515、悪意の濁流の中で妖しく光ったドス黒い悪意
「出る前に最終確認だ。アイツらのリーダーの名は“ラーイ”、キャプテンラーイなんで部下に呼ばせ四六時中薬キメてるイカれ野郎だ。ただ、そいつの脳みそに用がある。」
まだ証拠は無いけど、ちょっとした軍事要塞を思わせる大規模なギャングの居城に都市運営委員会の影が見える。
「少なくとも体制側に融通効かせられる奴が居なきゃ、田舎街のギャング風情があんな武装を用意出来ないわよ。持ち込むのだって特殊な許可が無けりゃ普通は検問で弾かれるのよ?」
都市内に要塞を建てられる程の武装の数々、勿論素性の怪しいギャング達が用意するのは現実的じゃない。
『ワザと武装をチラつかせてサンライズの気配を匂わせているんです。威嚇効果は十分あったでしょう。』
「ああ、実際ラーイの連中に他の胡散臭いアングラ共は目線を合わせる事すら出来なかった。勿論シブサワ警察もな。俺に対しても連中は天下を取ったような態度で接して来たよ。」
‥‥すっごいムカムカする。堂々と癒着を示して威嚇して、それが通用しちゃうような運営体制。今は生産区に拠点を構えているけど、将来的には行政区の往来を白昼堂々闊歩するようになりそう。
「ただ、サンライズとの繋がりの可能性有りっつったってな。具体的に誰か分からねぇと手が出せない。知らぬ存じぬで躱されるか‥‥シブサワ本社の誰彼見境ない粛清で無関係な奴まで死ぬだろうな。」
「根切りってやつね。内部調査委員会が手詰まりになったら疑わしい奴を纏めてゴミ箱に捨てて万事解決。メガコーポらしい解決方法じゃない。よく分かんなかったから見逃すなんてしたら良い恥晒しだし。全員犯人だった事にして粛清しちゃえば成果が上がるわ。」
だから運営委員会側の誰かとの繋がりの証拠を持つラーイを、生きて捕える必要があった。
「ただ、あくまでラフィboyの命が最優先だ。無理はするなよ?」
「分かりました。大丈夫です、ボクが捕まえます。」
ここからミニフィーをひたすら放って数で押してもいいけど、それだとラーイに逃げられちゃうかもしれない。それに‥‥
都市警察達の威嚇射撃が始まり、組合警察が側面から機関砲台へロケット砲を撃ち始める。生産区の一画で戦争が始まった。
爆発する音が遠くまで響いて、並ぶ工場の無機質な巨影が山彦のように生産区全体へ暴力の音を鳴らす。
「一気に乗り込みます!」
ドラゴンファングと紫電M10で武装したミニフィーが一斉に動き始め、ボクの作ったワープゲートから居城の中へ直通で襲い掛かる。行った事はないけど、視界内に見えているし射程圏内。そのままワープゲートを開く事が出来た。
「なんだ?!」
「チクショウ!ラフィだ!!」
「マジかよ?!シブサワと敵対する気か?!」
そして、ボクよりも速くD・バキーさんがバイクで飛び込んで行った!!
「HAHAHA!!テメェら!!よくもまぁ無茶苦茶してくれたな!」
「バギー?!裏切るのか?!」
「初めから俺は臭え三下野郎と手なんか組まねぇよ!」
バイクの駆動音がズンズン、大きなタイヤが地面を擦る音がギャリギャリ、そして立て続けに撃ち放った大経口重ショットガンがバズン!
次いで出たボクの前で、ミスリルシールドを構えようとしたギャングの下半身が吹き飛んだ!
