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489、皆でTRPGっ!消えたワンコをサイバーシティから探し出せ!

ドアの向こう、真っ白な空間にボク達は立っていた。ハグルマさんの説明通り、今から行うのはキャラ作成。


TRPGとは、テーブルトークRPG。ルールが詳細に決められたごっこ遊びのようなもの。アレやりたい、コレやりたいをダイスを振って出目で成否を判定するんだ。ボクは初めてだけど、アリスさんは経験者みたいだった。


「よく知っていますわね。」


ビャクヤさんへちょっと得意げなアリスさんは。


「どんな知識もどこで役立つか分からないものですから。」


経験者としてボク達へ色々教えてくれた。本来キャラクターを決めるのに、名前年齢職業の他沢山あるステータスに、出来る事を羅列した技能を決めたりと大変。30分は掛かるんだって。


でもこれはカジュアルに楽しめるというのが売りだから。


「職業は開拓者固定ですね。」


「要は開拓者ごっこを楽しむんだろ?なんか複雑だな。」


元子供開拓者のチズルさんは面倒臭そうに設定を進めていた。使う武器の種類は1人で2種類持てて、得意な特技を3つ選ぶ。特技は100種類以上あって、やりたい事で絞って検索出来た。


「当機はラフィ様をサポート致しましょう。」


「大丈夫です。折角ですし自由に決めちゃいましょう。」


アリスさんとビャクヤさんは楽しげに開拓者になった自分を形作っていた。よっ、とボクの肩を叩いたチズルさんは小声で、


「これ開拓者がやるゲームじゃねぇな。」


なんて。


「あはは‥‥でも、面白そうですし。楽しんだ者勝ちですよっ!」


チズルさんがグイグイと寄り掛かって戯れてくる。この空間にはボク達しか居ないから、護衛として気を抜けるって感じなのかな?あの‥‥近いです。


「嬢ちゃん達が終わるまで暇なんだし良いだろ〜?癒せって。」


ブランさんのチョップがチズルさんの頭を揺らし、アリスさんとビャクヤさんの視線を前にサッと姿勢を正した。チズルさんは前よりもお肌も髪もずっと質が良くなってて、お嬢様みたいで。距離が近いと自然と心臓が速くなっちゃう。そっぽを向くボクの背中をツンツン突いて来た。


「さぁ!ゲーム開始よ!」


アリスさんが言えば、バァッ!と真っ白な空間に急に色が付く。そしてあっという間に、ボク達は往来激しい道路を見下ろすビルの上に立っていた。


「わっ?!」


『ふむ、ARだけじゃありませんね。』


そう、靴裏の感覚が正しく強化コンクリート。建物の屋上でよく踏む感覚に変わっていた。景色はARだけど、漂う空気感は完全に屋外。都市の匂いが漂って来た。


「凄いわ!急にこんな変わるなんて!」


「確かに次世代型ね。FD(フルダイブ)系特有の浮遊感が無い分没入感が強いわ。」


もしかして、ナノマシンを使ってる?


「おそらくは。フリースタイルナノマシンと別種ですが、独自開発されたものの様です。質感は非常に近いものの、強度では劣りますね。兵器運用では無く、完全に娯楽用と割り切った性能をしています。」


ブランさんは軽くスキャンして、この不思議空間を調べてくれた。


ボク達のスマイルにピコン!と早速指令が入る。


『カネモチ兄弟の脱走したペットを捕まえろ!!』


指令はこれだけ。手順は完全に自由。一応制限時間はあるけどかなり長めで、普通にプレイしていたら気にならないレベルって聞いていた。


早速皆で頭を突き合わせてミーティングを。


「脱走したペット‥‥?ザックリしているわね。」


「先ずはペットが何なのか調べないといけませんわ。」


スマイルを開く。ゲーム中ワンタイムアプリの中に、仮想スマイルの画面が表示されていた。その中にハムハムも入ってる。開拓者なボク達は口出しを最低限に、アリスとビャクヤさんメインにお話を進めようって流れで挑んでいた。


「因みにラフィだったらどれくらいで発見出来そうかしら。」


「ええと、それは事前の情報の量と探す範囲で変わります。」


「しかしラフィ様は捜索任務を得意とする開拓者で御座いますので。ヤマノテシティ内でしたら何処へ居ようと1日以内には発見可能かと。脳波を記録した人物でしたら30分以内で御座います。」


そうは言ってもジャーノンの件もあるし、手間取っちゃうとそれなりに掛かるよ。ヒト探しなら確かに、ヤマノテシティの大体の場所に転移ゲートを開けるから。各地へミニフィーをばら撒けば直ぐに脳波を拾えるかな?


