表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

536/558

513、誘拐事件の裏から銃口が覗く

「部屋に争った痕跡は無いわね。プロらしく寝込みを襲ったか。暴力大好きなクソチンピラは素人相手にそんな地味な仕事をしたりしないわ。」


タマさんの分析を裏付けるよう、取り出された捜査用機器でスキャンされたAR映像が浮かび上がる。残った足跡や周囲の痕跡から事件当時の状況をAIで再現、今回は3パターンの再現映像が浮かんだ。


いずれも犯人が割った窓から侵入、即座に寝室へ飛び込み麻酔薬の類で昏倒させる。そのまま転移で何処かへ連れ去った。


『タマさん、』


「はいはい。」


タマさんが周辺の監視カメラをクイックハック、空いたセキュリティの穴へフィクサーさんがお邪魔します。


『転移先はそこの路地に停められていた光学迷彩付きの特殊車両ですね!車両サイズとなると発進時に僅かながら空間が歪んだように見えちゃうんですよ。』


「そのまま車両を追跡して下さい。行きましょう!」


アニマトロニクスを起動、ボクの頭にはワンコのお耳。鋭くなった感知能力が、車両の残したほんの少しのタイヤ痕をハッキリと視認する。


「犬耳も可愛いわよね。」


「きゃっ?!急に触ったらびっくりしますから。後で、です。」


タマさん集中して下さい!もぅ。触り方がなんだかいやらしいせいで、変な声が出ちゃう。


『時刻は昨晩の丁度深夜、しかし防壁外への逃走は困難かと。トウキョウシティと違って、普通の防壁ゲートは検問がしっかりしています。当たり前ですが攫ったヒトを素通りなんてしようがありません!だからこそ都市のヒトは高く売れるのです。』


シブサワグループがボロボロになった防壁の改修工事もやったから、抜け穴みたいなのも今は無い筈。防壁外へ続く抜け穴は、文字通り地中深くに埋まった防壁の一部に穴を開ける必要がある。それも警報が鳴らないよう、警備体制に穴を空ける為に体制側への裏取引も必須。つまりそれが出来るような母体の大きい犯罪シンジゲートと腐敗した警備責任者が居ない限り不可能。


「抜け穴一個作るのに何十億円と10年単位だっけか。デカいマフィアが仕切って通行料で暴利を貪るのよね。超硬い分厚い防壁に気付かれないように穴を開けられるような時間はタマシティには無いわ。」


ボクが来る事を知っていて、防壁内に留まる選択をするかな?舐められているのならそれで躱せると思っちゃうかもだけど。


「結局ラフィの脅威は実際に戦ってみないと不透明な所が多いのよ。未だにシブサワの広報の為のお飾りだって言い張る連中も居るんだし。子供ってだけで舐められるし、自分は大丈夫って皆思うんでしょうね。」


『楽観的な考察どうも。ワタシだったら万が一に備えて何が何でも逃げますけどね!人生にリトライはありませんよ?防壁内じゃ都市警察に追い回されただけでもジリ貧です。攫った以上死なせる訳にはいきませんから、商品価値を保つ為に相応のコストも発生し続けます。早く手放したいでしょう。』


だよね。舐められているから楽勝!って考えで悠長に捜査する訳にはいかない。最悪の事態を考えていかないと。


タイヤ痕を追うけど、それだけで犯人の元へ辿り着ける訳じゃ無い。案の定車は適当な路地裏に乗り捨てられていた。多分バリア装甲をずっと纏っていたんだろうな、車内には何の痕跡も残っていない。ぱっと見光学迷彩が付いているようには見えない、薄汚れたただのバンだった。


『さぁ、ここからが腕の見せ所です。ここまでは田舎街の都市警察の新米警察でも辿り着けるでしょう。時間はワタシ達の数倍掛かるでしょうけどね!』


「光学迷彩を付けていても、都市の監視カメラに無効化されて映される可能性があるわね。シブサワに運営が変わった以上、そういう所も都心部と同じセキュリティになってる可能性が高いわ。」


