472、過去最高のミュージカルを!ミレニアムミュージカルステージ開演!!
ミュージカル会場のステージ裏。既に皆が集合していた。
「ラフィ、今日は大変だったようね。でもここが踏ん張りどころだから。」
「タマさんも、一緒に盛り上げましょう!」
ボク達ミュージカルの役者達は一堂に会して、互いの健康状態の最終確認を済ませていく。モモコさんが用意したスタッフ達がステージを整えて、皆にメイクを済ませていった。ボクもシライシさんが綺麗にしてくれて、
「私がメイクされる側の時も、ラフィのメイクだけは譲らないんだから。」
なんて。ボクを舞台用に整えた後、シライシさんもメイクさんに綺麗にして貰っていた。
「父上は特別席なんて用意しちゃってさ。ほら、あそこ。」
バリア装甲にガチガチに守られた、浮遊する座席が観客達の頭上に浮かんでいた。特別席は有料、その他の席はどこも無料。最前席に並ぶヒト達の手には、ボクの名前が関われたうちわが携えられていた。横断幕まである。
「ラフィの人気は相変わらずだな。」
レイホウさんはそう言うけど、ヒムロ家のヒト達は来ないのかな?
「ヒムロ家はそうそう市井に姿を現さんさ。暗殺、誘拐、碌なことにならん。ただ、家中には私を好む者も居る。遠くのホテルの窓から望遠鏡かなんかで覗き見しているだろうな。」
ヒムロ家にもレイホウさんを好きなヒトが居て良かった。1人は辛いからね。
「ううっ、緊張してきた〜。」
「大舞台よね。ヒーローショーの枠組み超えてるっての。」
「ダル‥‥やるけどさ。」
「開拓者として名を上げるチャンスだぞ?」
ブラックカラントさんの声に、キャウルンさんの尻尾ビンタ。今は魔法少女だから。
「皆っ!練習の日々を思い出すんだ!それにミュージカルは5日間連続開催だからね!」
キャウルンさんの声に、ボク含めて5つの声がおーっと応えた。
「もしセリフを忘れちゃっても大丈夫です。ボクがふんわり伝えますから。」
この舞台の要はR.A.F.I.S.S。戦略級のこの力を一舞台に注ぎ込むんだ。絶対成功させちゃうから。
「頼りにしてるからね。私演技とか苦手だしさー。」
ヤミヨさんはケラケラ笑う。タマさんに脇腹を小突かれてよろよろしていた。そんな中、演出担当のフィクサーさんと並んで魔女が立っていた。ウィッチワークス旅団・黄色の魔女、アウランさん。その肩に止まってキョロキョロする大型鳥。幻想的に羽が眩く、純白と墨汁が混ざり合う色合いは独特で美しい。尾羽がとっても長くて、アウランさんの腰辺りにまで伸びていた。
「何処で手に入れたかは知んないけど、しくじらないでよ?」
タマさんに応えたのは鳥の方。シルフィーユを名乗る鳥さんは、鳥とは思えない程に流暢に話す。
「任せなさい。アウランは私の魔法を識っているから。この程度簡単でしょう。」
対するアウランさんは緊張顔。
「ま、任せないよ!やってやるんだから!」
自分に言い聞かせているようだった。
「そろそろステージの方光入りますー!準備はOKですか?」
スタッフさんの声に応えた皆の返事は、ピッタリ揃っていた。
「皆、そろそろ始まるよ!てか会場の熱気スゴッ!でも不思議と暑くないんだよね。野外だけど空調効いてる感じ。シブサワの技術力様々だよー。」
リコリコはミュージカル会場の1等席でカメラドローン、ポチを回していた。
ー楽しみ ーまだかな ーステージ広いな ーEXPOの1ブースというか ーEXPOの目玉みたい ー実際それぐらい気合い入ってる ーEXPOで頑張った学生へのご褒美も兼ねてるんじゃない?
