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512、田舎街で始まる鬼ごっこ

数日間の間スーパーセル探査の件であっちこっち奔走。ニュース番組に顔を出して、ラジオチャンネルで声を出す。エンベリのショーもやって、夜はスーパーセルのお話を聞きたい面々と一緒にお風呂。


お風呂場での酒宴がタマさん達のマイブーム。酔って裸で語り合えば、自然と歯にも衣を纏わぬ開けっぴろげな話題で盛り上がる。‥‥猥談多め、偶にちょっと真面目な自分語りも。


それとなく悩み事を打ち明けあって助言を飛ばし合い、いいね!を向け合う。裸のお付き合いは、思いの外皆の距離を縮めるのに効果的な様子だった。バリア装甲の無い距離感は尊いんだ。


ボクも皆と語り合って、秘密ですよと前置きした色んな事件のお話をすれば大好評だった。


「改めて語って聞かされると色々あったわよねー。怒涛の一年だったわ。」


「ラフィの語り部って面白いんだよなー。何か具体的に情景浮かんで来る。」


R.A.F.I.S.Sでほんのりボクの見た景色を見せているから。タマさんがお酒を取りに行った隙に、ヤミヨさんの腕がボクを抱いちゃう。あの?!タオル巻いて無いんですが?!


ピィッ!とわちゃわちゃするも、柔らかなお肌の感触がほっぺにぺったりだった。


そんな日常が過ぎ去った頃。征天大学編入試験が各都市で行われていた。ボクに出来る事は皆へエールを送る事だけ。学生さん、頑張って下さい!ファイト、です!


翌日には世間は受かった落ちたで大賑わい、ボクが見知った皆はちゃんと受かっていたようでホッとした。合格者さんの送迎の為にタマシティにゲートを開く。ボク達皆で顔を覗かせた。


「わっ!?綺麗になってる!」


地盤からボコボコだったタマシティは、シブサワグループの復興支援もあってか瓦礫も全部撤去されて住宅地が復活していた。以前よりも背の高い建物が増えていて、栄えている感じがする。


今のタマシティの都市運営委員会はシブサワグループ。タマシティのついでにアングルスの面倒も見てくれているようだった。シブサワグループレベルのメガコーポとなると、こうやって複数の都市を運営する事もままある事なんだって。


ここにはタマ生命以上の企業は居なくて、タマ生命が倒産してしまった影響で失業者も溢れて大混乱。街が酷い状態にならないよう、確実に取り纏められる企業となると数が限られちゃう。都市運営のノウハウを沢山積んでいて、影響力も申し分無くて、都市防衛戦で活躍したシブサワグループに白羽の矢が立っていた。


「ニッポンイチもイージス傘下企業が運営していた小都市を引き継ぐ話がありましたね。コロコロ運営が変わっては住人も大変ですが。」


ブランさんは大分変わってしまった街並みを眺めてボヤいていた。


ボク達の足が向く先は、タマシティ防衛戦で亡くなった方達の慰霊碑。今でも綺麗に管理されていて、心無いイタズラを受けた様子も無かった。献花台には瑞々しいお花が並ぶ。真新しい千羽鶴が風で揺れていた。


