520、街をひっくり返す強盗計画の影で暗躍するフィクサー
「ではでは早速!NPC共を蹴散らして地上へ逃げ出しましょう!」
ゴッテスランクを積んだ台車が通れる場所は少ない。台車が浮遊するドローンだったらと思うけど、そこは運営の拘りなのか車輪付きの物しか実装されていなかった。
逃走ルートは幾つかあるけど、今回は美術館の地下駐車場から突破するルートを選ぶ。駐車場に協力者が迎えに来るから、それに台車ごと飛び乗って逃げ出すんだ!
台車の上でセクシーなタマさんがぐらぐら、アサルトライフルを撃ち放つタマさんの後ろで自己主張激しい。ボクもフルーオートライフルで飛び回って戦うものの、セクシーなタマさんが気になっちゃう。
警備隊がわんさか現れた所に、投げ込んだグレネードが炸裂!今更NPCなんかに負けないよ!並び立つ頭を纏めてヘッドショット!タマさんの弾幕に遮蔽へ隠れようとして、フィクサーさんが投げ込んだグレネードがまたもや炸裂!
「にゃはは、このクソ目立つタマ像抱えて逃げるなんて思いもしませんでした!悪魔の予見を超えたのです、誇って良いですよ?」
「こんの‥‥!後ではっ倒してやるわよ!」
「ええと!可愛くて良いと思います!」
「可愛いんじゃなくてエロいって言うのよ!」
タマさんがインベントリから取り出した大きな布が、ヒラリと像に被さって頼りなさげに覆い隠した。台車が揺れる度にチラチラ‥‥主に突き出した胸元が見えてる。像は水着姿だから丸見えじゃないけど、それでも結構目立つ。
警備隊の投げたグレネードを蹴っ飛ばして、ミスリルシールドで爆風を防ぐ。宝物庫から地下駐車場まで行くには、一度地上階へ上がらないといけない。流石に宝物庫から駐車場まで直通!なんて変な構造はしていないから。
勿論エレベーターなんか使えない分、何とかして台車で非常階段を上がらないと。そこで要求されるのはインプラントと装備で底上げした筋力!タマさんとフィクサーさんで台車ごと持ち上げて、強引に階段を駆け上がって行く!
ボクが先頭に立って警備隊を蹴散らして進むんだ!
銃口が向いた先はピタリ、全部ヘッドショット。NPCだからドンドン倒されても臆して逃げる事も無く、次々ボクの目の前へ現れて倒されては転がった。敵を倒した時に鳴る、ピロリン♪ってSEが心地良い。倒せたか即座に分かるし、この音を聞きたいから戦うんだ!ってぐらい。
やっぱりシューティングはこうでなくちゃね!地上階へ上がったタイミングで、タマさんとフィクサーさんは、インベントリからスナミナを回復するブースターを用意。シュコーッ!て風に鼻から吸引して空の容器を投げ捨てた。
セクシータマさんの布を片手で直しながらも、地下駐車場へ続くルートを一直線!行手を塞ぐ防犯シャッターをクイックハックで解錠、フィクサーさんが抜き撃ったサブマシンガンで消化器を爆砕して追手を煙に巻く。ボクも火炎瓶をポイポイ投げて足止めに徹した。
そして今度は地下街へ続く下り階段!距離の離れた非常階段を使わずに、一般客向けのルートを使う。両方の壁に絵画が飾られた、幅の広い大きな下り階段。
「ほら、持ち上げるわよ!」
「はいはい!」
2人が台車を持ち上げようとしたその時、後ろから飛んで来た狙撃が台車にクリーンヒット?!台車が前へ吹き飛んで、セクシータマさんが宙を舞う!布が外れてその姿が顕になってしまう!
「ヤバっ?!」
「ボクが!」
咄嗟に台車の上へ飛び乗って、セクシータマさんが倒れちゃわないようガバッとしがみ付く。わっ?!見た目彫刻なのになんだか柔らかくてあったかい?!ええっ?!
一般客向けの階段は凝った作りで、ただ真っ直ぐに地下まで続いている訳じゃない。ぐるり、大きく螺旋を描くようカーブしていてとっても長いんだ。
セクシータマさんと一緒に台車に乗ったボクは、わちゃわちゃしながら階段を疾走!
「きゃーっ?!」
ガタンガタン揺れる!セクシータマさんが倒れそうになってグイグイと抱き起こす!胸が‥‥お胸が揺れるぅ!何で柔らかいの?!ううっ、彫刻なのにすっごい恥ずかしいよ!!
お胸がボクのほっぺを引っ叩き、バランスを取るのが難しい。でも倒れたら破損状態になってレアリティがワンランク下がっちゃう!折角のゴッテス!ゴッテスであるからこその最高級!ここで台無しに出来ない!
台車が危険な角度に傾いて、咄嗟に台車から突き出した片足のブレードランナーを駆動させる。片足を壁に突き立て、バレリーナみたいなポーズでセクシータマさんの腰を抱いて駆け降りる!
