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53、機巧卿の中のヒトは金を想う。金、とは

───初めて遭遇する事態に僕は焦り、動揺していた。


深未踏地で採れた珍味、ごく少数しか流通しない純自然産のお肉を使ったステーキの数々、何処ぞのブランド品と名高い食材をふんだんに使った料理の数々。


一着で生産区域の労働者の年収に匹敵するドレス、新技術を捏ね回して出来た僕専用のVRゲーム。


贅沢品は嫌いじゃない。だけど、それを享受する立場はあまりに責任が重い。束の間の開放感の為、僕は開拓者業に自由を見出した。


父上はそんな僕に兵器工場一個丸々と、現役で軍用品として出回っている最高級強化外装を与えてくれた。最初は護衛に凄腕の開拓者を付けるなんて言ってたけど、あまりに鬱陶しかったから力ずくで追い払ってやった。


開拓者をやっていたらいつの間に傭兵扱いされ、羅針盤を手放す事に。自由を求めて開拓者業に手を出したものの、思いの外開拓者は制約が多く面倒だった。


無法が好きな訳じゃない。人殺しを楽しみたいクズでも無いし、外道の道を行きたい願望は無い。世間は傭兵を悪、開拓者を正義だなんて持て囃すけど‥‥両方やった感じ大差は無かった。


簡単な試験に受かれば無名の弱者でも組合が後ろ盾になってくれる。傭兵は企業や上流層のお抱えにならない限り後ろ盾は無い。報酬を取りっぱぐれたり、用済みだなんて言われて消されそうになったりするだけ。


正直実力さえあるなら仲介料を払って組合の庇護を受けずとも、傭兵として立ち回った方が実入りがいいと実感した。


そう、社会勉強。天上からスラムのボロ小屋まで体験した僕の知見を広げる旅でもある。将来背負う重荷の為、なんてね。一時の自由が欲しかった。


今日も僕考案の新作バトロイド達の動作実験も兼ね、夢の軍団が荒野を行く。僕の傭兵稼業は順調だった。


だけど‥‥


今まで戦った事の無い完全に連携の取れた開拓者の集団に苦戦を強いられていた。そこらの腕自慢な開拓者程度、この強化外装をまともに傷付ける事すら叶わない。なんていったってこれは軍用品。

かつて古のこの世界に於いてはやれ伝説の剣だの、神話の鎧だの骨董品があらゆる武具の頂点に立っていた。しかしもうそんな時代では無い。伝説が量産され、神話すら取り込んだ新技術の中では軍用品の肩書きこそが頂点の証。


神話すら上回る新技術の暴力が跋扈する戦場で、十二分な活躍が出来ると踏まれて実用化された製品こそが至高なのだ。確かにこれはジエイタイの着用する強化外装の一世代前の物だが、ジエイタイの持つ現役の装備品などどういうルートを辿っても入手出来る筈もなく。天下りした型落ち品のこの鎧こそが常世にて最新の神話を超えた逸品だった。


そんな最高級強化外装に傷が付いた。


確かにこのアーマーの全てを理解して動作させているわけでは無いが。僕は動揺しつつもセーフボックスの中で説明書に目を凝らす。ちゃんと耐久性上昇のマギアーツは正しく動作しているのか?うぐ?!稼働率5割だと?!ええい、どこが不調なのだ!面倒臭くて補充を疎かにしてたのが響いたか!


だって野良の開拓者集団がどうこう出来るシロモノじゃないんだし!適当管理、I.C.S.S任せでも超ベテランの開拓者に匹敵する戦闘力を発揮出来る奴だぞ!こんな田舎の亜人街にくすぐってる奴らに食い下がれる余地があるなんて!


不意打ちとは言え、転移のマギアーツを使いこなす変態の攻撃が変な所に当たったのが悪かった。お陰で行動予測システムに異常をきたしている。それを差し引いても開拓者達の動きは異様だった。


おかしい。あまりに連携が取れすぎている。この感じはアレだ。JAC(同期連携戦術)の動きに近い。本来バトロイド同士の連携に使われるシステムで、これがあれば例えどれだけの混戦状態であっても、同士討ちを起こさず高度な連携を保って戦える。視認せずとも何処で誰が何をやってるか、その結果どうなるかをその場の全員で常時情報を伝え合う集合意識を作り出すシステムというか。


勿論これはバトロイド専用の物で、生体に適用出来たなんて話は聞いた事がない。そりゃそうさ、脳みそは機械じゃない。その場の全員のバラバラの脳波をリンクさせて統率?そんなバカな。


そもそもJACは曲芸サポートシステムじゃない。バトロイドの同士討ち対策であって、コンマミリ秒単位での繊細な連携なんて夢物語だ。この強化外装と格闘戦なんて有り得ない。気色悪いぐらいに、背広組と少年開拓者の動きが同期していた奇跡の賜物だ。