「うーわ、容赦無いわね。」
「ボクだって容赦しません!戦う意志の無いヒトは両手を上に上げて伏せていて下さい!!」
R.A.F.I.S.Sが場のギャング達の心に、ボクと戦い散っていったヒト達の最後の苦痛とショックを響かせる。それは危険な杭となって深々と突き刺さった。
「アアアアアア?!」
「イヤァァァァァ!!」
「死にたく無い!!ヤダヤダ!!」
耐えられなかった10人ぐらいが武器を投げ捨て身も投げる。小動物のようにガタガタと怯えて失禁する者も現れた。
「狼狽えるんじゃねぇ!!戦えよ!おい!」
伏せるヒトへ思わず銃口を向けるヘルメット頭の1人へ、S.S.Sから覗いたオオワシM100がピタリ。反応する間も無く胴体を撃ち抜かれて縦回転するよう吹き飛んだ。
タマさんの3M50はバギーさんの重ショットガンと戦場に破壊の暴風を振り撒いていく。
「ラフィ!先に行きなさい!」
「はいっ!ここはお願いします!」
ボクの役割は撹乱とラーイの確保。伝播したR.A.F.I.S.Sが建物内の地下へ急ぐ一団を捉えた。ボスとして真っ先に逃げる訳にもいかず、重要な機材の搬出を優先して構えていたみたい。でもボクの名を聞いて逃げ出さずにはいられなかった。焦る気持ちが伝わってくるんだ。
建物の1階へ、特殊強化ガラスに真っ直ぐ突っ込む。ラビットT-60A5で急加速、宙でセイグリッド・エンジンに換装。質量任せにガラス窓を粉砕してしまう。ロケット砲の直撃にも耐える特殊強化ガラスでも、流石にセイグリッド・エンジンの質量任せな突進には耐えられない。
『ラーイと戦う時はお気を付けを。』
「はい!大丈夫です。最初から意識していれば‥‥絶対に対処してみせます。」
セイグリッド・エンジンを一旦解除、元の姿に戻って狭い廊下をステラヴィアで一直線!天井のタレットガンが向くけど、S.S.Sから覗いた紫電M10が瞬く間に粉砕。ドアを蹴破って背後に急襲を掛けた3人へフィクサーさんが。
『背中はお任せを。』
空間を操り3人が一纏めに、驚く間も無く纏めて衝撃のマギアーツで吹き飛んで転がった。
ボクの目前には質量兵器の棍棒を振り上げる巨漢が現れるけど、通りすがりにボクの体はアクロバットに跳ねる。ステラヴィアの蹴りが一閃、男の顎を蹴り抜いてバリア装甲越しに完全に砕いてしまった。倒れた所にキャプチャーネットを3重にして被せておく。これで意識が戻っても簡単には動けない。
足を止めずにそのまま5人を蹴散らし、地下へ続くエレベーターのドアを蹴り壊す。下に止まったまま天井の見えるエレベーターへ、ラビットT-60A5を装着して一気に突っ込む。宙を蹴った勢いで天井を蹴り抜いて着地!床を粉砕しながらも、更に地下階のエレベータードアを壊して飛び出した。
その向こうには両手にアサルトライフルを構えるラーイが居た。
モヒカン頭に激しい刺青、目元の隈が目立つ如何にもな悪い顔。表情は焦り半分、恍惚半分。僅かに直前に吸引された薬物をバリア装甲が検出していた。
その側近の3人も手にサブマシンガンとリボルバー。アクアマリンの水路を駆けるボクの後ろ髪を、激しい銃撃が追いかけて壁が弾痕でボロボロに。
「ラフィ!!ここで首を奪って名を上げたらぁ!!」
「降伏して下さい!怪我が増えるだけですよ!」
「うっせぇ!調子に乗んな!」
イルシオンが勢い良く伸びて、急に噴出した白霧の中で白光が眩く。霧がサブマシンガンを乱射する1人を一飲みに、数秒経って霧が晴れる頃には首だけが転がっていた。
ラインレーザーを纏う光学帯の動きが3人を撹乱、ボクの手首の動きで薙がれた鳳凰刀が紅い尾を引く。反応の遅れた1人が袈裟斬りになってたたらを踏んだ。
「あああ‥‥!」
「役立たずがよ!」
そしてラーイに頭を撃ち抜かれて、内容物が床を汚した。酷い奴。罪を償わせないと。
けれど‥‥!そこっ!!
