表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

498/523

475、誰もが笑い、誰もが楽しむ

T&Y EXPO、2日目。


今日も来場者達が沢山やって来て、会場前からもう熱気が凄い。皆待ちきれない!って風に一緒に来たお友達と期待を囁き合う。


朝イチで並ぶ皆の目的は、EXPO限定数量限定メニュー。毎朝材料が仕入れられるから、初日を逃しても最終日までしっかりチャンスがあるんだ。‥‥普通の飲食店みたい。5連勤、お疲れ様です。


ギュギュッと凝縮餃子、噛めば中身が口の中で弾け飛ぶ。肉っ!ニラっ!チーズっ!キムチやエビっ!一口で食べないと大変な事になるって、グルメ紹介系配信者が身をもって世間へ警鐘を鳴らした。


“肉”厚椎茸。齧れば分厚い身の中に、トロけるお肉。椎茸の中身をくり抜いて、代わりにお肉やシソを詰め込んだ独創性の高い料理。どうやって作ったんだろう。


ランダム焼き魚。串に刺されたお魚は一見すると川魚。皮はパリパリになるまで焼かれ、お塩が振られた美味しそうな見た目。一口齧って中から出る魚肉はランダム。ボクが試食した時は焼きサーモンだった。美味しかったな。


EXPOだから幕の内弁当とかそういうメニューは無い。あくまで新メニューの発表会だから。その中でも数を作るのが難しい料理は数量限定のメニューとなった。


そんな作るのが難しいメニューを、今目の前で学生さん達が必死に作り足していた。昨日の内にある程度作っていても、規則で残業禁止だから。大学に戻ってこっそり作り足したりする話は、チョロっと犬耳を生やしたボクに聞こえて来た。


アニマトロニクスの犬耳は、聴力も大きく上がるから興味本位に聞き耳を立てるのに便利。ピクピクと柴犬のようなお耳が動いちゃう。R.A.F.I.S.Sは繋がっちゃうから、鋭いヒトだと会話の内容が漏れた事に気付く。でもこれなら分からない。


ボクへ課せられたちょっとしたお仕事の一つ、学生さん達の素行調査。本格的な捜査はしないけど、通りすがりに規則違反をしているヒトが居ないかチェックするんだ。


グレー程度なら報告不要だけど、隠れていっぱい残業しちゃったとかそういう話が聞こえたら報告しなきゃ。先生に言いつけてやる!ってそんな気分で後ろめたいな。


でも聞こえてくる会話の内容は‥‥


『ねえ、ラフィくん犬耳生えてる!』


『レアじゃん!撮らなきゃ!』


『可愛い‥‥』


『ピクピク耳動いてる!』


『撫でに行って大丈夫そう?』


『こっち来ないかなぁ‥‥』


もぅ。皆ボクばっかり見てないで、準備を急いで下さい。後ろから応援していますから。


犬耳を‥‥ラズベリーさんの指先がフスっ、と。振り向く間も遠慮なくモサモサ‥‥


「ラズベリーさん、皆見てます。」


「えへへ‥‥ちょっとだけ。あまり犬耳生やさないよね。猫も可愛いけど、犬も好きぃ。」


ラズベリーさんは動物とか結構好きなのかな?ボクも動物は好き。タマさんの猫耳も好き。会いたいけど、デビルズ・エコー役のタマさんが皆の前でエンベリの面々と仲良くする訳には行かず。


EXPOが終わるまでミュージカルの練習に明け暮れていた。


「今日はラフィくんは異文化交流会でしょ?」


「はい。この後迎えに行きます。今回はEXPOの見学がメインなんです。」


だだっ広い自然公園に設営された、大きなEXPO会場。混み合いやすい一部の区間の広い通路は2つに分けられていた。有料路と無料路。広さは同じだけど、バリア装甲で仕切られた有料路内は全体が空調効いてて快適。それなりに良い金額が掛かるから、ヒトも少な目で混雑しない。


バリア装甲で守られているから移動中は安全、ブースへは短距離の転移で直接出入り出来た。ブースによっては有料路から転移して来た来場者を、個別に対応する場所を設けたりもしていた。


流石に会場全体って訳じゃないし、ブース内は無料路のヒト達と同じ場所で楽しむし、喫食エリアでも分れたりはしていないけど。基本的にはシブサワの警備を信用して!って方針。その上で少しでも快適に特別待遇で楽しみたい層へ訴求した。


ボク達は基本的に無料路を通って移動する。でも、ファンサービスを求められたら有料路へ顔を出す。特別なチップを装着すれば、バリア装甲を素通りして移動出来た。


富裕層向けの道への入場料は10万円を超す。そんな有料路内を美羽の一族の皆に通って貰うんだ。


今日の交流会も成功させないとね。学生さん達の新技術にびっくりしてくれるかな?ボクはワクワクしながら時間を待ったのだった。





魔法少女エンジェル・ベリー♡!!はEXPO期間中、会場内をマスコットとして練り歩きファンサービスをするお仕事が割り振られていた。ラズベリーが手を振った先でファンが喜び、求められればサインを色紙に書いた。


