488、4日目。両手の赤と青の花を連れて
学生達が帰った後になって、やっとミュージカルが終わったボクは虹渦島へ。スゥさん達と合流しなきゃ。終わった後の打ち上げに顔を出せないのがちょっと残念‥‥だけどボクにしか出来ない事があるから。大丈夫、これでもEXPOは楽しんでるし。
スマイルからトークルームへの送信音が。
『ラズ』
ラフィくん!聞いたよ!クラスの皆を虹天リゾートタウンに招待したって!
なんかズルいよ〜!
『グミ』
私らが汗流してミュージカルしてる間にアイツら‥‥
『カラント』
ヒヒヒ、まぁ色々あってのぅ
機密だから語れぬが
『アマネ』
でもあそこ行きたいよね
激アツスポットだし
虹天リゾートタウンへのご招待は機密じゃないし、クラスメイトから写真を送られたのかな?
『ラフィ』
EXPOが終わったら、サプライズがありますので!
楽しみにしていて下さい!
全部が終わったらグランドプリンスホテルへご招待だからね。最高の休日を楽しんで貰うんだから!
スゥさん達はレストランでお食事を済ませた後、お風呂を堪能したようだった。そう言えば向こうにお風呂の文化は無かったな。魔法で身綺麗にするのが当たり前で、わざわざお湯を沸かすなんて労力の掛かる事をしていなかった。
『ラフィ、お風呂と言ったか?不思議な感覚だった。』
「気持ち良かったですか?」
『気持ち良い‥‥そうか。そういう感覚か。不思議と力が抜けていくような、安らげる気持ちになれた。』
ブランさんが入り方を教えてくれたみたいで、ちゃんとお風呂を楽しめたようで良かった。
「ブランさん、お疲れ様です。」
「当機のスペックからすれば団体様を2組ワンオペでガイドするぐらい訳もありません。」
ブランさんじゃないとスゥさん達としっかり意思の疎通が出来ないから、どうしても頼っちゃった。今思えばクラスメイトの皆はカテンさんに任せた方が良かったかな?でも農業のお仕事もあるし。
「スゥさん、ここは気に入りましたか?」
スゥさん達にとってこの島は神話の世界。けれど島の内部は想像以上に神秘に満ちた、神話をも超えるような場所。展望台から見下ろした大花の森はあまりに美しいんだ。
『ああ。最高の経験だった。また来たいと願う。』
「交流会は定期的にやる予定です。」
『今から楽しみだ。』
こうしてスゥさん達を静謐の揺籠へ送って、3日目が終わったのだった。
4日目。折角のEXPOボクと楽しみたいって声は沢山上がっている。その中でもボクはアリスさんとビャクヤさんのお誘いを受ける事になった。ブランさんが裏でボクへ届いた指名の護衛依頼‥‥一緒に遊びたいっていうお仕事の競りをやっていたらしい。
中でもボクと面識のあるヒトがより優先で、結局2人が勝ち取った。ウマミMAXのご令嬢と、赤翼ホールディングスのご令嬢。既にEXPOでの挨拶回りとかも済ませて、オフみたいなノリで楽しみたいんだって。
「ラフィ様、個人的に遊びたいという要望に近いですがこれは護衛依頼になります。ラフィ様のお時間を買い取ったという事実が大切なのです。」
対外的にボクとの交友関係をアピール出来る。ボクへの護衛依頼を面識のないヒトが投げるのはハードルが高くて、こういう機会に安定して依頼出来た実績がいろんな方面で活かされる‥‥そんな説明を受けた。
そんな特別扱いをされるのも何だかむずむずするけど。
皆がショーで盛り上げる傍ら、ボクはボクのお役目に忙しかった。
「ラフィは今日もモテモテよねー。」
朝ごはんの最中タマさんはジト目で見やる。
『まぁラフィさまは特別ですから!にゃは、タマがそういう領域へ達するのなら1大スターとしての輝かしい実績と、誰もの視線を釘付けにするワガママな容姿が求められますよ?ああ、お笑い芸人路線ならキャラ性が受ければ大分ハードル下がりますね!』
ボクのスマイルへクイックハックが飛んで、フィクサーさんの頭に落ちてきたタライのアニメーションが直撃した。気軽にクイックハックが何度も飛ぶボクのスマイルのセキュリティは大丈夫かな?
