484、炸裂したシャインマスカットがそのまま武装企業を揺り動かす
休憩スペースが騒然、突然頭を花火のように爆発させたスゥさんへ思わずピャッ!と飛び付く。
「スゥさん!!」
辺り一面に緑色の粒々が飛び散って‥‥何これ?ふとスゥさんの腕がボクを抱いて来た。
『ビックリしたが大丈夫だ。怪我は無い。』
校長先生は真っ青になって倒れてしまい、ブランさんに支えられていた。
「何事だ?!これはARというやつか。」
カテンさんは消えて行く緑色の粒々に目をやった。スゥさんのARが急に暴発した?
「フィクサーさん、何か気付きましたか?」
『すいません、ワタシも気付きませんでした。流石にクイックハックの類いが飛んでくれば分かりますが、そんな気配は無かったものでして。』
クイックハックじゃないんだ。うーん‥‥タマさんが居れば分かるかも。でも今はEXPOで忙しいし、緊急でも無い。ミュージカルの内容が日替わりなだけあって、練習にランダムショーにと慌ただしい。
うーん‥‥と悩むボク達へ、スゥさんはスマイルの異常についてお話ししてくれた。
『先程から画面が3つある。画面の中で動画が流れているが内容が分からない。』
R.A.F.I.S.Sでやり方を教えて、共有モードにしてくれた。皆で覗き込んだソレは、開拓者風な男がテンションアゲアゲにEXPO会場を練り歩く動画。
このヒト何処かで見た事があるような。えーと。うーん。結構前だったよね。んんん〜っ!あっ?!戦った事がある。
「爆裂シャインマスカットさんです!」
「あの緑色の粒々はシャインマスカットでしたか。おや、接続が切れましたね。」
スマイルの機能の一つ、グループ通信モードの接続が切れた。スゥさんの画面は元通り、動画も消えてしまう。
ふらりと起き上がった校長先生は、急に頭を下げて来た!
「先程からお話を聞いておりましたが、恐らく生徒の誰かによるイタズラかもしれません。前々から校舎内でグループ通信モードを使ったイタズラが流行っておりまして。」
グループ通信モードはセキュリティ設定で予め弾くようにしないと、パッと付近のヒトを巻き込んで画面を共有する事が出来てしまう。セキュリティ意識の甘いヒトはそういう設定を弄ってなくて、勝手に画面を共有されてこんな感じにARでイタズラされてしまったりするみたい。
互いのスマイルへの干渉は殆ど出来ないけど、パーティー用の一部アプリにはグループ内でAR演出を共有して皆で盛り上がれる!っていうものもある。
普通は知り合い以外は弾くようセキュリティ設定するけど、スゥさん達へ渡したスマイルは簡易的な物。中身はほぼ空っぽも良いところで、セキュリティ対策はだいぶ甘かった。
「誠に申し訳ありません!!」
スゥさんは揚げ餃子串を齧りながらも、気にしていないと片手で応える。大事にするつもりはないみたいだけど‥‥ゲストのスマイルに干渉された事実は報告しないといけない。直ぐにでも美羽の一族のスマイルにセキュリティ対策を施さないと。
「報告は当機が致します。しかし犯人ぐらいは見つけなければいけません。誰にどうやって干渉を受けたかを特定出来なければ、対策が万全になりませんので。」
そうだよね。
「ふぅむ。校内で怪しい動きをする者を探すか。」
『いえいえ、スゥさんのスマイルのログを辿って割り出しましょう。グループ通信をした端末が直ぐに分かりますよ。』
フィクサーさんはボクのスマイルから、ひょいと跨ぐようにスゥさんのスマイルの中へ。漁る間、校長先生は頭を下げたままか細い声で。
「どうかご慈悲を‥‥こちらの方でしっかり指導を致しますので‥‥」
ボクは向き直ってちゃんと伝えた。
「大丈夫です。イタズラに無警戒だったボク達も悪いですし。でも原因の特定だけはやらないといけないんです。サイバー事案報告書を作らないといけませんから。」
グループ通信とは言え、スマイル内を覗かれちゃった以上はちゃんと犯人を捕まえて色々お話しないと。今回は軽度のセキュリティ事案だから、この件に対する守秘義務を負わせたり‥‥そのぐらい。つまりは揉み消し。表沙汰になっちゃうとタダじゃ済まない事件になっちゃう。
『通常は如何なる規模でも、シブサワの要人へちょっかいを掛けたら武装企業の威信に掛けて報復が発生します。にゃは、しかし確実にこれがイタズラかは分かりませんし。シブサワへ1発くれてやったぜ!と後で声明を出すバカが現れるかも?』
そうなったら。ううっ、楽しいEXPO期間中に血生臭い事件は嫌だよ。直ぐに解決しなきゃ。
校長先生も教員達へ慌ただしく連絡をとって行く。先ずは生徒達を学校の外へ出さないようにしてくれた。
直ぐに教員のヒト達がやって来て頭を下げていく。
『して、グループ通信ログを漁った結果。スマイルに登録されている名前はドジコとフランサですね。名前に心当たりは?』
教員の1人が声を上げた。
「アイツら‥‥ッ!!そういう事だったのか!」
どうも数分前、スゥさんがARで爆発しちゃった頃と同時期にエントランスの方でちょっとした騒ぎがあったらしい。スゥさんと同じARを見せた女子生徒2人はそのまま逃走、追い掛けるも廊下を走る訳にもいかず捕まえ損ねたみたい。
直ぐに校内放送が鳴った。
『ドジコさん、フランサさん、至急校長室へ来るように。繰り返します‥‥』
どこか怒気を潜めた声は、学園祭の楽しい雰囲気にそぐわない。
「ええと、スゥさん。どうしますか?」
『私は問題だと思っていない。だがそちらにも都合があるのは理解した。』
スゥさん達も一緒に校長室へ連れて行くと目立つし、シブサワのゲストと何かあったって噂が立つかも。このまま何事も無かったように過ごすのが正解かな?警戒して本社へ帰還を急ぐようなレベルの状況じゃないし。
「フィクサーさん、サイバー攻撃の警戒をお願いします。ボクはこのままスゥさん達をガイドしますので、ブランさんとカテンさんがこの件の追跡をお願いします。」
2人なら大丈夫。直ぐに解決すると思うけど、とにかくこのまま見学を続けるよ!
