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59、電脳夢想のサイバーシティで宴会しながら待ってます‥Ps.怪我のないよう気を付けて下さい!

タマさんとブランさんの帰りを待つ間、ちょっとだけ心配でそわそわするボクにメリーさんがサングラスを投げ渡してきた。軽くて薄いそれはFD(フルダイブ)型ゲームのヘッドセット。前にタマさんにちょくちょく誘われてやってたけど、初めてやった時の衝撃は未だに忘れられない。孤児院にいた頃は話の中でしか知らなかった世界だし。


何もかもが小型化されたこのご時世にサングラスサイズのヘッドセットは、ぱっと見時代遅れの古めかしいアンティークに見えるかも。皆持ってるスマイルも小指の先くらいのサイズなんだし。だけどフルダイブという特性上、ゲーム中かどうか見た目で分かりづらいと事故とかの潜在的な危険性があるって聞いた。


だから敢えて大きめのデザインになってるんだって。ダイブ中は一時的に肉体は眠ってる感じになるから、これが無いと何か事故が起きて起きれなくなったのかどうか見分けが付かない。勿論ダイブから帰ってこれなくなったなんて事件は未だ起きていないらしいけど。


「ラフィ助も一緒にゲームするッスよ。それとも両手を合わせて神に無事を祈って待つ方がいいッスか?」


そうは言ってもタマさん達は戦っているのに。


「なぁなぁ、それやるならメガシティはどうだ?折角だ。和解の印に僕が招待しようじゃないか。」


いつの間にお洒落なマイヘッドセットを持ち出して乗り気なモモコさん。メリーさんもやる気満々で、やや困惑気味のロゼさんと目が合ったボクは互いに苦笑いを交わした。


「ラフィさん、プライベートルーム内は安全ですし。気晴らしに少しどうでしょう。」


「じゃあちょっとだけ。」


ここで頑なに断るのもなんだし。メガシティ自体はタマさんとちょっとだけやった事あるから、皆と一緒にやる事を考えると不謹慎ながらもワクワクと心が踊っていた。


ヘッドセットを装着して電源をオンにすれば、サングラスに起動メニューや使用上の注意事項が表示される。そしてダイブを開始したボクはふわりと意識が沈んでいった。


気付けば真っ白な空間を漂っていた。指先の届くところにインストール済みのゲーム一覧が並び、早速モモコさんから届いた招待状が脇のポストを揺らす。そのままメガシティのアプリを開始すれば景色が一変した。


メガシティ。それは万民誰もが飛び込める夢のメタバース。ニホンコクに於いて一番人気の超大規模メタバース空間だ。日々忙しく生産区域で労働に励む労働者達が、揺れる会社経営に疲れた経営者達が、ネットに繋がっていれば未踏地の亜人達までもが眠らないサイバーシティに没頭する。


街中をネオンが賑やかし、空飛ぶ車が無茶苦茶に飛び交い、なんの訓練も無しに開拓者達が使う駆動魔具を乗りこなせる。青い軌跡を残したブレードランナー集団がビルを飛び回って速度を競い合う。空中衝突した車が出鱈目な挙動でビルに突っ込み、ゴムボールのように跳ね返されて明後日の方向へ消えて行く。何処かの広場で突発的に花火を打ち上げる集団が、ビル上のお洒落なバーを狙い撃ちにした。


ここは法律も規則も規制も無い混沌とした電脳世界。国内で最も自由度の高いカオスな街で、今日も人々はリアルの陰鬱を忘れて狂乱に耽る。招待状を手にしたボクはそんな街を見下ろせる場所に立っていた。


ボクの足は地につかず、遥か空の上にいる。聞いた事があった。この世界で最も高価な景色は、常夜の空に浮かぶ幾つかの飛行船から見下ろしたメガシティの全景。ボクは今、この世界の全貌を見下ろしていた。


誰でもこの世界に自分の家を持つことが出来る。そこらの集合住宅街のならせいぜい月に1万、2万円。高級住宅街なら10万から100万円以内。街を見下ろす最高級ホテルの屋上階の賃料なら500万円〜1000万円以内。じゃあ空からの景色は?


