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478、ミルフィーユまんが紡ぐ棚からぼた餅

スゥさんはボクと並んで美味しいランチに齧り付く。宙に浮かぶ見晴らしの良い喫食コーナーは美羽の皆にも好評だった。


『食事は環境にも拘るのだな。この景色を眺めていると、尚のこと美味しく感じれる。』


「勿論です。ニホンコクが追求したのはお料理だけじゃなくて、喫食そのものです。」


如何に最高の美味しい、を作れるかを磨き上げた歴史がある。家で食べる焼きそばよりも、お祭り屋台で買った焼きそばを食べる方が美味しいんだから。あの空気感の中、場合によっては立ち食い。皆でお喋りしながらも、手に持った容器を割り箸で弄くり回す。ほんのり指先を湯気が暖め、口に運ぶ度に濃い油っぽさと紅生姜のピリリ!が混ざり合うんだ。


うう、考えてたら焼きそばが食べたくなっちゃった。でも EXPOには出店されていないから。柔らかな麺、シャキッとするキャベツ、カリッとする紅生姜。3つの食感をボクの舌が求める。


けれど肉まんに齧り付く。1口食べれば肉まん、2口食べれば中華まん、3口食べればピザまん。噛む場所によって幾つも仕込まれた収納のマギアーツから、具材が出て来るミルフィーユまんはとっても美味しい。


んっ、あむっ、んっ。今はこれで満足。


企業じゃ採算が取れないぐらい手の込んだ特別メニューに、スゥさんもお口を汚して夢中だった。


「あの。ボクの食べる姿ばっかり写真に撮らなくても。」


『特別に美味しく感じるのは、やはりラフィが居るからかもしれない。』


「えへへ‥‥」


恥ずかしいけどそう言われると嬉しいな。チラリと見た先で、ホロウインドウの中のフィクサーさんが今日のシークレットイベントの推移を教えてくれた。


『にゃは、ARラフィさまは中々に好評。皆ラフィさまの可愛らしい姿に夢中ですよ。』


‥‥確かにちょっとあざとく振る舞うよう、ARの撮影の際にアイビーさんに頼まれたけど。皆が嬉しいのなら良いよ。ちょっと複雑でもね。


雲の上から見下ろした先、丁度知り合いの姿が見えた。赤い肌のオーガ、クリムゾン・イシダさんが仲間達とお祭りを楽しんでいる。イトウさんだけボクに気付いて軽く手を振り、ボクも笑顔で応えたのだった。





「おーい、イトウお前何処に手を振ってんだ?」


「なに、大した事じゃない。それよりも先程から妙に彷徨いているが、まさか酒を探してるんじゃないだろうな?」


イシダの動きがピクリと止まる。


「兄貴ィ、学生のお祭りで学生が酒を提供するなんて無いですぜ。夜の部を待ってから来た方が良かったんじゃ。」


求めた酒気は、妥協のミルフィーユまんとジュースに。


「ミルフィーユまん、美味いっちゃ美味いが。変な食い方すると具材が混ざって妙な味になるな。」


ジョアッチーニの大口で齧ると、中華まんとピザまんが口内で混ざってしまった。


「お行儀良く食べる事前提っすねー。」


キッドは丁寧に、手も汚さずペロリ。コバヤシのオークの口腔はまんを一飲み。えもいえぬ顔をする。


「いつものゴム鎧を着てないって何だか新鮮っすね。」


「強化外装の着用は禁止だからな。オーク顔は悪目立ちすっから隠してぇけどよ。」


イシダの手にもミルフィーユまん、齧ろうとして虚無を喰む。手のひらは空、横合いから何かに奪い取られていた。


「ああん?」


睨んだ先、小さなロボットの類がミルフィーユまんを抱えて走っていたのだ。


「あれはファミットとかいうやつか。二脚型だな。」


走るテディベア、そんな見た目のファミリーロボット‥‥ファミットが強奪したミルフィーユまんを抱えて何処へ行く。


「あっ?!テメッ!返せ!!」


思わず駆け出すイシダはハッとした。開拓者にとって走るとは駆動魔具で動くもの。しかし今は駆動魔具を使う事が出来ない!