運営委員会が用意する都市の監視カメラはすっごい高性能。そこらの企業が本社ビルに付けられるようなものとは、お値段が全然違う。特にシブサワレベルのメガコーポなら最高級品を取り付ける筈。都市内の治安にダイレクトに響くしね。


「つまり車置いて逃げるにしても、そう遠くまで普通に地上伝いに移動するとは思えないわ。距離が伸びる程リスクも高まる。」


魔力の感知能力はフィクサーさんがずば抜けてる。直ぐに迷彩で隠された付近の転移陣を暴いてしまった。付近の魔力線から魔力を盗んで勝手に動き続ける転移陣は、ARで投影された5台の雑多な自転車の下に。


「持ち運び式よりもしっかりしてます。完全に地面に固定されてますね。」


『この先は何処へ繋がっているのでしょう。』


「行くしか無いでしょ。追手への迎撃策が何かしらあるでしょうけど、正面突破するわよ!」


「だったらボクが!」


セイグリッド・エンジンを装着!体高2mのミニ戦車がキラリと白銀に輝く。6重のバリア装甲を纏う、超硬度を誇る歩兵戦車!フルプレートアーマーを着込んだ騎士さんみたいな上半身が、大きなキャタピラの上に乗っかっている。両腕には2門のバルカン砲が搭載されていた。


「これを抜ける火力を都市内へ持ち込むのはまず無理ね。行ってらっしゃい。」


「行ってきます!」


アクアマリンを背に直進!自転車はARだから、ぶつかる事もなくすり抜けてボクを遠くへ送る。その先には10丁のショットガンの銃口が待っていた。転移陣の起動に合わせて、全方位から散弾が降り注ぎ‥‥


「無駄です!」


散弾をバリア装甲で弾きながら一回転!一瞬だけ撃ち放ったバルカン砲が辺りを蜂の巣に、ショットガンが仕込まれたトラップが粉々に。


マップアプリからここが防壁付近の建物の地下室だと分かった。遅れてやって来たタマさんが、地下室の惨状を見て半笑い。


「うーわ、誰か居たらどんな達人だろうが挽肉ね。」


凄い音にビックリしたのか誰か階段を駆け降りてくる音がする。R.A.F.I.S.Sが敵意を感知した!


「分かってるわよ!」


階段と地下室を隔てるドアはバルカン砲で砕けて瓦礫に、その後ろから3M50を2丁躊躇なく撃ち込む。激しい銃声が一瞬聞こえた悲鳴を飲み込んで静かになった。


「ま、ブービートラップ仕掛けたんなら結果を見届ける係を1人は配置するわね。今のでここまで接近した事がバレたわ。」


遂にしんがりへ手が届いた。ここまで殆ど足を止めずに一直線!誘拐犯も驚いているかな?もう目と鼻の先だよ!


『この辺り、ラフィさまから逃げられそうな場所が1箇所ありますよねぇ?』


マップアプリを開いたフィクサーさんが、駆けるボクの視界の片隅で地図をヒラヒラさせた。


「そーいう事。確かに最小限の買収で抜けられそうじゃない。」


ボロボロになった防壁の修繕工事はまだ完全に終わった訳じゃない。内部へ仕込まれたマギアーツも複雑だし、適当に埋め立てて完成!とは行かない。


「工事現場!作業員に変装して紛れ込んだのかも。」


現場責任者を買収して、少しの間だけ目を瞑るよう説得すれば。


『今ブランさんへ進捗を伝えました。直ぐに現場のスケジュールが掴めましたよ!』


ブランさんが1分で交渉して明らかになった今日のスケジュール表。ボクの名前を出して緊急事態!って伝えれば、怖いぐらい直ぐに情報が降りてくる。


「はーん、丁度今日3-6A通路の埋め立て工事じゃない。」


『ほうほう、撤去した瓦礫をそのまま防壁外へ押しやる工事がありますね。内部で崩れて通路を埋める邪魔者を一旦外へそのまま押し出してしまうようです。』


その瞬間、そのまま防壁外へ飛び出せるチャンスがあるんじゃ!