コメントにあった通り、時間はもう夜の部の開催時間。昼の部でブースを回していた学生達は、ステージがよく見える特別席を用意されていた。実行委員会を始め、大勢が集まって楽しげにしていた。
そして───
───ついに舞台の幕が上がった。
『それではこれより、魔法少女エンジェル・ベリー♡!!ミレニアムミュージカルステージが開演します。どうぞ、お楽しみ下さい!!』
ブザー音の後、ステージだけが唯一の光源となった。ステージ周囲の街灯は消え、既に日は沈んでいる。自然と誰もの視線がステージへ。歓声を上げず、ただ静かに待つ心意気は観客の誰もがこの舞台を真に楽しみにしている証左となった。
「皆さんっ!こんにちは!」
転移でパッと姿を現したラフィが手を振る。ヒラリ、伸びたイルシオンが舞う中ラズベリー達の姿も帯の影に隠れて現れた。
「ヤッホーっ!皆、今日は来てくれてありがとう!私達は今日はモモコさんに呼ばれてやって来たの!」
ラズベリーの声は明るく天真爛漫。次いでグミの声は緊張を感じさせない流暢な喋り。
「そうよ。パーティーがどうだとか言ってさ。今巷で話題の魔法少女達にご挨拶って感じ?」
どこかふてぶてしく、自信家な態度で観客達を見やる。
「我らのような自警団に興味を持つとは変わり者よのぅ。」
ブラックカラントのとぼけた声、頭上のキャウルンが周囲を回って抗議する。
「はいはい!キミ達は魔法少女!自警団言わないの!!」
先ずは観客の緊張をほぐす軽いボケにツッコミ。小さな笑い声が席の方から聞こえた。
ラフィはサッとステージの1番前へ立って、足取り軽くしながら軽くアカペラで歌い始める。シブサワグループにお呼ばれしちゃった心情を、明るく軽快な歌に乗せてヒップホップに。
皆も釣られるよう歌い出し、ステージ内をゆっくり歩いて行く。フィクサーが魔法を使えば、ステージを照らす光が光球となって中心へ集まって行く。一点に集中したライトというよりは、もっと立体的で。思わず観客達が声を出した。
歌のサビでラフィが手を叩けば、光球がポン!と分裂!!小さなスーパーボールのように観客席の方へ跳ねて行く!
再びライトアップされたステージの前、真っ暗な観客席を光球が跳ね回って賑やかす。そしてラフィがもう一回手を鳴らせば、光球がエンベリの面々の姿へ変化!ミニキャラがARのように振る舞って、触れられる距離でフリフリ踊り出す!
ボク達はどんな用で呼ばれたのかな?楽しい用事だと良いなっ!活躍が認められたみたいで嬉しいっ!ボク達はこれからも街を守っていくよ!そんな歌詞は皆の声が重なり合ったハーモニーで綴られていく。
遂にモモコが舞台へ現れた。顔は知っていても会う機会の無い天上人が、気さくに手を振って早速歌を披露する。
モモコの歌声はとっても綺麗。柔らかくて、それでいて芯の通ったしっかりした声。舞台がモモコのお部屋をARで形作る。手すりを指で撫でる演技は、ARが本物のように錯覚させて世界観に誰もが引き込まれた。モモコのウインクで何処からか黄色い声が上がる‥‥
「モモコォー!!」
テツゾウの歓声だけやけに目立って、苦笑しながらモモコは小さくテツゾウへ手を振った。
街を駆ける魔法少女に会えた喜びを歌い、その可憐さと力強さを褒め称える。応えるようにラズベリーも歌声で返し、その邂逅を喜びあった。
そんな時、急にステージが暗くなって行く。現れたのはデビルズ・エコー!
モモコが助けを呼べば、魔法少女達が迎え撃つ!
ラフィが縦横無尽に大きく動き、ステージの端から端までをイルシオンで巻いてしまう。アクアマリンを背に、ステラヴィアで滑走する姿は大きく目を引いた。
アクションパートはいつもと違いしっかり台本がある。流石に肝心なシーンをアドリブでやる訳にはいかない。R.A.F.I.S.Sに接続された面々は、完璧に整った動きで派手なアクションへ身を投じた!
