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456、全てが終わっても、人生は続いて行く

光の粒子が天へ消えて行く。そして陰鬱とした霧雨の森が姿を現した。街はそのまま残っているけど、その周囲はぐるりと一周深い森。


学校の校庭に居るのはミライさんを含めた数人だけ。殆どの民間人の方が亡くなってしまった。ワープゲートを使って皆を1箇所に。街の外からやって来たシブサワPMCの救助ポッドが数機空から降りて来た。


「わっ?!空飛んでる?!」


驚くミライさんの前、キュエリさんが手を差し出す。


「そうだ。ミライと言ったな?お前には類い稀なる戦いの才能がある。早速で悪いが、シブサワグループテツゾウ代表の令息であるモモコ会長がお前を指名している。」


急展開に動揺するミライさんの手をボクが握った。タマさんもキュエリさんをジト目で睨んで尻尾で指す。


「企業ってどーしてこーも人間性に欠けるのかしらねー。親を亡くして傷心中の女の子に仕事の話でもする気?」


カテンさんがボクを巻いた。


「まだ帰れんのか?我は疲れたぞ。」


ブランさんがパンタシアのドアを開け、カテンさんをぐるぐる!とボクから剥ぎ取って荷物のように纏めてしまう。


「では本日の業務が済みましたので、畑と家畜の世話をお願いします。席を外している間当機が面倒を見ていたのですからね。」


「わっ?!扱いが───」


パンタシアのドアが閉じれば声は届かない。カテンさんも頑張ってくれたんだし、後で何か美味しいスイーツでも差し入れしようかな。お風呂場で体を洗ってあげたり?カテンさんの顎の下。触らせてくれないんだよね。洗うついでに撫で撫でしたいな。


やり取りをする間にミライさんが決心する。


「ううん、私を呼んでいるのなら。会ってみる!」


キュエリさんは満足げに舌をチロっと出した。タマさんはため息を吐くけど。


「でしたらボクも付き添います。」


ミライさんの手を握ったまま、キュエリさんに連絡をお願いした。準備が整うまでここで待機になるけど、他のヒト達は皆救助者として保護を受けるようだった。


改めてイワダイさんがボクの前までやって来て、敬礼してくれる。


「ラフィさん。此度は本当にお世話になりました!」


「イワダイさん達も頼もしかったです!」


ボクもぴょこっと敬礼を返す。この後はどうするのかな?


「我々元自衛隊は、シブサワPMC旅団大隊へスカウトの声が掛かっている。我々を中心とした部隊を立ち上げるとの事。何もかもお世話になってしまった分、より精進して尽くすのみ。もしかしたら今後ラフィさんとも戦場と共にする機会があるかもしれませんな。」