「担当作業者が怪しいわね。」


「ブランさんが連絡してくれましたが‥‥あっ!丁度今工事現場で銃乱射テロです!」


『追い詰められた最後の悪足掻きでしょう!このまま時間を稼いで、防壁外へ瓦礫を押し出しながらとんずらする気ですね!』


「させません!防壁外に都市航空隊の緊急出撃の手配をお願いします!」


ブランさんに緊急通報をお願いして、ボク達は内側から追い詰めるよ!


現場には既にセキュアポッドが数台来ていて、逃げる作業員達の避難誘導をしていた。ボク達を見ると都市警察達は敬礼して道を譲る。


「組合から要請を受けています!ラフィさん、今現場状況を送信します!」


フィクサーさんがボクのスマイルへ送信されたメッセをちょいと摘む。そして‥‥





ビリリ、と手紙を破くように捨ててしまった。R.A.F.I.S.Sが本格始動、ボクの瞳は真っ赤に染まる。S.S.Sから覗いた紫電M10の銃口が10丁、作戦の失敗を悟った偽警察達へ向いていた。


『これが本命でしょうか、ウイルスメッセを送ってラフィさまのスマイルの中身を抜き取ろうって?にゃは、所詮は市井の犯罪者相応な浅知恵。通る訳ないでしょうが。』


向いた偽警察達の持つ銃はアサルトライフルの類い、一瞬の銃弾の交差で偽警察3人の頭部が吹き飛んで転がった。


「クソッ!何で気付くんだよ?!」


「アンタらバカじゃないの?!」


R.A.F.I.S.Sで状況が即座に伝わったタマさんは、軽快なブレードランナー捌きで背後へ回り込んで3M50を掃射する。セキュアポッド内へ逃げ込むも、ドラゴンファングシリーズのアサルトライフルを構えたミニフィーが5体迫った。


ドラゴンファングシリーズの最大の特徴は火炎放射器。セキュアポッドの乗り口から、超高温に燃え上がった液体燃料が内部へ5丁分噴射された!生存本能の雄叫びが阿鼻叫喚、ポッドが浮き上がって機銃を振り回す前に沈黙する。


セキュアポッドの裏へ回った数人が銃口を向け、ボクヘ格闘を挑んで来た3人がビームシュナイダーに殺意を乗せた。


「お願いします。」


指した先が濃霧に覆われ、何が起きたか理解する前に3人はツキシロの獰猛な牙に噛み砕かれて吹き飛んだ。ユリシスが青い霧を纏う。金のキラキラした粒子の中からカテンさんが風の刃を飛ばした。


不可視の刃が、ボクの背後へ迫る光学迷彩を纏った2人を縦に真っ二つ。血飛沫が地面に跡を残した。


そしてセキュアポッドの裏の数人は、ユリシスから飛び出したエクエス移動機関砲台を真横に見る。ボクばかり注視して視界が狭まっていた代償として、そのまま全速力で迫ったエクエスに纏めて轢き飛ばされてしまった。


セキュアポッドの裏で派手に赤い霧が爆散、肉が弾け飛ぶ重たい音が飛び散る。バリア装甲ごと粉微塵だった。ボクの足元に半回転した上半身の一部が滑ってくる。見下ろすボクの目と、恐怖に引き攣った目がピタリと合った。


ボクの目には多分‥‥悲しみも同情も無くて。


絶対に犯罪を許さないって言う意思が込められていたと思う。もう1人で迷わない。どんな事情があっても、犯罪の根拠にした時点で一切の正当性を失うんだから。


恐怖に震える目から生気が抜け落ちていったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