ラズベリーのトイ・ライフルを、シライシのギターが弾く。グミが不意に薙いだウィップがシライシを吹き飛ばすも、ヒミコの背の上を一回転転がって着地した。ヤミヨの青龍刀とアマネのピンクネイルがかち合い、数合叩き合う間に大袈裟なまでに火花が散った。ラフィのスピードスターをミスリルシールドで受けるタマは、卓越した身のこなしでブラックカラントを襲う。
相転移がタマとラフィの居場所を入れ替えて、ラフィの銃撃を器用な動きでタマは身躱した。
そんな大混戦の中に飛び込んだ一筋の光。突き出された槍がそれぞれを吹き飛ばし、ラフィのキックを受け流しつつモモコへ迫る。
クジャクの仮面を付けたレイホウは、どこか女性的な雰囲気のモモコを抱き抱えた。
「エンジェル・ベリー!、デビルズ・エコー!この御仁は私が頂いて行こう!」
シュラウドが飛びかかり、槍先で激しい剣戟を受け流されてしまう。ガンソードの銃口が向けば、横合いから誰かが摘んで退けてしまった。
突然現れた同じくクジャクの仮面のスーツの面々。レイホウのシークレットサービスの面々も、ショーへ参加していた。主人が言うなら仕方ない。流石に歌と踊りは勘弁されたが、エンベリとデビルズ・エコーを相手取る第三勢力。
「我々はファントムシーフ!!モモコの身柄は頂いて行く!!」
そして舞台は切り替わる。
ファントムシーフが長、レイホウはクジャクの仮面を付けたままモモコへ歌を贈る。威勢の良い歌声は力強く、要約すればねぇねぇ今どんな気持ち?とでも言いたげな挑発的な歌詞。
モモコも歌で応える。この街には最強の魔法少女が居るのだから、恐れるものは何も無いと。
ARで出来た牢屋から歩み出たレイホウ、しかしその目前にゾロリ。大勢の墨汁で出来た怪人が現れた。その質感に思わず観客席がざわめく。怪人の衣装を着たエキストラ、AR。それとは明らかに違う、異様な軍団。
趣味の悪いスーツを纏う太った男が葉巻でレイホウを指す。その傍らに控える黄色い魔女は、モザイクのホログラムで顔を隠していた。
ファントムシーフへモモコの居場所の情報を売った悪の組織の親玉が、モモコを奪ってしまおうとアジトで待ち構えていたのだ!
槍捌きが数体を倒すも、黄色い魔女の歌声で動く怪人達の数の暴力に負けてしまう。
「お助け〜。」
なんて言うモモコは、黄色の魔女に腕を掴まれ連れ去られてしまった。
モモコを探す魔法少女達とデビルズ・エコー。ステージを二分して、明るい都市のARでエンベリが踊る。暗い裏路地のARをデビルズ・エコーの面々が歌いながら闊歩する。
ラフィの歌声はモモコを心配する感情の籠った歌声。R.A.F.I.S.Sが心配する気持ちを伝播させれば、観客達も思わず手に汗握って息を呑む。
頑張れー!声援が一つ。二つ。ポツリポツリとステージに降り出す雨の中、遂にファントムシーフのアジトを探し出す。
そして再び邂逅するエンベリとデビルズ・エコー。そして‥‥ファントムシーフ。
モモコの居場所を知らぬと答えるレイホウに、デビルズ・エコーが襲い掛かる。シークレットサービスが応戦し、大人同士の派手な格闘戦はいつものショーとは違った躍動感があった。
「レイホウさんは本当の事を言っています!!」
場を斬り裂く純白の帯、イルシオン!そして飛び出したラフィがレイホウの槍を踏み付けて止め、グミの拳がシライシのギターを受け止めていた。
「今は協力して真の黒幕を探そうよ!」
ラズベリーの声は歌として協力を仰ぎ、黒外套を纏うタマが茶化すように協力を蹴る。歌の応酬は徐々にエンベリへと傾き、タマの屁理屈理論を正論パンチで殴り壊して追い詰めた。
「手を取り合わなくても良い、ただ今目指す場所は一緒の筈。」
「敵味方の区別が付かないアンタは結構おバカ〜。」
「よく耳毛が出てるってキャウルンがコソコソ指摘してくるのぅ!」
コミカルな動きでタマは耳を弄り、憤慨するようキャウルンを追い回す。
「こんの!言っていいことと悪い事区別付かないのかしらバカマスコット!!」
「いやいや言ってないって!!」
客席から笑い声が上がった。なんとなくタマは弄られ役な雰囲気があった。ただ強いだけではない、美味しい役回り。デビルズ・エコーへ入った後のタマの立ち回りは賢く、既にファンを増やしていた。
皆で力を合わせ、知識を結集した結果。遂に悪の組織の正体が判明する。
トウキョウシティを裏から支配しようとしていた、秘密結社ブラックライオン。
ファントムシーフはその本部の在処を容易く看破し、見事な手際で仲間達を侵入させる。最終決戦の火蓋が切って落とされた。
大量に現れた墨汁の怪人が100体もけしかけられ、迎え撃つ誰もが息のあった連携でガンガン突き進む!
