486、巨額の負債の行末は
「申し訳ありませんでした!!」
ボク達の前で、校長先生に並んでドジコさんとフランサさんが頭を下げる。その後ろでクラスメイトの皆と教員さんも頭を下げていた。
ボクの知らない所で色々あったらしいけど、ブラックカラントさんとアマネさんからブランさんとカテンさんに勝ったって勝利のメッセが届いていた。
キュエリさんが前に出てお話を。
「今回の件はニッポンイチとの協議の結果不問とする事になったが、守秘契約は結んで貰う。しかし‥‥逃走を選ぶとは。お陰で事態がややこしくなってしまった。メガコーポ2社を動かしたのだぞ?何をしたか理解しているか?」
まだカラントさんのスポンサーのお話は世間に出回っていないけど、エンジェル・ベリーへ助けを求めたお陰で一気に事件が大きくなっちゃった。クラスメイトを助けたい一心で正義のヒーローに助けを求めたんだし、仕方ないと思う。
『しかしそうなるとは思わなかった!では済まされない事は幾らでもあります。にゃはは、開拓者へ依頼を出す前にクラスメイトはまずラフィさまへ直談判をするべきでしたね!』
「それか開拓者ではなく、企業戦争に強い弁護士に相談するのも良かったかと。開拓者へ依頼を出した時点で、クライアントとなって武装企業へ交戦の構えを取る事になりますから。」
フィクサーさんとブランさんの見解も正しいと思った。それでもそんな判断を直ぐにするのなら場慣れしてないと厳しそう。あの時は教員達も敵だったし、時間も無かったよね。
とは言え、仕方なかった!じゃ済まない騒ぎに発展する寸前だった。キュエリさんが怒る気持ちは当然だし、そもそもの発端が受付のお仕事をサボろうとした2人の行動が原因。
『事件の原因は幾つも存在します。2人の行動がキッカケにはなりましたが、それ以前にお祭り騒ぎの中連勤でお仕事をしなければならなかった環境にも原因がありますね。そしてそういう状況にならざるを得なかった学園交流大祭の仕組みにも問題があります。』
他にもスゥさんがスマイルの画面に起きた異常を報告しなかった事、スマイルに何か異常が起きた際の対応マニュアルが無かった事、スゥさんのスマイルのセキュリティ対策が万全じゃなかった事、警備体制にサイバー攻撃の可能性に備えが無かった事。
事件が起きるまでの要因は沢山あって、丁寧に掘っていけば色んな問題が浮き彫りになった。
キュエリさんも分かっているから、それ以上叱る事も無く淡々と皆と守秘契約を結ぶ手続きを始めていった。
要因は無数にあっても、結局事件の直接的なキッカケを作った張本人に全責任が負わされがち。怖い思いをする事になったけど、この経験から色々学んでくれたらいいな。
「キツく指導を致しますので、温情のあるご対応に感謝致します。」
校長先生はそう言って、再び深く頭を下げていた。そしてもう一つ、忘れちゃいけないお金の話。
「エンベリの面々は多忙でね。私の方からついでに話をするよう要請が上がっている。クラスメイトの君達が仕事を投げたのは、ランク8の開拓者ブラックカラントとアマネだ。今回は護衛依頼だから、報酬上限は一人当たり100万円だな。」
開拓者はランク10を超えるまでは基本報酬の上限は100万円。ランク5までが50万円と考えたらその2倍。今回は都市運営委員会を支えるメガコーポと敵対する内容の護衛依頼。
「普通に考えたら基本報酬だけでは足りませんね。仮にラフィさまへ頼むのなら億は下らない内容で御座います。」
結果は穏便に済んだけど、一歩間違えたら死者が出てもおかしくない危険な依頼。基本報酬額で負える責任を大きく逸脱した内容が認められた場合は、相応額の追加報酬を支払うよう組合から強い勧告が入る。低ランク開拓者相手なら無視も出来るけど、そうなったらブラックリスト入りでそのクライアントはもう組合へ依頼を出せなくなった。
これがそこら辺の傭兵旅団や、小規模な野盗からの襲撃の可能性有りぐらいだったら良いんだけど。そもそも低ランク帯だと指名依頼以外で受けれるお仕事は、少額報酬の小さな仕事しか無いから。
魔法少女の皆は強いけど開拓者としての歴は短い。芸能依頼だとランク査定にあまり加算されなくて、よっぽど大活躍しないとランクが上がらなかった。
『1年でランク30へ到達したラフィさまがおかしいだけですよ。普通はランク10にも届きません。5にでもなっていれば将来有望株として注目されますね。』
100万円と聞いて、クラスメイトの皆はざわざわ。ドジコさんとフランサさんも顔を青くする。アルバイトで稼いでも、そんな大金を用意するなら親へお願いするしかない。
「‥‥言っておくが、これは基本報酬だ。結果簡単に決着が着いたものの、報酬計算は成し遂げた事の大きさで判断される。基本報酬上限100万は確定として、メガコーポ相手の大立ち回りが安く買えると思うなよ。ここで下手な値引きをすると今後ブラックカラントとアマネが安く買われ続ける事になるし、組合の築き上げた相場にケチが付く。」
