514、鬼ごっこ、そして隠れんぼ‥‥見下ろす鬼の紅い瞳がズラリと並ぶ
少し遅れてシブサワ警察のセキュアポッドが何台もやって来た。激しく火災の煙を上げるポッドに、転がるシブサワ警察の遺体。向こうからすると完全所属不明の警察の残骸で、現場は混乱状態だった。
「当機が残って説明致しましょう。」
駅前の学生達の守りをカテンさんと、応援で呼んだシブサワのヒト達へお願いする。ブランさんにはワープゲートでここを任せた。ボク達はそのまま防壁修繕工事の現場内へ突入する!
「早速シブサワ警察の制服にポッドまで横流しされてたわね。こりゃ大不祥事よ。」
『トウキョウにある警察本部と距離が大きく離れていますし、これだから田舎の都市は腐りやすいんです。何せギャングとつるんでオイタしても簡単にはバレません。』
裏で賄賂が飛び交い、末端から徐々に上の方までカビが侵食していく。それはシブサワであっても同じだった。
「折角綺麗な街に復興したというのに‥‥悲しいです。」
「その言葉をモモコとテツゾウにぶつけてやりなさいよ。あはは、顔色変えて対応してくれるでしょうね。」
『吹き荒れる大粛清で今度は何人死ぬのやら。』
うう、でもちゃんと伝えないと。被害に遭うのは真面目に生きているタマシティの市民の皆。犯罪者達が幅を利かせて警察と組んで、白昼堂々強盗に人攫いが起きるような犯罪都市にしたく無い。もう十分この都市の皆は辛い目に遭ったんだから。
これ以上の悲しみで都市に影を落とさせない。
暗い防壁内部の坑道は、床も天井もシートに覆われていてそこかしこに工事用ARが投影されている。重機の通り道や、補修作業エリア、場合によっては構造上脆い危険エリア。ヒト1人がやっと通れるような狭い場所もあるけど、瓦礫の撤去作業が行われる場所はだいぶ開けた場所だった。
銃撃戦の音が聞こえる。
内部で警備に当たっていた少数の警備兵が、遮蔽に身を隠しながら撤去作業を邪魔するよう散発的な攻撃を繰り返しているようだった。向こうもあくまで脱出が最優先で、しっかりカバーして動かない警備兵を無理に倒そうとはせず。互いに牽制を繰り返しながら戦っていた。
「ラフィさん!!」
「来ました!直ぐに倒します!」
パッと顔を明るくする警備兵達が援護射撃をする中、ユリシスから飛び出したミニフィー達が、ドラゴンファングシリーズのライフルを手に迫っていく。前方をミスリルシールドで固め、後方から20の銃口が覗いた。
「来たぞ?!早く押し出せ!!」
瓦礫を撤去する重機が今にも防壁の外へ穴を開けてしまいそう。
「させないわよ!」
光学迷彩で姿を隠したタマさんが回り込み、クイックハックを飛ばす。空いたセキュリティの穴へ、最強のグレムリンでもあるフィクサーさんが入ってしまった。
『はいはい!逃しませんよー?』
重機がガクン!と揺れた後、急に旋回して近くにいた数人を薙ぎ払う。
「何だ?!」
「ハッカーだ!」
1人が撒き散らされた瓦礫に巻き込まれ姿を消し、重機と壁に頭部を挟まれた1人の鈍い音が銃撃戦の中やけにハッキリ聞こえた。
「クッソォ!!」
「もうお終いだァァァァァ!!」
迫るミニフィーがあっという間に全員を撃ち倒し、生命保険で死ななかった者達を警備兵が取り押さえて制圧していった。
重機から抜け出たフィクサーさんがボクのスマイルへ。
『あとちょっとでしたのに、ラフィさまの捜査速度を舐めていましたね。』
と、開拓者組合の方から緊急通信が。あっ!D・バキーさんからの指名依頼!
