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490、ワンコは思ったよりも大きいかも

ディープネオン、エビスタウンの暗がり。そこへボク達は大胆にも突入していた。


「だって怪しいじゃない。ワンちゃんの目撃情報の多い場所に、これ見よがしな転移陣。わざわざ用意されているのなら行くのが定石よ。」


ちょっとメタっぽい読みでアリスさんはボク達を先導する。そして遂に‥‥


「おいおい!ここは開拓者お断りだぜ!」


「ヒヒヒッ!金目のもん置いてけヤァーッ!!」


「俺のティッシュを1000万円で買わせてやっから覚悟しろや!」


現れるチンピラ達。敵とエンカウント!って感じかな?ここで戦闘システムのチュートリアルがホロウインドウに表示された。


戦闘はターン制、一応アクションRPG風にも出来るけどアリスさん達も居るし。最初にダイスで決まったランダムな能力値の内、DEXの値を参考に行動順がシャッフルされる。DEXの値が高いと補正値が入って、ランダムなシャッフルの中でより早く動ける可能性が大きく上がった。

とは言え戦闘特化な技能を取れば、補正が掛かってDEXを底上げ出来るからボクが最初に動けた。


自分のターンが回ってくるまでは、攻撃してもシステム的にはノーダメージで怯ませる事も出来ない。皆は期待した顔でボクへ視線をやっていた。


攻撃の成否は全部ダイスが決める!けどロールプレイ次第で確率を底上げ出来るから!TRPGコンサルタントなフィクサーさんが、ホロウインドウの中からコソッと助言。


1ターンに動ける距離はDEXで決められていて、動ける距離が視界の隅に表示されている。

戦闘中に勝手に動こうとしても、ワンタイムアプリと事前に配布された専用の駆動魔具が連動して動けなかった。ターンが回ってくるまでは大人しく待たないと。

ボクの場合結構動ける上に、技能で移動距離を10m更に追加していた。回避・命中率・移動距離を上げる分かりやすい技能を盛り込んだスピード特化ビルドだよ!


やる事は単純、最初に動いて敵の背後まで滑り込む!移動中敵に近付き過ぎると、ターン無視して1体につき1度だけ攻撃してくる。ボク達も同じ事が出来るから立ち位置を考えておけば、ターンが回ってくる前にガンガン攻撃出来ちゃうんだ。


ボクを狙った数発の銃撃は髪の毛にも掠らない。そして背後へ回り込んだボクは、そのまま手持ちのアサルトライフルで3人のチンピラを薙ぎ払った!


銃種によって攻撃方法が何通りかあって、アサルトライフルなら最大3体巻き込める薙ぎ払いと1体に大ダメージを与える集中砲火が使える。シンプルで使い易そうって思ったからこれにした。


背面攻撃が全弾直撃、機先を制してダメージを稼いだ。


次に動いたのは、まさかのアリスさん。DEXはそこまで高くないけど、ランダムだから運が良いと早く行動順が回って来た。


「ふふん!これがやりたくてこの武器を選んだのよ!」


構えたのはまさかのバズーカ!そして躊躇無くチンピラ達へぶっ放す!!


ディープネオンの地下街でバズーカを撃ったら、衝撃で最悪崩落を起こしそうだけど‥‥ゲームの世界だから、皆が爆風で吹き飛ぶ事も無かった。リアリティよりも面白さを重視したみたい。


チンピラ達は大きく吹き飛んでダウン状態に。


「これで死なないなど、コイツらはサイボーグかなんかでしょうか。」


ブランさんの呆れ声、アリスさんはスッキリした顔で戦果に満足げ。チンピラ達は体力をミリ残りにしながらも、ダウン状態になったせいで全員行動順にデバフが掛かって後回しにされていった。


本来なら次はチンピラAのターンだったけど、ダウンして遅くなったからチズルさんのターン!