シビアな問題。誰もがこの世の終わりのような顔で俯き、恐怖に縮み上がった。ボクも色々お仕事したから分かる。5000万円は絶対に超えるし、間違いなく関係者の家族はとんでもない出費を味わう事になる。
ここに居るクラスメイトは10人、一人当たり500万円以上。
敵は都市運営委員会を務める、ガチガチの武闘派武装企業シブサワグループ。負うリスクは計り知れないし、リスクはしっかりお金に換算された。
少しして、キュエリさんはため息を吐く。
「‥‥が、依頼の正式な手続きが後回しになっている。そして、本件をシブサワは表沙汰にする気は無い。組合を通して高額報酬が降りれば隠蔽は不可能になるだろうな。詳細は世間へ公表されるし、どう内容を誤魔化そうがシブサワの交流会で問題が起きた事は明らかになるだろう。」
「よって、2人へ正式に発行される依頼は迷子になったドジコとフランサの捜索依頼のみとさせてもらう。シブサワへの勝利が実績にならなかった分の埋め合わせは今後協議するとして、ランク相応の少額報酬に留まるだろう。その分だけはキッチリ払うように。」
皆は驚いた顔でキュエリさんを見上げて、その場へへたり込んでしまった。安堵の声が聞こえる。改めて開拓者へ民間人が依頼を投げる難しさを知ったようだった。確かな知識が無いと、人生設計を根本からひっくり返されかねない。巨額のお金が動く気配を前に、その恐ろしさを知った。
迷子になったクラスメイトを救出する為に、魔法少女達が忙しい中駆け付けた美談が一つ創られた。そしてもう一つ。
スゥさんが個人的に爆裂シャインマスカットさんの配信を見ていたってお話を、ボクのアカウントから流す事に。びっくりしちゃいました!って話題にすれば、爆裂シャインマスカットさんの名前がトレンドに載った。
1日学園祭を楽しんだスゥさんだけど、まだ時間が残っている。そもそもボク達がここの見学に来たのが全てのキッカケとも言えるよね。
このままじゃ折角の学園祭に嫌な思い出が刻まれちゃう。思い付きだけど、キュエリさんへ確認を。
「キュエリさん、皆を虹天リゾートタウンへ案内して良いですか?良い思い出を作って欲しいんです。」
キュエリさんは少し考えた後、正規の手続きを踏むなら良いって伝えてくれた。だったら先ずはシブサワプロモーションの本社ビルに転移して、手荷物チェックを受ければOKかな。
「校長先生、お話があります。」
早速提案してみた。
「そそそ、そのようなご厚意を受ける資格など!」
「資格の問題じゃありません。ボクがそうしたいなって思ったんです。良いか、悪いかで言うのなら良いです。ただ、予定の都合で難しい場合は仕方ありません。」
ワガママは言わないよ。でも提案するだけなら。
「ラフィ様、どうせなら異文化交流会に絡めてしまいましょう。美羽の一族を招待するついでに、それ以外が多少混ざっても問題御座いません。来たいヒトはお好きにどうぞという事で。」
スゥさん達は首を傾げている。
「お空に浮かぶ島へご招待しても良いですか?」
すると驚いた顔で、
『飛島に行けるのか?!』
スゥさん達も虹渦島を知っていた。
「とっても素敵な街があるんです。見学していきましょう。」
話が広まれば皆も行きたいって、興奮した顔で詰め寄ってくる。校長先生は苦笑いしながらも認めてくれるようだった。
「出発は今から10分後です。同じクラスメイトなら招待しても良いですけど、あまり大所帯になると大変ですので他のクラスには内緒でお願いします。」
わーっ!と皆が駆ける中、ヒソっとフィクサーさんが囁く。
『後で知ったらラズベリー達は悔しがりそうですね!自分達以外のクラスメイトで今話題沸騰中の奇跡の観光名所へご招待ですよ?』
虹天リゾートタウンは既に観光客の受け入れが始まってるけど、まだ様子見しながらの少数ずつのご招待。虹渦島探検ツアーって言う企画で早くも参加者を連日募っていた。
先日の見学会で得た教訓もあって、セキュリティは完璧。超小型ドローンでも絶対に見つけ出す、高度な警備体制が敷かれていた。
「ラズベリーさん達は今度、天宝プリンスグランドホテルへご招待しようかなって。EXPOが終わったら、エンベリの参加者達とかも皆。実行委員会のヒト達も呼びたいです。皆で虹天リゾートタウンで遊んだりとか。」
『それは良いアイデアですね!にゃは、サプライズは当日までお預けにしておきましょうか。』
屋上へ集まって来た皆は、もう興奮した様子になっている。時間的に学園祭も丁度終わる時間だし、ボクも皆を送ったらミュージカルに行かなきゃ。
ワープゲートが大きく開いて、皆を本社ビルへと送り届けた。
「ではラフィ様、後の事は当機にお任せを。」
「お願いします。ボクはこのままミュージカルに行かなきゃ。スゥさん達も一旦お別れです。ブランさんが案内します。」
ちょっとだけスゥさんは残念そうだけど、昨日のミュージカルを見て知っているお陰か直ぐに頷いてくれた。
『後でミュージカルの映像を見せて欲しい。』
「はいっ!」
早速ボクはEXPO会場へと向かったのだった。




