459、休日に差したサプライズが少年を急発進させる
フラワーファッションにて。名前の通りフローラルな香り漂うオシャレなファッションショップ。ミライさんは次々と可愛いお洋服に目移りしているよう。
「ファッションセンスは時代が変わっても激変!って感じじゃ無いんだね。道ゆくヒトが全員ピッチピチの全身タイツの時代が来なくて良かったよー。あはは。」
「そんな時代はずっと来ないと思います。だって、恥ずかしいし。」
「レトロフューチャーかしら。そういうジャンルあるわよね。」
ブランさんがボクに、ヒラヒラと羊さんの着ぐるみみたいなお洋服を見せる。それ男の子用ですか?
「ファッションに性差は御座いません。ラフィ様が纏えばどんな服もTPOに適してしまうのです。」
ミライさんのすっごい期待した顔。レンタルモードで強化外装の衣替え機能にスキャン。店内だけの制限付きでこのお洋服に見た目を変えれちゃう。
「今日だけで便利って言葉何回言ったっけ。ラフィくん似合ってるよそれ!ギュッてしてもいいよね?」
「自分の服を選んで下さい。」
「その前にちょっとだけ。」
ミライさんの腕の中にすっぽりと。ブランさんは‥‥止めずに静観する。ブランさんの言う好感度は足りているのかな?けどタマさんはボクをひょいと奪い取り、しっしっとミライさんを追い払ったのだった。
ゲームセンターでボク達は海賊ごっこを楽しむ。拡張空間内の大きな海賊船がぐらぐら、ARの敵の海賊団がゾロゾロ乗り込んできてトイ・ウェポンを振り回して大乱闘!
ショーで使うものよりも更にオモチャ感の強い銃は、引き金を引いても弾は出ない。それでも銃口の先のAR海賊が、ドーン!と吹き飛んでダウンした。
専用の駆動魔具はフェザーステップ系の靴型。走り回って撃って、撃って、きゃーっ!楽しいっ!
皆で思う存分海賊達を蹴散らした。
「ゲーセン凄いねー!こんな楽しいんじゃ毎日通いたくなっちゃうよ。」
「サブスクに登録すれば通い放題よ。仕事が忙しくて中々行けないでしょうけど。」
自販機のボタンを押せば自動決済で商品がボタっと落ちる。商品の鮮やかなロゴのプリントされたそれは缶じゃない。ビニールみたいな薄い膜に包まれていて、ギュッと握ると不思議と飲みやすい形になる。ストローみたいな飲み口からグイグイ飲めちゃうんだ。
「シブサワタウンと虹渦島だけかしら?これが導入されてるの。」
「虹渦島で見つかった新素材で出来てるみたいですね。形状を記憶出来て、頑丈で、量産しやすくて、場所も取らない。試験運用段階ですけど、進歩を感じて楽しいです。」
缶よりも保温性も高いし、飲みやすい。ミライさんも新鮮な体験に目を輝かせてジュースを飲み干していた。
シブサワタウンではこんな感じにSTCの新技術が試験的に導入されたりするんだ。小さな箱庭の街だからこそフットワークも軽い。
「次はあそこに行こう!」
ミライさんはどんどん走って行く。今を全力で生きているような、エネルギッシュな風。ボクも背中を追う事のないよう、並んで走るんだ。
優先航路権を買って目的地まで最短距離で一直線!
シネマパーク・フリーダムワールド。消音のマギアーツで区画分けされた、野外シネマパーク。草原の上、投影された大きなARが大迫力の映画体験を提供する!風に吹かれて音が聞こえて、炎揺らめくシーンでは熱風が吹き荒れた。
「隣でも映画やってるのに音がしないの不思議だね。どうなってんだろ。」
「そういうマギアーツがあるんです。」
皆でポップコーンを食べながら、派手なアクション映画を堪能した。因みにアトラクションに特化した映画もあるらしくて、客席を災害パニック映画に合わせた津波や地震が襲うんだとか。
吹いた風がボクの髪をふわあっと巻き上げる!涼しくて気持ち良い!きゃーっ!
‥‥ミライさんの視線がボクの髪を追っていて、つい伸びた手をブランさんがそれとなく退かしたのだった。
お昼はファミレスで何か食べようかなってお話に。流石にミライさんの懐事情じゃ、あんまり高い場所は負担になっちゃう。
「最近こういう場所には全然行かなかったわね。」
「そうですね。ゆっくり出来る時間が少ないから、つい高くて良いのを選んじゃう。ブランさんが作ってくれるご飯も美味しいし。」
ボクがお店に入ると店員さんが2度見する。こういう反応も新鮮。高いレストランとかだと、ボクの顔を見ても店員さんは気付かないふりをするから。R.A.F.I.S.Sでほんのり感情が伝わってくるから気持ちは分かるんだけどね。
「ええと、4名様ですか?」
ホロウインドウの中のフィクサーさんが、ぱっと実体化して顔を出した。
「5名様ですね、にゃはっ!」
大変失礼しました!なんて言って席に案内してくれる。ありがとうございますっ!と笑顔を向ければ嬉しそうにしてくれた。
「ラフィくんったら有名人だよね。シネマの所でも他のお客さん達に囲まれてサインせがまれてたじゃん。」
「ボクを応援してくれるヒトが多いのは嬉しいです。」
そんなボクの肩をタマさんの尻尾が撫でる。
「‥‥1番最初にボクを応援してくれたのはタマさんです。えへへ。」
「そーよ。ふふん、アタシが見つけたんだから。」
色々言いたげなブランさんは未来の時からのお知り合い‥‥でも昔の記憶は曖昧で。
「当機はラフィ様のしがないメイドですので。お気になさらず。」
「ブランさんにも沢山助けられているんですよ。いつもありがとうございます。」
そんなやり取りにフィクサーさんがメニューを差し込んだ。
「ほら、お肉とピザにサラダが呼んでますよ?ラフィさまはドリア派ですか?」
「今はハンバーグかな?チキングリルも良いかも。あっ!どっちも頼みます。」
ミライさんもホロウインドウに表示されたメニューから肉と脂の大盛りを。ボクもミライさんも食べ盛り!いっぱい食べて午後に備えないと!
