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483、時計仕掛けの餃子爆弾はシャインマスカットを撒き散らしてスペシャルゲストを爆破した

ドジコはフランサと2人、エントランスの喧騒の中コソコソしていた。一日中立ちっぱなし、3連勤目。明日からは2日お休みなものの、疲労も溜まって嫌気が差していた。


直接催し物に関わるメンバーはともかく、生徒会メンバーは受付業務や広報と裏方仕事に忙しい。生徒会の人数も大勢いる訳ではないお陰で、クラスの催し物に参加する事も出来なかった。


(5日開催とか回る訳ないじゃん。)


例年通りの2日開催ならともかく、5日も日程がある都合上前半組と後半組に分かれて回さないといけない。人手不足の職場に蔓延する苦労をいち早く体験する事になった。


真面目に取り組んでもお給料は無し、成績表に何かが反映される事も無し、身に染みるやり甲斐だけが唯一の報酬。雀の涙では乾いた心を潤す事叶わず。


エンベリの件もあって、校長のやる気はマンマン。ここが頑張り所だ!と言わんばかりに、生徒会メンバーは無休労働に勤しむ事になった。


心が栄養を求めている。推しの生配信に参加する事でしか得られない栄養素がある。スマイルでサボっても、コソコソやる分にはバレないんじゃないだろうか。ホロウインドウは他のヒトには見えないんだから。


ドジコが推しの配信画面を共有しようと、グループ通信モードを展開した。これは極短距離間にあるスマイルを接続し同期するシステム。秘匿性が高く、付近の来場者や教員のスマイルに干渉してバレる可能性を大きく下げられる。


勿論2人のスマイル画面を同期させるなら方法は幾らでもある。ただグループ通信が1番操作量が少なく、アプリに頼らないスマイル本来の機能な為手軽だった。


ドジコの合図でフランサも乗り気になる。生徒を酷使するブラックな学校へ唾を吐き、ささやかな反抗をしてやろうという2人の思惑。


(通信するね。)


(ばっちこい。)


ふと、ドジコの顔に影が差した。見た事のない奇妙で美しい顔と目が合う。昆虫をどこか思わせる顔は、肌感が明らかにヒトと違い人形のように柔らかそうだ。


そして直ぐに異変に気付く。グループ通信で共有された画面の数が、1個多い。


3つの画面が視界内に並んでいた。


「ひゃあっ?!ああっ?!」


やってしまった!!あろう事か、奇妙な来場者をグループ通信に巻き込んでしまった!!サボりがバレる!!


と思ったものの、特に告げ口もされず。しかし不審な態度を取ったせいで、教員に引っ張られて行くハメになった。聞けば大事なお客さんらしい。それもあのラフィが連れて来たと聞いて、2人は仰天してしまった。


さて、


軽いお叱りを経て業務に復帰した2人は、目前にあるちょっとした問題に軽く頭を悩ませていた。


グループ通信から3つ目の画面、ラフィが連れて来た大事なゲスト様の画面がいつまで経っても共有モードを切る気配が無かったのだ。勿論一旦グループ通信を解除すれば元通りだが‥‥無言でやれば“蹴った”風になって非常に印象が悪い。


かと言ってメッセを送信しても反応が返って来ない。気付いていない訳がない。意図が分からず、かと言って教員に相談など出来る筈も無く。バレたら軽いお叱りじゃ済まなくなってしまう。


(異文化交流会の事は知ってる。ねぇねぇ、生配信見せてあげたら?)


(流石にマズくない?)


(大丈夫だって。これも異文化交流ってね。)


ドジコは楽観的だ。昔からそうだったし、小さく躓いても骨を折った事は無かった。これも合縁奇縁、楽しい気持ちをシェアする良い機会だと考えた。


もし、教員がこの事を知ったら卒倒するかもしれない。やっている事は一歩間違えれば企業戦争沙汰の無茶苦茶なのだ。


つまりはスペシャルゲスト様のスマイル画面を盗み見している状態。もしシブサワグループに関係する機密情報がチラリとでも映り込んだ事が後でバレれば‥‥ただ、企業戦争と縁遠いJK2人がその危険性を敏感に察知する事は無かった。