「吹っ飛んで散らばったせいで、倒しきれねぇぞ。」


チズルさんは移動距離の長い近接戦闘特化ビルド。1ターンに最大3回近接攻撃が出来る代わりに、銃は使えない。ビームクローで2人のチンピラを串刺しにするも、3人目には移動距離の制約で届かなかった。


「チズル!今のターンにグレネードを投擲すれば纏めて倒せましたわ。所持品にあったでしょう。」


アリスさんの声に、うぐっとチズルさんは立ち止まる。そっか、現実だったらそんなオーバーキルしないけど、ゲームの中だからそういう選択肢もあったんだ。システム的にグレネードは、爆発地点からちょっとでも距離が離れるとダメージが結構減衰して使い辛そうだった。でもミリ残りの敵を一掃するには良い武器だったのかも。


次いで動いたセバスチャンさんが、ビャクヤさんへターンを譲る。


「お嬢様、どうぞ止めを刺して下さいませ。」


「分かりましたわ。では、ご機嫌よう。」


ビャクヤさんのスマートライフルが‥‥倒れたチンピラの側、消化器を撃ち抜いてしまった!ああっ!ダイスだから!命中ロールに失敗、付近へ着弾したみたい。銃の心得が無くてもダイス運で当てられるし、心得があってもダイス運次第で外しちゃう。


勢い良く噴出する真っ白な煙で、敵も味方も全員命中率が激減!1mの距離まで寄らないと当たらない上に、皆の居場所も分からなくなっちゃう。


「きゃああっ?!」


「お嬢様?!」


「オイオイ?!ああっ!クソッ!」


止めを刺すために動き出すブランさん。ブランさんの高度なレーダーは、ジャミングの働く煙幕の中でもしっかり倒れたチンピラを捉えていて。なんかズルいけど、迷う事なく真っ直ぐに。


「良い加減ご逝去なさいませ。」


踏み付けた一撃がトドメとなってチンピラを撃破したのだった。別に経験値が入る訳じゃないから、戦うメリットは薄いんだけど。こういう時は仕方ないよね。


煙が晴れた後、アリスさんはこほんと咳払い。


「‥‥とまぁ、TRPGの戦闘に於いては如何に敵に行動させずに一方的に倒せるかが重要なのですわ。先手を打って攻撃したり、このように行動不能状態に追い込んだり、周囲の状況を利用したり。」


「奥深いんですね。」


戦闘システムは独特だったけど、結構面白かったかも。攻撃と移動以外にも色々出来るコマンドが用意されていたし。投擲とか、組み付きとか、突き飛ばしとか。


FDゲームでもRPGジャンルはあるけど、アクションRPGが多くてターン制は少ない。ボク自身ターン制は初めてやった。色々考えながら出来そうで面白いなって思った。


「拡張性次第ではかなりコアなゲーマーを生みそうですわね。ターン制だから銃撃戦なのにしっかり考えて動けるのが良いですわ。それに結果がダイス次第なのも意外性があって面白いですわね。」


ビャクヤさんも好感触。好きなものを共有出来たアリスさんは嬉しそうにしていた。


チンピラ達を倒したら、亡骸‥‥というとなんか嫌だな。体からドロップアイテムを漁れるようだった。経験値は無くても、ドロップアイテムはあるんだ。


「ラフィ様、幾ら相手がチンピラと言えど追い剥ぎ行為はどうかと。」


『にゃは、ゲームの世界と言えどここはプライベートルームの模倣品の中。全部がナノマシンで構成されただけの現実空間です。FDゲームとは大分感触が違いますね。リアルじゃ出来ない無茶苦茶をやるにも一定の才能が求められそうです。』


うっ、ボクも内心でちょっと感じてた。完全に電子の世界なら罪悪感も無いけど、ここは現実。TRPGの体で行うリアル世界でのレクリエーション。気にするのは無粋って分かっていても、チンピラの体を弄るのは気が引けた。