ラズ『今日も一日頑張ろー!』


グループトークへ片手間に投稿。現代っ子な魔法少女達にとって、ヒマとは秒単位で発生する。5秒ヒマがあればグループトークへメッセを一個投下出来るし、皆が適当に投げた話題を視線でなぞる事が出来た。


如何に仕事に真面目に当たっていたとしても、ヒマが発生してしまう事実は変わらない。ラフィレベルならともかく、ラズベリー達の人気ではファンが途切れるタイミングも多々あった。


戦いの中に身を置く魔法少女達にとって、一瞬のやり取りは慣れている。そんな体感時間で生きる以上、このくらいの仕事なら余裕を持て余した。


グミ『ていうか朝の話マジなの?』


朝の話‥‥ブラックカラントがスポンサーを得たという自慢話。まだ公式に発表された事実ではないが、もう裏では決定事項になっているようだった。


(う〜。羨ましい!)


カラントを祝福する気持ちがラズベリーのハートの表面を覆い、その内側で羨む気持ちがムクムク。


ラズ『ニッポンイチなんて凄いよね!私も早くスポンサー欲しいよ〜!』


アマネ『結局元鞘に戻ったってね。私の苦労は何だったのか』


カラント『顔つなぎ役ご苦労、今後は良きパートナーとして支えてくれ』


アマネ『あいあいさー』


グミ『スポンサーねー。私には縁遠い話だわー』


カラント『ここだけの話。エンベリの面々は今スポンサー候補企業連中が裏で取り合いの真っ最中だそうだぞ?』


「えっ?」


思わず声が出てしまう。丁度寄って来たファンは首を傾げ、慌ててラズベリーはトークルームから目を離した。


「あはは、何でもナイヨー。会いに来てくれてありがとう!」


ファンはラズベリーにとってかけがえのないもの。対応中は余所見せず、口から出た言葉には心がこもる。笑顔に影はなく、しかし今心中はプチパニック。


(私もスポンサー付くの?!まだ高校生開拓者なのに!どんな企業になるんだろう?ヤバい!ドキドキする!)


ワクワク感と緊張感が混じって重くなる心。チラリと見やった先には自販機が。ボテっと現れたビニール袋のような薄い膜に包まれたジュースはキンキンに冷えていて。ギュッと握れば自然と飲みやすいストロー口が突き出された。


(今は仕事に集中、集中‥‥)


空になった袋をリサイクルボックスの収納へ。動転して熱気を上げた心へ、冷えたジュースがぶっかけられる。開拓者としての転機が突然やって来た事実を飲み込んで、一層仕事に気合が入ったラズベリーだった。




「次はあっち見ましょうよ!ほら早く!」


小さな褐色肌のサキュバスがはしゃいだ声を上げ、金髪のツインテールが揺れる。扇情的ながらも都市法に触れないギリギリの衣装は、道行く男達の視線を引っ張った。


勿論シブサワのお膝元でサキュバスへ手を伸ばすマヌケは居ない。そこかしこで警備員達が目を光らせている。それに偶に通りかかる守護天使の姿が、犯罪の無謀さを思い起こさせた。


非力な力で引かれるシャンタルは、逸れないようセシルの腕を尻尾に巻いて付いて行く。その後ろをジャックとヤスコがアイスを片手に歩いていた。


「あははっ!慌てなくて良いって。クロっちったらはしゃぎ過ぎ〜。」


「逸れたら婆様に怒られてしまいますよ。昨日放ったらかしにしたせいで大目玉でさぁ。」


バーニスはあの3人娘に対してやや過保護気味。ゴーストの件以降、不器用ながらもジャックとヤスコの面倒も見ようとしていた。


『ほら、飯はいっぱい食いな!育ち盛りだろ?』


目の前に大盛りになった脂っこい焼肉の山。目を輝かせるジャックとヤスコ。そしてゲっという顔を引き攣らせるサキュバス3人娘。


『お前達の部屋は防音工事しておいた。プライバシーだかデリカシーだか‥‥そういうアレだよ。』


ヤスコの机の上、案の定ベッド下に隠されていたラフィ写真集の実本が乗せられていた。治外街で実本を触った経験のあるヤスコは、紙製も悪くないなとついコレクションする。‥‥折り目の付いたとあるページが開かれた形で鎮座していた事に、思わず悲鳴を上げてしまった。


『あー‥‥なんだ。悩みとかあれば話してくれて良いんだぞ?』


多産種族のバーニスから見れば、女性特有の生理現象でナーバスになったヤスコは危なっかしく見えるらしい。トイレに行こうとしてんですよ、邪魔しないで下さいって!!