その中へ、ボク達も近場のお花屋さんで買ったお花を添える。手を合わせて黙祷を捧げた。


あの戦いで未来が拓けました。どうか、安らかに。


時間までボク達は街を回って、久しぶりのタマシティの様子を観光した。ホロウインドウの看板が並んで、お空に大きなARの鯉が泳いでいた。


「ラフィの故郷は思いの外賑やかだな。田舎都市と聞いていたが。」


「以前はARなんて街中じゃ見かけませんでした。シブサワに変わって一世代分ぐらい文明力が上がった感じがします。」


バイクの音が聞こえてきて、道路を真っ直ぐ走った車体がボク達の隣で停まった。


「おう!ラフィboy!タマgirl!久しぶりだな!」


「ダイナマイト・バギーさん!!お久しぶりです!」


元開拓者ランク50、今は30になったD・バキーさん。ボクと同じランク。


『貴方のお話は聞いていますよ?にゃは、噂通りの大男ですね。』


ホロウインドウの中のフィクサーさんへ、キラリと光る歯を見せて笑った。


「お前さんが電子の悪魔か。不思議な存在だぜ。」


バイクの向かう先はそのままタマ開拓者組合本部。ちょっとした用事があるって話だったけど、ボク達もダンガンさんへついでに面会したいって言えば連れて行ってくれた。


「ダンガンさん!お久しぶりです!」


「ラフィか。少し見ない間に随分大きく‥‥いやそこは変わらないか。」


お膝の上に乗ったボクの頭を、大きな手が撫でる。ぐぐっ‥‥と手を頭で押し退けながらちょっと抗議目で見やった。


「ダンガン、アンタまだ居たの?随分暇なのね。」


タマさんの声にダンガンさんはため息で返す。ダンガンさんはメリーさんと同じ国家公安の一員。内閣直属のスーパーエリート。それが未だにタマシティの組合本部長をやっていた。ボクの護衛と観察の為に用意した仮初の身分なのに。


「いきなり抜けちゃ組合に迷惑が掛かるだろう。防衛戦でタマシティの有望な組合関係者も大勢亡くなったんだ。あの戦いは俺を含めて誰が死んでもおかしくない戦いだった。」


つまりこの任を降りようにも後任が居ない。他の大きな都市とは距離が遠いし、タマシティの本部長をやるなら現地に詳しい地元民が理想的。


「この役職のお給料も悪くは無い。暫くはこの席に根を張っていたとしても良い。‥‥懐へ戻ったらまた厄介なお役目を任されるだろうし、当面は田舎街を眺めていようと思う。」


D・バキーさんはダンガンさんの正体を知らない。不思議そうに首を傾げながらも、敢えて訊く。


「なんだ、ダンガン。ここを辞める予定でもあんのか?寂しいぜ。」


「将来的にはな。どうせ察しているんだろう?なかなかどうして、俺の人生に安息の地が無いのだ。」


お疲れ様です。エンジェルウイングがふわり、お膝の上に乗ったままダンガンさんを包んだ。


「礼を言う。この街はすっかりシブサワの物になってしまった。便利になったのは良いが、街を覆う時計の針が随分早くなってしまったような。生き急ぐ者が増えたように感じる。」