「チズルは?」


「ウチはそういうの得意じゃないっていうか。言っとくが得意な奴の方が稀だぞ。専門家に頼めって話。」


2人は感心した顔でボクを褒めてくれる。ちょっとこそばゆい。


「万が一の時はラフィに頼るとして、先ずはやってみないとね。そうよ。私達はカネモチさんでしたっけ?随分なお名前ですが依頼人の事を知りません。」


そこで仮想スマイル画面を見やれば、開拓者アプリが入っていた。依頼を受けたのなら依頼の遂行に必要な情報はそこに揃っている筈。


先ずは一歩前進にアリスさんはムフッと鼻を鳴らす。けど‥‥


「あら?依頼人の身元の確認にダイスロールが必要みたいね。」


「チュートリアルかしら?依頼人の身元を確認するだけでロールが要るなんて変ね。」


あっ!ホントだ!調べ物は‥‥検索ロールだっけ。事前に決めた特技の内容でこういったロールの成功に必要な値が上下する。一個一個値を手入力で決めるんじゃ無くて、特技の方向性や組み合わせでザックリと上下した。


ボクは戦うのが得意、ブランさんは調べ物が得意‥‥みたいにね。


でも不得意でも皆ダイス自体は振れるから‥‥


半透明な100面ダイスのARが人数分、一斉に現れてボク達の目前に転がった!!


ボクは35以下の出目を出せば成功‥‥!!77っ!あうう!失敗!


ブランさんは85以下の出目を出せば成功!高確率!絶対当たる!


「ふむ、初回で出目の100を引いてしまいました。」


アリスさんのあんぐりとした顔。95から上が出たらファンブル、結果が強制的に失敗した上で悪い事が起きる。100なら‥‥すっごい悪い事が起きる。


「あっ?!」


ボク達のスマイル仮想画面の中、開拓者アプリが謎のエラーを吐いてクラッシュしちゃった?!そんな事ある?!


「クソ‥‥結果は連帯責任かよ。依頼人不明のペット捜索依頼っておかしいだろ。何処に報告すりゃいいんだよ。」


ブランさんは運が悪いのかな。開幕から起きたカオスに、ホロウインドウの中のフィクサーさんは楽しそうにゲラゲラ笑っていた。


因みにシナリオは全部AI自動生成、同じシナリオは2つとない。ダイスの結果で大きくシナリオが変わっていくのもあって、無二の物語を皆で紡いで行く事が出来た。


こうなったらSNSアプリで検索を掛けるよ!オカネモチさんの名前で検索!


名前は直ぐに出てきた。簡単な調べ物ぐらいだったらダイスは無いのかな?開拓者アプリで調べれば確かに住所を含む依頼人の詳細まで出せるし、そういう情報に繋がるものにはダイスが必要なのかも。


「オカネモチさんは孤児院を運営しているのですね。」


孤児院の住所を調べようとするとやっぱりダイスを求められた。


お願い!成功して!


ボクの成功確率50%。ロールの内容によっては何段階かに成功確率が変わるみたい。今回は簡単な調べ物だからか、シナリオ的に重要度の低い情報だからか。調べ物が苦手なボクでも確率が高かった。


皆で振った結果3人が成功した。ボクも成功したよ。ちょっと嬉しい。検索結果に出た孤児院の住所は‥‥エビスタウンにあるみたい。


エビスタウンに、孤児院?すっごい土地が高いのに。本当に孤児院かな?リアル知識で思わず訝しむ。


「ならその近辺を探せば良いのですね?」


ワクワク顔のビャクヤさんは、捜索対象の写真を皆に見せつけるよう表示する。捜索対象の画像をダイスロールで調べ上げられたみたいだった。

男の子と首輪を付けたワンコの可愛いツーショット。アングルスに居た頃もよく迷い猫の探索をやったな。


「ヤマノテシティの中層には野良猫は居ても、野良犬は居なかったよな?結構目立つんじゃねぇのか?」


「先ずは現地へ参りましょう!」


目的地をマップアプリで指定すれば、急に周囲の風景が変わる。砂のように全部がバラバラに消えて、新たな景色をナノマシンが再構築して行く。驚くボク達は、一歩も動かずにエビスタウンの雑踏の中に立っていた。行き交うNPCはランダム生成された人々のARで、印象に残らない顔つきに表情が無い。ボク達に無反応だった。


「こうやって移動するのですね。激しい運動が無さそうで良かったです。」


汗をかくとお化粧が落ちちゃうかもだし。アリスさんはほっと胸を撫で下ろした。


どうやって探す?アリスさんが言うに作戦会議がTRPGのキモ。1番楽しい瞬間だって。


「当機の追跡システムを使いましょう。」


ブランさんの追跡システムは掠りもせず、ごっこ遊びの空想の中を迷うワンコは尾を掴ませない。


「ゲームシステム的にそういうズルは出来ないわよ。例えばね。」


アリスさんはザックリと探し方の方針を並べて行った。


1番安易かつ、もっとも時間が掛かる地道なロールプレイ。ひたすら彷徨って足で稼ぐ。多分成功率の低いダイスを数回成功させれば、それでもゴリ押しで突破出来るかもとアリスさんは経験則を語る。