って?!階段の途中に地雷が仕掛けられてる?!こんなの聞いてないよ!
セクシータマさんに抱き付いて重心の位置を出来るだけ低く保つ。この台車はバリア装甲も張れるレジェンダリー、地雷1発ぐらいなら耐久力で耐えれる筈!
階段が爆発!台車ごとセクシータマさんが吹っ飛んで空を舞う。大きな胸とお尻がぷるんぷるん触れて、誘惑するような表情が天地逆さまに。しがみついたままのボクはブレードランナーを駆動、その衝撃で台車を更に大きく半回転。遂に階下へ台車ごと着地した。無事セクシータマさんに傷が付くこともなく、柔らかいお陰で多少の衝撃には強そうだった。
「ラフィ!!」
「ご無事ですか?!」
「大丈夫です!!早く逃げましょう!」
フィクサーさんが布すらなく丸出しなセクシータマさんを押して行って、ボク達は余裕無く地下駐車場へ。10体ぐらいの警備隊を蹴散らしながら飛び出した。目前で停まった大型トラックの運転手は‥‥
「あはははははっ?!何よそれ?!」
「笑わせんなよ!!ひっひっ‥‥!!」
アリスさんとチズルさんの声が聞こえた。ゲーム好きなアリスさんは、この面白そうな計画を聞いて直ぐに乗ってくれた。助手席のチズルさんがアサルトライフル片手に早く乗るよう急かした。
トラックの荷台を開けて台車ごと駆け込む!直ぐにトラックが発進していった。
これで一安心‥‥!フィクサーさんがゲーム内SNSの様子を見せてくれる。
「只今アリスさんの手の者50人が、逃走ルート上のプレイヤーを蹴散らすよう車とタクポで大暴れしていますね。このトラックは防弾性に特化させたカスタム品、流れ弾程度ではビクともしません。」
ロケットバーゲンの屋上階で見つかったジップワイヤーが、美術館強盗を勘付かせる。となれば考える事は一つ、美術品を運び出したプレイヤーを襲って奪ってしまおう!
結局それが一番楽で、同じ事を考えたプレイヤー同士でも銃を向け合って街中大パニックに。荒らし回って楽しむ愉快犯も大量発生、バスポ貸し切りでゲーム内披露宴を行っていたらしいアカウントが燃え盛るバスポ内の様子を上げていた。わぁ、フォーマルなヒト達の丸焼きが散らばって酷い状態。巨大なウェディングケーキに新郎が刺さってしまっていた。
『やっぱりメガシティはこうじゃなくちゃ!!』
良い笑顔の新婦さんがメッセージと共にサブマシンガンを片手に自撮りを上げていた。楽しそうでなにより‥‥です。
勿論全部、
「まぁワタシの想定内ですよ。悪魔の計画に穴なんてありません。」
フィクサーさんは自信満々、さっきの階段でのビックリした顔のスクショをタマさんが見せる。悪魔の仰天顔は目玉が飛び出そうな、躍動感溢れる良い一枚。ヘラヘラ笑うタマさんと、スクショから目を逸らすフィクサーさん。ボクも面白おかしくて笑顔を向け合った。
ドカンッ?!
急にトラックが跳ね上がって、セクシータマさんを抱き支えたまま揺らされる。
「オイオイ!向こうもトラックで突っ込んで来るぞ!!」
チズルさんの悲鳴、アリスさんの叫び声。トラックの荷台の一部が裂けて、外を囲うプレイヤー達の姿が見えた。沢山車が停まっていて、皆が銃を構えて悪い顔。
「トラックは動けますか?!」
「時間掛かるわ!今チズルが直してるけど!」
ゲームだから直すのに専門知識は要らないし、専用のツールを用意するだけ。でも破損度合いによって修理が終わるまでの時間が伸びていく。インプラントでこの辺りも強化出来るけど、このままじゃ間に合わなそう!
戦う?でも完全に囲まれていて、大通りのど真ん中で立ち往生。
「あちゃー、これは終わったかしらね。」
「フィクサーさん!」
けれど、フィクサーさんは落ち着いていた。
「ほら、天から援軍がやって来ますよ。」
指した先を思わず見上げる。夜空の上に煌びやかな飛行船が浮いていた。
このゲーム世界に於いて最高級の夜景は何処で見れる?それはあの気球の上。メガコーポの上層部レベルじゃなきゃ払えないような“課金”を要求されるコンテンツ。このゲームのプレイヤーの拠点は、最低ランク以外のものは全部課金コンテンツ。ボク達のマンションも、月々結構良いお値段をゲームに支払って借りているんだから。
良い場所に住みたきゃゲーム内でも家賃を払え。
毎月2000円ぐらいでも簡単なマンションのワンルームを借りれるけどね。
そしてボク達は一度、あの飛行船に行った事があった。そう、モモコさんに誘われて。アングルスでタマ生命の雇ったレイブン傭兵旅団と戦った時。
あの時パーティーの最中、モモコさんは下界に向けてシューティングゲームが出来るって話を持ち掛けてボクも撃たせて貰った事がある。飛行船から発射された超大型弾頭が今‥‥!!
