516、ゴミ山で目覚める
声を発する時間も無い。
あと20秒で全てが決まる。この場所全体が吹き飛んで、全員が粉々になって即死する。絶対にそんな事はさせない!
アニマトロニクスを起動、九尾の尾が展開する。同時にユリシスを起動。背中から真っ青な蝶々の羽が展開した。水色の霧を噴出して、金色の粒子がファンタジアのゲートを開く。その先へR.A.F.I.S.Sが緊急事態を伝播させた。
ワープゲートの元祖となった頼れる妖怪達、タマモさんやハチビさんへ避難のお手伝いを要請した!
水色の霧の中から現れ、事態を即座に共有されたタマモさんとハチビさんはボクと一瞬目を合わせる。
急に呼び出してごめんなさい。でも!今は1人でも助かるヒトを増やさなきゃいけないんです!
アナグマの恩があるのでな。よくぞ頼ってくれた。
一度タマモさん達は鳥居を開いてこの場から姿を消す、再度鳥居を開いて正式にこの場へ転移した先は地上の警察達の前。タマモさん、ハチビさん、ゴビ‥‥さんまでも鳥居を現出させて異空間へ警察達を拉致するように取り込んで行く。急に足元に現れた鳥居に反応も出来ずに皆落下して行った。
かつてはこの方法で総理のマサルさんを守る護衛達を、強引にタマシティを襲う魔王の前へ突き出した事もあったのだとか。今回はここから離れた場所へ吹き飛ばしてしまうよう動いていた。
ボクもシャボン玉で出来たワープゲートを展開、行き先はパンタシア!タマさんが一目散に飛び込んで、イルシオンに巻かれたラーイも乱暴に放り込む。一瞬逡巡する刺客のお兄さんも、フルフェイスを解除して懇願するような視線をボクへ向けていた。
この計画の事は何も知らなかったみたい。文字通り捨て駒として、暗殺計画を阻止した達成感でボク達を油断させる為に遣わされただけ。少しでも計画の成功率を高める為なら人命をどうとも思わない。邪悪なメガコーポの陰謀に巻き込まれてしまっていた。
小さく頷けば深い感謝の念がR.A.F.I.S.Sに伝わってくる。その場の皆をパンタシアへ逃した後、ボクも地上へ。
時間はあと10秒も無い。けれど直前まで、1人でも助けなきゃ!
R.A.F.I.S.Sで繋がった一人一人の元へ転移を繰り返しながら迫る。装備持ちのミニフィーも可能な限りユリシスへ回収して。
元々距離を置いてタレットの破壊に専念していた組合警察の皆はもう逃げ出している。多分大丈夫だと思う。内部へ突入して降伏したギャングを逮捕していた警察達を全員逃す為。怪我して動けない警察もギャングも、生きているヒトは1人でも多く逃したかった。
「タマモさん達も!もう逃げて下さい!」
「あい分かった!ラフィもじゃぞ!」
鳥居の中へタマモさん達も避難。後はボクも!
急に飛来した1発の弾丸が、ボクの胸に風穴を開けた。
遥か遠距離に光学迷彩を纏ったタクポが浮いている事に気付いて、その中からスナイパーがボクに狙いを定めていた。
絶対に殺す。
強烈な殺意。
これはギャングの暴走なんかじゃなくて、ボクを殺す為に何重にも仕組まれた罠。色んなパターンを予測して、狙撃でボクの邪魔をする計画がここ1番のタイミングで突き刺さった。
普段なら狙撃なんて受けないのに‥‥!
高級な強化外装のバリア装甲すらも直撃で貫く、大口径の一撃。でもボクは魔王だから。普通なら一撃で意識が無くなってお終いだけど、まだ動ける。
それでも体勢を崩した状態になってワープゲートに間に合わない。判断は一瞬だった。
爆風を向こうへ届かせない為にワープゲートを遮断。パンタシアの向こう、ボクへ手を伸ばしていたタマさんの姿が消える。
セイグリッド・エンジンを展開、ユリシスからシラヌイも即座に起動して展開!シラヌイがセイグリッド・エンジンを抱き上げて飛び上がり、アクアマリンがその周囲に可能限り高水圧の防壁を作り出す!
