498、もう迷わない
パレードを睨み付ける大男2人。握り締めたグレネードに殺気を込めている。けれど、不意に視界を純白の帯が覆った。
「あん?」
「ああ?」
帯は一瞬で迫り、顔に巻き付いたまま凄まじい出力で背後へ引っ張られる。ボクの小柄な体格に合わせて、極端な鋭角に首が折り砕かれ鈍い音が鳴った。イルシオンがそっと迫っただけじゃバリア装甲が自動で起動しない。異変を感知して起動した時にはもう、顔がイルシオンに覆われていた。
これでもう15人目。
「幾ら何でも多過ぎないかしら?」
タマさんも蹴り砕いたヒトを転がして、呆れ気味な声を出す。
「この男達‥‥ラフィ様。」
「はい、分かっています。」
以心伝心なボクとブランさんに、タマさんは分かるように言いなさいよと割って入る。
「荒野のガンパレードで、回った幾つかの治外街の中にこの顔を見ました。」
『つまりは身内をラフィさまに逮捕されて、この機会に復讐を果たそうとしている訳ですね!にゃは、浅はかな連中です。』
「うーむ、逆恨みではないか?困った連中だ。」
「ボクの暴力に暴力で返そうとしているんです。でも、負けられません。」
次へ向かうボクはシブサワの警備班へ指示を出しながらも、シャボン玉を展開して3人の男女の背後に現れる。
光学迷彩で姿を消したボクの前、聞こえた短い声。
「待っててお兄ちゃん。絶対仇は取るから。」
「ダチの敵討ちだ。」
「ぜってぇ成功させないとな。」
この顔。治外街で指名手配犯を逮捕した時、周囲の大勢に引き留められながらも銃を向けようとしていた3人だ。結局組み伏せられ銃を向けられず、逮捕に支障が出なかったからボクも手を出さなかった。
でも、このパレードには大勢の期待が掛かっていて。ボクもあの事を後悔しないと決めたから。
正義は、成されたんだ。
背後から薙いだ死神の鎌が去った後、3人の首が地面へ落下していった。
「鮮やかな手並みだな。」
「場所はシブサワへ常に伝えておりますので、ラフィ様は気にせず次へお向かい下さいませ。」
この事件は都市警察も、組合警察にも介されずに内々で処理される。パレードは順調、何も異変は無くて。確保されたあのヒトらが陽の光を見る機会はもう。
「ラフィ。また色々考えているでしょ。」
「はい。ですが、考え続けるのはボクの責任です。何も考えなくなった時、多分そこに居るのはボクじゃなくて‥‥魔王ですから。」
パレードの方で歓声が上がった。
『今回のスペシャルゲスト、ラフィの登場だァ!!』
シャボン玉のゲートの向こう、ボクは頑張って作った笑顔で飛び上がる。音楽に合わせてノリノリに踊る山車の真上、エンジェルウイングを大きく展開して皆へ癒しを振り撒いた!
