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485、魔法少女vsメガコーポの追跡者

『タマが居ない以上、サイバー攻撃に対する1番の備えはこれになります。』


距離の短いジャミング装置で、ボクとスゥさん達を圏外にしてしまう。電波が届かなければそもそもスマイルへ干渉は出来ない筈。大丈夫だとは思うけど、無対策でいる訳にはいかないし。形だけでもやっておかないと。


何かあったらブランさんへ連絡が行くから大丈夫。距離を置いて同行するシブサワのヒトに連絡を取ってくれると思う。


『まぁ元々スゥさん達はネットに繋ぐ理由もありませんし、見学の影響は無いでしょうね。』


フィクサーさんはボクのスマイルの中で周囲を軽く警戒してくれていた。


どうか何事も起きませんように。





ブランが先導し、足の向いた先は真っ直ぐ体育館口へ。


「提供されたDNAサンプルから、逃走経路をシュミレート出来ます。金魚のフンとして当機の後ろを付いて来て下さい。」


ブランの後ろで宙を靡くカテンは、キュエリの視線にその姿を揶揄(やゆ)された事に気付く。


「オイ。性悪メイドめ‥‥小娘探すぐらい、我1人で十分だ。」


カテンの口周りの髭がピクリと動いた。大気を支配する龍は、大気中に漂う全てを感知する。ただ‥‥カテンはドジコとフランサの顔ぐらいしか知らない。


「ぬぅ、一度戻って2人の着用していた衣類を嗅ぎたい。手掛かりが無さ過ぎるぞ。」


ブランの小さな嘲笑、キュエリが肘で小突く。


「ブランにお任せした方が良いようだ。時刻内に見つからなかった場合は指名手配を掛ける。悪いがごめんなさいで済む騒ぎでは無くなるな。」


シブサワのメンツを守る外交官としての見解を前にしてもブランは揺るがない。


「当機の追跡からそれだけ逃げおおせたのなら、シブサワへスカウトするべき人材で御座いますね。」


この時期はどこも混雑している。走って追い掛ける訳にもいかず、早足に迷い無く進み続けた。学校を出た先、校門を曲がりそのまま呼び出されたタクポへ乗り込んでいた。痕跡が途切れる。


「タクポだな?ここをつい先ほど通ったものなら我が追跡出来る。成程、これを予見しての配置だったか。」


残る僅かな匂い、大気の揺らぎがカテンを導く。しかしそこでキュエリの通話が鳴った。





『何だ?ブラックカラントか。』


ドジコとフランサが逃走を開始してから直ぐにクラスメイトから連絡を受け、駆動魔具で駆け抜け転移タワーまで10分。ヤマノテシティへ到着したカラントはタカダタウンへ特急を使って急行、ビル上から見下ろしながら交渉を開始した。


「件の話、ドジコとフランサを追い掛けているようで間違いないな?」


一拍置いてキュエリの訝しむ声。


『何処でそれを?魔法少女らには関係無い話の筈だが。』


この不祥事はシブサワの社外秘、エンベリの面々に伝える理由は無いし話して良い事では無い。


「クライアントからオーダーを受けてな。悪いがその2人を暫く守らねばならなくなった。」


通話越しにキュエリのため息が。カラントは笑みを深める。アマネを2人に同行させ、自分は交渉役として動く。腕の立つ開拓者は、銃の抜き時を知っていた。銃を撃たずに解決出来る問題は多く、先ずは交渉から入るのが定石。


敵がハッキリしていて、交渉の余地がある事が前提だが。


『勘弁してくれ。お前達はショーで忙しいだろう。その仕事をほっぽり出すとは感心しないな。』


「なぁに、夜のミュージカルまでには片が付く。」


通話越しに困惑する声が聞こえた。


『ぬ?何だ、痕跡が途切れたぞ。』


『綺麗に何処かへ消えてしまいました。付近の監視カメラのデータへアクセスします。キュエリ外交官、企業戦争法に基づいたアクセス権限の提供をミツホシへ打診して下さい。』