「ねぇ?このゲームはどれぐらい完成度が高いのかしら。わざわざ私達で探す必要なんてありません事よ。」


ビャクヤさんはSNSでワンコを探させるようにすれば良いって。


「懸賞金を掛けましょう。私達の元へ連れて来た方には賞金を差し上げますわ。」


ここで一つ、重要なゲームシステムを思い出す。


「確かにキャラ作成時にランダムで収入が決まるわ。ただ、依頼の報酬金額以上にお金を使った場合クリア評価が落ちて行くのよ。今回は額も少額なチュートリアルみたいな感じだし、お金の力のゴリ押しは難しいんじゃない?」


そもそも‥‥


「お嬢様、今のお嬢様の収入額は月20万円。庶民的な手取りとなっておられます。そのようなお金の使い方は厳しいかと。」


「えっ?!」


開拓者体験ゲームだけど、運が悪いと結構収入が低くなっちゃう。ボクは月100万円稼ぐ開拓者さん、ブランさんも似た額だった。でも‥‥


「そういやウチの収入は5000万だったか。もしかして1番金持ちか?」


月収50万円のアリスさんに、ちょっと優越感な表情を向けるチズルさん。もぅ!って小突かれてヘラヘラしていた。


「あの、でしたらSNSに呼び掛けてみましょう。手掛かりが掴めるかも。」


ビャクヤさんの案をちょっと変えて、ダイスに挑む事に。情報が得られたかを幸運を測るダイスで判定する。


ボクの幸運は80!ラッキーボーイだよっ!ふふん。


出目は65!やった!


ダイスを成功させた小さな成功体験が心地良い。確かにTRPGは面白いかも。結果SNSのアカウントへ、ヤマノテシティじゃ珍しい迷子のワンコ写真が集まって来た。


おおっ!捜査がアイデアで進展。写真の背景からマップを開いて範囲を狭めて行く。皆でこの背景はあそこだ、ここかも、と話し合いながらピンを立てていった。目星を付けたエリアにぴょんとジャンプして行くよ!


景色がエビスタウンの裏路地に、着くなりブランさんが適当にダイスを振る。


「結局技能によってシナリオが進むのでしたら、ダイスをほん投げてゴリ押しましょう。」


目星っていう技能はその場にある手掛かりを、ロールプレイ無しで入手出来ちゃう便利な技能。ブランさんは探索特化!85%で成功だよ!


「終わったらトールをはっ倒しておきましょうか。ダイスが腐ってます。」


99‥‥?!


ファンブル!何で?!2回も!!


「貴女何を見つけちゃったのよ?!」


あっ!勝手にボク達全員のダイスが振られてしまった。判定内容は‥‥幸運ロール?!


「きゃあっ!失敗です!」


ボクでさえ成功確率25%!多分最高難易度判定!!

ううっ、セバスチャンさん以外全員失敗しちゃった。セバスチャンさんは少し申し訳なさそうにしながらも、そっと壁際に寄った。


「当機の視覚モジュールには割れた空き瓶に混じって、グレネードの類が転がっているように見えますね。ええ、ファンブルによって生えて来ましたようですファッキン。」


開拓者や傭兵さんが戦った時に、ピンが抜かれて投げられたのに爆発しなかった不発弾。それをブランさんが不運にも蹴飛ばしてしまっていた。


「ピィッ?!」


「貴女?!」


「何よコレ?!」


「うおっ?!」


路地裏がボンッ!ボク達は吹き飛んで転がるも、クッションに身を投げたような感触に支えられる。ビックリするけど痛くはない。でも耐久値っていうステータスが減っていた。0になったら作戦行動不能、任務失敗。


路地裏の煙が晴れる。よろよろと起き上がるボク達は、無傷で佇むセバスチャンさんに声を掛けられた。


「お吹っ飛びの所すみませんが、怪しい地下への入り口を発見致しました。今の爆発で穴が空いたようです。怪我の功名とでも言いましょうか。」


チズルさんのキックをブランさんが受け流すやり取りの後ろ、ボク達は壊れたゴミ箱から覗いた転移陣を覗き込んだ。何処へ繋がっているんだろう。


「聞いた事がありますわ。エビスタウンにはこういうエビス地下街、ディープネオンへ続く違法な転移装置が点在するのだとか。」


TRPGで役立つ最大の武器はリアル知識。知っている事が多い程ダイスを挟まずともズンズンシナリオを押し進められる。


「だったらブランが最初に飛べよ!おら!アリス様をお吹っ飛ばしたケジメだ!」


チズルさんにグイグイ背中を押されたブランさんが、早速転移陣の上へ。その姿はすぐに消え、ボク達のスマイルへ無事の連絡が来たのだった。

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