497、パレード開始!群衆の歓声が天を震わせた
『お待たせ致しました!!』
EXPO会場にコウタロウさんの声が響く。実行委員会からのアナウンスに誰もの興味が向いて、いそいそとパレード会場へ人波が押し寄せて行く。
直前までパレードの企画が二転三転、突然決まったゲストを中心に皆大忙しだったけど何とか間に合ったみたい。ボクも事前の準備を済ませたし、配置に付かないと。
ボクはパレードにメインで参加しないけど、ラズベリーさん達と一緒に賑やかすお役目を貰った。影からこっそり警備するだけじゃなくて、ヒトの目を引いてもっとお客さんを集めようって。
実行委員会から打診を受け、ブランさんが承認していた。
「ラフィ様が居るのですし、その名を使わない選択肢は御座いません。今だけ雑務依頼扱いで守護天使様にお仕事振り放題で御座います。」
「皆の為に気軽に手を貸せるのは嬉しいです。もっと普段から雑務依頼を受けたいけど‥‥」
ボクの呟きにラズベリーさんが肩を叩く。
「あはは、他の開拓者の皆がお仕事無くなっちゃう。アナグマの話はすっごい有名なんだから。」
ボクがミニフィーを動員して、全部の雑務依頼を1日で片付けちゃったお話。そんなに有名になってたんだ。お話を聞いたヤマノテ開拓者組合のニワさんが、チクリとブランさんへ。
『ヤマノテでは勘弁なぁ。若い子が怒っちゃうよ。』
だなんて言っていたらしい。だよね。報酬額は小さくても、駆け出しのヒトにとっては必要な報酬だから。お金に困ってないボクが独占しちゃったら困らせちゃう。アナグマのはずっと放置されて誰も受けようとしない依頼ばっかりだったし、困っているヒトが居る事を考えたら放置したくなかったから。
パレードに使われる山車が並んで、その上に立候補して決められた各サークルの部長さん達が乗ってアピールする。この新技術はこのヒトがリーダーになって作ったんだよって。勿論彼らは場慣れした芸能人やアイドルじゃないから、パレードで顔を売って大学の研究に投資したい企業を募ったり‥‥というのが主な目的。
誰が研究しているのかも分からないプロジェクトよりも、顔が分かっているだけで応援してあげようって気になりやすいからね。
そんな山車を賑やかす新技術。花咲のマギアーツでモコモコの花畑に埋もれた山車、割れないシャボン玉が満載に積まれた山車、あのARゲームの世界観を意識したデザインの山車、複数居たグループの内1番観客を集めた学生バンドグループの山車‥‥
それだけじゃない。
マックス兄妹の所のサイバー竹馬やけん玉‥‥そういうものまで、自律して動いてパレードの列へ加わった。無人の竹馬がカコカコと整然と並んで、宙をふわふわ浮くけん玉がリズミカルに踊る。
全部にフーガさんの使い魔が宿っていて、一時的に魔法生物としてパレードは有機的に動き出していた。
「壮観な光景なの。あの子達も、こんな素敵なステージを用意して貰ったらとっても嬉しいと思うわ。」
日傘の下で見下ろすフーガさんは上機嫌。パレード開始前にボクと一緒に会場を見回していた。
「フーガさん自身も参加しますか?」
「フーガはいいわ。お祭りの中心に立つよりも、お祭りを眺める方が好きなの。」
そう言うフーガさんは綺麗なお花のような笑顔を咲かせて。時間になって動き出したボクへ手を振っていた。
パレードが始まる!!