すぐ頭上をラインレーザー纏った帯が激しく動き回っているんだぞ?そんな状態で帯を気にせず飛んで跳ねての格闘なんてまともじゃない。頭部を損傷したら一貫のお終いなのに。


中心に居るのは間違いない、あの少年だ。


白いセーラー服に美しい金髪を垂らした少女のように可憐な雰囲気の美少年。こんな状況じゃ無きゃ思わず見惚れてしまいそうになる紅くも澄んだ瞳。小動物で天使を思わせる可愛い雰囲気とは裏腹に、一帯に少年から放たれた脳波に干渉する類の領域が展開されている事を高度な強化外装の警告システムが教えてくれる。


差し詰め開拓者達の無意識を連携し、集合意識を作り出す力を持っているんだろう。ギフテッド‥‥?そんな言葉が出かかった所でより一層攻撃が激しくなった。


そこから先の記憶は曖昧だ。僕の身を守るセーフボックスは戦術核にすら耐え得るシロモノ。どんな一撃だって抜けはしない事は父上も保証している。だけど強い衝撃を受けひ弱な僕の意識は短時間ながら飛んでしまった。


ふと気が付けばセーフボックスは何処か別の場所へ運ばれたようだった。GPSの指す座標は───うん?タイムアウトするな。ならここは異空間か。開拓者の持ち歩く装備品の中にはかなり高価だが簡易な異空間を生成し、そこをセーフハウスにする物もあった筈。セーフボックスごと僕を攫ったな?しまったな。異空間内からは流石に救難信号を発信出来ない。いざとなれば父上に街を空爆してでも助けて貰おうかと考えていたのに。


自由を満喫していた身でこんな事を今更思うなんて、バカらしいかもしれないが。僕には帰らないといけない場所がある。身代金を要求されるくらいなら、まぁいい。だが正当防衛で僕を撃退するのは兎も角、どうして攫った?無力化した時点で用済みだし、この頑強なセーフボックスをどうにかする設備なんてそうそう無いのに。


民間にまず卸されない軍用強化外装の持ち主って時点で、中身の身分に察しが付くし普通は関わらない。てっきりその場に置き去りか街の外に捨てられるか、悔し紛れに肥溜めにでも沈められるかと思ってた。


連絡が取れれば最短で救援が来るのに何時間だ?アングルスに拠点は無いし、周辺の治外街にも支社が無い。タマシティまで行けば支社が幾つかあるけど、確かまともなPMC関連の組織は無かったな。後は父上が僕の知らない所で、コソコソと緊急出動隊を展開している事を祈るしかないか。


どうするか悩む僕の耳に開拓者達の声が聞こえてきた。声を拾ったセーフボックスが録音しながら、ご丁寧に字幕表示まで付けて知らせてくれる。


「で、これ持ってきたけどどうするッスか?ウチの変形のマギアーツも流石に弾かれるッスよ?」


「アタシが開けるわ。ハッキングは得意なの。ちょっと時間が掛かるけど。」


すると急にハッキング攻撃を警告するウインドウが開き、しかしながら何をやっても何故か攻撃を防げない。いやいや、天下の軍用品のシステムを乗っ取るだなんて有り得ないでしょ?!

わーっ?!どうする?!このままじゃ開いちゃう!ええと、シャットダウン!‥‥したら空調も全部止まって窒息してしまう。


真っ白になりかけた頭でせめて説得の文句を絞り出そうと吟味する。しかしながら僕の頭が整う前に無情にもセーフボックスの蓋が開いてしまった。咄嗟に頭を抱えて伏せて微動だにしない僕に声が掛かる。


「両手を上げて出てきなさい。じゃなきゃビームシュナイダーを放り込むわよ?」


ひゃあああっ?!待ってくれ!今出るからぁ!


もはや涙目でジタバタと立ち上り、跳ねるように顔を出した。


「僕はシブサワ・モモコ!シブサワ財閥の御令嬢だぞ!か、金ならある!いい、幾ら欲しいんだ?!」


僕を囲む先程戦った開拓者達は皆怪訝な顔で睨んでくる。そんな中、天使の美少年だけが驚いた顔をしていた。


「女の子だったんですか?!」


「ま、まぁ。」


女の子と名乗っておけば多少は心象良くなるかな?いや、間違っては無い。半分はそうなんだし。今は女性なのは事実。


そんなやり取りの間に辺りを見回す。どうやら思った以上に豪勢な場所だった。プライベートルーム。僕の父上も持ってたやつだ。そんなシロモノをこんな片田舎の街の開拓者が持ってるとか有り得ないでしょ?!


「シブサワ財閥‥‥現内閣の大臣の一人にその名前があったッスね。」


「まさか。すいません、身分証の提示をお願いします。」


ふと青髪の背広組が僕に呼びかけ、混乱する頭でマイIDを提出する。付属する身分証明データを、生体認証データも。


「本当みたいですよ?下手に傷付けるとかなり面倒な事になります。穏便に解決した方がいいです。」


「ふーん、噂の上級国民って奴ッスか。思ったよりちんちくりんな見た目ッスね。」


そ、そうだ。僕を傷付けたら父上が黙ってないぞ!だから銃を早く下ろせって!


