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473、熱狂の閉幕の後、ヒムロの姉弟を連れてディナーへ

「終わった〜!凄い!凄いよコレ!!今までのショーの中で1番かも!」


空調が効いて尚熱気溢れる観客席、リコリコは大はしゃぎで配信カメラへ捲し立てる。満足‥‥というより感無量。最初期からラフィを見つめてきたリコリコは、特に感慨深い気持ちになっていた。


満たされきったこの気持ちを伝え切れる語彙力の無さに、自分に対して僅かに失望。もうちょっと読み物を読み漁って勉強しないと。内心でそう決心する。ラフィが関わるショーのクオリティは毎度ながら段階的に上がっていって、もう日常的な形容詞を羅列するだけでは伝えきれないのだ。


ーとんでもない内容だった ーアクションえっぐ ーラフィ可愛かった ーこれは生で観たいわぁ ーレイホウさんはっちゃけてたなXD ー特別ゲスト超豪華 ーモモコの親父はしゃぎすぎぃ ーめっちゃ目立ってて笑う ーショーが良かったのは分かるが号泣する程か? ー最高のショーだった ーハムハムのトレンドが席巻されたな


コメントを追って、リコリコもハムハムを覗き見る。元々トレンドワードはEXPO関連のものが多かったが、今や20位までこのショーの話題一色となっていた。


#T&Y EXPO

#ミュージカル

#ラフィ


夜空を突き上げる程の勢いで話題のタネが積み上げられ、誰もの興味を独占する。トウキョウシティを救った英雄の出るショーに、市井は熱狂して全てを語り尽くそうと言の葉が吹き荒れた。


その話題の聖地に居て、リアルタイムでミュージカルを堪能出来たというのは‥‥とっても優越感。リコリコはなんとかして語彙を操り、得意げな表情で感想を語ったのだった。





ミュージカルが終わって、ステージ裏。ふぅって緊張の糸を切って一息吐くボクの体は、急にタマさんに抱き上げられてわちゃわちゃ。


ピィッ?!変な声出ちゃうって!


「ラフィ!!やったわね!大成功よ!!」


そうだ。ちゃんと成功させたんだよね。終わった事に安心して、ちょっと遅れて実感が湧いてきた。


「とても楽しいショーになりました!沢山練習したお陰です!」


と、タマさんの腕には小さなボクのお人形が抱かれている。相転移でブラックカラントさんに引き寄せられたボクは、そのまま魔法少女の皆に囲まれてハイタッチ!ジト目で見やるタマさんを、ヤミヨさんが引き留めていた。


「ラフィくん!こんなショーは初めてだよ!」


「最高だったわ!」


「まだ5日やらねばならぬがのぅ。」


「1回通しで出来たんだし余裕っしょ。」


背の小さいボクへ屈んで手のひらを合わせてくれる。グミさんの手が頭をモフりと撫でて、アマネさんも背中を抱いてきた。あの?!近いですって!


「まぁまぁ。疲れたし役得的な。」


皆で演技を褒め合う中、モモコさんとレイホウさんがやって来る。流石にアマネさんもサッとボクを離して後ろへ控えた。


「ラフィ!今回のショーは大成功さ。ショーの中とはいえ、ラフィに救われるお姫様役は役得だよ。」


モモコさんともハイタッチを。


「あの時の思い付きが、これ程のショーとして形になるとはな。良い思い出となった。」


レイホウさんともタッチを交わして、感想が次々口から飛び出しちゃう。楽屋の隅に佇むアウランさんを見つけると、挨拶をしに向かった。


「アウランさん!」


「ちゃんとミスなく終わって良かった。いい魔法の練習になったわ。」


一つ大舞台を乗り越えられたアウランさんは、自信のついた顔で胸を張る。シルキーヌは片羽でそんなアウランさんを叩く。


「まだまだ使いこなせていないわ。私が制御を大分手伝ったんだから。」


フィクサーさんはそんなシルキーヌを胡散臭い目で覗き込んでいた。


『随分魔法が達者な鳥ですね。』


「悪魔さん程じゃないから。」


ボクが動けばホロウインドウの中のフィクサーさんも引っ張られてしまう。片手を振った後に消えたのだった。


まだ夜の部は終わりの時間じゃないから、各々好きに過ごして良いって話になっていた。けれどボクは不測の事態に備えて待機していないといけないし。でもエンベリのショーはもう無いから自由時間ってなっている。