フィクサーが魔法を操れば、ステージ内の距離がゴムのように伸び縮みした。遠くで放たれた蹴りが、一瞬の内に脇見する怪人を蹴り壊す!側から見ればそのアクションシーンは驚く程に躍動的で、距離という概念が崩壊したようなステージ上のカオスに熱狂して思わず叫んだ!!
一度見ただけじゃ見きれない程にあまりにも激しく、そしてダイナミックで四次元的な戦闘。誰もが飛んで蹴ってトイ・ウェポンを振り回す!
「何よ?!コイツら強すぎる!!」
思わず逃げ出した黄色の魔女の背中を、ラズベリーの銃撃が撃ち抜いて吹き飛ばした!!
そしてラフィとレイホウの合わせ技が、巨大な強化外装に乗って暴れるブラックライオンのボスを容赦無くぶっ飛ばす。
グミとアマネとシュラウドがそれぞれブラックライオンの幹部を薙ぎ倒し、ヒミコとブラックカラントの攻撃が巨大化した墨汁の怪人を叩き潰した!
どさくさに紛れ、モモコの居場所へ一直線に駆けるタマ。デビルズ・エコーの目的はモモコを悪の道へ堕とす事。しかしその姿が相転移でラフィと入れ替わる。タマは後方でグミに蹴られて転がった。
レイホウの槍がラフィを襲うも、身軽に躱してスピードスターで見事に弾いてしまう。派手なSEが響き渡り、手放された槍が吹き飛ばされてしまった。
「助けに来ました!!一緒に帰りましょう!!」
ラフィの手がモモコを抱き寄せ、同時にブラックライオンのアジトが崩壊し始める!
歌も忘れたよう、皆一目散にステージの裏へ逃げて行く。そして───
───全てが終わった後、モモコの私室にて。
「助かったよ、流石魔法少女だ。」
モモコの感謝の歌と、ラフィ達の勝利の歌がステージを煌めかせる。アクアマリンの水路に花が咲き、ステージ全体を花畑が埋めて行く。花畑は観客席の方まで広がっていき、誰もが幻想的な光景に惚けていた。
フィクサーが手を叩けば、夜だというのに陽の光がパァッとステージを照らす。ライトの光とは違う、穏やかな陽光は花畑と相まって神秘的な雰囲気を醸し出した。
そして終幕。
ARを超えたもっと幻想的なショーは、観客達の体感時間を折り畳んであっという間に終わってしまった。泡沫の夢から覚めた人々の拍手は止まらない。今この瞬間、感動を行動で表せる方法は手のひらを打ち鳴らす事。勿論指笛が鳴り、エンベリ応援うちわが思う存分振り回されていた。
「皆さん!!見てくれてありがとうございました!!」
ステージ上、役者が全員揃って頭を下げる。ラフィの笑顔が最後に飾られた。




