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454、廻る世界に歯止めを掛ける一戦

「はははっ、結局私の前に立ち塞がるのはお前か!!」


「私ももうアナタの顔は見飽きたんだけど!!」


ミライさんは手にした拳銃を抜き撃つ。ユグストゥスは前戦った時と同じ、魔王級じゃなくても十分脅威的な再生能力を持っていた。顔を避けつつ銃弾を胴体で受け止め、放った魔法が激しい火炎を噴射する。


「今回はボクも最初から居ますから!」


イルシオンをミライさんが踏んで飛び退き、ボクもアクアマリンで作った水路を滑走。飛び上がった先、一瞬宙でセイグリッド・エンジンに換装。急に戦車になったボクに驚きつつ‥‥ユグストゥスは迎撃か回避かを逡巡していた。


結局選んだのは回避。直感任せに身を投げ出し、戦車の質量が直ぐ側へ着弾する音を聞く。キャタピラがギュルギュル回転して、そのまま轢き潰そうと更に猛進!


ミライさんも虎薙をホームランバッターのように構えて迫った。


ユグストゥスの勘は鋭くて、生半可な攻撃でセイグリッド・エンジンに傷を付ける事は出来ないって理解しているようだった。下手に迎撃すればそのまま回避が間に合わずに轢き飛ばされてしまう。防御性能特化の未来の最新鋭兵器は伊達じゃないよ!


虎薙を強化した剛腕で弾いて、吐き出した息が凍てつく地獄の冷気を纏う。場は(こお)るような闇の平原へ。片耳を銃弾で吹き飛ばされながらも、ボクの視界を奪おうとしていた。


セイグリッド・エンジンを解除すれば、闇の中戦車の質量が忽然と消える。


ボクもスマイルの中から、フィクサーさんが地獄の冷気を遮断してくれていた。あったかな心地で地面へ這い蹲ればユグストゥスはボクを見失う。


「こっち見ろって!」


ミライさんが躍り掛かり、ユグストゥスの剛の多腕を虎薙で纏めて薙ぎ払う。引っ掛けるよう袈裟斬りに殴って、片腕で止められた所でボクへ合図した。


R.A.F.I.S.Sで繋がっているから、ミライさんとボクの連携は完璧っ!


パッと闇の中から飛び出したボクの足にはラビットT-60A5。頭上高く飛び上がって驚くユグストゥスと目が合う。時速300kmに急加速、着地は一瞬。腕へ引っ掛けられたままの虎薙の先端へ、ピタリ踏み抜いた。


凄まじい出力で押しやられた虎薙は、尖って無くてもギロチンのように3本の腕を巻き込んで地面にめり込んだ。腕が吹き飛んだ所にミライさんの蹴りが腹部を穿つ。ボクの頭上スレスレを、強化外装の出力任せなミライさんのケンカキックが突き抜けユグストゥスを吹き飛ばしてしまった。


転がっても、残った1本の腕で魔法を発動すればそれは眩い光を発する。


危険を察知して、ミスリルシールドを片手にミライさんへ飛びつく!


放たれたのは‥‥光学レーザー光線。この土壇場、光学兵器を見様見真似で再現してしまった。天才という文字が脳裏を横切る。これにはフィクサーさんも驚いて、ホロウインドウの中で嬉しそうに手を叩いた。


流石にミスリルシールドを貫ける威力じゃない。反応すら出来なかったミライさんは、ビックリした声を上げていた。


「ははは‥‥これが未来の魔法か。面白い。」


「もうお終いです。」


「何がだ?終わらん。私が死ぬまで、何もな!!」


ユグストゥスの体が一気に再生するけど、目に見えて再生力が落ちていた。沢山魔法を使ってもう残りが少ない。呼吸は荒く、目が血走り、意識が朦朧と。明らかに魔力欠乏症の症状が出ていた。


「だったら最後まで付き合ってあげるよ!」


ミライさんがミスリルシールド片手に何発も銃を撃ち、ボクも5丁の紫電M10を撃ち放つ。ユグストゥスの体は黒い霧へ変化して、物理的な衝撃を容易く受け流した。


これはフーガさんの魔法!それも再現したんだ!


