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55、賽は投げられた。泣き叫ぶ赤子のおしゃぶりも投げられた。宙を舞うおしゃぶりは鴉狩りの合図

「アンタから聞きたい事は取り敢えず、依頼主がどこの誰で何処にいるかね。」


紅茶を啜りながら対面のソファーでどっかりと足組みするタマさんは、優雅さとガサツを兼ね揃えたポーズで質問を投げた。対してモモコさんは背筋もシャンと伸ばし、一目で育ちの良さを感じさせる姿勢で口を開く。


「キミ達に賞金を賭けたのは傭兵旅団レイブンだ。僕も団長のヤガミに声を掛けられて動いた。まぁ正直お金にはなんら困って無かったけどさ。自分で稼いだお金ってのは格別に尊いものでね。」


「つまり遊び半分でアタシらの命を狙ったのね。」


うぐっ、と言葉を詰まらせたモモコさんは慌てて否定する。


「別に!僕だって殺人鬼じゃないさ!今まで戦った連中はちょっと脅して武器を壊せば皆逃げて行ったんだし。まぁ、首だけになっても生きてる連中だから丁重に扱ってた訳じゃないけど。」


そしてコホン、と咳払いを一つ。


「遊び半分って所は否定しないさ。そもそも僕が傭兵やってるのも金持ちの道楽って言われたら否定出来る根拠は無いんだし。ただ‥‥自分の目でこの世界を見て回ったり、冒険したいって気持ちだったんだ。」


その気持ちはボクも同じ。天上人のモモコさんは冒険に惹かれてこの世界にやって来たんだ。同じ想いを持つヒトと会えてちょっと嬉しい。


「レイブンの居場所についてはだな。直接は流石に僕も知らない。まぁ一介の賞金稼ぎに自分の居場所まで漏らす必要は無いからね。但し、僕に策がある。」


そう言うモモコさんは悪い顔で耳元の小さなスマイル機器を弄った。


「同じやり方で炙り出してやろうじゃないか。」





───そこは色街の町外れ、一見寂れたバーに見える店に一人の男が周囲を警戒しつつ入っていった。「cry of a baby 」と書かれた電飾の看板はややずれていて、薄汚れている。軍属を思わせる無駄の無い動きで店内に滑り込んだ男は、ヒトの業に染まった雰囲気にため息を漏らした。


店の奥のカウンター席には複数人の水商売を思わせる女性が並び、煙草の煙と酒気を振り撒いている。その手に持つのは今時”都市”じゃ見かけない古臭い紙煙草。煙除去のマギアーツすら組まれてない原始的な使い捨ての安物だ。この街じゃ見慣れた光景だが、男にとって漂う煙は不快感を煽る物だった。


そんな女性陣のすぐ近くに大きなベビーベットが鎮座し、その中からひっきりなしに鳴き声が聞こえていた。しかし女性達は赤ん坊の様子に無関心で、たわいも無い談話を楽しんでいる。いや、時折ベビーベットを睨む辺り嫌悪の感情が伺えた。


しかし男はそこに倫理観の破綻を感じない。


ベビーベットは複数人の赤ん坊を詰めるにしても余りに大きく、そしてそこからは雑に巻かれたおむつ一枚のあられも無い姿の大人達が泣き声を飛ばしている。


「けっ!うっさいんだよ!アンタらなんか産まなきゃ良かった!黙ってろ!」


急に投げ掛けられた罵声に、泣き声の一部に歓喜の色が混じる。投げ付けられたグラスがベビーベットを汚し、頭から少量の血を流した裸の中年男性がニンマリと笑みを浮かべた。


「隊長も趣味が悪い。次世代型赤ちゃんプレイとかのたまってたけど、どう言う需要だよコレ。」


(隊長〜、緊急の要件で来ましたよ。他の隊員にこんな姿を見せないで下さいね、ったく。)