皆どこ回ろうかって話題で盛り上がる中、ボクの手は───


───ブラックカラントさんの手を握っていた。


「なんだ、私とデートしたいのか?可愛いのぅ。」


「はい。ですけど、もう1人誘いたいヒトがいます。」


ブラックカラントさんはちょっと嫌な予感がした顔をするけど、手は離さないよ。グイグイ‥‥んっ、んっ!来て下さい。ぐぐ〜っと引っ張ってレイホウさんの下へ。


「レイホウさんも、一緒に夜の時間を楽しみましょう。一緒が良いです!」


ボクの伸ばした手を、レイホウさんはそっと握ってくれた。ゴーストの事件の時レイホウさんはブラックカラントさんと仲直りしたいって考えていたようだったから。今が1番のチャンスだと思う。


「ならエスコートを頼もうか。‥‥悪いな、モモコよ。選ばれてしまって。」


「はぁ‥‥そんな事言わないでって。どこかでラフィと回ろうか。ふふん、予約は可能かい?」


「大丈夫です。でも今日はごめんなさい。」


タマさんも何も言わず、パンタシアでデビルズ・エコーの皆でささやかな打ち上げをと誘っていた。ボク以外の皆は今日のお仕事は完全にお終いだし。ボクだけはモモコさんに事前に言って、最後まで見守りたいなって。


ラズベリーさん達はキャウルンさんも誘って、皆で夜の部を見て回ろうって話していた。


ボク達3人は夜の部へ繰り出す。夜の部はシブサワが主導する企業祭。あちこちに新技術を使った夜のお店が並んでいて、今日のEXPOの興奮に浸りながら1日をゆったり振り返られる。そんなコンセプトの会場だった。


来場者達は皆昼の部で体力を使い果たす勢いで騒いだから、お洒落なディナーを味わってお酒を楽しんでお土産を買ったり出来る。他にも技術発表ブースで征天大学で導入された技術を体験出来たりね。


ディナーは虹天リゾートタウンのレストランで、実際に出されるメニューを食べられる。アチーブを1ポイント使うごとに1商品の値段を1割引に出来ちゃう。最大1商品8割引まで。


すっごいお得で行かない理由が無いぐらい。深未踏地産の食材をふんだんに使った高級料理を目当てに、誰もが会場中のそこかしこに浮かぶ喫食スペースへ足を向けた。


今頃リコリコさんはディナー配信をしているかな?ボクが出るのはミュージカルまでだから。


ボク達が行くのは、その中でも富裕層向けのレストラン。ここはアチーブを使って割り引くんじゃなく、アチーブを10ポイント単位で消費して特別メニューを頼めるんだ。


その特別メニューの一つはサラダ‥‥プライベートフォレストで採れたお野菜を使ったサラダ。結局モモコさんが全部買い取って、EXPOで紹介を兼ねたサプライズをやろうって。


ラフィお手製、天使のサラダって名前でメニューに載っていた。数量限定だけど、皆喜んでくれると良いな。


レストランは専用の店舗が会場の隅っこに設営されていた。自然公園の自然を活かした、落ち着いた雰囲気のレストラン。席は全部野外テラス席だけど、夏の暑さを感じさせないヒンヤリとした空気が流れている。


「趣味の良いレストランだ。」


「ここの料理はEXPOの為に考案されたんですよ。」


「限定メニューと聞くと食べてみたくなるのぅ。」


良い質感の丸いテーブルに、ボク達は三角形に向かい合う。テーブルに座ると周囲をバリア装甲が覆って、他の席と同様中身が見えなくなった。中からは外が見えるけど、外からは中身が見えないんだ。高級レストランとかで良くあるプライバシー保護バリア。


早速特別メニューに目を通す。そしてカテンさんが育ててくれたお野菜サラダを見つけた。


「ほぅ。これは気になるな。」


「ラフィのサラダかえ?美味いのか?」


「とっても美味しいですよ。その‥‥事情があってまだ沢山は作れませんが、特別なお野菜なんです。」


レイホウさんはここに居ないモモコさんへチクリと苦情を漏らす。


「モモコの奴め。隠してたな。」


そう言えば食事会にレイホウさん達は呼んでいない。カテンさん絡みで農業を始めたんだし、モモコさんから食事会の段取りを聞いていたからそういうものなんだって。沢山呼んで大規模にやれる程収穫量は多くないしね。


ボクがおすすめっ!と推せば2人は注文してくれた。お料理が来るまでちょっとした雑談タイム。


「2人がこうやって食卓を囲うのはいつ以来ですか?」


「さてな。まったく、ラフィめ。嫌ではないが、気恥ずかしい。」


「そう言うなカグヤ姉。」


レイホウさんの口を突いて出た言葉が、ブラックカラントさんの元の名前を明かした。魔法少女として活動するには改名が契約に含まれるけど、その前の親から貰った本名。カグヤさんだなんて、綺麗で良い名前だな。