『T&YEXPO!目玉となるパレードが今開催されます!どうぞ!ご来場の皆様、盛大な拍手で送り出して下さい!!』
会場全体が揺れた。
手のひらが合わさり、大勢が同じように手のひらを叩き合い、会場全体で花火が爆発したような───熱気が迸って、歓声が空へ続く上昇気流に乗って天を揺らす。
この瞬間、このEXPOをどれだけ楽しんで貰えたかの総決算がされているように感じた。
『ヒトは共感に飢える生き物です。にゃはは、如何ですか?思う存分今回のEXPOは最高だったと大声で叫べるこの場所は。確かに歴代最高のEXPOですね!』
実行委員会の皆を見やれば、誰もが驚いた顔で固まっていて。R.A.F.I.S.Sでやんわりと心を突いて気を取り直させる。
盛大な音楽が流れ始め、無数の風船が空へと舞い上がり始める。風船は一定の高度まで上がると、転移して山車まで降りてくるからパレード中はずっと風船を上げ続けられた。
「わっ?!何だ?!」
山車が進み始める。車輪を足のように動かして、ズシズシとゾウさんのように行進を開始した。その隣で破れないシャボン玉がふわりと集まって、ヒトの形になって宙を飛び回って賑やかした。
本来命を宿さないモノが、急に生命を授かったかのように動き出して曲に合わせてノリ良く進んで行く。来場者達は皆びっくり!スマイルカメラが次々向いて、口々にファンシーな行進を応援した。
幼児向けアニメの1シーンのような行進に、がんばれー!って。
「パレード開始です!」
進んで行く山車の前へ、ユリシスを展開したボクがひょいと現れる。ブワッ!と出て来たミニフィー達の手には楽器。流れる音楽に合わせるように、金管楽器を鳴らして一緒に行進!自律モードで動くから、ミニフィーはボクの制御が無くても勝手にパレードを盛り上げてくれる。事前に把握した楽譜を演奏するだけなら放置でも大丈夫。
ラズベリーさん達も山車の付近を駆動魔具で飛び回り、大勢の来場者へ手を振っていた。
中でも1番の目玉は、やっぱり花咲のマギアーツ。パレードに合わせてチョウリさんが噴霧器を振り撒いて行けば、行く先々がお花畑に。あまりにお手軽にARが振り撒けるそれは、間違いなく1番目立っていた。
「あっはっは!!さいっこうだよ!!」
チョウリさんは上機嫌に花畑を振り撒いて、減ったタンクの水を収納からドンドン継ぎ足していた。
行進するミニフィーを真近で見て、孤児院の皆が大はしゃぎする姿が目に止まった。楽器を構えるミニフィーに並んだ、ダンスをしながら行進するミニフィー達がパッと手を振って挨拶を。楽しんで行ってね!って。
今回のパレードは、有料路のヒトや特別ゲスト向けに空中ドローン席でパレードに追従出来るサービスがあった。パレードは通り過ぎたらそれでお終いだけど、一緒に付いてくれば最後まで楽しめちゃう。
テツゾウさんやモモコさん、レイホウさんにアリスさん、ビャクヤさん、フレアさん‥‥そしてミツホシ・ワタルさん。
今回はワタルさんは忙しくて殆ど関われなかったけど、パレードには顔を出せたようで楽しげに家族と眺めていた。
孤児院の皆もボクの推薦で、特別ゲストとして空中ドローン席を当てがわれていた。サラ先生は初めは断っていたけど、皆の期待する視線に負けたんだ。お世話になりますって挨拶に来たモモコさん達に深々と頭を下げていた。
そしてそんなパレードにボクも定期的に姿を現すけど‥‥
『警備第3班の皆さん、150m先の路地裏に不明な一団を発見しました。対処をお願いします。』
『5班、6班の皆さん、500m先のノムラビルの屋上にスナイパーと護衛する1隊を確認。特別対応班と同行して対処をお願いします。』
ここには大勢の各界の著名人も参加する。彼らを消したい者、このパレードにケチを付けたい者‥‥刺客を放つ理由は沢山あって、捨て駒同然の傭兵達がけし掛けられていた。
「荒野の大掃除でラフィはアングラ社会全体に宣戦布告したわ。一矢報いたい傭兵も多いでしょうね。」
タマさんも今回はボクと一緒に警備に当たっていた。広域に散ったミニフィーを通して脳波を感知、不明な武装集団が居たら即座に警備へ通報する。勿論ボク達で対処出来るものは‥‥