「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」


足を交互に、地面を蹴って力強く!呆れ顔で見やる面々が追う先頭をイシダは駆け抜ける。


タマに金貨を1枚取られた時、そしてミルフィーユまんを奪われた時。イシダは脇目も振らずに追い掛けた。孤児だった子供時代、手の中にあったパンを同じスラムのクソ野郎に奪い取られた屈辱。そんな日常が積もれば、執着心もまた育まれて行く。


「返せやッ!」


テディベアはちょこまかと、小さな足からは想像付かないような俊敏さを見せた。人々の足の側をすり抜け、ドタドタ走る赤肌のオーガを前に人々は驚いて避けていく。


目前の3人のサキュバスの足元を通ったテディベア、


「きゃあっ?!」


驚いて躓くクロエの体を、滑り込むようにして咄嗟に受け止める。


「嬢ちゃん、怪我はないかァ‥‥?!サキュバス?!」


「あ、ありがと。」


サキュバスの色香が半ば強制的にイシダの鼻の下を伸ばし、


「オイコラ、ウチのクロエに何してくれとんじゃ。」


「そろそろ離して良いよね?」


ヤスコに肩を掴まれ、シャンタルに睨まれる。セシルが防犯ブザーアプリを見せつけた。


「うおっ?!違ぇって!悪い!!」


慌てて逃げ去るイシダの後、コバヤシ達がヤスコらへ通りすがりに頭を下げていた。


テディベアはそのまま近くにあったお化け屋敷へ飛び込んで行く!一緒に飛び込もうとして学生に止められ、そのまま駆け足をしたまま列へ並ばされた。コバヤシ達と並ぶイシダは腕組みしてお化け屋敷を睨み付けた。


「追い詰めてやったぞ。コンチクショウ!」


「まだ入ってなかったっすね。気になってた所ですし丁度良いじゃないですか。」


「噂じゃ案外難しいって話だぞ?難しいお化け屋敷って何だ?」


イトウの声にジョアッチーニは首を傾げた。


良い歳の大人が5人連れ立って学園祭のお化け屋敷。平時なら寄りもしなかっただろう。その先に和風異界化の大口が開いているとは知らず、踏み出された気楽な足取りは。


「うぉぉぉぉ?!なんか追って来る!」


「石像っすよ?!」


「コバヤシ‥‥南無。」


コバヤシとイトウは案の定序盤にリタイヤ。走って逃げ回るのは得意じゃない。駆動魔具も無しとなると、鍛えた開拓者と言えど向き不向きはハッキリ出た。


ジョアッチーニは反射で武器を抜きそうになるも、収納内でロックが掛かった武器を思い出し諦める。廊下を走り回り、曲がり角で教室へ飛び込みドアを閉める!野郎3人が2つのロッカーの中へ飛び込んだ!


「狭いっす!」


「うっせー!じっとしてろ!」


「抱き締めないで欲しいっす!キモい!」


「狭いんだよ!」


教室のドアが叩かれ、遂に怪異が踏み込んでくる。壊れたドアを踏み越える音をロッカーの薄いドア越しに聞けば、自然と息を殺して気配を消した。


2つ並ぶロッカーを前に、佇む石像。ジョアッチーニは確実に気付かれている事を悟りため息を吐いていた。しかし、石像は知らないフリをして去って行ってしまう。ホラーゲームのお約束、視界外でロッカーに隠れた者を襲う事なかれ。


怪異を縛るルールが定められた鬼ごっこは、こうして一般人でも攻略可能な難易度になっている。制限時間は1時間、隠れながらでも直線距離は短めの迷宮を進んで行く事は出来る。


『こりゃただのお化け屋敷じゃねぇ。作戦行動だ。』


『遊びじゃ無いっすね。』


ジョアッチーニが2度舌を鳴らす。スマイルのやり取り以上に迅速で早い、イージス特殊工作部隊仕込みの連絡法。環境によって方法は様々だが、静かなこの場所で互いの視線が通らない状況ではこれが最速。


動く!開いたロッカーを後に、3人で死界無く手早いクリアリングで進んで行く。廊下を軋ませる怪異の音を鋭く聞き分け、大気の動く気配を肌で感じたイシダが空飛ぶ絵画を躱した。


居る。廊下の向こう、テディベアが2体の石像に囲まれて見下ろされていた。怪異もマニュアルに無いファミットの対処が分からず、責任者の吊られた女の霊を呼んでいたのだ。


イシダ達の背後に、突然現れた吊られた女の霊。


「うおっ?!」


「出たぁ?!」


「チッ?!」


迫る手を躱し、前へ爆走!出口はもうすぐそこなのが感覚的に分かった。ジョアッチーニのハンドサイン、攻撃を意味するそれは石像の1体を退かす合図。


「退けぇ!」


ジョアッチーニ、お化け屋敷で掟破りの怪異へのタックル!無論触れられ外へ転移させられてしまうが、その間にイシダがテディベアを抱き上げて走り去った!