薬で大分改善出来るとは言え、しかしキャラバン生活をしていると度々切らしてしまった。荒野の果てまで転移デリバリーサービスが届くとは限らない。手術してそういう機能を完全に捨て去ってしまうのは‥‥ホルモンバランスの崩れを何とかする為に、どの道薬漬けになるのは勘弁だった。


「ヤスっちと婆ちゃんって最近よく喧嘩するよねー。」


「あーしだって乙女でさぁ。婆様はちょいとデリカシーに欠けるって言うか、根本的に年頃の女の子と付き合うのが向いていないというか。心遣いは感謝していやすけど。」


勝気なバーニスと取っ組み合い、最後にはヤスコが投げ飛ばされて目を回す。ヤスコはヤスコでバーニスをお婆ちゃんだと内心で意識するようになっていた。


本気で殺し合って勝ててしまった以上、もう(そび)え立つ壁では無い。婆様と言う呼び名は変えずとも、庇護すべき存在だと感じてしまっていた。バーニスにもそんな気持ちはバレているだろう。互いにどこか複雑な想いを抱いていた。


「ヤスコ!話してないでコレ見てよ!」


クロエが見せたソレは小さなコントローラー。片手で握り込んで操作出来るソレを使えば、新体験のゲームを楽しめた。


「AR製のゲームなんて面白いじゃん。」


FD(フルダイブ)VRが主流のこの時代、物理的なコントローラーで操作するゲームはほぼ存在しない。どれも脳波操作が前提のこの時代に、まさかの指先の器用さを求める旧世代的なゲーム。


温故知新(おんこちしん)から飛び出したるは、ARで投影された横スクロールアクションゲーム。学生が作ったソレは、流石に一流企業の予算が掛かったAAAタイトルには遠く及ばないインディーズ。なのに大好評で話題になっていた。


シャンタルは器用にコントローラーを握って、シャカシャカとARのキャラを動かす。配管工の姿をしたドワーフが、容赦無くモンキーレンチをキノコ頭の敵へ投擲した。


「よっ!はっ!うわっ?!」


シャンタルの指先の迷いに導かれた配管工は、哀れ奈落へ姿を消す。残機‥‥リトライ回数が1減った。


「あーっ!シャンタルったら!」


「そこジャンプ難しいですよね‥‥」


興奮したクロエがバシバシと小さな羽でシャンタルの背中を叩き、セシルは同情的な声で慰める。───普段冷静沈着なシャンタルは、レトロなゲームでの失敗に思いの外頭に血が登ってしまう。脳波操作でないこの難しさよ。


シャンタルは昔から成功体験に飽き飽きするような秀才。こんな簡単そうなレトロゲームで失敗経験を積むなんて、なかなかに屈辱。えもいえぬ敗北感。


あっという間に残機0になりムキーッ!となった所で、コントローラーがひょいとジャックに奪われた。


「はいはい、次は私達の番だって!あははっ!後ろから見てたから初見殺しには引っかからないよー!」


ジャックは剣の天才、しかしレトロゲームの凡才。残機が減るのに1分掛からなかった。アレー?と首を傾げるジャックからヤスコはコントローラーを受け取る。


「あーしが決めてやりますよ!」


ヤスコの演算容量は常人の比では無い。演算容量が大きいという事は、即ちそれだけ多くの情報を同時に処理出来るという事。前方に敵影、モンキーレンチの投擲した挙動、奈落をジャンプ‥‥過去の2人の動きから最適な軌道を算出。


ジャンプした配管工は、突然現れた透明なボックスに頭を打ち付け奈落へ吸い込まれて行く。あ、そーですか。そう言うのあるんですね。


「ムキーッ!!」


何故このご時世にレトロゲームが流行らなかったか、理由を体感して理解出来るブース。ストレスチェックテスト会場。投擲されても大丈夫なよう作られたコントローラーは憎い程に頑丈。快音を立てて転がっていった。


脳波で何もかもを直感的に操作出来てしまう現代人は、思い通りに操作出来なかった際の失敗で過剰なまでに感情を爆発させてしまう傾向が強かった。


シャンタルと目が合い、同じ失敗をした者同士どこか通じ合って照れ笑いあう。


「そうなるよねー。」


「へへへ‥‥お恥ずかしい。あーしとした事が。」


そんな2人の隣の試遊場で、ゲームがクリアされた軽快なBGMが聞こえてきた。


「凄いよコレ!ARだっけ?流石未来の新技術っ!」


遥か過去からやって来た少女にとって、この手のゲームの現役世代。操作感が手に馴染む。あまりにも呆気なく残機を1減らしただけでクリアしたミライは、驚いた顔の生徒からクリア記念の写真撮影に笑顔を飾ったのだった。


シャンタルの負けん気が、ヤスコの闘志が思わず燃える。


「皆は先に行ってて良いよ!」


「奈落へ消えたおっちゃんの仇をとってやんないと道義に反するんでさぁ。」


呆れ顔のジャックは仕方ないと、クロエとセシルの背中を押して場を後にしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