63、ラフィ強化計画
お嬢達の抱き枕に小さな依頼の日々の隙間に、ボクに武器商人を紹介するタマさんの一声が差し込まれた。タマさんの紹介する武器商人と言えば勿論ソメヤさん。何だかすっごい武器が手に入ったから優先して卸してくれるってお話らしい。わくわく。
武器のお話を聞いて興味ありげなロゼさん、モモコさんも応接室でソメヤさんと顔を合わせた。
「おうおう、今回はボリューミーな大物が入ったぜ。まったく、俺様に感謝しろよ?」
そう言うソメヤさんは前見た時と同じ、はだけたアロハシャツにホロウインドウ搭載型のアイバイザーを付けている。
『本日のお勧めメニューはビームシュナイダー50本セットと選べる5種のEX弾頭10マガジン大人買いセット』なんて広告がアイバイザーに流れれば早速タマさんが購入してケースを受け取った。
「随分と安いですね。これ正規品ですか?」
「あたぼうよ。まぁ、そういう伝手があんだわ。」
やや警戒気味のロゼさんも結局EX弾頭セットを購入、適正額が引き落とされたのを確認してちょっと満足げに頬を綻ばせた。
「では当機も先日の分と同じものを。」
使った分を買い足すブランさんの後ろからモモコさんがひょこっと顔を覗かせた。
「しっかしどういう経緯で財閥のお坊ちゃんが?」
「なんだい?僕を知っているのか。」
「ハッハッハッ!ったりめぇだろ。あんの有名なシブサワ財閥の息子さんの顔を知らねぇ武器商なんざモグリだね。バトロイド製品の仕入れじゃ毎度お世話になってますぜ。」
「ふむ。それなら僕も何か高いものを買ってやろうか。次の新型バトロイドに取り付ける武器パーツの枠が余っているのでね。」
皆が思い思いにお買い物をする中、ソメヤさんはボクの前にずらっと武器を並べ出した。
「事前にタマから注文を受けた通りブツを用意させて貰ったぜ。んで、一応聞くが金の用意はあるんだな?」
だいぶ前にボクの貯金額をタマさんに聞かれたっけ。アングルスで活躍して溜まったお金は色々差し引いて3千万円ほど。殆どはノクターンの経費で落としてくれるって言ってたけど、あうう。また口座が空になっちゃう。
「ラフィ、武器に注ぎ込む金は惜しまない方がいいわ。いざって時に命を守る相棒よ?それにいい武器があればもっと沢山稼げるようになるから。これは初期投資ってやつなの。」
「因みに3千万円だと買えるのはどれか1個だけだな。」
そう言ってソメヤさんが指差したのは大きな筒だった。ぱっと見ガトリング砲にも見えるけど、もっと構造が単純そうでずんぐりと大きいし短い。
「ドワーフの鍛冶場製、多段弾頭噴射砲。通称ブルドッグだ。構造は単純、引き金を引けば中に詰まった千発の大型弾頭が同時にボンっ! R.C.S込みでメチャ反動デカいから、並の強化外装じゃ一発打つだけでぶっ飛べるぜ。普通は重量級の強化外装に装着するもんだな。」
お値段2600万円。
うへぇ、すっごい武器だけど・・・タマさんが選んだんだよね。
「ま、今回は全部買うって話だから順番に説明するぜ。まずはコイツ。ムラマサ工房製、オオワシM100超遠距離型狙撃銃だ。」
そう言って片手でバシッと叩いたのはスーパーコンピュータみたいな黒い箱と繋がった5mくらいある狙撃銃。これ、持ち運べるの?