実際にはスゥのスマイルはローカル通信はともかく、ネットワークには繋がらない状態。唯一自動決済等の基本機能は使えるが、ネットに関するアプリがそもそも入っていない。

機密メールなんて無いし、覗き見対策は特に意識されていなかった。少なくともグループ通信を自動で遮断するセキュリティは施されていなかった。

万全なセキュリティには相応のコストが掛かる。空の箱に重厚な錠を掛ける価値を企業は認めなかったのだ。


とは言え、その画面を盗み見されていた事実は不都合。2人が危険な橋を渡っている事に変わりは無い。


生配信が始まれば、スゥの視線は自然と配信を気にし出す。スマイルの様子がおかしい事を後でラフィに報告すればいいかな、と考えていた。その画面が急に賑やかで興味深い映像を映し始めたのだ。R.A.F.I.S.Sを経由しなければ意味は分からないが、ただ賑やかな画面をながら見していた。


この状態が後に一つの騒動へ発展する事は火を見るよりも明らかだった。





「ここが書道部の展示品です。あの!写真を撮っても良いですか?」


付き添ってくれる校長先生がどうぞ、生徒達も喜びますって。純白の紙に引かれた、雄々しい黒。直線が白を分け、跳ねた所に黒の飛沫を残す。ただの文字の筈なのに見応えがあって、つい見惚れちゃう。


『これは何だ?』


「書道っていう伝統的な文化です。専用の筆と紙で文字を書くんですよ。ビシって決まるとカッコいいんです!」


『興味深い。ニホンコクの文字は独特な見た目をしているが、こうして見ると味わい深いな。ゲイジュツ‥‥だったか。』


後ろに控えるブランさんは、忙しそうに秘書業務をしながらもAR書道アプリで書いた文字を見せつけてきた。‥‥どういう意図ですか?


「ラフィ様、当機に書道を嗜む機能があったとは知りませんでした。」


「お上手ですけど、なんかこの場でそういう事をするのは無粋に感じます。」


ジト目で見やればブランさんは“守護天使”なんて書かれた作品を引っ込めた。


「我には難しそうだな。」


カテンさんの3本指じゃ筆は上手く握れなさそう。ワキワキ‥‥と宙を握っていた。


次に向かった先は縁日っていう催し物。


「あっ!ラフィだ!」


教室へ入れば皆が手を振って来て、ボクも笑顔で振り返す。


「遊びに来ちゃいました!」


ホロウインドウの中でフィクサーさんが、


『縁日と言えば学園祭定番ですよね!掛かる手間は最低限、奇抜なアイデア要らず、小さなお子さんを楽しませられるぐらいの需要を満たせます。』


「ボクは小さなお子さんです。」


スゥさんはキョロキョロ。


『これは?』


「お祭りの定番の遊び場を提供する場所です。遊んで行きましょう。」


『分かった。勝手が分からないが、触ってみよう。』


生徒さんの1人が案内を買って出てくれて、先ずは射的へ。スゥさんが狙えば5発撃って3発命中。前回の交流会での経験が銃の狙いをより洗練しているみたい。


『当たった!この銃は‥‥軽いな。違和感がある。』


銃と言っても、ギャラクシー・トイズからレンタルされたおもちゃ銃。トイ・ウェポンでも無い、児童用のおもちゃだから本物とは全然違う。特に弾の軌道は大きく違った。


『ラフィも撃って欲しい。』


「ボクもですか?」


ボクが銃を構えれば、皆の期待した視線が集まる。軽い発射音、小突かれる軽いお菓子の袋。立て続けに5発、5回の袋が凹む音。事前にスゥさんが撃った所を見ていたし、軌道予測は完璧だよ!


