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477、アチーブメントが黒猫を振り回す、夢幻の手がその懐へ迫った

歌の稽古の合間の休憩時間、タマはヤミヨを連れてEXPO会場を覗いていた。折角のお祭り、楽しまなきゃ損と2人は乗り気。


「ここ最近一日中何時間も歌いっぱなしよ。」


「ここで成功すれば名が売れるし?」


「アタシは十分売れてるからいーのよ。」


言うねぇ、とヤミヨに小突かれ尻尾で叩く。見回せば全部が物珍しく、好奇心のままにブラブラと。手に取った驚きに目を見開き、お化け屋敷をサッサと攻略し、圧縮加工トルコアイスを蕎麦の様に啜る。


もう10分ぐらいズルズルと伸びるバニラアイスを啜っているのに、何故か減った気がしない。


「学生さん特有のアイデア商品だよね。企業はこんなの絶対作らないでしょ。」


「味に飽きても終わらないねっとりアイス地獄って?開拓者じゃなきゃ完食したらお腹壊すわね。」


開拓者の胃は頑丈。治外街のよく分からない料理をかき込んでもお腹を壊さないよう、内臓強化系のインプラントを積んでいる。胃はオーク、肝臓はオーガ。亜人の内臓をうまい具合に再現して馴染ませていた。


元々気の合う2人は一緒に仕事をするようになって口数多く、暇さえあれば駄弁ってしまう。


さっき貰ったシャボン玉を手の中で転がして覗き見た。


「これクラスCの出力で握っても割れないってマジ?」


「握り心地良いよねコレ。シャボン玉って儚さが良いのに、ゴムボールみたい。」


先ず利益が先行して研究が始まる企業のものと違い、純粋な好奇心とネタ性で研究が始まる学生達のアイデアの園。変なモノは幾らでもあって、触る度にアチーブが解放されていく。


コツコツとアチーブを解放していく、僅かな成功体験のミルフィーユは大人であっても齧り付かずにはいられない。ポイントがたんまり、使い道に想いを馳せる。


「ホント上手いこと考えたわね。なんかトラブルがあっても、アチーブを添えるだけで公式扱いに出来ちゃうのよ?昨日はそれのお陰で助かったようだしさ。」


「あははっ、このアイデアもコウタロウくんだっけ?紆余曲折あったけど、今回の実行委員会は随分有能じゃん。」


そんな2人の視界が、ぴょこりと物陰から顔を覗かせるラフィを捉えた。


(あれ?ラフィは今アイツらのガイドをやってる筈。何かあったのかしら。)


2人に覗き込まれても、ラフィはキョロキョロするだけ‥‥と、急に目が合った。声を出さずにあざとい仕草でウインクを送って来たのだ。


「何よ急に。可愛いわね。」


手をワキワキさせて迫るタマ、その手が求めたふんわり柔らかな髪の毛の感触は果たして。スカッと頭を貫通して思わずギョッとしてしまった。


「ウヒャアッ?!」


飛び退くタマと、思わず吹き出すヤミヨ。ラフィの写真を撮ったヤミヨは“ラフィ・イリュージョン”の銀アチーブを獲得していた。


「ARじゃない?ふぅん、事前の情報になかったけど今日はそういうイベントやってるのかも。」


ラフィの姿が消えてしまった。ラフィ関係のアチーブを入手し損ねたという事実に、えもいえぬ気分になってしまう。


「ハムハムにも目撃情報結構上がってるね。」



『ラフィ居たんだけど、めっちゃあざと可愛い』

#T&Y EXPO #ラフィ


『ラフィ撮ったらアチーブ獲得しちゃった!しかも銀!!』

#T&Y EXPO #ラフィ #隠しアチーブ?


『情報が錯綜してる。本物?のラフィを撮ってもブロンズアチーブのみ。』

#T&Y EXPO #ラフィ #それはそれとしてカメラ向けると自然に手を振ってくれるラフィ最高


『そういや今異文化交流会のガイドしてるのに居るわけない場所にラフィが。撮ったらシルバーアチーブで変な声出た』

#T&Y EXPO #ラフィ #隠しアチーブ


『学生達のブース付近に出やすいっぽい。5回目撃した』

#T&Y EXPO #ラフィ #覗き込む姿可愛い


『こっちは夜の部のライブステージ付近で踊ってる姿見た!フリフリな動きでヤバい』

#T&Y EXPO #ラフィ #あざといラフィ


『踊るラフィ撮ったらゴールドアチーブ!!1分ぐらい踊ってすぐ消えちゃう』

#T&Y EXPO #ラフィ #実行委員会のテント上



「ちょっと撮ってくる。」


「はいはい、毎度シークレットイベント多いよねー。」


ブランへ連絡を取る。



『タマ』

ラフィのARの件知ってた?