「聞いて驚け射程は50000m!空間歪曲のマギアーツと影空間に侵入する潜影のマギアーツを組み合わせる事により50km先に弾丸をお届けする、ムラマサ工房100周年記念スペシャルウェポンさ!ぶっちゃけ威力重視のモンに比べちゃ決め手に欠けるがその弾速は業界内でも屈指の性能!」
大仰に喧伝するソメヤさんの傍で冷静にタマさんが補足する。
「マギアーツで強引に距離を圧縮してアホみたいな超射程を実現したって言っても50km先を狙うなら正直精度はかなり落ちるわね。現実的に使うなら25km圏内って所かしら。とは言え狙撃目的っていうより弾速を当てにした至近距離からの一発って使い方をするつもりよ。流石のアタシもこれを至近距離で撃たれたら反応も出来ないわ。」
因みに傍のスパコンはこの銃の狙撃の際に必要な演算を賄う為なのだとか。でもボク自身が膨大な演算装置的な役割を担えるから、買った後は改造して箱を取り除いちゃうらしい。ボクの頭にはこの箱以上の演算容量があるなんて不思議。
お値段は1000万円。
次にソメヤさんが差し出したのは可愛いカエルの顔を模した小さなイヤリング。
「こいつはマジシャンジュエル製、短距離転移装置キュートフロッグだ。要はテレポーターになれる転移のマギアーツだな。中でも一番初心者向けのクセのない挙動のお洒落な一品だ。まぁ転移のマギアーツ自体相当使用感が厳しいし、高ランクの開拓者でも持て余すようなもんだがラフィは使えんのか?」
R.A.F.I.S.Sを使えばいけるかな?試してみないと分からないや。タマさんが選んだのなら挑戦はしてみよう。
お値段は250万円。
最後にソメヤさんが収納のマギアーツから取り出した大きな影が応接室にドカっと置かれた。それは瞬く間に自動で組み上がり、鈍い機械音を立てて自立する。ぱっと見頑強な装甲に覆われた機関砲。背面以外の3方向が黒鉄の装甲に守られ、正面には大型の機関砲が顔を覗かせている。側面にも幾つか銃口が装甲の隙間から突き出ていて小さい移動要塞のようだった。
「うわっ?!これって自走砲座ですか!?」
「うわー、ドワーフの鍛冶場製のあれ?タマったらいつの間に発注してたの?」
驚くロゼさんとモモコさんを片手で制し、ソメヤさんは早速説明を始めた。
「まず言っておくがコイツは訳あり品だ。元々これはドワーフの鍛冶場でオーダーメイド品として受注生産されていたモンだが、納品真近になって客が死んだんだ。まぁ開拓者を相手に商売すんならままある事だ。そいでそう言う場合は俺らみたいなのに買い取りの話が来るんだよ。店頭に並べても誰かに合わせてカスタムされたヤツなんざ相当な安値じゃなきゃ買わないだろ?」
頷く一同。ボクも理解半分だけど一応頷いておこう。
「で、俺ら武器商はコイツを使用者に合わせて再カスタム出来る伝手のある奴を選んで卸す。向こうとしちゃ置いておくだけ邪魔な大物を直ぐに片せる、俺らも客の当てがあればとっとと売っぱらえる。そんな所だ。向こうも再カスタムだのなんだのに割く人手が無駄だって考えてんだろうな。作ったのは頑固な職人ドワーフだぜ?誰かが完璧だって決めて仕上げた品に再度手を加えるのをメッチャ嫌がるんだよ。コイツを普通に手に入れるんなら発注してから納品は早くて半年、遅けりゃ数年もあり得る代物だ。運が良かったな。」
なんとなく流れでコクコク頷いておく。そんな凄い兵器があるんだなーってぐらいの理解度だけど。
「で、ちゃんと正式に説明すっぞ。ドワーフの鍛冶場製、自走式高機動機関砲砲座だ。オーダーメイド式だが一応ザックリとした雛形が何種類かある。これはその内の一つエクエス40mm機関砲型だな。機動力と防御性能が売りの人気の型版だ。正面の40mm機関砲以外にもグレネードランチャー砲、三式火炎放射器を搭載。まさに移動要塞って感じだ。一応言っておくが砲身はあくまで20mm機関砲サイズだが、使用するマガジンは40mmEX弾頭対応だからな。」
カッコいい小型要塞に吸い込まれるよう、ぴょこぴょこ見回した後に中に飛び込んでみる。ってサイズが大きくて背伸びしないと機関砲に手が届かない!つま先立ちで、ん〜っと両手を伸ばすボクのお腹をタマさんの尻尾が巻いた。
「だからラフィに合わせて再カスタムするって言ったでしょ。全体的に一回り小さくしないとね。」
そう言えばこれってお値段って?そんな疑問にソメヤさんはアイバイザーを指で叩いて応えた。
『今ならお値段5千万円ジャスト!!とってもお値打ち価格!!超激安でお届けだぁ!!』
きゅうっ・・・・っ?!ペタペタ触った砲座が途端に超高級品に見えて慌てて飛び降りた。値段に驚いたのはロゼさんも同じだったようで、驚愕の表情でまじまじと砲座を見つめていたのだった。
因みに普通にドワーフの鍛冶場から買った場合、5億は下らないらしい。そう聞くととんでもない高級品だけど!でも5千万‥!ノクターンの経費で落とすって本当に通るの?!
「ノクターンもラフィの潜在能力の価値を相当買ってるの。なんたってアタシがめっちゃ推してるんだから。ま、どの道エクエスがこの値段で買えるんなら飛び付いてたでしょうけど。」
後でそんな事をこそっと教えてくれた。出世払いで返せるかなぁ?今から怖くなってきた。