僅か3秒の間に行った全部がボクの最後の抵抗。これでダメだったら‥‥
跡形もなく消し飛んじゃったら、ボクが魔王と言えどこの物語はお終い。無敵じゃないし、死んじゃう時はどうしようもない。
沢山戦って、殺して、救って。ここまで駆け抜けてきた。ボクを好きって言ってくれるヒト達が居て、殺したい程憎むヒト達も居て。
色んな想いがR.A.F.I.S.Sに記録されて。
ボクの胸にぽっかりと空いた穴。流れ出る血も魔王の体がヒトの振りをする為にそうしているだけ。でも流れる血を止めたくなかった。
色んな想いがボクの心臓を形作って、空いた穴を埋めてくれる。ボクはただの魔王じゃないって思わせてくれる。
ホロウインドウの中、フィクサーさんもボクを助けようと必死そうにしていた。
ありがとう、って呟いた。
その爆発で上がった火柱はタマシティの何処からでも見えていた。
爆音が都市を揺るがし、戦術核のキノコ雲が上がる。異常事態に警報が鳴り、サンライズの面々はビルの上からそんな光景を楽しげに見ていた。
追い詰められたギャング達が居城ごと自爆してしまった。裏社会の全てを敵に回すという事は、こういう事。例え都市内で核を爆破させようが、守護天使を殺せるのなら安いものだ。
「ははは、可哀想に。」
「人類には守護天使なんて要らないのですよ。」
「ま、悪党とやらが消えてしまっては都合が悪くてね。」
「便利な使いっ走りの確保にどこも苦労してましたよねー。」
「イージスに勝ったからといって、調子付いてシブサワにまで手を出されては敵わん。この都市を彼の墓標にしてやろう。」
シブサワグループにもラフィを快く思わない者は居る。大勢が好く程に、尚更気に入らないと反発する派閥もあった。サンライズは表向きラフィウェルカムを装いつつも、その裏ではラフィに多くの飼い慣らしていたギャングを潰されて憎んでいたのだ。
ヤマノテシティに本社を構えていたサンライズは、ラフィの自警活動によって長年時間をかけて用意していた便利な手駒を多く失った。それとなく自粛するようモモコへ訴えかけるも、
「何が不満なんだい?街の治安が良くなって良い事尽くめじゃないか。」
軽く一蹴。まさかギャングを潰されて困っているんです‥‥なんてぶっちゃける事など出来る訳がなく。やんわりとした婉曲表現の裏まで見透かしたモモコは、その上で知った事じゃないと鼻で笑った。
モモコはシブサワにギャングとつるむような企業は要らないと考えていたのだ。仰々しく企業戦争を行う武装外交官を組織し、コストの掛かる兵隊を常駐させる。その場で端金で雇って、適当に捨てられるギャングの方がハッキリ言って低コストで取り回しやすい。外交官と違い法律に縛られない仕事が出来るのだから。
ラフィは青龍街の首領の息子を護衛し、結果息子であるリュウキの暗殺に失敗する。警察に保護されたリュウキは青龍街を相手取り、数々の違法な賭博実態を告発。青龍街は派手な内輪揉めで消え去る事になった。
青龍街の立ち上げに出資した企業は多い。そこからのアガリを分配し合い、接待を受けつつ互いに後ろ暗いビジネスを融通し合う。サンライズも青龍街の利権に大きく関わる企業だった。
シブサワグループの上層部は言う。足を洗えて良かったな。今後は真っ当に生きるように。ラフィを抱えて行く以上、シブサワに犯罪企業の居場所は無い。
上層部に平謝りするポーズの裏で、ラフィへの殺意が芽生えていた。
それでもサンライズはタマシティ復興に大きな貢献をしたとして、運営委員会に認められていた。復興事業の積んだノウハウはグループ全体からも信用が厚かった。壊れかけの都市の運営委員会としてこれ以上の適任は居ない。
