表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

503/523

480、白と黒の境界線上を歩くマジシャン

ボクの手を握るスゥさん。その目前でエンベリのショーが開かれていた。突発的なショーだけど、2日目最後の今回だけは事前に告知があった分。ボクは参加出来ないけど、ゲストが出てくるってお話だった。


『激しい戦いだな。怪我はしないのか?』


「怪我はあります。それでも簡単に治せますし、荒っぽいスポーツなんです。」


『勇敢だな。』


ラズベリーさん達がデビルズ・エコーの面々と押し合って、縦横無尽に目まぐるしい。そんな戦場に、ぴょこり。


ゾロゾロと沢山のボクが姿を現した。行進するよう、ファンの皆へ手を振りながらも進んで行く。戦う皆はゲストの詳細を知らされていない。初見の驚きやライブ感を重視するショーだから。安全性は二の次、敏腕を自称する開拓者や傭兵なら自力で対処しろ!だなんて。


誰もの視線が集まった所で、ラフィ達の頭頂部から綺麗なお花がふわりと開く。その姿がいつの間に花畑へ変貌して行って、中央で大きなお花が地面から生えるように蕾を膨らませた。


蕾の中から突き出されるステッキ、開いた蕾は大きなお花に。中からアイビーさんが悠々と姿を現した。


『全部あの非有の花なのか?』


「はい。ARという技術です。でもこんな精度で使いこなすのは凄い事なんです。」


『非凡な才を持つのだな。』


身構えるエンベリとデビルズ・エコーを睥睨(へいげい)


「ヒーローと悪の手先の前に悪いお姉さんが登場だ〜。折角だし、ちょっと遊んでいかないかい?」


このEXPOを境に、エンベリもまた大きな路線変更が企画されていた。従来の魔法少女ものはイロモノ枠で、どちらからと言うとバラエティヒーローショーの側面が強かった。真面目でシリアスな戦いよりも、芸人さんみたいな活動を通して広報のお仕事が中心にあるっていうか。


でもボク達エンベリが当初の見込み以上に戦えたお陰で、バトルをもっと中心に添えていこうと動き出している。旧来的な正義と悪の戦いに加え、第3勢力を出して三つ巴の戦いにした方が面白いんじゃないかって。


だから大衆の反応を伺うついでにミュージカルを通して第3勢力を出し、今回もゲスト出演としてショー向きな開拓者さんへ依頼が出された。


白羽の矢が立ったアイビーさんは、トウキョウシティへ来る前からボクへ個人的にショーの参加をお願いして来ていて。どうか口添えを、と何度か自己PRを受けていた。組合警察との揉め事で白紙になった‥‥と思いきやそのAR技術の腕を買われて出所するなり直ぐに芸能依頼が舞い込んだんだ。


AIで作成したAR映像を投影する技術は、そもそもAIの扱いに相当慣れていないと上手くいかない。そして状況に応じて取捨選択して、場に合ったARを狙った座標へ投影する。自身も音の立たない駆動魔具、ストーカーで駆け回って戦いながらやるんだ。


本人の自覚している以上に、アイビーさんは天才的だった。


底辺配信者なんてやってたから今まで伸びなかったんでしょうね。なんてタマさんは評価していた。才能があっても存分に振るって目立てる環境が整わないと、世間に評価して貰えないから。


ボクとのコネを最大限活用して、今この場に立っていた。


新調された衣装はマジシャンを思わせる派手な格好、黒いシルクハットに白の帯が巻く。純白の手袋、そして(なび)く裏地が白色の黒マント。ステッキは黒金のシックなデザイン。


アイビーさんの趣味はタマさんと似通う所があって、互いに意見を出し合って衣装を決めていた。ショー以降、この衣装を開拓者活動の一張羅にするつもりで沢山お金を掛けて作ったらしい。印象深い開拓者は売れやすいからね。


観客達のスマイルカメラが、そんなアイビーさんへ向けられ片手を小さく振って応えていた。


不意に様子を伺っていたシライシさんの背後に寄り掛かり、ステッキの先をラズベリーさんへ向けた体勢で姿を現す。手を振る姿はAR、本人はストーカーで音も気配も無く移動していた。


あの強化外装はアンチレーダー性能に大きく振った特注品。クラスC規格ながらに良いお値段になったのはステルス性能に特化させたお陰。趣味が合ったついでにタマさんを言い包め、自身の貯金で足りなかった分を出資させていた。


見返りはこの強化外装を使って稼いだ分のマージンを、出資分+1年間一定の割合でタマさんへ支払う事。アイビーさんの将来性を見込んで承諾した。


「ほら、ボサっとしてないでさ。」


「あら!器用な事をするのね!」


シライシさんの振ったギターは空振って、ヤミヨさんの攻撃もARをすり抜けて当たらない。急にステッキで突き飛ばされたグミさんがよろけて、ラズベリーさんにぶつかってしまった。


「こんの!やってくれるじゃない!」


グミさんの勢いのある攻勢も、行先が曖昧じゃ真価を発揮出来ず。一斉に羽ばたいた無数の鳩のARに飲み込まれ、誰もが怯んでしまった。


ヒーローショーというより、マジックショーの雰囲気に観客達は大興奮!皆を翻弄するも、アイビーさん自身はあまり攻撃せずに立ち回る。


というのも格闘戦の強いグミさんやヤミヨさんと正面からぶつかったら、それなりに格闘を嗜むアイビーさんでも呆気なく負けちゃうかもしれないから。場を華やかせ、適度に小突いて妨害し、放ったトイ・ボムで皆のバリア装甲を削っていく。