「フィクサーが出入りする分、正直セキュリティに穴が空いてるわ。アイツもセキュリティに阻まれると身動き取れないのよ。ま、フィクサーが中に入れば何かサイバー攻撃受けてもどうにかするでしょうけど。」
フィクサーさん自身が最強のセキュリティソフトの役目を果たしてくれているみたい。アニメーションのツッコミを甘んじて受ける辺り、タマさんと仲良さそうで良かった。
『ラフィさま、4日目から新たに開設されるブースのご案内をするんですよね?随分出遅れていますが、それでも聞いた話がマジならEXPOの話題を掻っ攫うでしょう。』
それまで黙って食べていたカテンさんの視線が向く。
「何を出すのだ?」
「あのトール兄妹が、新作レースの他に面白いゲームを出すんです。FDVRを超える、次世代の没入感を売りにしたものなんです。ボクはゲーム好きですし、試してみたいなって。」
「FDVRか。ううむ、我はアレが苦手でな。」
FDゲームは龍が操作する事を前提に作られていないから、ゲーム内でヒト型のアバターを操作するとなるとすっごい違和感が強いみたい。歩いたり、ジャンプしたりみたいな簡単な操作すら覚束なくて。飛び回れない事が結構なストレスになったようだった。
「今日は我はEXPO会場を一般客として回って見るとするか。金はあるし、我も準ニホンコク人。問題なかろう。」
「良いんじゃない?土弄りばっかじゃ疲れるでしょうし、偶には遊んで来なさいよ。」
朝ごはんが片付く頃には皆の今日の予定を確認し終わり、そのまま解散になった。タマさんはショーの合間合間に、デビルズ・エコーの衣装を着て会場のあちこちに顔を出すらしい。デビルズ・エコーのファンだって多いんだし、サービスしていかないと。
頑張って!と手を振って別れた。
『ではでは私達はそのままご令嬢方と合流しましょうか。』
「ラフィ様、当機が場所まで案内致します。」
ブランさんとフィクサーさんと一緒に、会場の入り口まで足を向けたのだった。
「ラフィ!」
ボクを呼ぶ声。そして優雅な足取りでアリスさんがやって来る。チズルさんも一緒だけど、大勢の護衛は連れていなかった。赤いドレスがとっても綺麗で、見惚れるボクの反応に急にニヤニヤ。けれど直ぐに表情を正して上品に挨拶を。
「今日は私の護衛依頼を受けてくれてありがとう御座います。今日一日、宜しくお願いします。」
「はいっ!任せて下さい。一緒にEXPOを楽しみましょう。」
チズルさんが挨拶する前にニコニコしながらボクの腕を抱き、ドキッとするボクを引いて早速中へ‥‥あの?まだビャクヤさんがぁ‥‥!
「ちょっと?アリスさん、ウマミ家のご令嬢はおてんばなのですね。」
振り返った先でビャクヤさんが立っていた。青い髪に似合うドレスがとっても綺麗。後ろに執事のセバスチャンさんが控えていて、小さくため息を溢している。ボクから離れたアリスさんも笑みを深め、口元をAR扇子で隠しながら挨拶を。
「あら。居たなんて気付きませんでしたわ。ふふ、寝起きでオーラが少々影っているのかしら。ご機嫌よう。」
2人はにこやかに笑い合う。間にそそっと入ったボクもビャクヤさんへ挨拶を。
「おはようございますっ!今日は皆で最高の1日にしましょう!」
ボクの笑顔に返ってきた、ビャクヤさんの満面の笑み。
「そうね!ラフィ、今日は宜しくお願いします。ふふっ、最近会えなくて寂しかったんだから。」
ビャクヤさんがボクの腕を抱いて、アリスさんもぐいぃっと。あの‥‥
「申し訳ありませんが、護衛依頼ですのでラフィ様の両手を塞ぐのは止めて頂けないでしょうか。」
ブランさんの声にセバスチャンさんもうんうんと頷く。
「ビャクヤ様、少々はしたないのでは。淑女が公衆の前で殿方に身を寄せすぎるのは要らぬ誤解を生みますので。」
セバスチャンさんをジトーっと睨むも、パッと腕を離してくれた。
「アリス、目立ってるぞ。人目がある場所では慎めって。」
チズルさんに言われれば、分かってるわよ!とアリスさんも離してくれた。久しぶりに会えてボクも嬉しいけど、流石に人目がある場所であんまりベタベタするのはね。2人にも立場があるし、あちこちに迷惑が掛かっちゃう。
「その‥‥そういうのは後で、です。」
指の出ない袖先が気恥ずかしいボクの口元を隠す。2人の前まで駆けて伝えておいた。仲良くしたいのはボクも同じです。でも今は‥‥ね。