「皆さん!楽しんでいますか?!パレードはまだ始まったばかりですよ!!」
普通のヒトだったら、こんな時どんな顔をするんだろう。
でもR.A.F.I.S.Sを起動したボクの心は凪。色んな感情が入り混じっても、爆発はせずに沈静化されてしまう。
パッとラズベリーさんが飛んで来て、
『ラフィくん、大丈夫?凄い辛そう。』
R.A.F.I.S.Sへ意思が伝わってくる。
『心配を掛けてすみません。』
『そうじゃなくて!辛い事があったら!』
『ごめんなさい。後で‥‥今は知らない方が良いです。』
一瞬の間のやり取りの後、ラズベリーさんは思わず悔しそうな顔をして。そのまますれ違った。
しゅるり、シャボン玉のゲートにボクは消える。切り替わった空間の先には、驚いた顔のお姉さん。ボクへ銃口を向けようとして、横合いから迫ったタマさんの蹴りで銃を吹き飛ばされてしまった。
「チクショ───!!返せェ!彼を───」
最後まで言えずに、硬化したイルシオンに首を折られて転がってしまった。
ボクの姿を見た時に感じていたのは、激しい怒りと同じぐらいの絶望。絶対に勝てないと理解してしまっていて、それでも死んでも退けない衝動に突き動かされていた。荒野を駆け抜けたミニフィーの一団を見ていたみたいで、あの時怯えて動けなかった自分に強い憤りを感じていた。
「ラフィ。やっぱりパレードの方に集中しても。」
「ダメです。ボクのR.A.F.I.S.Sで確実に捕捉する事が前提の警備体制を今更変えられません。それに、背中を向けられないんです。」
レイホウさんは逃げずにヤスコさんを迎え撃った。大勢の強いヒト達に任せて、傷を負わずにヤスコさんを排除する事は出来たと思う。それでも、責任からは目を逸らさずに復讐へ立ち向かったんだ。
カッコいいなって思った。凄いなって思った。強いなって思った。
ボクは大きな力を振るうから。尚更強くないといけない。
「大丈夫です。もう迷いません。」
トウキョウシティで沢山戦って、いっぱい迷って苦しい想いをした。自分の事を魔王だって、死神だって本気で思ってしまった。
でもボクを支えてくれる沢山のあったかい手が、背中を押してくれる。タマさんの尻尾がボクを撫で、ブランさんが頼もしい秘書として何でも用意してくれる。フィクサーさんがいざという時に助けてくれて、カテンさんはボクが前へ進めるよう追い風を起こしてくれるんだ!
「ボクへの復讐の為に、パレードを無茶苦茶にしてやろうだなんて許せません。どんな理由理屈があっても、一切の配慮をするつもりはありません。誰かが復讐心を果たして前を向けたとしても、その為に大勢が不幸になって悲しい想いをしないといけない理由はないんです。」
「ボクの正義で彼らの正義を塗り潰してしまったとしても。」
向かう先で、更に5人がキャプチャーネットに捕縛された。もう4人が銃ごと鳳凰刀で斬り伏せられ、2人の刺客へビームシュナイダーを持ったミニフィーが襲い掛かった。
『再び我らの守護天使様がやって来るぞ!!』
パレードに呼ばれたら、満面の笑みで皆の楽しい!って気持ちに応えていく。エンベリの皆と飛び回って、ボクへ手を振る孤児院の皆にもスマイル、スマイル!
「このままパレードは折り返しです!まだまだ見所いっぱいですから!」
シャボン玉の中に消える。
その先で、ボクの前へ黒光りする強化外装を纏った大男が待ち構えていた。
「グロード!!」
「ひゃはは!こっちだ!」
大男の影が急に伸びて、タマさん達を何処かへ飛ばしてしまう。そうか、足元に転移陣を移動させたんだ!
そして影が生き物のように直立し、ボクを庇うようにスマイルから抜け出たフィクサーさんへ襲い掛かる。
「ちょっと行って来ますね。」
それだけ言い残して、フィクサーさんの姿が影に呑まれて消えてしまった。影は触れもしない、黒いカーペットのように床に広がっていた。
「ラフィ!!お前のせいで俺は親父を失った!嫁も!息子も!娘も!あの要塞で死んだんだよ!!」
男の装備はムライバトルマギテック製かな?ずんぐり大きな強化外装で、黒塗りの機体は3mぐらいある。
「死に晒せやァ!!」
ステラヴィアを駆動させたボクは、イルシオンを大きく展開しながら男を囲う。ラインレーザーの火力は無視出来ず、男は蛇行しながらもボクへ激しく銃撃を放った。