トラックを囲う何十台もの車を爆破した!!
「なんだぁ?!」
「うわぁ!!」
「上級国民が撃って来たぞ?!」
「クソクソクソ!!!」
「逃げろ!」
「無茶苦茶だぁ!!」
あの飛行船はモモコさんの物。助けてくれるの?
『スポンサーに裏切られました。』
あんな事を言ったのに。
ゲームの中なのに目頭が熱くなった感じがして、
「おっしゃ!修理終わったぞ!協力者に上級国民が居て良かったな!」
動き出したトラックの裂けた荷台の隙間から、空から援護射撃してくれるモモコさんを見つめていた。
「フィクサー、モモコにも声を掛けていたの?」
「にゃは、快諾してくれましたよ。まぁ、仲直りは早い方が良いですから。」
フィクサーさんは楽しげな鼻歌を歌って飛行船を見上げていた。
『スポンサーに裏切られました。』
インタビューでラフィの言った一言は、シブサワグループ全体を大きく揺らした。ラフィの故郷を守るどころか、内部の裏切りが原因で故郷で核を爆発させてしまったのだ。
粛清は即座に動き出し、迅速に集まった証拠の数々がその行動に確たる根拠を与えた。テツゾウはマサルへの弁明に奔走し、モモコも動揺する社内をあの手この手で説得して統制していた。
ただ‥‥ラフィを非難する声は思いの外社内では上がらず、早くよりを戻すよう願う声が多かった。モモコは思い出す、ラフィはグループ内でも相当愛されていたのだ。
世間は企業の人間を、金を血液代わりに動く冷徹なサイボークかなんかにように思っている。実際は企業の上層部だろうが、ヒトであった。
愛らしい少年がグループ内の各企業へ顔を出し、必要があれば見返りも求めずに癒しを撒いていった。笑顔が可愛く、素直で孫のように可愛がる者も多い。裏切ったのは元々ギャングとつるむような一部のクズ。サンライズを即座にグループから追い出すよう、内部で声が上がって行く。
ラフィにあんな顔をさせるとは何事だ。これはシブサワグループの本意では無い!ラフィから受けた大恩は、如何なる状況になろうと我々をスポンサーで居させるに足るものだ。
普通企業がスポンサーとして契約を結んだ開拓者や傭兵を揉めたらそれまで。金を出すスポンサーの方が立場は上だし、開拓者は頭が上がらない。
しかしラフィとシブサワグループに限っては逆の立場だった。少なくともシブサワグループはそう認識している。支えるどころか、グループを躍進させる起爆剤を幾つも貰ってしまった。
モモコも気持ちは同じ。なんとか仲直り出来ないか、連絡すらブランに拒否される現状を嘆いていた。
数日後、何度も頭を下げて粘り強く交渉したお陰か向こうの態度が軟化する。ラフィと直接会えなくても、ブカブカな白タキシードの悪魔が姿を現した。
「にゃはは、ご機嫌よう。おや、随分やつれましたね。」
「ははは‥‥ご飯が喉を通らなくてね。言い訳はしない。サンライズにタマシティを任せる事を決めたのはシブサワの意思だ。出来る全ての責任を取るよ。」
「まぁ、シブサワがタマシティを放棄したら完全にあの地は廃墟になってしまいますので。運営委員会は結局シブサワのままでしょうが。ラフィさまが願う事と言ったらタマシティの復興以外ありません。別に巨額の賠償なんて求めませんし、裁判を起こしたりもしませんよ。」
法の裁きはサンライズの関係者に止まり、シブサワグループ全体に責任の追及は及ばない。シブサワの本意でない事はテツゾウがマサルに証明した上、シブサワが崩壊するとなると流石に国家の運営に著しい影響が出る。
それに、シブサワを厳しく罰すればラフィが責任を感じてしまう可能性が高かった。
『スポンサーに裏切られました。』
あんな事を言ったからと。幸い設備的な被害が中心で、一般人に被害は無い。事前の避難誘導のお陰で、爆発で死傷したのは逃げ遅れたギャングだけ。よってサンライズの上層部に全責任を負わせる事が決定していた。
テロに対する公式な裁判は後日行われるが、事前に落とし所は決められていた。
「さて。仲直りしたいんですよね?」
「ああ。仲介してくれるかい?」
「一つ、チャンスを差し上げましょう。子供同士の喧嘩は遊びの中で解決するのが一番です。面を向かってただ謝るだけじゃ謝意って伝わりづらいんですよねぇ。」
「謝意を伝える前に先ずは行動で示して下さい。さすればラフィさまも貴方の気持ちを素直に受け取れるでしょう。」
フィクサーは影で動いていた。仲直りの為の大掛かりな強盗計画。畏まった儀礼的な謝罪の前に、先ずは一緒に遊んで同じ成功体験を共有しよう。仲間意識が刺激されれば案外すんなり事が運ぶ。
子供の喧嘩の仲裁程度、フィクサーはお手のものだった。