「おいコラっ。」


睨まれ、男は思わず頭を掻いた。慌てているとつい本音が漏れてしまう。


男が呼び止めたのはおむつすら剥ぎ取った自由な格好で胡座をかく一人の男。傭兵旅団レイブンを束ねるヤガミであった。


「こういうニッチでアングラな場所は隠れんのに都合良いんだよ。で、シロトも泣いてくかい?心が洗われんぞ〜。」


「荒みそうだからパスで。じゃなくて、緊急の要件ですよ。ほら、さっさと着替えて下さい!」


シロトがヤガミの腕を掴むと同時に店のドアが乱暴に蹴り破られた。そして覗き込む銃口に女性達は悲鳴を上げて身を伏せる。しかし同時に投げ付けられたおしゃぶりが銃口の一つの射線をズラし、直後に吹き荒れた砲火からベビーベットを守った。


蹴飛ばされたベビーベットがそのまま入り口を塞ぎ、慌てておむつを着用したヤガミがシロトに引っ張られて裏口へと走る。走りながらも強化外装を呼び出し忙しく着用し起動準備を済ましていく。そして裏口から飛び出す頃にはフルアーマーの姿に変わっていた。


「あーっ!オキニの店だったのに!一体何だってんだ!!」


「ヤバい状況なんですよ!ここ1時間くらいで急変しましてね!急に街中に俺たちの顔がバッチリ映った手配書が出回ったんです!手配元は街を牛耳るマフィア共!どう言う訳か急に目をつけられちまったんです!」


「ああっ?!機巧卿が返り討ちにあったって聞いたのが昨日だろ?!クソ!どうなってんだ?!」


「緊急時の脱出口へ向かいますよ。既に隊員の半数は連絡付きませんが、残った部隊は全員集結する筈です。」


狭い路地裏を逃げる二人の前には、ゾロゾロと有象無象のアングルスで燻っていた無名の賞金稼ぎ達が姿を現す。機巧卿との戦いの結果は既に街中に大体的に公表され、ラフィ達を狙う者は居なかった。そこに新たに提示された破格の褒賞の賞金首達。今度こそはと誰もが飛び付く。


賞金首を獲ればマフィアに顔も売れるチャンスなのだから。この街での良い待遇を狙った才能も実力も未知数な影が次々と襲いかかってくるのだった。





急に湧いて出た破格の賞金首の集団に街は大騒ぎ、誰もが銃を片手にお宝を探しに向かう。そんな騒ぎの様子をプライベートルーム内で、タマさん達と見下ろして眺めていた。


モモコさんと手を結んだ事により、プライベートルーム内での回線にモモコさんの放った小型ドローンの映像を映し出していたのだ。上空から見下ろした街の様子が複数のカメラによって映し出され、スクリーンモードに切り替わった壁一面を賑やかにしている。


「おー、中々便利ねコレ。良いもん持ってるじゃない。」


「光学迷彩対応型、ステルス加工で並のレーダー探知をすり抜ける探査ドローンさ。僕の工場で作った市場に出回っていないモデルでね。趣味の産物だけど性能は父上の折り紙付きなのだよ。」


得意げな顔のモモコさんは、ソファーで隣に座るボクにくっ付いたままふんすと鼻を鳴らす。それにしてもさっき一瞬目を離しただけなのにモモコさんの雰囲気が随分変わって。えっと、ご令嬢だったよね?


「ん?僕は僕さ。今の気分は男の子なんだ。」


おしゃれな赤いチャイナドレスを身に纏うモモコさんは、何となく顔立ちが男の子に変わっていた。すらりと細いけど肩幅とかも少年って風だ。


「雌雄同体細胞って奴かしら?ごく一部の金持ちの変態が男女気分で入れ替えたいからって体細胞置き換えるのよね。サキュバスと同じ細胞で体作るのって怖くない?」


「変態とは失敬な。ジェンダーフリーって呼んでくれ。男だから、女だからって片方の人生しか楽しめないなんてつまらないでしょ?男装も女装も、僕を飾り立てるには片方だけじゃ不足なの。」


そう言うモモコさんは胸元に手を当ててドヤッと鼻を鳴らした。


「ついでに言うとジェンダーフリーは男女のいいとこ取り出来るんだよ?ほら、今体は男の子だけど体臭は女の子。こうやってくっ付いててもラフィは嫌な気しないでしょ?」


くんくん‥‥確かにふんわりと香水の中に女性特有のフェロモンの香りが。


「同性を嫌う理由として結構大きいのが体臭だからね。ふふん、ラフィ好みに好きなだけ肉体改造出来るんだから。」


「でもアンタ性自認男でしょ?」


一瞬言葉に詰まったモモコさんは画面の方を見るよう促し露骨に話題を変えた。


それにしても自前の工場を持っているなんて流石財閥のお嬢様?ご子息?凄すぎて実感が湧かないや。でも、バトロイドを自分で設計して作れるってワクワクするなぁ。いいなぁ。