少しして、キュエリの声が。


『貴様、何をした?』


カラントは飄々(ひょうひょう)と。


「何の事だ?まぁ、2人は既に私らが匿っておる。悪いが開拓者の法に於いて、企業戦争への暫定的な介入が認められておるのでな。恨むでないぞ?」


カラントの相転移でタクポごと2人を交換、空のタクポが同じ経路で飛んで行くがそっちには釣られなかったようだ。ラフィの取り巻きは厄介な力を持つ者が多い。敵として向かい合いたく無い手合いだった。


(そこらの傭兵旅団程度なら空のタクポを追って、そのまま完全にこちらをロストする所だったのだが。ただ向こうも監視カメラ越しの追跡となればアマネに追いつく可能性は低いな。)


アマネはヒムロ家の抱えたエリート私兵。戦うだけではなく、こういう事態にも精通したエキスパートだ。本気で逃げ隠れされれば、如何にシブサワが強大であってもそう易々と見つける事は出来ない。


『恐れ知らずだな。こちらとしては大事にしたく無いのだ。当ててやろうか?クライアントの正体は2-3のクラスメイトだな?おおかた2人の同級生が貴様らに救難を送ったのだろう。ただ、組合へ指名依頼が来ていないのはどういう事だ?』


勿論クラスメイト達の慌ただしい救難信号は、正規の手続きを踏んだものではない。


「知らんのか?緊急対応での依頼は、依頼の正式発行を後回しに出来る。こういう1秒を争う緊急事態に於いて、組合へ正式な手続きを踏めるとは限らんからな。」


キュエリの揺さぶりを軽く流し、向こうで鳴った舌打ちにほくそ笑む。


「さて、この件先ずは私らの預かりとさせて貰えないだろうか。2人から話を聞くに、どうも認識の行き違いが多いようだ。しかし2人は武装企業への引き渡しを拒むのでな。人道的配慮として開拓者組合の方で本件の解決へ当たらせて貰う。」


しかしそれではキュエリは困る。これはシブサワの不祥事を隠す為の戦いであり、組合まで本格的に巻き込んで交渉となれば世間の目に晒される事態は避けられない。


組合にシブサワの不祥事を庇い立てる義理は無く、余計な交渉カードを与えてしまうだけだった。


『断る。それと余裕ぶっているが大丈夫か?こちらには遠い世界からやって来た優秀なバトロイドが居るのでね。それと大気を統べる神龍を舐めない方が良い。』


カラントへアマネから緊急通信が入った。


『マズい、こっちの位置バレてるっぽい。やっぱラフィの仲間は優秀な奴多いわ。ダルいけどカラントも合流。』


「まったく。そう上手くはいかぬか。」


先程からダメ元でラフィへ通話を繋げようとしていたが、やはり圏外か繋がらない。ラフィの仲介を当てにしていたが、プランBに移る必要があるようだった。





そこはヤマノテシティ、下層区。迷路のような下水道を抜けた先、そのまま下層区のスラムへ潜入する。


アマネに引き摺られるよう、ドジコとフランサがボロ外套を纏って歩いていた。その顔を薄っすらと影が差すホログラムが隠し、体は体臭を消す為にヘドロ塗れ。髪を短く切って、落ちないよう帽子で纏めていた。


ドジコとフランサは既に満身創痍、下層区へ続く下水道を通ったせいで吐き気が止まらない。どうしてこんな事に、と後悔しながらもシブサワの影を思うとアマネへ付いて行くしかない。