けれどアリスさんは気にせず剥ぎ剥ぎ‥‥


「ビャクヤさん?その視線は何かしら。やめて下さる?」


「これはゲームですものね。しかし令嬢が部下に任せずしゃがんで追い剥ぎだなんて、少々はしたなくてよ。」


アリスさんのジト目、ため息を吐きながら前で引っ張り出されるチズルさん。セバスチャンさんも同じように前へ出てチンピラを弄った。


「ビャクヤさんは少しばかり緊張しているのかも知れませんわね。ラフィ様も居るのですから、もっとリラックスしてゲームを楽しみましょう。切り替えて楽しめなければ、勿体無いのですから。」


仲良く一緒に遊んでいても、隙あらば言葉で小突き合う2人。険悪じゃないけど、上品なじゃれ合いは2人の距離を適度に保っていた。


そして手に入ったワンコの首輪。それは‥‥


「奇妙ですわね。」


「はい。首輪が強い力で引き千切られたようです。」


「犬の首に付いた首輪を外す際、刃物を使わず力任せに引き千切るものでしょうか。」


「噛まれそうだな。何が目的なんだ?首輪にはなんもねぇよな。」


アリスさんはポン、と手を打った。


「もしかしたら実は凶悪な生物兵器だったワンコが、制御不能に陥って巨大化しながら暴れていたりなんて。」


こういうゲームだとそんな話あり得るの?


「お言葉ですが生物兵器なんてナンセンスで御座います。バトロイドよりも制御が難しく維持費が高く使い勝手最悪な生物兵器を優先開発する理由は御座いますか?」


ブランさんはちょっと対抗意識を燃やしたよう、アリスさんの吹き出しに意見の横槍を突き刺した。


「アリスさん、そんなおバカな話があるでしょうか。まったく、トンチンカンな事を。」


あれ?今ちょっと。


「何よ!!言ってみただけじゃない。TRPGなんだからどんな無茶苦茶が起きても不思議じゃないのですわ。ビャクヤさんは疎い所が御座いますの。」


わっ‥‥わわ。


「お嬢様。先程から揺れを感じます。一応警戒を。」


揺れてる!揺れが近付いて来てるよ?!


嫌な気配を感じたボク達は、慌ててキョロキョロ。直ぐ近くに封鎖された空きテナントのレストランを発見。飛び込むようにレストランの中へ退避する。


それが、ぬっと通路の角からこちらを覗き込んだ。


可愛らしいワンコの顔が───ゾウさんぐらい大きなワンコの顔が、むくつけき巨体の上に乗っかっている。


筋肉‥‥ムキっ。ムキピチムッキャムキャの体は体毛が薄く、何故かタンクトップを着ていた。当然のように二足歩行で歩き回り、通った後にあざとい肉球の跡が残されていた。


思わず変な声を上げそうになったチズルさんの口を、慌ててボクの手が塞ぐ。皆テーブル席の下から通路をコソコソ覗き見ていた。


(おいおい‥‥!アレを捕まえるのか?倒すならともかく捕獲は無理だろ?!)


(これは確かに考える必要がありますね。)


(何よ面白くなって来たじゃない。)


(可愛いワンちゃんがあんなお姿に‥‥!悪趣味ですわ!)


(これは骨が折れそうです。)


(当機なら片手で仕留められますが、生憎ゲームの世界ですので。)


ううっ、慌てて逃げ込んだせいでテーブル席の下で皆ぎゅうぎゅう詰め。せ、狭い!口を塞いだ勢いでチズルさんと密着したまま、ふと暗がりの中で目が合うとちょっとドキリとしちゃう。


あっ?!チズルさん?!変な所くすぐらないでって!今は危ないですからぁ!


テーブルが、ガタン。


そして急に始まるダイスロール!!そう言えばこの中で隠密系の技能とか取ったヒト居たっけ?!


判定失敗の音のだるま落とし、ぴゃああっ?!とテーブルの下からにゅるんとはみ出るボク達。そしてこっちを覗き込むムキワンコと目が合った。


「貴様らカァッ!!!!」


鬼の形相!!


「キャアアアァァァ?!!!シャベッタ────?!!!」


なんかすっごい怒られたのだった。

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