「‥‥フッ。人間がゴミのようですね。いえ、蟻でしょうか。フフフ、蟻の巣に角砂糖を放ったような騒ぎです。」


またブランさんが悪い顔をしている。ボクに同意を求めるように視線を投げられても困るよ。プイッと目を逸らして無視する事にした。ブランさんは悪いヒトじゃ無いんだけど、ボク以外にはちょっと刺々しい。


タマさんとは時折どつき合う仲なのに、嗜虐趣味的な所とかが妙に気が合うみたいで。ボクには優しいのになんで他のヒトには優しくするのが難しいんだろう。


「しかし本当にブランはスクトゥムロサなのか?言動からはそう思えないのだが。」


「ちょっと訳ありです。ええと、悪人じゃ無いです。言語野の回路がちょっとおかしくなってしまった経緯がありまして。」


「はぁ。しかしスクトゥムロサというには性能がおかしい‥‥いや、いいか。」


ちょっと気になる事を口にされつつも話題を切り上げられてしまった。


「で、このまま放っておくのですか?」


そういうロゼさんにタマさんは首を振る。


「んな訳無いでしょ。こいつらの動きを見ている限りそう簡単にはやられないわね。放っておいたら逃げちゃうんじゃない?だから止めを刺しに行くわ。」


「全員で行くッスか?」


「モモコがどう動くか分かんないからここに監禁しておかないとね。アタシとブランだけで十分だから、後はまぁ、ここで待機って事で。」


「じゃあ皆でゲームでもどうッスか?あっ!勿論FDVR(フルダイブ型VR)ゲームあるッスよね?」


陽気で緊張感の無いメリーさんを呆れ顔で見やるタマさん。本当に二人だけで行くんですか?というボクの視線に後ろ手を振って返した。


「ラフィは疲れたでしょ?直ぐに片付けるから待ってなさい。」


「ラフィ様、どうぞ皆様でゲーム大会をお楽しみ下さいませ。」


ブランさんもそれだけ言うとその場を発ったのだった。

ーcry of a babyー

アングルス色街の中でも異彩を放つ次世代型Baby play風俗店。ただ甘やかされ全肯定されるnormalとは客層が違う。放置型SMクラブとして密かな人気があった。

お嬢達はこの店専属では無く、他店の子がシフト休みに小遣い稼ぎと営業を兼ねてやって来る。安酒数杯が店持ちなお陰でお嬢達のだべり場として機能していた。

気合の入った鳴き声にお嬢がつい反応してしまう事を“ママタイム”と呼び、常連達は時たまのママタイムの為に声を枯らした。


ーFDVRー

ホロウインドウ越しに脳波で直感的な操作をするホロゲームと違い、意識をゲーム内にダイブさせて臨場感に酔うゲームタイプ。

特に、ゲーム内の体感時間操作技術は画期的。ゲーム内では最大平時の2倍の体感時間を得る事が出来る‥‥


娯楽がパンクしたこのご時世、人々の可処分時間は既に限界。新しくゲームを提供した所でそれをやる時間を誰もがロクに捻出出来ない。ならば体感時間を増やして可処分時間を無理やり拡大しよう!という試みは法規制が入るまで重大な社会問題を生んだ。

最大体感時間20倍の狂ったFDVRヘッドセットは、脳に極度の負担を掛け致命的な知性の低下を招いた。現実よりもゲームの世界に居る時間が長くなり、ゲームとリアルの境目が曖昧になった人々は社会のルールを遵守出来なかった。

新作ゲームは飛ぶように売れ、人々は現実を忘れてあまりに長くゲーム世界に引き篭もり、社会は荒む。資本主義が人々の生活の事まで勘定に入れている訳がなく、マネーゲームに忙しいCEO連中が“駆除”されるまでニホンコクを大きく衰退させたという。


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