「アマネさんって凄いんだね。」


「呼ぶなって。」


「こんな道何処で知ったの?」


「色々あんのよ。ただ‥‥」


2人をスラムの適当なテントへ押しやる。誰かの住居だが、この時間は大抵出稼ぎに出ていて夜まで帰って来ない。臭く狭い暗がりへ転がされた2人は最悪の気分で蹲る。


アマネの向かい合った先、遂に追っ手と対面していた。


「こんな所までよく逃げましたね。当機が手荒く容疑者を回収致しますので、邪魔をなさらぬよう。」


「酷い場所を通った。我も気分は最悪だ。」


そしてキュエリが手を叩く。


「まったく、手間を掛けさせる。投降しろ。なに、開拓者の実績に依頼失敗が一つ足されるだけだ。」


アマネの放ったそれは転移陣。転移陣を踏んだカラントが姿を現す。


「優秀な追手で面倒だのぅ。ただ、キュエリよ。互いの立場と状況が悪かったな。」


不意に頭上から、光学迷彩を解いた1機の武装ヘリが影を落とした。思わず見上げる面々へ、カラントは宣言する。


「これより本件はヒムロ家の預かりとさせて頂こうか。生憎だが、上と話は付いておる。」


カラントも別に最初から逃げ仰るとは考えて居ない。シブサワ相手にいつ終わるかも分からない逃避行するには、クラスメイトが捧げられる報酬額じゃ程遠い。しかし話が着くまで時間稼ぎをする程度なら。



『のぅ。レイホウよ、早速弟を頼らせて欲しいのだが良いな?』


裏で行われた姉弟の会話。


『いきなり厄介事を持って来るとは。』


『ラフィを支えるシブサワが抱えた厄介事はコレの比ではないぞ?』


青龍街を始めとした数々の大規模な犯罪組織との衝突、虹渦島に関する全て、そして都市防衛機構イージス社との企業戦争。僅か1年の間、シブサワがラフィを支える為に支援した大事件。


『開拓者のスポンサーになるというのはそういう事だのぅ。ほれ、今こそ姉弟のコンビネーションを見せてやる時だ。』


通話越しに聞こえた呆れ混じりのため息。しかし、レイホウは首を縦に振る。


『仕方ない。話を聞くに、不幸な事故に過剰反応していると見える。確かに交流会は一大プロジェクトだし、その警備体制をラフィへ丸投げしたような対応にも不備がある。丁度ニッポンイチとシブサワはラフィを中心に手を結んだのだ。』


揉み消すにしてもシブサワへ一任せず、ニッポンイチが代理で交渉役を買って出ようと動き出した。


カラントの開拓者としての実績に花を添え、血の気の多い武装企業に冷や水をぶっ掛けてやろう。子供の失敗一つにマジになるなよ、交流会を台無しにしてラフィを困らせる気かと。


ヒムロ家の持ち出した冷や水には大粒の氷が入っている。レイホウの非難が、事件の対応を知らなかったモモコの顔を青くした。簡単な報告は上がっても、事件の対応は現場の外交官任せ。モモコだって暇では無い。しかし知らなかった、が時として甚大な被害を生む。


『下らない事故の一つで大騒ぎする貴様らの無様を知ったら、ラフィはどう思うだろうな。ラズベリーらのクラスメイト2人が断罪されて喜ぶと思うか?シブサワのプライド外交に愛想を尽かすかもな。』



容疑者が逃げたからキュエリは追っただけだが、何故か悪役のように仕立て上げられてしまっていた。理不尽、しかし外交官ならままある事。この業界正論がいつも正しいとは限らず、悪役が必要とされればお役目を負わされる事も珍しくなかった。


外交官に必要なのは忍耐だった。



「悪いが、これで決着とさせて貰うぞ。ブラン、カテンよ。そなたらの働きは目を見張るものがあった。次は味方として共闘しようじゃないかの。」


「そゆこと。はぁ‥‥ダル。ラフィにウチらにコテンパンに負かされた事言っておいて。」


ドジコとフランサを連れて、2人は武装ヘリへ乗り込んでいく。頭越しに交渉を済まされてしまった以上、キュエリに出来る事は何もなく。モモコから謝罪のメッセ一つ受け取るだけになってしまった。


結局、コネが強いこの業界。大昔に英雄として名を上げたキュエリであっても、どうしようもない事はある。メガコーポをスポンサーに持つ開拓者の厄介な事よ。


思わず項垂れるキュエリ、肩を叩くブラン、地面へ転がってふて寝するカテン。政治闘争の介入が、チート級の技を持つ3人をあっさり蹴散らしたのだった。


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