『ブラン』

ラフィ様直撮りARでしょうか。シークレットイベントは極秘ですので。



アタシにぐらい共有しなさいよ、と文句が込み上がるもハムハム情報管理アプリで目撃情報を纏め上げる。話のタネを一斉に検索、検索ワードを絞り込んで更に場所に由来する情報をAIが整頓した。マップアプリに共有すれば、会場の何処が多いのか直ぐに明らかになった。


「ラフィの全部をチェックしてやんないと。」


回る、足(しげ)く。周る、そこかしこを。廻る、ショーの時間ギリギリまで。


デビルズ・エコーの姿のタマの渾身の蹴りが、グミを吹き飛ばした!


「何で見つかんないのよッ!!」


「何の話?!」


ショーの最中、不意に視界の隅にラフィを捉える。ああっ!踊っている!木々の間の小さな隙間で、笑顔でフリフリっ。きゃーっ!とあざとく小さな体を揺らす!


思わず撮ろうと動くも、グミのタックルで転がされてしまった。起き上がった時にはもう居ない。


渾身のエルボーがグミを再び吹き飛ばした!


「返しなさいよッ!!!」


「何を?!」


それは八つ当たり。行き場のない怒りを乗せた一撃がグミをノックアウトするものの、隙だらけのタマをラズベリーが冷静に狙撃。怯んだ所をアマネのピンクネイルが引っ叩く!


「ゲファ?!」


「集中しろっての。」


ごもっとも。結局タマは起き上がれずに、尻を天へ突き出した間抜けな姿でダウンしてしまった。





「まだ諦めないのー?」


ヤミヨの隣、血走った目でハムハムを眺めるタマがいた。


「一度気になり出すと余計に気になるのよ!」


ヒトは時として妙な完璧主義に揺さぶられる。揃ったアチーブメントの中、ラフィに関わる項目だけ“???“の表記のままになっているなんて。ラフィの相棒としてどうしても拘りたい。


そこで視点を変えてみる事にした。ARラフィを映した動画を選別、時折周囲を見回す光景の中から共通して映り込む人物が居ないかを精査した。AIが識別して、顔出しOKタグをスマイルに紐付けていないヒトは偶発的に映り込んだ際自動的に顔にモザイクが掛かる。


1人、見覚えのある顔が背景に映り込んでいた。


「アイツか‥‥!」


顔出しOKで堂々と映り込んだ、オシャレな女の子。トレードマークのステッキを片手に、カメラの方へ何かを話していた。


読唇術アプリにかければその内容が表示された。


11:45分。


その投稿時間はつい5分前、その時間まであと10分。敢えてカメラに映り込んで、次の予定時刻を呟いてみせていた。


場所を示すのは視線の先、カメラの情報からマップの何処で撮影されたのかを調べ上げる。


(候補地は5箇所、1分間の間とは言え場所は離れていない。いけるか。)