「感傷的かよダンガン。言う事がジジ臭いぜ。ほらタマgirlも笑ってら。」


タマさんはヘラヘラした態度で踵を返した。


「ほーら、そろそろ時間よ?研究者のヒナ鳥達を拾いに行かなきゃ。」


「はいっ!ダンガンさん、D・バキーさん!また今度!」


ブランさんは優雅に挨拶を、ホロウインドウの中でフィクサーさんが手を振り、カテンさんが宙でうねってボクの後を追う。


「‥‥随分仲間が増えたもんだな。」


ダンガンさんの声を背中越しに聞いた。


集合場所は駅前、行政区。列車を見た時は驚いた。線路が薄く頑丈なビニール状の素材で覆われていて、列車も明らかに最新式の綺麗な物になっていた。


『線路を覆うアレは虹渦島で発見された新素材を特殊加工した物のようですね。』


「もしかしてジュースが入っていた透明な袋ですか?」


ギュッと握るとストローみたいな飲み口がにゅっと伸びる便利な容器。柔らかいけど頑丈で、保温性抜群、強度も高くて簡単には傷付かない。


「液化ミスリルを混ぜ込んだ強化ビニルフィルムで御座います。数tの怪物が体当たりしても破けず、高い防弾性と防刃性、抗光学性を持ちます。」


シブサワの新技術がここにも。タマシティにも虹渦島の発見の恩恵が齎されているようで良かった。


「まっ、列車の護衛任務をやってた低ランクの開拓者連中はお仕事を失ったでしょうけどねー。」


タマさんは綺麗になった駅構内を見回してボヤいた。


ボク達の到着を、今か今かと待っていた合格者さん達が見える。ブランさんの案内通り予定時刻ぴったり。ボクが手を振ればわーっ!と歓声が上がった。


「合格おめでとうございます!引越しの準備は大丈夫ですか?これから新天地で暮らすんですよ。」


口々に挨拶が飛んで、皆へ笑顔を向けるボクと笑顔が向き合う。駅前の通行人達もそんな様子に興味津々、スマイルカメラが幾つも向けられた。


この場にいるメンバーで全員かな?ブランさんがサクッと確認。


「1人足りないようです。少し待って来なければ合格取り消しに致しますか?」


「いえ、迎えに行きます。折角優秀なヒトが来たいって言っているんですから。」


一回の遅刻で頑張りが無駄になるなんて悲しいから。企業的なシビアさは要らないよ。防衛戦でタマシティ内を駆け回った分、転移で行ける範囲も結構広い。


『タケル、タマ光正大学深未踏地研究学科専攻。防壁外ではなく内地に住む辺り実家が太いですね。しかし大学生活の為に仕送りを受け取りながらのアパート一人暮らしですか。』


商業区の一角にある住宅街、防壁外の住宅地と比べると家賃が結構高めな上空家も少ない区域。お金があっても空いてるお部屋が無きゃ住めない。防衛戦後、一時的に空家が沢山あったらしいけど。今はまた満員状態だった。


改めて防壁の重要さを皆が意識したお陰で、応募が殺到したらしい。より多額のお金を積んだヒト達が防壁内へ迎え入れられていた。


「ブランさんは皆を見ていて下さい。ボク達で迎えに行ってきます。」


「当機にお任せを。どうぞ遅刻した鼻垂れ小僧を迎えに行って下さいませ。」


ワープゲートがアパートの近くに開いて、皆で連れ立って3階のお部屋へ。


「まぁまぁ良いアパートじゃない。新築の1LDK、防音設備も整ってるわ。」


タマさんはアパートが不動産サイトへ出している情報をサッと見流していた。どんな時も情報収集を疎かにしない所がカッコいい。


『お迎えに上がるのに間取りを調べるんですか?』


「こんな大事な日に普通遅刻するかしら。ま、勉強だけ出来るだらしない馬鹿かもしんないけど。アタシだったら睡眠導入剤使って確実に起きれるよう準備する。」


つまりほんのりとタマさんは事件の匂いを嗅ぎ付けていた。


「空振ったらそれで良いのよ。でも万が一があった時に後手に回りたく無いでしょ?」


『その狡猾さは流石と言いましょうか。』


インターホンを鳴らして‥‥お部屋はシンと静まったまま。3度鳴らし、


「すみません!今日は大事な日ですよ!このままじゃ征天大学へ行きません!」


ドアを叩いて声を出す。ボクのスマイルへタマさんから通知が届いた。



『タマ』

ラフィ、ベランダに来て。



パパッと廊下を出て、外壁をステラヴィアでぐるり。ベランダにお邪魔します!と飛び乗った。


「分かるかしら?」


「はい、分かります。窓ガラスが割れています。」


割れた窓ガラスを誤魔化すよう、AR映像が貼り付けられていた。外から見たら簡単には分からない筈。それに誰も居ないリビングからは生活音が。僅かな足音、番組の賑やかしに“居る”と思わせる気配。


「こりゃ慣れてる業者の手口ね。田舎街の都市警察さんじゃ完全に後手に回って取り逃すやつだわ。」


そう、人攫い。


ゴーストが無くなっても、人攫いは相変わらず大きな稼ぎに繋がる犯罪のオーソドックス。小狡いチンピラから本格的な人攫い専門業者まで、彼らに情報を提供する闇探偵に販売する奴隷商とセットで何処の都市にも巣食う。


『まぁ征天大学に合格出来るレベルの頭脳となれば売値も相当高額になります!しかしこのタイミング。』


「ハッ、ラフィが街に来る今やる辺り相当自信があるようね。今成功させられれば、それこそ闇の業界じゃヒーローよ。1発デカイ手柄を立てて成り上がるビッグチャンスに見えているんでしょうね。」


直ぐに助けなきゃ。


「フィクサーさん、ブランさんへ連絡を。ボク達で直ぐに捕まえます。」


絶対に舐められないよう、歪な成功体験をこの業界へ齎さないよう、そしてこの瞬間も助けを待つタケルさんに辛い思いをさせないよう。


「人生を賭けた鬼ごっこの始まりね。」


『さぁさぁ!何処まで逃げられるか見ものですね!』


「絶対に逃しません。」


鬼が、動き出したのだった。

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