「その時はお願いします。でもその前に、暫くは休養を取って下さい。この世界を楽しんで、自分たちの手で守ったニホンコクを知る所から始めて欲しいです。」


「お気遣いに感謝致します。では、お先に失礼します。」


イワダイさん達はそのまま軍用ポッドへ乗り込んでいった。他の民間人のヒト達も保護される。後にはフーガさんのお屋敷と、廃墟の街が残った。


「にゃはは、ラフィさま。ただいま戻りました。」


フィクサーさんがボクのスマイルに戻って行く中、フーガさんもやって来る。


「あの子はフーガの花畑に抱かれて逝ったの。散々あの子が迷惑を掛けてごめんなさい。でも解決できて良かった。」


ミライさんはちょっと文句言いたげ。でも言わずにそっぽを向いた。


「フーガさんは今後どうするのですか?」


「この辺りもシブサワグループが放っておかないでしょうし、屋敷を引き払うの。また傭兵業をやるのも良いかしら。」


「でしたらEXPOを見ていって下さい。楽しいですよっ!」


「そうね。その時は顔を見せるわ。」


ふとフーガさんがボクのほっぺを指先で撫でて、首筋にキスを。ぴゃっ?!と驚くボクに片手で挨拶しながら姿を消してしまった。黒い霧が何処かへ去って行く。


「〜っ!やっぱなんかアイツ気に食わない!」


なんてミライさんがベーっ!と舌を出していた。急にそういう事されると恥ずかしいのに。


その後も手伝ってくれた皆を1人ずつ労って、ワープゲートでトウキョウシティへ送り出す。


ふとセルペンスさんと一緒に居るアウランさんが、周囲を飛び回る綺麗な大型鳥を連れている事に気付いた。


「その鳥は何ですか?」


「えっ?!あはは、色々あって。新しい仲間だよ。」


首を傾げるボクへ笑って誤魔化したのだった。


ワープゲートが開いて、トウキョウシティにあるモモコさんのお部屋の前へ。直接お部屋の中に出ずに、あの春夏秋冬の廊下を通るようにキュエリさんから要望があった。


やっぱり見栄は大事だよね。あの廊下は綺麗だからボクも好き。ワープゲートの向こうの景色を、ミライさんは不思議そうに眺める。


「これどうなってんの?」


「一度行った場所にワープ出来るんです。」


「未来の技術って凄いんだね。」


「それはラフィにしか出来ない事なのよ。ふふふっ。」


何故か得意げなタマさんは一歩先にゲートを潜り、ミライさんも恐る恐るゲートの中へ。気温の低い霧雨の森から一歩出た先で春風に吹かれた。


見回せばそこはビルの中で、桜の大枝がボク達を歓迎した。道中春夏秋冬の景色に圧倒されるミライさんの視線はキョロキョロ。


「ここ本当に建物の中なの?空が見えるんだけど。」


「ARです。向こうの景色はホログラムですね。モモコさんのお部屋の前は凄いんですから。」


室温も場所によって違って、暑い夏の廊下を抜けた先で秋風が吹く。そして冬の庭園でちょっとはしゃぎ目にミライさんは赤の大橋を渡った。


そして再び桜が見えて、やっと部屋の入り口の綺麗なドアが。近付けばボク達をスキャンした後に自動で開いて、部屋の奥の席にモモコさんが座っていた。


「やあ、呼び出して済まないね。そこへ掛けてくれ。」


モモコさんが子供だって知った時のミライさんの顔はお口をあんぐり。


「うえっ?!子供なの?!」


「あはは、知らないと驚くよね。大丈夫、ラフィと同じくしっかり者だから。」


ボク達の座るテーブルにはアールグレイティー。そして相性抜群なお茶菓子が並ぶ。キュエリさんがボク達の前に立ち、モモコさんの代わりに話を切り出した。


「私はキュエリ。ラフィ様専任の外交官をさせて頂いている。外交官は人事にも関わる役職でな。私の方からスカウトの話を持ち掛けさせて貰った。」


スカウト、つまりは就活。高校生のミライさんはちょっと緊張気味に背筋を正して座った。隣にボクが居るから。大丈夫だよ。


それに比べてタマさんは飲んでお菓子を摘んでリラックス。‥‥ブランさんも。あの、ミライさんの大事な場面だからもうちょっと空気を読んで下さい。キュエリさんも物申したげなものの、居ない者として扱う感じに話を進めてしまう。


「今のニホンコクは企業社会でね。企業こそが力を持ち、どの企業に属するかで人生が大きく変わるのだ。シブサワ本社勤めともなれば、資産以上に社会的地位が約束される。」


先ずは今のニホンコクの現状から説明を。と、タマさんが横槍を入れる。


「というのは企業の人間の見解ね。開拓者になれば根無し草のチンピラでも、腕っぷし次第では社会の上位層へ食い込めるわ。ラフィだって別にシブサワの役職は無いわよ?あくまでスポンサー契約を結んでいるだけで。」


ミライさんの驚きの顔がボクへ向く。


「はい。シブサワの皆に援助して頂いていますが、お給料を貰ったりはしていません。あくまでボクの活動を支えて頂いているだけです。」


ブランさんも優雅にお茶菓子を貪りながら、


「庶民の多くは生産区‥‥工場でのブルーワークに所属しています。飢えない程度の夢の無い給料、歯車としての労働、時たまの贅沢だけを生き甲斐にする者共です。本来ならミライさんも保護期間が終わり次第その層の仲間入りでしたが。チャンスがあるよというお話に御座います。」


つまりはよく考えて臨んでって事。ミライさんが幾ら強くても、チャンスなんて早々無いから。


タマさんがミライさんへもう一つ。


「開拓者目指すんなら先ずは初期投資額を知りなさい。アンタに貸与した装備品はこの後回収されるでしょうけど、揃えたいのならそうね。強化外装抜きで500万。強化外装ありなら追加3000万円ね。」


ミライさんの空気を飲む声。


「開拓者目指したいから蹴るとか言うと絶対後悔するわよー。」


なんて言うけど、キュエリさんはまだそこまでお話を進めていない。まぁ流れから何にスカウトするのか大体分かるけど。迷惑そうにしながらも、補足をどうもとキュエリさんは咳払いした。


「業務内容はモモコ会長の護衛、シークレットサービスだ。とは言え常に全員で付き添う訳では無いのでね。護衛の業務が無い日はシブサワ内の仕事をするか、副業として開拓者をやっても良い。勿論護衛の任が最優先になるが。」