「バギーのやつも遊んでた訳じゃないみたいね。」
タマさんの組合アプリにも届いている。D・バキーさんが秘密裏に進めていた、都市内へ流入して来たギャング組織の本拠地の捜査。この為にバギーさんはちょっとした芝居を打っていたらしい。
『まぁランク50から30の降格処分を受けた以上、開拓者としてやっていくメリットは薄いです。独立傭兵になって仕事を選ばず受けた方が間違いなく稼げるでしょう。』
だからこそ傭兵になって雇われないか、と裏社会からの勧誘も多かった。そこでダンガンさんに相談して、裏でコソコソ傭兵業へ手を出して都市への足掛かりを作ろうと必死なギャング達に取り入っていたって。
向こうもリスクは分かっているから、流石に本拠地の所在とかはバギーさんに掴ませなかったけど‥‥都市内の土地勘が優れたバギーさんは、ヒトの動きを見ておおよそ見当をつけていたらしい。
今回の事件はギャング達にとっても一大プロジェクト。組合への関与が疑わしいバギーさんを関わらせなかったけど、周辺で張っていた見張りが本拠地を割り出してしまった。
組合警察と連携した捜査網は、今回の為に大きく動いた本拠を見逃す事は無かったんだ。
「結構な人数が動いてたし、本拠も万が一の失敗に備えて退去準備をしてたでしょうね。でも大きな機材類の移動には何台ものトラックの手配が必要。どうやっても目立つのよ。」
最低限ヒトだけ逃しても、本拠にある重要な機材は沢山。最悪は買い替えだけど、そんな事をしたらどれだけの赤字になってしまうのか。何が何でも持ち出したい筈。
『で、本拠襲撃の為にラフィさまへの増援依頼です。包囲は済んでいるようですが、向こうは徹底抗戦の構え。まぁ秘密の抜け道から重役や高価な機材を逃すまでの時間稼ぎって所でしょうか。』
仕方ないから下っ端に肉壁になって貰って、大赤字覚悟で最低限を包囲の外へ逃す。それでも防壁の外までは逃げられないと思うけど、時間さえ稼げればまだチャンスがあるかもしれない。ギャング達も死にもの狂いだった。
「アタシらとバギーで突入、大暴れして来いってさ。報酬も結構弾むしやるしかないでしょ。」
「駅前で待っている皆には悪いですが‥‥ブランさんが方々に連絡してくれていると思います。今回は緊急事態ですから、こっちを優先しましょう。」
タマシティに無法なギャング達の居場所は無い!ってハッキリさせないと。ボクの故郷から出て行け!
警備兵の皆に手を振られて見送られる中、ワープゲートの向こうへ飛び込んで行った。
カテンさんのスマイルから通信が。
『今丁度、駅前でもテロ騒ぎが起きた所だ。』
ええっ?!次から次へと!
「大丈夫でしたか?!」
『我が居る。まぁ、事の経緯はブランから聞いているが‥‥大方ヤケクソを起こしたのだろう。急に現れたタクポからロケット砲を構えたギャングが数人出て来て、ピンポイントに我らへ撃って来たのだ。』
「ハッ、報復って所かしら。風の龍がどんなものか知らなかったようね。」
ロケット砲は巨大化したカテンさんの鱗に防がれ、そのまま勢い良く薙いだ尾先がタクポを叩き落としたって。中から這い出た者達は全員捕まっていた。
『何が何でもラフィさまへ一矢報いたいようで。さぁ、こっちも気合い入れて行きましょう。』
ボク達は現場のすぐ近くに出ていた。都市警察達が周辺の避難を行っていて、封鎖を示すARがそこかしこで光っている。
「ラフィさん!こちらになります。」
警察のヒトが案内してくれて、駆動魔具で一気に現場まで駆け抜けた。
そこは生産区の一画。生産区は大きな工場が連なったような場所で、大量の工場と物流倉庫に配送センター。食料や水の生産施設に大規模な下水処理場まで一纏めなエリア。防衛しやすいよう1箇所に固められているけど、無数の建物で起伏の激しい地形は多くの影を作った。
「こういう場所は元々亜人のスラムが出来やすいわ。工場で出たおこぼれの横流しは良いビジネスになるのよ。」
だからギャング達も集まりやすい。生産区自体はすっごい広大だから、ここにあるかもってだけじゃ場所まで絞り込めないけど。それでもD・バギーさんは正確に位置を絞り込んでくれていた。
生産区は建物陰で日も当たらず、どこを見ても薄暗い。街灯の灯りだけが光源な場所は多くて、そういう所はヤマノテシティの下層区と似ていた。
ギャング達の本拠は大きな生産工場の真下、本来その工場の資材置き場として使われている筈の場所。名義上その資材置き場で働く作業員として登録されて、工場主に場所を借りていた。