タマは駆け出した。


人混みを掻き分け、欲求が足を前へと突き動かす。思えばここ最近、アレもコレも何でも金で買えていた。欲しいのに金で買えないものに手を伸ばす感覚はいつ以来か。


候補地を横目で確認、視線は忙しくキョロキョロと不審者のよう。


風で揺れるタマの猫耳が、か細い声を聞いた。


「ママ‥‥どこに行ったの?」


小さな迷子が助けを呼ぶ事も出来ずに、1人群衆に揉まれている。今のタマに時間は無い。一瞬の逡巡。


ラフィはこのイベントの成功の為に、今も全力で頑張っている。ラフィならどうしただろうか。


「ああっ!クソッ!」


不安に揺れる子供をバッ!と抱き上げ、驚く顔も無視して実行委員会のテントまで一直線!飛び込めば忙しそうにするコウタロウ達が振り向く。


「タマさん?!」


「ハイハイ、迷子を任せたわよ!」


EXPOアプリ経由に迷子の通知が一斉送信される中、寄り道したタマは時間を過ぎてしまった事にガッカリしながらもダメ元で場所へ走る。案の定、徒労に終わってしまった。


しかし諦めない視線が、見知った顔を群衆の中に捉える。伸ばされた手が、その肩を鷲掴みにした。


「やっと見つけたわよ、アイビーだったかしら。」


「わっ、誰かと思えばタマさんじゃないですか。随分汗臭い格好で、どうしたんです?」


アイビーのスマイルへ通知が行く。


『一日中アンタがラフィのARを展開するのを追いかけ回す時間が無いの。交渉しましょうよ。』


恥も外聞もない直球な交渉、探さずとも仕掛け人に当たるのが最適解なんて無粋な態度。本来一般客がそんな事を言った所で、知らぬ存じぬでのらりくらりと躱してしまう。


しかし、アイビーもまたこの状況を期待していた。ラフィの1番近い所にあって、ラフィの全てを欲する貪欲な黒猫が食い付く可能性に。タマがショーで忙しい事は知っていたし、だからこそこの催しに満足に関われる可能性は低いと踏んでいた。


前科者となり配信者として苦しい立場になったアイビーだったが、世の中には這い上がる手段が無数にある事を分かっている。ラフィという強力なコネを使わずにいる理由はない。


この仕事自体、ラフィへ直談判してシブサワに紹介して貰って得たもの。凄腕のAR技術者として EXPOを盛り上げてあげようと声を掛けていた。


そしてその副産物として───


『私はラフィのお友達でさ。応接室の合鍵が欲しいなーって。』


前に一度応接室へ招かれたものの、素性をよく知らないタマは警戒してワンタイム招待コードを使用していた。ラフィと深く関わりたいのなら、パンタシアへの正式な招待コードは必須。


『アンタはそんなにラフィと親しいの?』


『この話自体ラフィと個人的なやり取りでやっている事だしさ。でもラフィへ応接室の話をしても、キミの事を気にして簡単には合鍵を貰えないんだ。』


タマはラフィが良いと思った相手なら文句を言うつもりは無いが、それでもラフィはタマの事を気遣い誰も彼もに応接室の招待コードをばら撒く事はしない。事実上2人の了解を得なければ、ワンタイムコード以外受け取れなかった。


この状況でなければ、余程ラフィが強く推さないとタマはアイビーに正式な招待コードを送らない可能性は高い。単純に一緒に仕事をした回数も少なく、アイビーは胡散臭い配信者な上前科者で、何かと悪用の効くAR技術の達人。ぶっちゃけ招きたい人物では無い。


アイビーと“個人的なビジネス”の関係もあるが‥‥パンタシアはプライベートなのだ。仕事でしか関わらない奴に自宅の鍵は渡したく無い。


『私にもラフィを支えさせてくれないかい?』


タマは少しの間目線が迷い、冷静な判断を欲求が鈍らせていく。欲しいものに手が届きそうな所にある瞬間が、1番ヒトの判断力を奪うのだ。所謂(いわゆる)衝動買いをしてしまう、そんな心理状態に陥った。


どうせここで蹴っても、後でラフィに推されて正式に招く事になるんじゃないだろうか。そうなったら蹴って報酬を無駄にするのはバカな判断では。そもそもじっくり話し合える時間が無い。そろそろパンタシアに戻って歌の練習をしなければ。


受け入れる理由は沢山あって、考え込む時間がそのまま理由を増やす時間になってしまう。


『妙な事をしたらぶっ飛ばした後にコード剥奪するからね。』


『はははっ、怖い怖い。なら後で応接室で披露しようじゃないか。ここじゃ目立つだろう?』


『分かったわよ、クソ!』


アイビーは正式な招待コードを受け取ってにんまり、タマはどこか負けた気分になりながらも目的を果たせて少しは溜飲が下がる。ゾロとニコラのコードは流石にこの場で即確保といかないが、おいおい時間を掛けて獲得するしかない。


業界内でラフィと繋がりを持ちたい開拓者、企業の人間は星の数ほど居る。タマが思う以上に、パンタシアへの正式な招待コードの価値は重いのだ。


(先ずは一つ目的を果たせた。トウキョウシティに出遅れた分、ここで一気に巻き返さないと。2人が動画の編集と広報を頑張ってくれてるんだし、私が引っ張って行かないとね。)


アイビーは底辺からグッと天上へ向けて手を伸ばしていたのだった。

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