「コンチクショ!コンチクショッ!!捕まえたぞワハハハハ!!」


「先輩あっちっす!非常口あったっす!」


そして光の世界へ───2人を待っていたのは、赤いドレスの令嬢とそれを守る護衛達。


「うえっ?!」


急に囲まれ思わず背筋を伸ばして固まってしまう。


「ああっ?!やっぱり!なんでお化け屋敷に居たのよ!」


令嬢はあっさりイシダからテディベアを奪い取り、ウインクを返した。


「私のクマちゃんを探してくれてありがとう。」


イシダのホロウインドウが開き、イトウからのメッセを受け取る。



『イトウ』

そいつはあのウマミMAX社の令嬢、ウマミ・アリスだ。態度に気を付けろ、メガコーポの令嬢だぞ!



「はっ、はひぃ〜。ありがたき幸せ〜。」


イシダの変な態度に、アリスはくすっと笑った。


「そんなにかしこまらなくて大丈夫よ。貴方達、ラフィのお友達でしょ。顔は知っているわ。」


和やかなアリスの後ろから、チズルが露骨に警戒した顔を向けていた。アリスの付き合いで良い物を食べて、美容に気を使い護衛の傭兵とは思えないセレブリティ漂う艶肌の美少女。揺れるツインテールもサラサラだ。


「この子ったら目を離した隙にどっか行っちゃって。イタズラ好きでやんちゃなのよ。ご迷惑をお掛けしなかったかしら。」


「あははは、俺のミルフィーユまんをかっぱわれたぐらいで別にぃ〜」


キッドが思わずイシダの後頭部を引っ叩き、チズルも目線で非難する。そんぐらい一々口に出すんじゃねぇよ、肉まん一個でメガコーポに賠償求めて揉めるつもりかコイツ。


つい口を出てしまったからには仕方ない。イシダもそんなみみっちい事をする性格じゃないが、緊張のあまり無意識に言ってしまっていた。


しかしアリスはバッと頭を下げ、その様子に一同が狼狽える。


「ごめんなさい!報酬に賠償分を上乗せするわ。」


「アリス‥‥」


「チズルも、失礼な目線で見るのはダメよ。誰彼構わず威嚇するような態度は良く無いわ。」


うぐっと黙るチズル。護衛と言いながら気楽に構えるタマやラフィを思い出す。こうも人混みの中だと、つい神経を使って力んでしまうのだ。


「お祭り、楽しんでね。私もラフィに会いに来たんだから。トウキョウシティはラフィの活躍で治安が劇的に改善したって。お陰でお父様にも止めらなかったわ。」


ご機嫌よう、と令嬢は去って行く。口座にポンと振り込まれた緊急物的捜索依頼の報酬と、ミルフィーユまんの金額。ファミットはヒトとの繋がりの薄くなりがちな上流階級のヒトにとって、正に家族のようなもの。


「結構良い金額になったっすね。」


「ふぅ〜、寿命が縮まったわ。」


肩を脱力されるイシダの腕をイトウとジョアッチーニが小突く。


「それはこっちの台詞だバカ。肉まん一個くらい我慢しろ。」


「そうだ。気難しいタイプだったら今のでめっちゃ目を付けられたぞ。しかも令嬢だぞ?あんな人の出来た令嬢、流石メガコーポってか。」


しかしコバヤシはイシダの前で軽く小踊り。


「まぁまぁ!兄貴の活躍でどかっと報酬入ったし、今夜は飲むぞォ!トウキョウシティに来て大赤字は避けられたんですぜ!先ずは祝いましょうや!」


飲みの話が持ち上がれば、皆の顔は明るくなる。イシダもグッと拳を天へ掲げ、


「夜の部まで待てねぇ!一旦出て近くの居酒屋巡るぞ!EXPO中は昼間っから開いてんだろ!」


この後の予定が決まったのだった。

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