その名で呼ぶな、とカラントさんは照れくさそうに。


「魔法少女として名を改めた以上、その名で呼ばれても困る。キャウルンにドヤされてしまうだろう?」


ボクとレイホウさんはクスリと笑った。旧名で呼んでも返されたのは拒絶では無く軽い反応。レイホウさんが思っている程カラントさんは嫌ってないよ。


「世間も、私とレイホウの仲を悪くないものと噂している。顔を合わすのは少し気まずかったが、こうして話すと昔を思い出すのぅ。」


「そうだな。とは言え別に特別仲睦まじかった訳でもない。身内の距離ってやつだ。」


そうは言うけど、結局2人の口数は多くて。近況報告的なものから、もっとプライベートな話題まで会話は続く。料理が転移で運ばれて来るのが、どこか無粋に感じてしまう程に。


「これが例のサラダか。ふむ、普通ならシンプルに野菜のみのサラダはこういう場には似つかわしくない。」


「だのぅ。フルーツ類や海鮮と合わせたりするのが王道だ。生ハムもよいな。」


綺麗なお皿に盛り付けられたサラダは‥‥明らかに普通じゃない。ぷっくりと全体的に野菜が肥えていて、薄っすら光を放つ。ただのお野菜の筈なのに、見ていると食欲を強くそそられた。


育てたのはカテンさんだけど、ボクの魔王の力が合わさった結果1代で品種改良が劇的に進んだというか。変質してしまったというか。


美味しいのか?なんてボクへ訊かず、付け合わせのドレッシング無しにまずは一口。シャクっと新鮮な音は、連続しながら徐々に小さく喉の奥へ流れていく。感想は無く、ただ黙々とフォークが伸びていた。


半分ほど食べて、ハッとドレッシングの存在を2人して思い出す。ドレッシングも試食しながら厳選したオリジナルブレンド。薄っすらはちみつの風味が漂うまろやかな乳白色は、サラダを更に上の味へ押し上げた。


ボクも一緒にもそもそ食べながら、美味しくて足をゆらゆら揺らしちゃう。甘い、旨い、爽やか、その全てが詰められたお野菜はとっても美味しい。


お皿がツルンとするまであっという間で、2人はまだ前菜なのに満足げだった。


「何だこれは。モモコめ、こんなものをひっそり隠して楽しんでいたとはな。恨めしいぞ。」


「本当に野菜かえ?野菜と言われれば確かに野菜だが、それとは異質な食べ物だ。妙な言い方かもしれないが、ラフィの味がする‥‥という他ないな。」


ボクの味?どういう事?


「言い得て妙だな。敢えて形容するならそれが1番しっくりくる。ラフィというイメージを味へ変換したようだ。」


ボクを文字へ変換するなら、ラフィ。色へ変換するなら、白と金に蒼。味に変換するなら‥‥どんな味?


ボク自身は食べても美味しいなってだけでそんな感じはしなかった。でも、


「ボクを食べちゃヤ、です。変な事言わないで下さい。」


反応に困ってジト目で返したのだった。


レイホウさんはボクへ笑いかけ、


「変な感想を言って済まないな。しかし間違いなく美味しかった。私的に買い付けられるのなら、是非とも買いたい。」


「まだ量産の確実性とかの検証が済んでいないんです。多分大丈夫ですけど。それでもプライベートフォレストの一画で栽培している家庭菜園のものですので、少量生産になると思います。」


大規模農場でやると品質にムラが出来そうだし、そもそも開拓者業が第一で農家さんになる予定は無い。カテンさんが管理し切れるサイズでやろうかなって。カテンさんは増収の為に張り切ってるし、もう少しは拡大していくと思うけど。


「しかし‥‥ラズベリーらに自慢してやらねばのぅ。ラフィのお手製野菜のサラダは最高に美味だったとな。」


カラントさんの手がボクを撫でて、ほっぺを突いてきた。


「今後はお野菜だけじゃなくてフルーツ類も栽培する予定です。養鶏もやっていますが、卵の方はそんなに変わった感じしなかったです。」


「そうなのか?しかし食べ慣れた者の過小評価というのもあり得るからな。今度私の元へ用意して欲しい。かかりつけのシェフと共に試食させて貰おう。」


「分かりました。その時はお願いします。」


次々と運ばれて来るディナーコースは、独創性に満ちたお料理の数々。サラダだけじゃなくて、少量だけど付け合わせの野菜にもボクのお野菜が使われていた。お魚、お肉と色々なものと一緒に食べて、食の可能性を体験して欲しいなって。


大満足な表情の2人は遂に食器を置く。ボクも同じく満足して息を吐いたのだった。

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