拍手を浴びるのは気持ち良くて、むふーと得意気な顔で見回した。スゥさんも褒めてくれて、皆の楽しそうな雰囲気が心地良かった。


引き金を引いて笑顔に囲まれる機会はあまり無い気がするから。


「ラフィさん!あの!銃を見せてくれますか?!」


校長先生の制止を聞かずに、お調子者な生徒さんがボクへ好奇を向ける。S.S.Sから紫電M10を見せれば、教室が歓声で打ち震えた!隣の教室まで届く声に、思わず校長先生の顔を伺っちゃう。


苦笑しながらも大丈夫って頷いてくれた。調子に乗ってごめんなさい。学校で銃を持ち出すのはダメだよね。


「ええと!次はそれをやりたいです!」


話題が逸れて、水風船を皆で釣り上げる。カテンさんの摘んだ糸が、先端の針を水風船の持ち手へ引っ掛けた。


「簡単だな。そう言えば我は釣りをした事が無い。今度やってみたいものだ。」


「ボウズを誤魔化す為に魔法で暴れなければ宜しいでしょう。暴風で魚を巻き上げたりしませんよね?」


「我を何だと思っているのだ。ヒトから技術の素晴らしさを学んだのだぞ?魔法で解決せずに少し遠回りをするのもまた一興よ。」


『技術にはっ倒された事が糧になったようで何よりですね!道具は人生を豊かにしますよ!』


フィクサーさんに茶化され、やれやれと首を振っていた。カテンさんも生徒さん達の注目に晒されていた。流石に皆カメラを向けたりはしないけど。校長先生がそれとなく睨みを効かせているからね。


スゥさんは水風船の不思議な感触にタプタプ。チャプッとゆさゆさ。


『中に水が入っているのか。仕掛けは単純だが、面白いな。綺麗で不思議と触っていたくなる。』


「お祭りの定番ですから。それだけ皆に親しまれて来たんです。」


古くからヒトを魅了して来た水風船は、スゥさん達も魅力したようだった。





反省も程々にホロウインドウを眺める2人、案内と言ってもパンフレットを手渡すだけのお仕事。上の空で挨拶を投げても来場者は気にしない。そもそも高校の学園祭は基本的に身内へ向けたもの。来るのは生徒の家族にOB、それか刺激に飢えた近所のご老人方。


サービスに対する期待値はハナから地面の下、ハードルの下をよっこいしょと潜っても(はばか)られない。ラフィ達が居なければ教員達も細かく気にしたりはしなかった。ここは公立であって私立ではないのだから。


ホロウインドウの中で配信者は騒がしく、EXPOの初見リアクション実況を楽しむ。ああ、早く行きたいな。トウキョウ行きの転移タワーはこの時期学生なら無料だし、ついでにトウキョウ観光もやりたい。期間は2日もある、ゆっくり出来そうで楽しみだった。


『そろそろ恒例のアレ、行ってみよーっ!!』


2人は忘れていた。グループ通信モードでスマイルを同期させた状態になると、動画サイトの一部の機能が共有される。


例えば配信者が任意のタイミングで、スマイルのAR投影機能へ干渉して視聴者へより没入感のある視聴体験を提供する事が出来た。


ファンの皆と一緒にライブ配信しながら、お揃いの獣耳のARを生やしたり。


しかし彼女達が見ている動画は、爆裂シャインマスカットの生配信。アングルスからヤマノテを経てトウキョウへ上陸した開拓者系ARチューバーは、“やや”お下劣な芸を得意とする。


そして派手好きに定評があった。


『爆裂〜ッ!!シャイン!!マスカットゥッ!!!』


共有されたARは2人の顔に花火を炸裂させる!!そして辺り一面へシャインマスカットの粒を散乱させた!!


彼の配信はお家で見よう、そんな鉄則が頭からすっぽ抜けていた。


ざわめくエントランス、顔色を変える教員、顔面蒼白の2人。


そして───





『ラフィ、この焼きそばは美味しいな。素朴な味がする。』


「飲食もやっているなんて本格的ですね。」


「はい、我が校には食品科学科がありますので。他にもこちらも、取り置きが御座います。」


大勢で賑わう休憩スペース、皆でお昼ご飯をモグモグしていた。スゥさんの食欲は、物珍しい料理を前にぐんぐん上がっていく。ボクも一緒に学園祭ご飯を楽しんでいた。


校長先生が差し出してくれたそれは、特製揚げ餃子串!早速スゥさんは大きく口を開けて‥‥はむりっ───



その顔が花火を上げて急に爆発したッ!!!!!

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