『工場の責任者の身柄は既に確保済みで御座います。まぁ良くある事です。場所貸しでお小遣い稼ぎはこういう場所の責任者の役得で御座いますので。ヘマしたら全てを失いますが、いつも通り脅迫されていたと証言するでしょう。』
ズラリ、機関砲のタレットが並んだ場所は金網で封鎖されている。内部にはスナイパーを含めた50人規模のギャング達が、誰1人近付けさせないよう臨戦状態で構えていた。
そんな場所を少し離れた高所から見下ろす。大きな工場の太いパイプの上、光学迷彩で姿を隠したボク達とD・バキーさんは偵察ドローンの映像を見ていた。
「ラフィboy、タマgirl。来てくれて感謝するぜ。流石の俺もこうも防御を固めた陣へ突入するのは厳しい。」
「でしょうね。田舎街のギャングにしては良い装備じゃない。余程儲けていたか。こりゃ都市運営委員も一枚噛んでたりしない?タマシティの運営委員会はシブサワグループ傘下、シブサワサンライズ工業だっけ。」
シブサワサンライズ工業が中核となった、その他複数社で運営している。その全部がサンライズ工業の子会社だった。サンライズ工業は、シブサワグループ傘下の中でも存在感のある大きな企業。だからこその抜擢だったけど‥‥
「田舎街だからって油断したようね。表も裏も牛耳って大儲けって魂胆かしら。」
もし繋がりがあっても、ギャング達に指示する立場じゃないと思う。ボクと戦うよう指示するなんて、そんな事をするとは思えない。多分ギャング達の活動にある程度目を瞑る代わりに、相応のお金を受け取っていた。それぐらいの距離感だったと思う。
実際セキュアポッドや制服の横流しがあったんだし、都市警察の重要なポストの人間ごと抱え込まないと難しい。でも復興から1年も経ってないのにもうこんな状態で。
「HAHAHA!飼い犬に手を噛まれたってか?まさかラフィが都市に来るタイミングでこんなバカをしでかすとは思ってなかっただろうな!しっかしバックに都市運営委員会級の大物が居てもビビらずにシバけるのは良い気分だ。」
「ねー。普通はこんなヤバい気配がしたら手を引くもの。メガコーポを敵に回して追い回されたく無いわ。連中の後ろ盾がラフィを前にしたら寧ろ逆効果になるだなんて。露見したらシブサワは絶対にサンライズを容赦無く粛清するでしょうね。」
ギャング達がどこまでサンライズの後ろ盾を信用しているか分からないけど‥‥
『サンライズがラフィさまを宥めて有耶無耶にしてくれる可能性は、ある程度期待はしているでしょう。内部からみたら有り得ませんが、外から見ればスポンサー企業に楯突く行為に見えます。傘下のメガコーポの息のかかったギャングを潰すんですよ?まぁギクシャクしそうですよね。』
でも実際にテツゾウさんやモモコさんと深く知り合って、そういう不正を絶対許さないヒト達だって分かっているから。
『ヒトは自分にとって都合の良い情報を好んで集め、それを盲信して生きようとしてしまう生き物です。ラフィさまと言えど、流石にスポンサー相手に噛み付くような事はしないだろう。一見筋の通った理屈ですし、世間の多くの開拓者はスポンサー様には逆らえません。しかし、だからこそシブサワとラフィさまの特殊な関係性を見落としてしまうんです。』
あらゆる可能性を平等に思案するのなら、ボクがサンライズが相手でも退かない事も予見出来たと思う。でも、目先の都合の良い情報を根拠に動いてしまった。
『ま、そこら辺のリスク管理を完璧にこなせるような連中だったら、田舎街でギャングやってませんね。ヤマノテシティで一山当てる為に移住していたでしょう。治外街で通用したノウハウが、ラフィさまにも通用すると思い込んでいるのです。』
「井の中の蛙、ヤマノテを知らずってか。ラフィboyが頼もしいぜ。情けねぇよな、1年前までは俺がラフィboyを一人前に育ててやる!って息巻いてたのによ。今じゃ支援を要求する立場だ。分かっちゃいるが‥‥本当に頼もしいんだ。俺1人だったら絶対にサンライズに喧嘩を売るなんて出来なかった。」
D・バキーさんは鉛色の現実を知っていた。メガコーポに敵対する無謀さを。メガコーポだったタマ生命をスポンサーに持っていたからか、尚更こういう状況に敏感だった。
「直ぐにでも突入します。ここからあの場所は射程圏内。都市警察達に注意を引くよう、援護射撃の要請をお願いします。組合警察達には機関砲の無力化をお願いしたいです。」
ユリシスが開く。
ギャング達の秘密基地を見下ろす鬼の紅い瞳がズラリと、太いパイプ上から見下ろす。鬼ごっこの次は隠れんぼ。そして、もうお終いにしてしまおう。
絶対に許さない。R.A.F.I.S.Sがギャング達へ牙を剥いた。