一度聞いたけど正に青天井の金額に委細なんて忘れてしまっていた。ゲームにそこまで大金を毎月投げ入れる気持ちもよく分からない。タマさんも家を持ってなかったし。


「わぁ‥‥!」


思わず声を漏らすボクは壁面が全面ガラス張りのホールの端っこに手を突いて口を半開きにしていた。


「ふふん、僕はこう見えて結構メガシティのコアプレイヤーでね。自分でこしらえたお金を大胆に趣味に投げているのさ。」


自慢げなモモコさんが指を鳴らせば薄暗かったホール全体がパッと明るくなり、準備の整ったパーティー会場がボク達の前に現れたのだった。


「おー、こりゃなかなか凄いッスね。こんな所に来たのは初めてッスよ。」


「私は普段こういうのはやらないのでイマイチよく分かりませんが。豪華なのは伝わって来ます。」


二人もボクの隣で辺りを見回していた。因みにゲーム内での姿はキャラクタークリエイトで弄れるものの、皆は現実の肉体をそのまま投影する“すっぴん”状態だった。モモコさんは顔は同じだけど華やかな服を着ていて、ちょっとだけ背が高い。ボクはタマさんと同じくキャラクリにはまだ手をつけていなかった。


キャラクリすると鏡を見た時に違和感あるし、あんまり体型が違うと身動きするのも大変だし、タマさんはボクの姿が変わるのをやたらと嫌がった。


「まぁまぁ、折角だし僕の飛行船からカオスな街を肴にパーっと騒ごうよ。ゲーム内の時間の進みは現実世界よりだいぶ遅いんだ。タマらが帰ってくるまで好き勝手遊び呆けようじゃないか。」


迷わず近くの机からお酒の瓶をグイッと喉へ流し込んだメリーさんが驚いた声を上げた。


「おおっ!随分ハッキリ味がするッスね。メタバース内の飯なんて大雑把に甘いか辛いかしょっぱいかしか無いのに。」


「じゃなきゃ現実の飯に魅力が無くなっちゃうからな。だけど月額課金コースの中に味覚先鋭化パックがあってね。リアル飯と比べたら味気ないけど、余興として口にする分には十分な味わいを楽しめる。」


モモコさんがボクの口に一本のチェロスを差し込む。わあっ!本当だ。ただ甘いだけじゃ無い、本物を口にしたような食感にお菓子パンの味がする!


「そんなに凄いんですか?まぁ、美味しいですけど。」


切り分けられたタンドリーチキンの一切れを咥えるロゼさんは難しい顔をしていた。メタバースに馴染みが無い層としては、むしろ変に現実の味に近い分違和感を感じているのかも。


好奇心に動いたボクの食指がフライドポテトを摘み上げ、メリーさんが空になった瓶を適当に放り投げる。ロゼさんはボクの隣で同じものを興味本位に口にしていた。


「なぁなぁ、ラフィ。的当てなんてどうだい?」


食事に夢中なボクの肩を叩くモモコさんは、銃の形をしたコントローラーを手渡してきた。コントローラーを握れば目前に上から見下ろした街の光景が映し出される。


「そうだな。そこの看板を撃ってみようか。」


促されるままに銃口をふらふらと動かして狙いを定める。動かした銃口と連動して赤い丸の照準が動き、画面の中央の大きな看板へ照準が合わさった。そんなボクの様子を一同は楽しげに眺めている。


『今日も元気はつらつ!壊れるまでターボ全開!ライフブレイクビタミンZ!』


ライトアップされた看板は引き金を引くのと同時に大穴を開けて吹き飛び、ホール内に重厚な発射音が響き渡った。


きゃあっ?!本当に撃ったの?!だだだ、大丈夫ですか?!


「1日経ったらどんだけ破壊されてても元通りさ。落ち着きたまえ。」


吹き飛んだ看板はそのまま何処かの大通りへ回転しながら転がり落ち、何かが爆発する音が遠く聞こえた。


「これが上流階級の余興ッスか。あ、ウチもやりたいッス〜!」


ボクの手から銃型コントローラーを受け取ったメリーさんはノリノリで。嫌な気配を察したロゼさんが顔を顰めるのを気に留めず、眼下の街へやたらめったら超大口径弾を振り撒いた!


破壊される街並みに吹き飛ぶ車達、爆破の音が混乱を巻き起こす。


「あんまりやり過ぎると運営に文句言われるんだが。」


「まぁまぁ、一回やってみたかったんスよね。いやー破壊って楽しいッス。」


同意を求めるように肩を叩かれても困るよ!非難するよう、ジト目で見やったボクはロゼさんと一緒にブーイングを飛ばしたのだった。

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