アニマトロニクスを起動、ボクの目前に展開したワープゲートが映した先は男の背後。銃撃がゲートの中へ吸い込まれた。
「クソッ!」
直撃を貰いながらもワープゲートの正面を躱す。S.S.Sから覗いた紫電M10の集中砲火が片腕を吹き飛ばし、強引にねじ込まれたショットガンの一撃がボクの片足を吹き飛ばした。
装備の性能活かした捨て身のゴリ押しは決死の覚悟。
「ラフィ!!俺はお前に勝てねぇ!!そんなん分かってんだよ!!」
起動した大きな光学ブレードを片腕に、薙いだ先にはボクは居ない。猫耳を生やしたお陰でボクの動きはもっと俊敏に。イルシオンが何度も絡もうと迫って、それでも無理やりインファイトの距離を保ちながら何度も斬り付けてきた。
ブレードが空振る。ステラヴィアのハイキックが男の胸元をどつき上げた。重たい体は吹き飛ばす、バリア装甲にヒビを入れながらも奇声を上げて更に激しく。
「お前は英雄!!俺は雑魚のモブ野郎!!薬中イカれハンパ野郎のど底辺!!」
ブレードにアウロラが翳される。反発のマギアーツがブレードをぶっ飛ばし、更に回転して薙いだステラヴィアのキックが男の顔を蹴り抉った。バリア装甲内で歯が数本抜けて、そのまま床へ散らばっていく。
「ゲホッ?!コッホ‥‥!!でもなぁ!!お前は俺を直ぐにでも忘れんだろうが!!俺は絶対お前を許さねぇ!!俺の家族が言ってんだよ!!殺しといて何パレード楽しんでんだクソが!!ってなァ!!」
ボクの小さな体は掴み掛かる腕をすり抜けて、開いたユリシスの中から飛び出した死神が即座に重ショットガンを撃ち放った!
男は重厚な強化外装を激しく破損させながらも‥‥踏み留まった!!
「ラァッ!!」
ボロボロな強化外装に動かされて、振りかぶった拳が鳳凰刀に斬り捨てられる。届かない。届かせない。
「この‥‥!!」
S.S.Sから紫電M10が覗いた。男がバラバラになってしまうまでの暫時、R.A.F.I.S.Sが深く繋がって想いが交差した───
『どうして届かねぇんだ!!俺の全部を叩き付けて‥‥分かってたのにクソォ!』
『忘れません。』
『あっ?!』
『貴方の顔も、あの要塞で戦った全員の顔も。全部R.A.F.I.S.Sに記録されています。貴方はもうこの先、歩んでいく事は出来ません。だけど、立ち止まった貴方の事はいつまでも忘れないでいます。』
『はは‥‥!なんだよ、それ。』
『謝りません、ボクは絶対に負けません、進み続けます。貴方の想いも、皆の想いも全部を記録してずっと先の未来まで。』
真っ直ぐな本心が伝わった。男の顔は悔しそうでも、どこか安心したように目元が緩んだ。怖かったのかもしれない。このまま誰からもただの犯罪者として忘れ去られ、居なかったようにされてしまうのが。
家族全員を亡くして、そしてこの瞬間自分も消え去る。
『未来がなんだと言うけどよ‥‥お前は一つ血を絶やしたんだからな。』
『分かっています。慰めになるかは分かりませんが、ボクはそうやって生きていくんです。』
『なんかお前‥‥ツラい奴だな。』
至近距離からの紫電M10の掃射を受け、男は強化外装ごと粉々になって散らかった。頭も残らずに。
ボクはただ目を瞑って‥‥その命に黙祷を捧げた。
殺された方が被害者で、殺した方が加害者。殺された方が正義で殺した方が悪。
殺された方が犯罪者のテロリストで、殺した方が秩序を守る為に正義を成す。
殺された方が家族を全員殺されて、殺した方が復讐を返り討ちにする。
どっちが悪い?正義はどっちのもの?叩かれてネットリンチに遭うべきはどっち?誰が正義を決める?
もう迷わない。
「シブサワ警備確保班の皆さん、テロリストを撃破しました。座標を送りますので回収お願い致します。」
正義は成された。テロは未然に防がれ、皆の笑顔が守られた。どんな主張があっても、犯罪の根拠として使った時点で価値を失う。法が社会を守っていて、ボクは社会を守る為に戦う。
ただ、彼らの想いをボクだけは‥‥ずっと覚えているから。それで良いんだ。
謝れない事が棘のように心に刺さってツラいけど、皆が照らしてくれた道を歩いて行く覚悟を決めた。




