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46、カメラの端に捉えた致命的シャッターチャンス

真正面からの対人戦は何とか勝利する事が出来た。重く頑丈なイルシオンを難なく弾く、大口径の一撃を自在に操るチャガマさんは流石マフィアの幹部って感じで凄い強かった。腕が6本もあったのは驚いたけど、それ以上に反射神経が鋭い。後ろから奇襲したブランさんが危うく眉間を撃ち抜かれそうになった時は冷や汗が流れた。


街中だったから流石にフェンリルを抜くわけにはいかないし、銃撃も最小限にしたかった。チャガマさんは遠慮なく撃ってたけど、すぐ近くに大通りがあるんだから。


直ぐ後ろに追従するポチに気付いたボクは、慌ててスプラッタと化したチャガマさんをイルシオンで隠してカメラに愛想笑いを向ける。


ーなんかすごかった ーマフィアざまぁ ーマジで強くて草 ー←草とか古語かよ ー←古語が復権してんの知らんのかジジイ ーほっぺに血が付いてるラフィきゅん、尊い ーワイもバラバラにして! ーてかあれ死んだだろ


コメント欄も阿鼻叫喚だよ!わわわ‥!慌てて頬を拭っていると、ボクの肩をタマさんが叩いた。


「やるじゃない。アタシが来る前に倒しちゃうなんてさ。」


来てくれたんだ!カメラの外からジト目で見やるブランさんを無視して、タマさんはポチの前でボクに尻尾を絡めてピースを送る。


ーぎゃあああ ー何よこの女! ーはっ??? ーそいつもバラバラにしちゃって! ーおねショタ案件ですか?


あああっ!コメント欄がまたひどい事に!もう、タマさん。変な事はしないで下さい!


ぷんすかと抗議するボクの服の下に尻尾が入り込み、きゃあっ!?と驚く間も無くほっぺ同士をぺたってされちゃう。真っ赤になって固まるボクに構わずタマさんはカメラにあっかんべーをした。


「じゃ、取り敢えずバラバラになったそいつくっ付けるわよ。そこでさ。尋問も兼ねて・・・」


悪どい顔のタマさんが提案した案は世界をドン引きさせたのだった。


場所を色街の何処かの宿の地下室に移し、暫くして五体満足でチャガマさんが目を覚ました。


ボク達に囲まれ、裸になって転がっている。そんな様子を後ろから、カメラを止めたリコリコさんがコソコソと眺めていた。


「クソッ!どうしてこうも上手くいかねぇんだ・・・って!うおっ?!」


咄嗟に起き上がってバランスを崩したチャガマさんは頭を地面にぶつけてしまう。タマさんが向けた自撮りモードのホロウインドウには、上半身が逆向きに取り付けられた歪な姿が映し出されていた。


「なんじゃこりゃあ?!」


「うちのアコライトは凄腕なのよ。どう?気付かなかったでしょ。」


さも楽しげなタマさん、嘲笑顔で見下ろすブランさん、ペコペコと無言で頭を下げるボク。だって、そうしないと口を割らせる為に拷問するって。これなら痛みは無いから。終わったら直ぐ元に戻すし。


「で?ワケを聞こうじゃない。マフィア同士のいざこざならいざ知らず、カタギを巻き込むなら色街が黙って無いわよ。」


前にお話を聞いたけど、別にタマさんは正義感でこの問題に首を突っ込むつもりは無いみたい。ただ、独立を守っている色街は意外と好戦的な面もあるらしい。カタギの保護を名目にこうやって過去にもマフィアに喧嘩を売って、縄張りを分捕ったりした事があるのだとか。独立を保っているのではく、第三勢力として力を付ける必要があるって言ってた。


「言っとくがマジで話をして色々確認を取るだけだったんだぞ?俺だって快楽殺人者じゃねぇ。意味なくカタギ殺しまくれる程L.Cは落ちぶれてねぇよ。」


「だからワケを話なさいよ。」


徐にタマさんが片足分起動したブレードランナーを壁に突き立てる。青い光熱がチャガマさんの耳を側からジリジリと焼き、いつの間に取り出したビームシュナイダーを指先で怪しく揺らした。


「早く言わないと根性焼きするわよ。」


「ああっ!クソッ!分かったから止めてくれ!」


悲鳴混じりのチャガマさんの声にちょっと満足げなタマさんは目を薄ら光らせる。ブランさんの影に身を隠してコソコソするボクと目が合うと、ちょっとバツが悪そうに顔を尻尾で撫で上げてきた。


「リコリコが先週上げた動画だ!映ってたんだよ、アゴーニの幹部っぽい奴とタマシティの企業の奴らが取引する現場がな!だけど顔が見えねーから、お前のクラウド上に残ってるはずの編集前の動画映像に用があったんだ。」