その状態で魔法を撃とうとするも、フィクサーさんがホロウインドウの中から指を出し。


『対処法は光です。吸血鬼が嫌うものは何でしょう?』


簡単な魔法が暗いこの空間を照らし出した。擬似的に再現された日光の塊は、どこか神々しく場の全てを明らかにする。黒い霧へ姿を変えたユグストゥスも‥‥霧に紛れて見ていたフーガさんも姿を暴かれて苦しそうに怯んでいた!


「わっ?!もう1人居た?!」


「フーガさんは味方です!」


反射的にミライさんが数発分の弾丸をフーガさんへ、慌てて飛び退いたお陰で風穴が空かずに済んだ。霧になって受け流せない今撃たれたら‥‥


ユグストゥスは5丁の紫電M10、6丁のフェンリルのフルバーストが直撃していた。


一撃で粉微塵に砕け、灼き飛び、ヒトの形を失って散らばってしまった。


ボクの背後にユグストゥスが事前の切り離していたであろう一部が迫る。魔法の刃を纏った1本の腕が───


「じゃあっかしいわ!!」


虎薙を構えたミライさんのフルスイングが、腕を圧し折って思いっきり吹き飛ばしてしまった。


ボク達に見下ろされ、頭の一部だけになったユグストゥスがそれでも声を振り絞る。喉は無くても、魔法が声を届けて来た。R.A.F.I.S.Sに意識が乗って、紡がれる。


「‥‥私はどうだった?どれ程強かった?英雄足り得たか?」


「強かったです。お伽話に出てくるような大魔法使いだったと思います。でも、何度戦っても絶対にボク達は負けません。この戦いはすぐに集められる戦力だけで対応しましたが、もっと大規模な軍隊も居ます。本気でぶつかり合ったら‥‥」


ユグストゥスは笑った。


「だろうな。もとより結局は悪足掻き。戦争にはもう負けたのだ。戦略で負けてしまった以上、ここでの戦術的な勝利があっても無意味だろうな。」


声が次第に小さく薄れて行く。


「それでも陛下へ、ゲオリクの丘(あの世)にて勝利の報を一つでも届けたかった。無念だ。」


今にも消えそうなユグストゥスへ、ミライさんが指差して叫んだ。


「こっちは大迷惑だったんだからね!!私の何もかもを無茶苦茶にしてさ!!無念で結構!!なんの丘だか知んないけど、地獄で閻魔様に叩き直して貰ってよ!!」


「ニホンコクの地で死んだら、行く先は地獄なんだから!!」


ユグストゥスは何も言い返さず、静かに消えていった。





勝利の報はR.A.F.I.S.Sで伝播して、世界全体へ瞬く間に伝わって行く。


シンイチは軍帽を脱ぎ、静かになった戦場で黙祷を捧げていた。アサルトメンバーの面々も同じく。自衛隊の多くが被害を受け死傷者多数。精鋭中の精鋭であるアサルトメンバーに死者は居ないが、負傷者は多かった。


生命保険に守られる彼らはそうそう簡単には死なない。しかし自衛隊の面々は手術をする時間も無く、命の散り際は呆気なく。


ユグストゥスの下まで辿り着く事は叶わなかった。それでも無数に湧き出る地獄の軍勢相手に果敢に戦い、ユグストゥスとの決戦に邪魔が入らぬよう防ぎ続ける事が出来た。


皆が死力を尽くして戦った末の勝利。


シンイチはジークバールの言う、神の奇跡を改めて痛感していた。R.A.F.I.S.Sで繋がった戦場は異質で、シンイチは戦場全体を俯瞰(ふかん)して戦う事が出来ていた。シュミレーションゲームで上から戦略マップを見下ろしながら戦うよりも、もっと直感的に全部を知った状態で戦える。


指揮官としてこれ以上ない環境だった。知らなかった、が1つとして存在しない戦場。ウメがラフィにのめり込む気持ちを理解出来た。


(確かにラフィ様の力は戦争の全てを変える。ただ‥‥それでもこれだけ死傷者を出してしまったのは、俺の無能ゆえか。)