シークレットサービスの一員である事は完全に社外秘。世間的な身分はシブサワグループ・プロモーション本部勤めの警備スタッフらしい。キュエリさんの場合は外交官としての身分を名乗っているけど。


「ええと、その。私みたいな高校生に‥‥良いんですか?」


「ラフィ様は小学生だぞ?通っていないからそのぐらいの年齢というだけだが。法律的な問題は無い。働く際に重要なのは年齢では無く、責任能力を真っ当出来るだけの能力だ。一応適正テストは受けて貰うが、簡単なテストだ。」


モモコさんみたいなギフテッド持ちの子供でも、その才能を無駄にする事なく働けるよう法律が作られていた。適正テストに合格すれば晴れて法的に成人扱い。働く事が出来るようになる。ただ、適正テストを受けさせて入社を認めるかは企業次第だから、誰でも働けるかというと。相応の才能が無いと受け入れては貰えないから。


「直ぐに決める必要は無いが、保護期間内に決めてくれ。他社への就職を考えている場合は、要相談だな。それと高校生として編入を望む場合はこちらで席を用意しよう。シブサワは私立の学校も運営している。」


目の前にぶら下がる幾つかの選択肢。ミライさんはパッと直ぐに選んで席を立つ。


「そのお仕事をやるのは大丈夫です。その、でも!ラフィくんに開拓者の色々を教えて貰うのはいいですか?見習い的な。」


横から伸びたタマさんの尻尾がミライさんを小突く。


「ラフィは暇じゃ無いんだけど?」


でもこの世界に誘ったのはボクだから。


「大丈夫です。先輩になれる程キャリアは積んでませんが、ボクに教えられる事があったら。まだ1年の新米ですけど良いんですか?」


ミライさんは驚いた顔でボクを見る。


「そうなの?!じゃあ一緒に開拓者の事に詳しくなれば‥‥」


尻尾がミライさんのおでこを突き回す。


「ラフィはそこらの10年開拓者やってる連中よりもキャリア積んでるわよ。もう3度は世界救ってるのよ?」


「弁えて下さいませ。まぁ、ラフィ様も誰かに開拓者を教えるのは新鮮な刺激があるかもしれません。若い子がラフィ様に近付いて焦るタマはさておき、当機は賛成します。」


「ブラン様!ありがと!多数決で決定で良いよね?お姉さん?」


ミライさんは尻尾の先っぽを摘んでふにふに。ビクッとして引っ込められた尻尾がボクを巻く。ボクもなんとなく尻尾の先をふにふにふに‥‥ふわふわで気持ち良い。


「良いけど、パンタシア泊まり込みは勘弁して。バトロイドとか悪魔とかオスの龍はギリ許容出来るけど、ヒトの女の子は嫌よ。」


タマさんの心配にキュエリさんは答える。


「大丈夫だ。即決出来る所は評価しよう。給料や保険加入等詳しい話は後日にするとして、モモコ様がトウキョウシティに居る間住む場所はこのシブサワグループ本社のシブサワタウンに用意する。関係者の住む社員寮があるのだ。」


あの街の居住区は重役が住まう高級住宅区画と、それ以外の関係者専用の住宅地がある。マップで確認した感じ、大きいマンションが連なる感じ。重役のお家は一軒家が並ぶ区画が、大きな駐車場みたいに縦に積み上げられた住居タワーなんだけど。


「ハイ、オマカセシマス。」


ミライさんはまだ右も左も分からない。ぴょこっと跳ねてキュエリさんとモモコさんを見る。


「すいません!ボクがミライさんを案内しても良いですか?ミライさんには先ずはこの時代に慣れて欲しいです。」


モモコさんはニコッと笑ってOKしてくれた。


「急に呼び立てて堅苦しい話を押し付けて悪いね。でもミライさんの力はシブサワPMCの面々も一目置いているんだ。善は急げってのが家訓さ。他所に唾を付けられる前に、話だけでもしておきたくてね。」


「私もラフィくんと同じ所で働きたいなって。ですから大丈夫ですっ!」


ボクと一緒が良いんだ。そう言ってくれると嬉しいな。


「じゃあ、宜しくお願いします。もう夜ですが街を探検に行きましょう!サイバーシティは夜も眠らないんですから!」


タマさんはよっこらしょと腰を上げる。ブランさんもそっとボクの後ろに控えて、ワープゲートの向こうへ消える最後尾でモモコさん達に一礼したのだった。


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