464、歴史に残る都市航空レース、開幕!!
「ラフィくん、いつの間に仲良くなったの?」
帰って来たラズベリーさん達がボクを覗き込んだ。マックス兄妹と今は無い未来のお話をして、ボクも2人を知りたがれば何でも教えてくれた。
「天才同士気が合うのだ。やはりラフィはこちら側だったようだ!」
「うりゃうりゃ、この可愛さもええ匂いもちゃんと“理由”があったなんてな。分かってても誘惑されちゃう。」
レディさんは遠慮なく後ろから抱きしめて来て、髪の匂いをすんすん。皆の前ですから、恥ずかしいよ。
ピィッ!と離れるボクをラズベリーさんの両手が抱き寄せた。
「ラフィくん、レースゲームの説明をするから。」
レースはE地区の空域を一部貸し切って行う。予めコースには立ち入り禁止のARが展開されて、組合警察の方が警備に当たってくれるらしい。
「ゲームだと思ったけど、実際に街を走るみたい。ドキドキするよね!」
ラズベリーさんはテンション高く、アマネさんは気怠そう。
「では早速マシンのお披露目と行こう!!」
ボク達の前へ躍り出るトールさん。レディさんが指を鳴らせばボク達はそのまま格納庫へ転移させられた!
広々とした格納庫の中央、ARのベールに隠されたマシンがズラリと並ぶ。ボクもワクワクしてきた。どんなデザインなんだろう?パッと見マシンは車みたいな感じじゃない。縦長で、座席が付いている。バイクを小さく圧縮したみたいなシルエット。
バイクレース?はやくっ!はやくっ!見せて下さい!
目を輝かせる皆の前、ちょっと溜めた後にトールさんの声が響いた。
「刮目せよ!!これが次世代のレースゲームの星となるッ!!」
ARのベールが剥がれたそれは‥‥!!
「‥‥何コレ。」
思わず口を突いて出たグミさんの声。ブラックカラントさんも首を傾げ、アマネさんは引いた顔で後退り。
ラズベリーさんは笑顔のまま固まっていた。
R.A.F.I.S.Sに流れて来る。
『『『『便器じゃないの?コレ。』』』』
便器‥‥水洗トイレ。確かにそう見えなくはないけど!シルエットがかなり近いかもだけど!カッコいいガラに塗装されてるし!!
(こう、逆向きに便座に跨ってタンクを抱いた格好で走るのか?)
(じゃないの?ハンドルあるし。)
(幾ら魔法少女が芸人みたいな仕事するからってマジでやんの?)
ヒソヒソ声をあっさり掻き消すレディさんの声。自信満々な説明の何処にも悪意は無い。ただ真っ直ぐに突き進んだ末のデザイン───
「驚いて声も出ないやろ?!ふふーん、コイツは走る芸術品ってなもんでな!人体に最適にフィットする魔具工学、その最適解がコイツや。完璧な角度で展開する傾斜バリア装甲、そして完璧な安定性と安全性!」
そしてトールさんが続く!
「今は空はポッドの時代!タクポが飛び交う中、このマシン‥‥『TO・TO』即ち、トウキョウのトップを駆ける次世代機が覇権を取る!」
タクポは大きくて、限られた都市内の航空領域を必要以上にとってしまう。実際混む場所は、結構お空がギュウギュウ詰めに渋滞しちゃったりもするし。でもこのサイズ感ならもっと都市の上空を渋滞無く快適に移動出来るのでは?というもの。
似た商品は色々あるけど、どれも構造的なバランスが難しくて。安全性に懸念ありとされて私有地外での運転が禁止されていた。
「言っておくが、事前に行政に許可を取ってある。そう、TO・TOの安全性が公に認められたのだ。つまり世間へ発表待ちとなったマシンのデモンストレーションとしてレースを行うのだよ。」
サラッと言うけどそれって凄い事なんじゃ。
『ふむ。その話、眉唾じゃないですね。今確認しましたが、確かに2ヶ月前に届出が受理されています。都市航空承認機材として登録されているものの、開発者が学生故に商品化を前提とした販売登録はまだです。賢いですね。』
権利は持ってるけど商品化する予定自体が無い。仮に売り出すなら都市航空の利権を独占する、赤翼ホールディングスに話を通さないと面倒ごとになりそうだし。
『過去にこういう法での管理が曖昧な便利グッズが勝手に売り出されて、案の定交通事故が多発するケースが幾度もあるんですよね。マックス兄妹は過去にもこうやって自己開発した新製品に関わる新技術の特許だけ登録して、生産販売を大企業へ委託していたようです。』