「しかしタマはオシャレなスパゲッティとは。特盛で御座いますよね?」
「ヒトの注文にケチ付けんな。アンタはロボットオイルで十分でしょ?ああ、ここは取り扱い無かったわね。」
「キャットフードが無いとウチのタマは満足出来ないのですが‥‥やはりファミレスでは難しいですね。」
そんなやり取りはいつも通りの弄り合い。フィクサーさんも知らぬ顔で適当なメニューを注文した。
お腹が空いているともっとご飯が美味しく感じる。ハンバーグをぺろり。チキングリルもあむあむお口へ運んでいたら無くなっちゃった。付け合わせのポテトはお塩効いてて美味しいな。
「うまっ!ファミレスの味じゃないでしょ。」
「今のニホンコクの食文化は、味に厚みを持たせる方向性で発展しています!濃厚な食事体験に繋がりますからね!美味い不味いの基準は味が分厚い、平たいで表現するものですよ。」
フィクサーさんの言う通り、美味しい料理を褒める言葉は“美味しい”から“厚い”とか“濃厚”に変わってるのかも。美味しいのは当たり前で、どれだけ奥深いかを評価する感じ。
勿論庶民的な料理の話じゃなくて、ある程度の高級料理に限った話だけど。
まぁ口を突いて出る感想はやっぱり“美味しい”なのは何でも変わんないけどね。
グルメ番組のレポートとかだとちょくちょく厚みに言及する場面があった。
「そうよねー。まぁヒラい味かしら。値段相応ね。」
「ティッシュとまでは言いませんが、ペラい味で御座います。」
2人は辛辣な評価をする。ミライさんはそんな2人の美食舌に呆れ顔だった。
ファミレスを出たボク達は、ちょっとコンビニ前で次の目的地を確認していた。そんな時、テクテク‥‥と目の前を1機の小さなロボットが歩いていた。
大きさは50cmぐらいかな?安定性のある多脚型で、可愛い感じの丸っこいデザインだった。こういうのファミリーロボット‥‥ファミットって言うんだっけ。ペット用ロボットが1人でテクテク。
飼い主さんは居ないみたい。逸れちゃったのかな?イルシオンをそっと伸ばせば、ピクリと反応してボクへ寄って来た。
「きゃーっ!可愛いんだけど!この子何なの?」
「ファミットって言うペットロボットです。飼い主さんが居ないみたいで。どうしたんでしょうか。」
ブランさんが早速保管所へ連絡しようとする。
「型番はペットボット社のものですが、大分古い型ですね。10年程でしょうか。回収を呼びますか?」
ファミットが多脚の前部を腕みたいに伸ばして、ボクに向けてわちゃわちゃと振り回す。催促されるままに撫でれば、短い脚が手をぎゅうっとしてきた。
可愛いな。触った感じが柔らかい。ソフトな素材で出来てるみたいで、ほんのりとあったかかった。
ふとタマさんがクイックハックして気付く。
「あら。GPS装置が故障してるわね。だからふらふらしてたのか。」
フィクサーさんも、
『中にメッセージを抱えています。再生してみましょう。』
録音されたメッセージがボク達の前で再生され始める。ホロウインドウの中で、どこかの病室で寝ているお爺さんが映った。お爺さんは元気が無さそうだけど笑顔で、ホロウインドウの向こうへ手を振り口調は明るく。
『シズエよ、サプライズで登場だ!わははっ、未だ病室から出られん身でもキュルゾウがメッセをお届けだぞ。シズエはキュルゾウが好きだったよな。まずは、結婚おめでとう。孫の結婚式に顔を出せない不甲斐ない爺を許せ。』
そこまで聞いて、フィクサーさんが再生を止めた。
『如何しますか?』
ボクよりも前に答えたのはミライさん。
「そりゃ届けるしかないっしょ!でもサプライズって言ってたけど間に合いそう?!」
タマさんがクイックハックでデータを抜き出す。
「えーと、行き先はシブサワリゾートウェディングね。今日の朝方に録音されてるから、今日中の予定っぽいわよ。」
ブランさんが直ぐに調べてくれる。
「確かに今日の午後、1件結婚式の予約が入っているようで御座います。シズエさんとジュウロウさんの式です。シズエさんはしがない傘下企業の1事務員ですが、ジュウロウさんは本社に勤める重役の身。玉の輿で御座います。」
そんな情報まで調べてくれる。それで時間は?!
「ふむ、午後2時からです。あと30分で御座います。」
マップアプリに場所が表示される。わっ?!遠い?!シブサワタウンの端から端までの距離になっちゃう!
「うーわ。タクポじゃ間に合わないわね。箱庭街とは言っても結構広いもの。」
『ステラヴィアで全速力で行くならともかく、魔具路経由だと結構遠回りなんですよね。流石にこの程度の理由で緊急対応って体の無茶は出来ませんし。』
あの辺りは行った事の無いエリア。中央まではワープゲートで飛べるけど‥‥うう、式場まで遠いよ。
「魔具路の制限速度もありますので、このエリアでは時速100km以上は出せません。」
急に訪れたピンチ。先ずは考える前に行動っ!
「皆、急ぎましょう!」
しゅるんと九尾を生やして、シャボン玉のワープゲートが開く。キュルゾウを抱えたボクは慌てて飛び出したのだった。