「承知いたしました。当機が生意気なガキンチョを分からせてみせましょう。」
「我はサポートだな。必要かは分からんが、頼られるのは悪くない。」
校長先生は生徒の担当の教員を連れて校長室へ、他の教員達は校内の探索の為に早足で向かって行った。
───でもそれから約20分後。結局校長室へ生徒は来なくて、本格的な捜索が始まってしまったのだった。
「ヤバいって!!」
「どうするの?!」
ドジコとフランサが生活指導の鬼オヤジが逃げて、転がり込んだ先は自分のクラス。様子のおかしい2人にクラスメイト達は心配そうに声を掛ける。
「大丈夫?」
咄嗟に助けを求めてしまった。
「助けて!!ヤバい!!殺されるかも!!」
今になって事態の重さを理解していた。あのラフィが連れる異文化交流会のスペシャルゲストのスマイルの中身を覗き見するばかりか、派手なARを噴出されるイタズラめいた事をしでかしてしまった。
異文化交流会はシブサワグループが大々的に喧伝して行っている一大プロジェクト。それにちょっかいを掛けてしまったとなれば‥‥恐ろし過ぎて考える事から逃げ出してしまう。
さっきまでの正常性バイアスのマンホールの蓋は、今やパニックの濁流に吹っ飛ばされて空の彼方。状況を頑張って伝えれば、クラス中がパニックに!お化け屋敷の裏方で、10人の生徒達は口々に捲し立てる。
「隠れた方がいいって!後で先生に相談しよう!アイツらが帰るまで耐えるしかないよ!」
「何処に隠れるの?!」
そんな最中に鳴った放送は、明らかに怒気を孕んだ校長室への呼び出し。火に油‥‥いや焚き火にガソリン。本能的に分かる。今校長室へ向かえば、間違いなくシブサワと鉢合わせると。
「校長先生は守ってくれる?」
「無理でしょ。逆らえないよ。」
「あっち!隠れてても見つかるから!」
教員が徘徊する廊下を抜け、ゾロゾロとクラスメイトを守る10人が先行しつつドジコとフランサを導く。2人は顔をお面で隠し、お化け屋敷の衣装を着て宣伝用の看板を携えていた。
鬼の形相で歩く教員が目前から迫るも───
息を殺す。乾いた喉に唾を垂らす。そして、後方へ歩き去って行った事に僅かな安堵を覚えた。
体育館口の方も教員が固めているも、クラスメイト達がドジコとフランサの事を問い詰めるフリをして隙を作る。2人は裏門の方へ駆けて行った。
そしてクラスメイトの誰かが言う。
「ラズベリー達に仲介させようよ!2人を守って貰おう!」
飛んだメッセは、
『今ドジコとフランサがシブサワグループに命を狙われているの!!大変なヘマをしちゃって!お願い!2人を守って!』
誰もが慌てふためき、メッセの内容も推敲されずに肝心な部分が色々と曖昧。しかしシブサワグループは武装企業のメガコーポ。ラズベリー達はラフィ程シブサワの全てを信頼している訳ではない。
「どうする?」
「ううむ、確認を取りたいが、余程デカい事件じゃなきゃ担当の外交官意外は知らんものだぞ?」
「しかもEXPO期間中よ?何かあっても普通は社外秘でしょ。私達はシブサワの一員じゃないから、ラフィみたいに何でもかんでも社内の事を明け透けに教えてくれる訳ないわ。」
「ウチらも仕事あるけど‥‥ダル。全員は抜けられないから、ウチとカラントで様子見てくる感じでどう?」
「そうだのぅ。最悪シブサワの外交官と戦う事になるかも知れんが、後でラフィに仲介を頼まんと。」
魔法少女は駆り出される、武装企業の影が迫る哀れな一般市民を守る為に。顔見知りの同級生を救う為に。
そして───
「シブサワグループ外交官、キュエリだ。ハハハッ、やってくれたじゃないか。」
犯人の逃走に、ラフィ専属外交官がやって来る。
「当機だけで十分で御座いますが。まぁ後ろから見学していれば良いでしょう。」
ブランは校長室のドアを優雅に開けた。
「存外面倒臭い事態になって来たな。はぁ‥‥我も行くしかないか。」
小さき龍が宙をうねりブランの後を追う。
3人の後ろ姿を、校長は深々と頭を下げたまま見送る事しか出来ない。生徒達のイタズラが、そのまま目前で武装企業を動かす大事に発展していく様に様々な感情が渦巻いていた。
生徒達の無事を祈る事しか出来ない無力さが───校長を俯かせたままにしたのだった。