特許を持ってるから、ライセンス料でマックス兄妹の懐が潤って行く。苗字持ちという時点で察していたけど、やっぱり凄い資産家でもあるんだ。
ここで大きくデモンストレーションを行なう形なら、お金を殆ど掛けずにエンベリのIPパワーで大々的な宣伝も出来ちゃう。マックス兄妹はとても賢かった。
けど、フィクサーさんも抜け目がない。パッと2人の前へ実体化して姿を現すと、交渉モードで臨んだ。
「にゃはは、そういうお話でしたらラフィさまのCM参加料金を請求させて下さい。これはエンベリの企画ですけども、新商品のプロデュース等の商業的なお話になるのなら話が変わります。」
色々言いたげなキャウルンさんは、ラフィというキャラクターブランドに関わるお話に口を出せない。ボクもエンベリの一員だけど、ラズベリーさん達と違って本籍はシブサワグループのシブサワプロモーション。
本籍って言い方も変かな?でも“ラフィ”へ芸能依頼を投げたいのなら、ここへ話を通す必要があった。馴染みのクライアントならブランさんに直接依頼の話をしても良いけど。
ボクはシブサワグループの社員じゃない。でもスポンサーとして支えて頂く以上、芸能依頼周りのやり取りが複雑化していた。全てはボクのブランドイメージを保つ為。
変な依頼を不当な値段で掴まされないよう、守ってくれているんだ。
トールさんもそう来る事は読んでいたみたい。
「勿論、適正料金を支払おう。ラフィが関われば宣伝効果は絶大、金に糸目は付けないとも!」
フィクサーさんはニタリと笑って、魔法少女達の前でお金の相談事がスムーズに進んで行く。動いた金額は億単位。だけどトールさんの顔色は明るく、良い取引が出来たと握手を交わしていた。
「にゃはは、ラフィさま。このお金で何を買いましょうか。トウキョウシティのA地区に大豪邸でも?」
冗談っぽい言葉を残してホロウインドウの中へ戻って行く。
「ラフィくんはお金持ちだねー。」
「薄給魔法少女とは違うわよねー。」
「これが一流ブランドの力よのぅ。同じ開拓者として憧れる。」
ラフィ金持ち可愛い結婚したら玉の輿的ないやそういう目的でラフィを見てないけどそれはそれとして可愛いあっ目を逸らさないで
「また漏れてますよ、もぅ。」
促されるままにTO・TOの前へ。ズラリと並んだマシンは家具ショップのトイレ販売コーナーみたい。‥‥じゃなく、フォルムはともかく見た目はカッコいいんだから。
「うーん、これはアリ?でもデザインはギリギリ誤魔化せる範疇だよなぁ‥‥」
キャウルンさんが後ろで1人唸ってる。独特なデザインんのマシンに果たして魔法少女達を乗せても良いのだろうか。ボクは嫌じゃないけど、皆は拒否感が出てしまっていた。
「因みに座席部分をパカっと開けられるんや。ほれ、中が大型収納になっていて便利なんよ。」
座席をパカっと開ければ、魔法少女達はうへぇって顔をした。‥‥これが最適解のデザインらしいし、技術的な事は分からないから素直に水洗トイレにしか見えないって言い出せない。
思えばあのトイレの形も技術者さん達が試行錯誤の結果辿り着いた黄金比。そう考えたら空を駆ける乗り物にデザインを流用しても問題ないような。
「あっはっは!魔法少女達は尻込みしているようだねぇ!!」
そして響くヒミコさんの声。トイレ‥‥TO・TOに跨ったヒミコさんが颯爽と現れて、ボク達の周りをグルリと一周!目の前でピタリと止まったTO・TOの上、渾身のドヤ顔。
(止めてー!!)
なんてグミさんの小さい悲鳴に、ヒミコさんはウインクで返した。
「何よ、こんな様子じゃシケた勝負になりそうね。」
タマさんも黒外套を纏って現れる。頭上をバク転しながらヒミコさんの隣へ。TO・TOの上、座席に立ってタンク部分に手を突く。挑発するよう、ボク達を指先で招いた。
タマさんがトイレの上で格好付けてる!でもちょっと様になっててカッコいい。
「こんなので恥ずかしがってちゃ、プロにはなれないわよ?」
シライシさんも器用な乗りこなしで現れた。デビルズ・エコー3人組でレースに参加するんだ。ボク達も負けてられないよ!