『50m先、ロケット砲を構えた男が居ます。ボクが対処します。』
アニマトロニクスを展開、九尾の尾が生え揃いシャボン玉のゲートを作る。シャボン玉のゲートは一度行った事のある場所から、目視出来る場所なら何処でも開く事が出来ちゃう。
予めパレードの経路上、その周辺をミニフィーを使って一斉に訪れて座標登録を済ませていた。
男の背後にゲートが開き、振り向く前にステラヴィアの蹴りが側頭部を捉える。その勢いでビルの外壁に叩き付け、キャプチャーネットで路地裏の奥へと吹き飛ばしながら捕縛した。
今までのパレードはドローン席なんて無かったし、こうやって襲撃するメリットも薄かった。パレードを台無しにしても何処がどう得するのかって話。出資元は2つの都市を跨いだ4社のメガコーポ。全部同時に敵に回すなんてあり得ないし、責任も4等分で正直ダメージは薄い。
でも今回はシブサワ独占だから、敵もハッキリしているし仕掛ける明確な理由になり得た。
出来る限り銃声を立てず、襲撃が起きている事自体バレないように刺客達を倒すんだ。最高のお祭りに血生臭い争いの気配は無粋だから。
少数の襲撃者はボク達で倒して、ある程度人数がいる場所へは警備班を当てがう。光学迷彩で姿を消したセキュアポッドが空を飛び回り、ビルの上へ急襲を仕掛けていた。
「ラフィよ、向こうのビルの裏だ。転移で突っ込むつもりのようだぞ?」
大気を支配するカテンさんは、悪者達のコソコソ話を的確に拾ってボクへ伝えて来た。
「アタシが行くから、ラフィは向こうをお願い。」
シャボン玉のゲートの中へタマさんが身を滑らせる。作戦の最終確認をしていた2人の不審者の首へ、ビームシュナイダーが斬り付けられていた。ハイキックが片方の顎を粉砕し、肘打ちで首が取れかかった男の脳を激しく揺らす。
顎が粉砕した男が慌てて転移しようとするも、ブレードランナーの蹴りの一閃が顔を横に灼き裂いてしまっていた。
シャボン玉のゲートから無音で飛び降りたボクは、銃を携えた2人の男女の頭上。真っ直ぐ重力に引かれて落ちて、2人の後頭部を掴んでいた。強化外装の出力任せに地面に額を叩き付け、声も出せないままに意識を手放させる。キャプチャーネットがそのまま捕縛した。
『お見事ですラフィさま。さながらアサシンのような動きですね!』
確かにそういうゲームをやって、カッコいいなって思った動きを取り入れてみたりはしているけど。でも無駄が無くてスマートで良いよね。
「意識の外からの一撃に、咄嗟に踏ん張って対応出来る奴は先ず居ないわよ。ラフィも大分ハイドアクションに慣れて来たんじゃない?」
戻って来たタマさんは感心したように褒めてくれた。
ボク達はパレードに合わせて街を駆け、心配そうにするラズベリーさん達へ定期的に手を振っていた。
パレードは順調に進んで行った。
「始まったぞ。」
影の中、男は大きな強化外装を動かした。そしてその影が、にゅうっと伸びて悪魔の顔を形作る。
「ひゃはは!キタキタキタ!大丈夫、俺に任せてくれって!ラフィをブッ殺す手助けをするって契約したろ?!」
そう、悪魔。
都市では珍しい危険な魔法生物。荒野に潜んで長い間、亜人の部落から治外街を転々としてきた影の支配者。いや、空間の支配者。
「俺が全ての空間を統べる大悪魔だぞ?ひゃは、俺もフィクサーって野郎に用があんだよ!」
下品にゲラゲラ嗤う横顔が影として揺れる。男はその異様な光景にゾッとした。
「復讐って楽しいよな?俺は楽しい!ひゃはは!」
魔界。こことは別の次元にあるそこは、超高濃度の魔力に満ちた世界。強大な魔法生物である悪魔が跋扈するその領域は、それ以外の生物の侵入を固く拒む。魔力に蝕まれ、誰であってもあっという間に死に絶えてしまうのだ。
魔界の統治者を自称する大悪魔が次々と現れては、在野から湧いて出たヤバい悪魔に張り倒されて代替わりする。秩序の欠片も無い世紀末ワールド。
この悪魔もまた、大悪魔を名乗っていた。
「悪魔の癖にヒトに持て囃されて気持ち良くなっちゃってぇ‥‥!ひゃはは、噛み砕いてやる!!」




