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51、変幻自在が相対すは光学纏う最新鋭の狂乱怒涛

「どうしてこうも何時も上手くいかねぇんだ、クソッ。」


夕暮れに染まったアングルスの街に乱雑な銃声と不運な男の悲鳴が響いた。


いち早く倉庫街を走り抜けたチャガマは己の不運に嘆きながら6腕の銃を忙しく発砲していた。一発、機械野郎の頭を飛ばす。二発、こちらを向いた蜘蛛の機銃をぶっ飛ばす。三、四発が正面から押さえ込もうと迫るバトロイドを吹き飛ばす。五、六発が背後から迫った紫光を放つ爪の甲を弾き飛ばして難を逃れた。


チャガマの合計6つある腕はそれぞれ小さな脳が備わっている。タコの足と同じ理屈で、それぞれ独立して動かすには必要な構造だった。お陰で各腕が状況に対応した動きで臨機応変に立ち回る事ができ、チャガマ一人で何人分もの兵隊の火力を容易に叩き出す事が出来た。


そんなチャガマが必死の形相で逃げ回る直ぐ後ろには、全身から紫光を放つ重量級のアーマーが迫っていた。


機巧卿。


たまたま逃げた先で鉢合わせた噂以上の怪物。光学機構を備えた両手から突き出した、紫光の大きな獣爪が薙がれては大気を灼く。直前で腕を二発の大口径弾が弾いていたお陰で、危うくチャガマの首が落ちずに済んだ。


枯れ噴水の広場から逃げ出そうにも、通りから屋根の上までバトロイドが封鎖し簡単には逃げられない。チャガマは防戦一方ながらも、周辺の地理に詳しい頭をフル回転させて逃走経路の吟味を続けていた。


感覚的に爪の薙がれる周期が一瞬遅れた事を察知したチャガマは、考えるより先に身を投げ出して土煙と共に地面を転がって行く。紫光の熱線が大気を灼き、石畳の地面を斬り裂いた事を横目に認識しつつも動揺を押さえ込もうと必死になった。


(やっぱ飛び道具もあるよな!今のは照射型のレーザーか?!拡散タイプだったら死んでたぜ!幸運に感謝だ、クソッ!このまま直線上を走ってたら次撃たれた時に躱せるか分からねぇ。ならばっ!)


一発の弾丸が真隣の民家の窓を破壊し、そのまま飛び込む。チャガマの一瞬前にいた場所の大気は灼けていた。


埃まみれの廃屋内のリビングを駆け回り2階への階段を探していると、薄暗い室内が破壊音と共に急に明るくなった。爬虫類を思わせるデザインの機巧卿の大きな尾が、横一文字に壁を打ち壊したのだ。チャガマは見たくも無い悪夢のような光景から目を逸らしつつ階段を駆け、そのすぐ後ろを木屑を巻き上げる銃撃が追いかけた。


駆け込んだ民家が崩壊するのに1分も掛からず、2階の窓を蹴破ってそのまま2軒目へエントリー。機巧卿の巨体もその図体から予想のつかない身軽さで、拳一個分の距離を追い立てた。


「あああっ!クソッ!クソッ!てか無言で襲うの止めろ!何か言いやがれデカブツ!」


2軒目の倒壊と共に外へ投げ出され、地面を転がるチャガマを暗い影が覆った。見上げた先で機巧卿の巨体が押し潰そうと飛び上がっていた。


(やべぇ!殺られる!!)


機巧卿の巨体が地面を砕き、しかしそこにチャガマの姿は無かった。あるのは紙吹雪だけ。そして‥‥


突然足元に現れた巨大な瓦礫が機巧卿の体を吹き飛ばした。


「済まねぇ、ボス。」


「あっはっはっ!なに、問題ないよ。面白そうな事をしてるねぇ。僕も混ぜてよ。」


「面白くねぇよ!」


紙吹雪と共に現れるはL.C(ロストコンパス)のボス、青のフルフェイスヘルメットなピクルス。今日も小洒落た黄色いスーツの上から羽織った、末端が蛸足の様に枝分かれした赤のコートをご機嫌に翻す。


「僕の街であんまり暴れられると示しがね?だから、ほらぁ。」


片手に携えたステッキをくるくると回し、機巧卿に向けた途端に巨体が突然爆発した。それも内側から爆ぜるように爆炎を上げ、不意の一撃が効いたのかその場で思わず膝を突く。


ピクルスの機嫌はより一層輝き、直ぐに立ち上がった機巧卿に賞賛の拍手を送った。


「ブラボー!あっはっはっは!どいつもこいつも今ので終わっちゃうから、っと?!」


一瞬で数mの距離を急加速して詰めた機巧卿の爪が紙吹雪を掴む。ピクルスの姿はいつの間に近場の屋根に移ろい、その場にいたバトロイドをチャガマの銃撃が制圧していた。


ここに来て明確に機巧卿はピクルスを敵と見定めたのか、チャガマとの戦いとは明らかに違う動きで屋根の上に向けて腕をその場で薙ぐ。その腕に内蔵された銃口が砲火を上げ、屋根の上をバトロイドごと一掃する。舞い散る紙吹雪が巨体の背後を取ろうと動けば、振り向きすらせずに背面に向けて掌から撃ち出された光線が大きく牽制した。