パッとボクはTO・TOに跨り、位置を身長に合わせて調整出来るハンドルを握った。ホロウインドウが目の前へ表示されて、使い方が視覚的に分かりやすく説明された。運転に不慣れでもオートパイロットシステムがあるから、目的地を指定すれば自動で向かってくれるみたい。速度よりも安全運転だし、レースじゃ使えなさそうだけど。
ハンドルをひねれば前へ進み、減速は脳波接続式。減速がハンドル操作だとパニックになった時に止まれずに事故の元のなる。脳波接続式なら止まりたいって思った時に思い通りに減速出来ちゃう。
ボクが動けば皆もしぶしぶって風にTO・TOに跨った。
「勝負ですっ!ボクが1番TO・TOを上手く乗りこなせるんですから!」
なんてちょっと威勢よく。ラズベリーさんも気を取り直して、ビシッとデビルズ・エコーへ。
「レースに勝ってEXPOに悪の影を落とそうだなんて許さない!私達が相手だよ!」
デビルズ・エコーの皆はヒソヒソと。
(レースに勝ったとして何か悪い事あるかい?)
(差別よねー。デビルズ・エコーに人権を認めないワルい正義の使者様だわ。)
(私達の一挙手一投足は邪悪に満ちている設定があるのよ。ほら、愚痴言ってないで。)
ヒソヒソ話もR.A.F.I.S.Sでほんのりと伝わっちゃう。ラズベリーさんは顔を赤くしてむーっとほっぺを膨らませていた。
「レースに勝って政治的影響力を増して政界参入するつもりなんでしょ!」
「邪悪なNPO法人を立ち上げて企業から支援金をふんだくる計画はお見通しだぞ!」
「レースの優勝者は内閣入り出来るかもしんないし、増税しながら議員報酬を10倍にするんだって‥‥ダル。」
ええっ?このレースの影響力大き過ぎない?そんな凄いレースじゃないってば。TO・TOの宣伝を兼ねたレースゲームなのに。
好き勝手わちゃわちゃ言い合う時間も程々に。カメラの外でレース会場まで慣らし運転も兼ねてひとっ走り。
ボク達が走る空域にはARのコースが表示されてて分かりやすい。この空域路線は予め貸し切りになるから、オートパイロットで動く飛行ポッドが迷い込んで来る事は無い。
基本的にポッドの類はオートパイロットで、マニュアル操作のポッドは私有地以外で動かせないから。都市航空的に、合法的にマニュアル操作で動く空飛ぶ乗り物が初めて飛び回る試みになるのかも。
「コースから外れたらオートパイロットに切り替わって、自動でコースに戻されるってさ。」
「その分ロスよのぅ。運転技術が求められるという事だな。」
「そして‥‥妨害もアリみたいですね。」
専用の妨害アイテムを収納から取り出した。トイ・ウェポンを更にオモチャにした感じのピストル。大きな魔法の爆発を起こすバズーカ。そんなアイテム類も一緒に企業へ売り込んで、一大エンターテイメントを流行らせようって。
EXPOで発表されたらその内、都市内の一画で空を飛び回るレースが開催されるようになるのかも。
「このピストルとかはかなり短射程ですね。外しても周りの迷惑にならないよう、魔力を使い切って自然消滅するんだ。凄い技術です。」
TO・TOがスタートラインへ並び立つ。はしゃぎ気味のヒミコさんがグミさんへスマイルカメラを向けて、
撮んなって!
とそっぽを向かれていた。ラズベリーさんもボクへ笑い掛ける。
「楽しいレースにしようね!」
「はいっ!皆さん、行きますよ!」
既に付近のビルの屋上に観客達が集まって、ボク達へ声援を送っていた。屋上には屋台が並んで、大きく投影されたホロウインドウがレースの様子を中継してくれるみたいだった。都市内のビルの屋上を幾つか借りて、観客ブースにしたんだ。マックス兄妹はお金持ちなんだなって思った。
ハムハムのトレンドにレースの話題が躍り出て、EXPO前の面白いビッグイベントに大衆の好奇が注目を集める。ヒーローショーの枠組みを超えた、もっと大きなイベントになっていた。
『レディース&ジェントルメェェン!!今から始まる都市航空レースは、トウキョウシティ始まって以来、初めての試みだ!!』
トールさんのアナウンスが会場へ響く。あっ!近くを飛ぶタクポの中から、マックス兄妹がボク達へ手を振っていた。
『トウキョウ最速は誰になるか見ものやで!!歴史に残る最高のエンタメ、見てってや!!』
目の前にスタートを知らせるランプが表示される。
3つのランプが───レースの開始を告げたのだった!!