「ええっ?!嘘でしょ?!」


確かにスマイルとかで撮られた動画や写真のデータは、自動でクラウド上にアップロードされて違法性の無いものか審査を受ける。一応名目上はバックアップの保管システムって事になってるけど、知る限りの全ての撮影機器にこの機能は搭載されていた。


確かにリコリコさんのクラウドには加工前の動画が残っているはず。でもそれにアクセス出来るのは本人か行政のみだから、リコリコさんに話を付ける必要があったのだ。


知らず知らずの内にマフィアの抗争の火種を抱え込んでしまったリコリコさんは、慌ててクラウドから動画ファイルをダウンロードする。そしてボク達の前で映像を再生し始めたのだった。


『ハロ〜!みんなのアイドルリコリコちゃんだよ〜!今日はぁ、アングルスの街の廃墟探検したいと思いまーす!こんな街にももう使われてないボロ屋とか案外あるんだよね!あはは、お化けが出るかも!』


ポチの目線で揺れるカメラに映されたのはアゴーニが管理する倉庫街の一角。人通りは無く、赤茶色に錆びたボロ屋がズラリと並んでいる。雑談を交えながら移動するリコリコさんの背後。たまたま映った遠くの倉庫の屋上に数人の人影が確かに映り込んでいた。リコリコさんが近づけば足元から徐々に全身像がカメラに収まっていく。動画だと全身が映る前に別のシーンに切り替わってしまっていたらしい。しかし元の動画にはしっかりと全身が映り込んでいた。


身なりのいいスーツ姿は丸々としていて、気品のある短い金髪はくるりと内側に巻いている。そんな特徴的な髪型をした男と対面するのは硬質な強化外装に身を包んだ一団だった。あからさまに戦闘用って分かる強化外装はフルフェイスで顔まで映っていない。だけどかなりいい装備をしている感じだった。


「ヤブシキの野郎・・・!それにあの強化外装は確かあの傭兵旅団、あーと、レイブンだったか?」


「そうね。レイブンはタマ生命と専属契約を結んでた筈よ。ふーん、つまりもうこの街にあいつらはいるって事ね。アタシらを追ってたのか、別件か。」


追手が来てたの?!どどど、どうしよう!散々目立っちゃった後じゃん!


「ラフィ様、落ち着いて下さいませ。もしラフィ様が目当てならチャガマとの戦闘中に横槍を入れてきたかと。タマもいませんし、絶好の機会だったでしょう。」


そうなんだ。じゃあ安心かな?


「でも配信で随分タマ生命を挑発したんだし、そう遠くない内にちょっかい掛けられるでしょうね。」


あう。タマ生命とは戦うって決めたんだしどの道避けては通れない道。いつ襲撃を受けても良いように気を張らないと。


「で、アンタはどうすんの?」


タマさんの見下ろした先でチャガマさんはふんがふんがと鼻を鳴らす。


「決まってんだろ!ヤブシキぶっ殺してシマを奪ってやる!この街にタマシティの企業を引き入れた罪は重いぜ!よりにもよってタマ生命かよ!クソッ!」


「じゃあさ。アタシを雇わない?特別に胡蝶之夢の暴れ姫が手を貸してもいいわよ?アタシもタマ生命と繋がりのあるヤブシキに用があるのよ。」


首を横に振るチャガマさんの目前を紅光がくるりと通り過ぎる。タマさんが足で蹴り上げたビームシュナイダーが宙で起動し、チャガマさんの鼻先を僅かに焼いたのだ。


「シマはアンタので良いから、雇わない?てか雇わないと胴体反対向きのままよ?」


「・・・ああ、クソ。本当にがめつい悪党が。」


「あははは、お金は幾ら有っても困んないからねー。」


ヘラヘラするタマさんに内心ちょっと引いたボクはブランさんの影からジトっと見やる。するとまたタマさんの尻尾が顔を撫でてきて、そのままきゅうっと腕に巻き付いて引っ張り出された。


「ラフィ、治してあげなさい。」


「そうですね。ええと。」


袖下から覗いたイルシオンがふわりと光を纏う。


「お、おい。何してんだ?」


「治す為には一度切断し直さないといけないんです。綺麗に斬りますから!」


ぺこりと頭を下げるボクに放心した顔で天を仰ぐチャガマさん。ボクもタマさんの事を言えないのかもしれない。でも手術台を使うよりイルシオン方が早いしコストが掛からないんだよね。エンジェルウイングに攻撃機能は無いし。


強化外装の陰で痛覚は無い筈!


「ごめんなさい!!」


そんな様子を悪い顔で見下ろす二人の悪女と思わず目を逸らす配信者。チャガマさんの悲鳴が地下室に響いたのだった。

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