ラーイへ向けて何処からか飛んで来た、黒いレーザーの刃。暗器として作られたビームシュナイダーは、かつてアングルスで出し抜かれた時を思い出す。
あの時は突然の事にヤブシキさんを目の前で暗殺されて、タマさんまでも大怪我を負ってしまった。でも来ると分かっていれば、もう絶対に。
イルシオンが急旋回、ビームシュナイダーとラインレーザーがかちあってキックバックを起こした!光学兵器同士がぶつかると、光を収束させる透明な膜同士が反発し合って激しいキックバックを起こすんだ。
結果ビームシュナイダーは吹き飛んで、急な反応に驚いた刺客の側に転がった。
一目見て高価な強化外装が分かる。そこらの傭兵じゃない、もっと装備の質の良い男。フルフェイスアーマーは闇に溶ける黒、鋭い爪の付いた両手には2丁のスマートライフル。
スナイパーライフル程の射程は無い、アサルトライフル程の連射力も無い、ショットガンのような散弾も撃てない。けれど全てにおいて高品質で、無駄のないスマートな性能の武器種。
でも‥‥
「タマさん、お願いします!」
九尾の尾が生え揃い、ワープゲートがタマさんを呼び出す。
「しくじったわね!企業の私兵さん!!」
「クッ‥‥!」
銃口が向き合った。
「何なんだお前は!」
ラーイの銃撃が場を薙ぎ払い、誰にも掠らずにボクの九尾の尾が迫る。尾先にはスマートフィストA7、拳が頬を殴り抜いていた。
その時だった。
戦場全体に無数の敵意と悪意が入り乱れ、R.A.F.I.S.Sに混沌とした感情の濁流が流れ込んできている。荒れ狂う大時化の中にチクリ、荒波に揉まれながらもその流れに逆らって突き進む一筋の悪意。
どうしてか、その悪意だけは絶対に見逃しちゃだけだって。ボクの本能的な部分が強く訴える。戦場全体へ散ったミニフィー達がR.A.F.I.S.Sを伝播させ、その中で拾われた1人分の悪意は余りにも‥‥邪悪で醜悪だった。
目の前のラーイよりもずっと悍ましい。悪意を辿れば1人の警官へ辿り着く。大勢が戦う中、急に1人が踵を返して逃げ出していたんだ。
近くにいたミニフィー数体が即座に動き出し、逃げる背中へ飛び掛かる。R.A.F.I.S.Sが伝播した戦場ではそんな行動も全体へ共有された。警官達は逃げた1人を抑えるミニフィーを注視する。
「おい?!今は作戦行動中だぞ?!何処に行く気だ?!」
「放せッ!!止めろ!!ダメだ!!時間がもうねぇんだよ!!」
R.A.F.I.S.Sを彼の頭の中で悲鳴を上げる生存本能が震わせた!そして考えないようにしていたであろう、この辺りを吹き飛ばす計画が思わず漏れ出た。
時限爆弾‥‥?!
同じくR.A.F.I.S.Sを共有するラーイもそこまで知って、脳裏から引っ張り出された記憶をピースに一つの推理が組み上がっていっていた。
つい最近サンライズのエージェントが、この居城の地下の一室に妙な部屋を工事で増やしていた。見た目は趣味の悪い豪華な応接室のよう、今後はここで密会を行うという話だったが‥‥
企業の息のかかった部屋として、部下にも近付かないよう厳命していた。何があるにしろ、虎の尾を踏んで今の関係性にヒビを入れたく無い。今この瞬間になってあの部屋の意味が分かった。
「チクショウ‥‥!」
ラーイは思わず声を漏らした。その顔が悔しげで、悲痛に歪んで思わず銃を手放し頭を掻きむしる。タマさんと刺客も動揺を隠せずに立ち竦んだ。
取り押さえられた警官の意識が警笛を鳴らす!爆発まであと‥‥
20秒?!