「まぁ今回は僕も襲って悪かったかなと思っている。金はある、どうだ?慰謝料として言い値で払うぞ?」


ちょっと余裕が出た僕は、未だに銃を突きつけたままでいる黒パーカーの獣尾族の亜人にやや嘲笑気味な声色で語りかけた。しかし何故か銃口は僕を見つめたまま動かない。


「知ってるかしら?プライベートルーム内で起きた出来事は外に漏れないのよ。この空間を唯一出入り出来る通信はルーム毎に設定される専用の暗号回線だけ。つまりアンタが何をしようと外へ救難信号を送れない。」


「へっ?いや、何を考えている?」


ぶわりと汗が噴き出すのを感じる。銃口はブレずに真っ直ぐ僕の頭を狙っていた。


「アンタの死体はこっちで面倒見てあげるわ。じゃあね。」


「か、金なら払う!やめて──」


銃声が室内に響いた。心臓がキュッとなって危うく意識が飛びかける。外した?いや、違う。亜人の隣にいた天使のような少年が、袖下から伸びた純白の帯で銃口を絡め取って真下に下げさせていた。


「タマさん!どうしたんですか?!さっきは色々情報を聞き出そうって話で纏っていたのに!」


「ラフィ‥‥ごめん。」


恐怖の込み上げてきた僕はそそくさと守ってくれそうな少年の背に隠れる。そんな様子を睨み付けるタマとかいう奴は殺人鬼の気配を漂わせていた。ラフィという少年の背に隠れて震える僕を、殺気立った視線で暫く睨んでいたタマは頭を振って背を向けた。


「頭冷やしてくる。」


問答無用で殺されそうな山場は超えたのか?いや、背広組もどういう関係か分からないよな?ラフィ!守ってくれ!金なら払うからぁ!


「へっ?!ええと、大丈夫です。でも、タマさんの事心配だから見てきます。」


あっ!ちょっ!行かないで!


ラフィもタマの後を追って走って行ってしまったのだった。


大抵の問題はお金が解決してくれる。金に縋って生きるのは愚かで無いし、寧ろ便利な道具を使いこなせない奴の方が愚かだと思う。


「ご子息をお守りします!」


そんな開拓者を金の力で追い払った。


「機構卿だっけか?アングルスにバトロイドばら撒くんじゃねぇよ。」


現地のマフィアも金に靡いて僕を受け入れた。


「前の開拓者試験の生き残り‥‥?面白い話が回って来たな。」


僕も金を呼び水にこの依頼に乗った。


誰もが金に振り回されて、大なり小なり影響されながら生きていく。人間社会に於いては当たり前な事。金は人間社会を回る血液なんて言うけど、所詮は道具でしか無い事を知った。


僕に向けられた殺意は、電子の世界の数字の羅列に過ぎない金に興味を示さず。ホロウインドウ上でしか存在出来ない巨額を、ヒトの爆発した感情が拒絶した。


飛ぶ銃弾を金は落とさず、床に弾痕を穿った。そこに僕の脳みそが混じって居なかったのは偶然そうなっただけ。


ヒトは金に操られるマリオネットじゃない。頭では知っていても、臨死体験と共に僕は真に理解した。情報のパンクしたこの世界で“知る”事は誰でも出来る。でも、“理解”は難しい。


これも知見を広げる旅の試練なのだろうか。


金、とは。


巨額を操る僕が今更そんな哲学に頭を悩ませる事になるとは。金は人間社会に回る血液か、それとも文明に寄生した姿の無い怪物か、ヒトに便利に使われる道具に過ぎないのか。解釈の違いがいざという時に生死を分ける。


ラフィに置いて行かれた僕は、愛想笑いを背広組の二人に向けたのだった。

ー99式操縦型強化外装・ジュラシックー

モモコの搭乗していた、ジエイタイの精鋭に正式採用された経歴のある由緒正しい軍用品。肩、腕、腰、脚、背中に大経口の光学砲を搭載。また小型ガトリング砲を両腕に備え、必要に応じて収納内から出し入れ出来る。両手足の圧縮光ビームクローは大概の強化外装を容易く灼き絶ち、それでいて全身を極まった防御性能の外殻で覆っている。

これに搭乗していれば、田舎のタマシティ周辺で気ままな傭兵稼業をやろうが何の問題もない。モモコ一人でブラブラしてようが、この強化外装を襲える奴など居る筈がない。文字通りチートの権化を攫おうなんて企てる企業もマフィアも居なかった。しかし1着100億を超す金額が掛かる超高級品は、まさかの田舎街の乱闘にて破壊されてしまった。


国家安全保障の点から通常こういう品は市場に出回らず、購入には厳正な審査を受ける必要がある。シブサワグループのモモコは、それを扱うに足るだけの格を認められた人物だった。

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