その裏で込み上がっていた邪悪なラフィへの殺意を、テツゾウにもモモコも気付かせなかった。サンライズもメガコーポ。それを牛耳る頂点に立つ者共もまた海千山千の強者共。内心を隠し通すくらい、お手のもの。
それがまさか、都市内で核を炸裂させるような無茶苦茶をやる狂気に昇華していたとは。ギャングへ全責任を押し付け、都市内へ核を持ち込まれてしまった失態を責められるに止まると考えていた。陰謀の証拠は全部核で吹き飛び、流石のシブサワと言えど証拠も無しにグループ内で衝突し合う内ゲバを始めるとは思えない。
しかも場所はタマシティ。ヤマノテシティからもトウキョウシティからも遠く離れた田舎都市。手を出そうにも物理的な距離の遠さは如何ともし難い。プライベートルーム経由の移動じゃ軍隊を動かすには不十分、ラフィの規格外の力が無ければ出来る事は限られていた。
「守護天使に相応しい最期だよ。」
彼らは勝利の美酒を楽しんでいた。
「ラフィさま‥‥ラフィさま‥‥」
暗転していた意識が戻ってきた。ボクはまだ死んでいなかったようだった。目を薄っすら開ければ、フィクサーさんが安堵の顔で覗き込んでいた。
「ここは何処ですか‥‥?」
「衝撃で遥か遠くに飛ばされてしまいました。」
壊れたシラヌイが抱えるセイグリッド・エンジンも壊れていて。中から放り出されたボクは、20mぐらい吹き飛んでゴミ山の中に転がっていた。
「生産区で出たゴミを廃棄するゴミ処分場ですね。定期的にスライムを放った大規模な掃除でゴミを片付けますが‥‥まぁあまりやっていないようです。ゴミ山がうず高い。」
ボクは皆が見上げるような高い所を走っていたのに、ゴミ山の中で蹲っている。シブサワの皆は味方だと思っていたのに、そうじゃないヒトも居たみたいで。でもタマシティを爆破してまでボクを殺そうとする‥‥
悲しくて‥‥ボクは。
「冒険に出たいです。もう、こういうのは暫く関わりたくありません。」
「ラフィさまの思うままに。」
フィクサーさんが直ぐにタマさん達へ連絡を取って、ボクはワープゲートを開いた。
「ラフィ!!」
タマさんがボクを抱きしめて、そのまま暫く。
「タマさん。学生達をヤマノテシティへ送り届けたら、直ぐに冒険に出たいです。」
「‥‥そうね。開拓者なんだし良いんじゃない?シブサワともスポンサー関係を切っちゃう?ニッポンイチやウマミMAX、赤翼もあんだし。」
そんな提案に‥‥心がヒンヤリと冷えて。
「モモコさんやテツゾウさんがこの事件を解決するまでは。ちゃんと事件に向き合ってくれなかったら、もうお付き合いしません。」
「そっか。じゃあアイツらに一言添えてやるわ。アタシもムカついてるんだし。タダじゃ済まさないんだから。」
心の奥底ではモモコさん達がボクを狙ったんじゃないって分かっている。でも、タマシティにこんな悪党を蔓延らせたのはシブサワグループのせい。ボクの故郷を2度も破壊されて、許せなかった。
「じゃあ、行ってきます。」
ワープゲートがボクを駅前へ運ぶ。既に報道陣が学生達を囲っていて、ボクの姿を見た大勢がマイクを向けた。タマさんがボクを守ってくれて、場を守っていたカテンさんとブランさんが合流する。
「ラフィ様、意向を既にシブサワへ伝えてあります。モモコの平謝りを蹴っ飛ばしてやりました。精々社内紛争に明け暮れやがって下さいませ。」
向けられたカメラの前、ボクはハッキリと。
「シブサワグループ傘下、シブサワサンライズ工業が今回の黒幕です。スポンサーに裏切られました。ボクの故郷でこんな事をして。この事件の落とし前を付けるまで、距離を置きたいと思います。」
どよめく報道陣の前、学生達をヤマノテシティへ続くゲートへ押しやった後ボクは姿を消した。