動きに無駄が無い。言わば先程までの戦いが慣らし運転、今のスタイルが本領と言ったところか。


ピクルスがこそっと懐から小型爆弾を取り出す。爆弾は転移のマギアーツによって短距離を瞬時に移動し、再び機巧卿の体内へ‥‥その巨体が軽く身を捻って突然現れた爆弾の座標から逃れた。体外で爆発するも、巨大な掌で握り潰されカス当たり程のダメージも出さなかった。


ピクルスの機嫌は更に一層輝き、両手の指の間に挟み込んだ幾つもの爆弾を震わせて歓喜に打ち震えた。


ああ、楽しい。久々の強敵だ。一体どれほど高性能な戦闘総合支援システム(I.C.S.S)を搭載しているのだろうか。転移先の座標を一瞬で読み取るなど並大抵の代物では無い。それこそ軍用の───


機巧卿の肩に積載された光線砲がグリンと旋回し、狙った先に気付いたピクルスは一瞬早く転移する。二度の転移が終わったピクルスは下半身が焼失したチャガマを肩に担いでいた。


(一瞬遅かった。まぁ、僕でもそうするしね。ここでコレクションを失うのは惜しい、か。)


即座に撤退を決めたピクルスは明るい声で笑う。


「あはは、丁度お客さんが来たみたいだからお暇させて頂くよ。Bye☆」


紙吹雪を残してその姿は消え、入れ替わりに屋根の上から見下ろす3人の開拓者が姿を現した。


「ラフィくんが来るまで足止めしなきゃだね〜。」


「ランク25のお姉さんの実力、見せてあげる。」


白美な耳と尻尾持つ姉妹の開拓者、シロとハクはバリア装甲スカートを起動する。腰回りを半透明なスカートが覆い、ラインレーザーが縁取った。

攻防一体なレーザーシールドと同期したこの強化外装は、本来ランク不相応な都市圏で稼ぐ熟練開拓者の装備。この街で金回りのいい仕事を続けた甲斐とおねだり上手さもあって入手した。今となっては使い熟した、稼業の要とも言える装備だった。


「タマからの要請だ。簡単な足止め、合流したら周囲の雑魚狩りの任務だ。リハビリついでにこなすぞ。」


艶のある黒髪垂らした褐色肌の魅惑のラビットマン。クニークルスは豊満な双丘を覗かせる無防備なワイシャツ型の強化外装を着こなしている。片目を覆う眼帯型のレーダーを脳波で弄り、先程覗き見して得た機巧卿の戦闘データを解析。その情報を皆に共有しつつI.C.S.Sに反映させていた。


(こんな所で軍用強化外装と(まみ)えるとはね。おー、凄い。アダマンタイト合金製の鎧だ。並の衝撃じゃあ傷一つ付かないな。)


バリア装甲メインでは無く、強化外装そのものの防御性能で立ち回るタイプ。小手先の技術を、装備性能の差で踏み潰す。煌めく文明が生み出した極めて質の良い装備は、達人の技を否定する。


所詮は装備頼りの素人‥‥なんて笑ってられるのは剣と魔法の時代まで。銃とマギアーツが支配するこの時代に於いて、装備性能の差を技量で埋めるのにも限界があった。


(ま、ダメージを与えるアテがあるから受けたんだがね。外殻は砕けなくても内部にはダメージが蓄積する。無敵じゃない。)


その場から無駄に動かず、肩の光線砲を向ける機巧卿に一同は散開する。


いの一番に飛び込んだのはクニークルスだった。ラビットマン特有の瞬発力を活かした急接近。宙をラビットマン専用の駆動魔具で蹴り込み、光線とすれ違ってそのまま機巧卿の爪の直ぐ下を通り過ぎる。瞬間的な加速に行動予測を外した機巧卿の爪は宙を灼き、残像の通った軌道上に残されたワイヤーウィップがうねって絡みつく。


ただ拘束しただけではパワーで遥かに勝る機巧卿を止める事はできない。しかし、ワイヤーウィップの中には衝撃保護のマギアーツで守られた高濃縮ニトログリセリンが流れている。


「まずはこいつでもどうだい?!」


吹き飛んだ大気が一瞬場の時を止めた。土砂と瓦礫が舞い上がり、大気を裂く衝撃波が広場を揺らした。

錐揉み回転で吹き飛んだ機巧卿の巨体は、廃屋を破壊して転がっていく。使い捨てにするには惜しい価格のニトロウィップを躊躇なく炸裂させた甲斐もあってか、先手の一撃で大ダメージを与える事に成功していた。


だがしかし。


相変わらず紫光を纏うその巨体は一部分も欠けずに現存。どこか怒気を感じさせられるような気配を振り撒いて崩れた廃屋から歩み出てきたのだった。

ー6腕のチャガマー

チャガマは銃の蒐集家だった。

ミレニアムオリジナルデザイン‥買いだ。ムラマサ工房の新モデル‥買いだ。雅製の超高級マグナム‥高えが買いだ。

買った以上使いたいのが人情。ならば腕を増やせば良い。かくしてお気に入りの6丁を同時に使い熟せるようになったチャガマはホクホク顔だった。

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