孤軍奮闘でも初見の混乱に乗じて面白いぐらい一方的に立ち回った。


「誰か知らないけど!魔法少女は負けないよ!」


ラズベリーさんの射撃が、ARの隙間へ差し込まれてアイビーさんの怯ませる。驚いた心境がR.A.F.I.S.Sへ伝わって来た。正体不明のマジシャンに魔法少女とデビルズ・エコーが共闘するよう戦う。


魔法少女モノはキャラで売っていくジャンルで、だからこそ正義と悪の二極化した相関図で終わらせず、第三勢力を挟む事で共闘路線も行けるようにしたいって。正義と悪側が共闘する事で、新たな人間関係が描かれる。


アイビーさんの立ち回りは理想的だった。勝ち過ぎず、負けもせず。大打撃を与える程でも無いけど、無視も出来ない戦場のジョーカー。


アイビーさん自身余裕は無いみたいでも、丁度よく実力が拮抗する形になっていた。ラズベリーさんはARの中でもアイビーさんを捉え、アイビーさんもARに紛れたトイ・ボムでラズベリーさんにダメージを与えていく。


シライシさんのギターから出る音圧の範囲攻撃で、魔法少女ごと吹き飛ばされる。ブラックカラントさんの相転移で、シライシさんと位置を交換したラズベリーさんがヤミヨさんへ銃口を向けた。


アマネさんのピンクネイルをステッキで防いだかと思えば、ピンクネイルが地面に立てられた鉄柱に引っ掛かっていただけな事に遅れて気付く。側面から突き出されたステッキがアマネさんを突き飛ばしてしまった。オシャレなデザインの鉄柱は時間差でアイビーさんの懐へ転移して戻っていく。


ニンジャが使う身代わりの術!みたいでカッコいい。


シライシさんは急に黒い箱の中へしまわれてしまう。シライシさんをしまうよう、転移で現れた箱はプレゼントボックスのような見た目。でも重量は重く、蹴っても簡単には退かせない。


底が無い箱を自爆しながらも音圧で強引に吹き飛ばして出た時には、魔法少女達とアイビーさんの総攻撃でヤミヨさんがダウンしてしまっていた。箱は時間差で転移して消失する。ポイントマンのような戦い方も、今日に為に奮発して色々用意したからだって。


裏方でニコラさんとゾロさんが忙しくしているようだった。離れた場所で使う道具を2人で用意して転移陣へ乗せる。アイビーさんがスマイル経由にオーダーを入れる度に慌しそうだった。ここからは直接見えない場所だけど、R.A.F.I.S.Sに2人の事が流れてくるから分かっちゃう。


つまりアイビーさんは孤軍奮闘に見えて、バックアップも含めた3人で戦っていた。だから手数も多いし、1人以上の活躍が出来る。これこそが1番の初見殺しだった。


結局シライシさんも膝を突き、魔法少女側の勝利でショーが終わる。アイビーさんは優雅な一礼を残してその場から転移で消え去った。


スゥさん達が一斉に拍手代わりに小刻みな羽ばたきを。興奮を隠さないで魔法文字が飛び交う。ARを交えた派手なショーは大好評、早速ハムハムのトレンドを掻っ攫っていた。


『最高の戦士達の戦いだった。これ程のものを見られるなんて。』


スゥさんはいっぱい写真を撮ったみたいで、


「今回は大成功でした。ボクも参加したかったな。」


そう言えば楽しみだって返してくれた。ARが一切効かないボクとアイビーさんの相性は最悪。共闘するなら最高の相性だけど!でも、ショーで戦うならどうしようかなってアイビーさんも頭を悩ませていた。今回はお披露目回だし、ボクの出演の無いタイミングでやっちゃおうって事になったんだ。


場の熱狂が冷めやらぬ中、ボクはミュージカルへ向けてガイドさんのお役目をブランさんへ引き継いだのだった。





「あーっ!終わった終わった!」


大きな怪我も無く帰還するアイビーを、ゾロとニコラが出迎えた。


「一発逆転、かましてやれたな!ワイは信じておったで!」


「カッコよかったです。ハムハムでも話題なんですよ。」


見ていた以上にヒーローショーのレベルは高く、アイビーですら初舞台でダウンするという虚仮威(こけおど)しにならないよう必死だった。守りに回った消極的な戦いをする事になってしまったが、主役を差し置いて暴れ過ぎない絶妙な塩梅となり“弁えている”と評価を受けていた。


ならこれで良かったとアイビーは認識を改めた。


「2人ともありがとね、大丈夫。今後私がショーに出る時は、2人にも出番を用意するからさ。」


アイビーはこのショーの活躍で一躍名を上げる事になる。例え前科が付こうが、開拓者傭兵業界からすればただのヤンチャの証に過ぎない。企業に勤めるリーマンとしての人生は閉ざされても、身一つで危険へ飛び込み大金へ手を伸ばすこの職業には大した影響は無かった。


実際組合警察とのトラブルで逮捕される開拓者は多くとも、長期に渡る懲役を課せられる事は少ない。高い賠償を払って出所した後も大半はそのまま開拓者を続けて行く。


白と黒の境界線上を歩くマジシャンは、回されたカメラへヒラヒラと手を振った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