクロキさんを中心に自然と流れ出すカッコいいテーマソング!
『天と大地の狭間にて♪未踏の大地に蔓延る邪悪♪ヒトが呼ぶ♪』
『shine!』
「ふざけてんじゃ!」
一陣の風が吹き荒ぶ。
目で追いかけるのも大変なスピードで急接近したクロキさんの手が、マチェーテを叩き落としていた。
「安心しな、ヒーローの武器は非殺傷武器さ。」
同時に収納から展開したのは、カッコいい黒の稲妻を纏ったおもちゃの剣!
『稲妻貫くサンダーブレードっ!♪その必殺技は?』
「黒竜咆哮断罪斬!」
技名と同時に切られた男が激しい爆炎に包まれる。そして秒間遅れでその体は吹き飛び、地面に叩きつけられて伸びてしまった。今の爆炎はまさかARかな?剣自体はあくまでおもちゃのトイ・ソード。付与された衝撃のマギアーツで吹き飛ばしたみたい。
打撲以上の怪我をした気配も無く、あまりに鮮やかな無力化だった。
「お、おい!まずはこのふざけたっ!ガァっ?!」
二人目、三人目と無駄の無い動きで切り伏せ吹き飛ばしていく。それはヒーローショーを見ているみたいで、テンションMAXではしゃぐボクを、いつの間に隣に来ていたロゼさんが抱きすくめて落ち着かせる。
「ラフィさん、ここは敵地ですので落ち着きましょう。」
「きゃははっ!はい!」
クロキさんに向いた銃が砲火を上げれば、その銃弾は首に巻き付いた大きな紅マフラーが盾のように受け止めてしまう。
『正義のパワーだ♪ジャスティス・ビーム!』
音楽と共に放たれた光線も体を貫通する出力は無く、ただ瞬間的な高熱に反射で体が跳ねて銃を取り落としてしまった。
「ああっ!?クソ!」
ベランダから乗り出した男達に、飛び上がって肉薄したクロキさんはデコピン一発で意識を刈り取って回った。
勢い良く走り、側転も交えながらベランダからベランダへと渡って行く。振るった拳を宙を切り、銃を構える手に蹴り上げられた酒瓶がぶつかった。
ベランダから飛び降りたクロキさんの砂を巻き上げるヒーロー着地。剣幕で襲いかかる男達の攻撃は大気を薙いだだけで、回し蹴りで纏めて転がされてしまった。
「なんだこいつ?!強えぇ?!おい!逃げるんじゃ!」
背を向けた数人の男に先回りしたクロキさん。中腰でシュバっ!って回り込んだ勢いのままドロップキック!吹き飛ばされた男に巻き込まれて次々と転倒していく。
『明日へ向かって走り出せ♪正義のヒーロー開拓者戦隊、ジャスティスソルジャーズ〜♪』
一曲終わるまでの間に三十人もの男達は全員無力化されて転がってしまった。
『おもちゃの殿堂、ギャラクシー・トイズの提供でお送りします。』
きっちりスポンサーの社名が流れた後、クロキさんの操作で曲が終わった。
途中から見入っていたロゼさんは思わず拍手を送り、ボクも一緒に手を叩く。何処か照れ恥ずかしそうに頭を掻くクロキさんは背中越しにビシッと親指を立てた。
「ハァー、やりたいようにやれ‥‥か。ボスも直接言ってくれりゃあいいものを。求めてたのはコレか?」
「そのトンチキな姿で治安維持ですか?」
ロゼさんの言葉に肩をすくめるクロキさん。
「だろうな。マフィアの幹部なんてハナから合っちゃいなかったんだ。おもちゃの兵隊が街で暴れ回るのをご所望だとはな。」
どうしてクロキさんはその姿を封印してたんだろう?
ボクの質問にクロキさんは口籠る。
「まぁ、大人には色々あんだよ。一応言っておくが俺は現役じゃない。元、劇場型ヒーロー戦隊営業部長だよ。」
劇場型ヒーロー戦隊。それはホビーグッズの宣伝に力を入れた企業が雇った専属の旅団の事らしい。開拓者として怪物を倒して活躍する姿を配信したり、ヒーローショーを企画して都市内で飛び回ったり。勿論使う武器は限りなくホビーグッズにデザインを近づけた魔具の数々。取り分けヒーローショー用のそれは、派手なエフェクトを撒き散らすARを使った特注品との事。
だけどどうしてマフィアになったんだろう?クロキさんの過去は黙して語られず。
「ああっ!そんなっ?!ゾル?!何で?!」
悲鳴のような声を上げて躍り出て来た一人の女性にボク達は視線をやったのだった。