「ラフィ‥‥!」
アリスさんが思わずって風に指をワキワキ。ビャクヤさんもニヤニヤ。2人を守るようボクは前を歩いて、早速行きたいってオーダーを受けた今日解放される新設ブースへ。
トール兄妹が率いる工科学部が出したそれは既に賑わっていた。なのに並ばずにスラスラとヒトが流れて行く。
「ラフィ!ようこそ、新設ブース!!フリィィィィコンパァスへッ!!このトール・マァックスがご案内しよう!!」
ボク達の前へ躍り出た、トウキョウ工科大学魔具工学部。その部長さん。マックス財団を束ねる大天才は、ちょっと変わり者で有名で。アリスさんとビャクヤさんはそれでも態度に出さず、優雅に一礼して挨拶を交わした。
「貴方の噂はかねがね。ウマミ・アリスと申しますわ。」
「噂以上のお方のようです。アマカケ・ビャクヤ、お見知り置きを。」
トールさんはボクへ一礼、他のヒトがアウトオブ眼中。無視された2人は笑顔でも目が笑っていない。トールさんの肩を掴もうとするチズルさんの前、慌てた様子で副副部長のハグルマさんが滑り込んで頭を下げた。
「アァ───ッ!!ほんっとうに申し訳ありません!!ようこそトウキョウ工科大学魔具工学部新設ブースへ!!私ハグルマが案内致しますので!!部長は!!向こう見てて下さいッ!!」
「おわっ?!押すな!蹴るなっ!分かったから!!」
レディ・マックスさんが居ればそれとなくフォローを入れてくれるけど、今はTO・TOレースの方に掛かり切りみたい。勢いの良い謝罪に、チズルさんは毒気を抜かれた顔で怯んでしまう。セバスチャンさんも鋭い眼光をひそませた。
「ハッ、噂通り随分やんちゃで元気の良い部活で御座いますね。初対面でラフィ様をベタベタ触ったやんちゃ坊主をちょっとシメてやろうと思っていたのですが。」
「ブランさん。ステイ、です。」
これ以上騒ぎを大きくしないで下さい。もぅ。
『あの勢いは相変わらずですね。ワタシはぶっちゃけ嫌いですが、優秀なのが更にムカつきます。』
フィクサーさんも前回好き放題されたお陰で言葉の棘を隠そうとしなかった。
ハグルマさんに案内された先、それは横に5個並んだ大きなドアの前。あれ、このドアって。
「これはプライベートルームかしら。」
ビャクヤさんの声にハグルマさんは手揉みしながら頷いた。
「はい!流石ご慧眼で御座います。しかし純正品ではなく、その構造を真似てマックス財団の方で造られた“ダイス・ルーム”となります。これはとある用途に特化して造られた空間で、この用途こそが私達魔具工学部の新製品となるのです。」
ボク達のホロウインドウへピコンと通知が。
「お楽しみ頂くには、専用のアプリのインストールをお願い致します。」
「わざわざワンタイムアプリだなんて。律儀ですわね。」
ワンタイムアプリ。文字通りこういう特殊な施設を利用する際に自動でインストールされるアプリの事。スマイルの内部情報に干渉出来ない一時的な保存場所にインストールされて、用事が終わったら自動で削除されるんだ。
勝手にインストールされるって思うとセキュリティに問題がありそうだけど、ワンタイムアプリなら大丈夫。スマイルの基本機能で、完全に内部とシャットアウトされたメモリ内に落とされるだけだから。勿論セキュリティソフトを経由して内部を精査させるけど。だから万が一ウイルスの類があっても、スマイルに一切影響を及さなかった。
「では、アプリの説明から致します。」
他の来場者さんはアプリを落として、そのままドアの中へ入って行く。でもボク達はちゃんと説明を受けられるみたいだった。
「今回の催し物はカジュアルTRPG・フリーコンパスで御座います。」
「TRPG?!」
思わず大きな声を出したアリスさんは、顔を紅潮させてはしゃいだ風だった。
ーワンタイムアプリー
施設ごとにスマイルの機能を最大限活用して、より快適かつスムーズな利用を実現する便利なアプリ。
代表的なモノと言えばレストランや定食屋でのメニューアプリ、コンビニやスーパー内での商品案内アプリ、駅構内での乗り換え案内アプリ、web予約したお店へのAR道案内アプリ等。
その場でパッとインストールされ、脳波でサクサク呼び出して誰もが迷う事なく施設を利用出来る。
お客様が従業員へお声を掛ける機会は大幅に減り、従業員のストレスが大幅に緩和されたというデータがあった。