もしウメが指揮を取っていたら。恐らく死者は10分の1以下に収まっただろう。ジークバールならシンイチの半分以下か。鬼神のように戦いながらも、ジークバールの指揮力は総班長を任されるレベルに達している事はよく知っている。


シンイチは引けを取らない程に戦えるが‥‥戦う間の指揮は最適解には至っていなかったと自己評価した。ウメのように割り切って戦場へ出ず、指揮官の業務に専念する姿勢にどこか否定的だった。ジークバールの影響を受け、同じようにありたいと憧れていた。


(ダメだな。俺はまだまだ未熟だ。)


黙祷を捧げながら、シンイチの頬を一筋の涙が伝っていた。





英雄を何人も灼き貫いたラファエルは、セツナと背中合わせに疲れて座り込んでいた。想像を絶する程に激しい戦いで、特異な力を持つ英雄達との戦いは才能に溢れる2人の強化外装を血で汚していた。


「こんなに怪我をしたのはいつ以来かな。クソ、ボロボロだ。」


「ん。また廻れば修理費用は掛からない。」


「金の心配はしてないよバカ。」


セツナの指がラファエルの頬をつねった。


「ん。」


「何すんだよ、バカ!」


両手の指がほっぺを引っ張る。セツナは口数が少ない分、口喧嘩より手が出る方が早かった。正しく傭兵向きな性格の姉に、ラファエルも頬を引っ張り返して対抗する。


暫くわちゃわちゃと揉み合ったのだった。





終わった事を悟り、タマは燕尾服の姿のままその場で胡座をかいた。終わった。長い、永い戦いが。


開拓者になってからここまで戦いっぱなしの任務はそうそう無い。何日間も不眠不休、しかし体は睡眠を欲さず精神だけが疲れていった。


欠伸が一つ。


「あー、終わった。」


そんなタマの肩をジョン・ドゥが叩く。


「興味本位で来てみたけど、中々面白い体験だった。お誘い頂きありがとうってね。」


「紹介料払いなさいよ。」


「なーに言ってんだか。ま、ノクターンの財政が良くなれば支払える給料も上がるし?今後も面白そうな依頼があったら宜しく。」


「アンタが暴れたら地盤がデコボコになんのよ。機会があったらね。」


ジョン・ドゥは肩をすくめた。派手にやって見せつけてやれ、なんて焚き付けた黒猫から苦情を受ける筋合いはない。


「そう言えばキミの愛するラフィくんが、また魔王としての力を一歩強大な物にしたようだね。」


ふとジョン・ドゥが前回の周回でラフィに起きた異変を語る。英雄に追い詰められたラフィは咄嗟に魔王の力を使い、ミニフィーでない怪人を生み出した。ジョン・ドゥのよく知る気配に驚いたものの、ラフィの出自を考えれば納得はいく。ジョン・ドゥの中でまた一つラフィに対する考察が進んだ。


「ラフィなら大丈夫よ。‥‥予想していた事だわ。怪人として顕現するならラフィの支配下にあるし危険はないでしょ。」


現役ノクターンの執行者、タマモと同じ気配を漂わす狐の修羅。R.A.F.I.S.S経由にその存在が伝わっていた。


のぅ。」


2人が振り向いた先に黒い影。黒外套が佇む。大きな笠帽子で顔を隠した和の装いは、英雄達の血で汚れていた。


「噂をすれば。今回も呼び出してたんだねぇ。なんて呼ぼうか?」


「オボロじゃ。愛子まなこが戦っているのじゃ、妾が出ない訳にはいかんだろうて。」


タマは不躾に指で差し、どこか血生臭い雰囲気のオボロを警戒した。


「出しゃばんなくて良いわよ。アンタはあの子の“過去”の存在、今の世界に干渉するのは野暮じゃない?」


オボロは笑う。


「未来から来た頼もしい助っ人じゃ。愛子まなこに求められれば何処にでも姿を現す。妾は怪人でな。どんな願いにも最期まで付き従う残影のような存在じゃ。」


のぅ。」


タマの知るタマモとは口調も、佇まいも随分違う異質な存在。妖ながらに怪人。ラフィが九尾を持つ以上、それを可能にする。ラフィは知らず知らずの内に妖力を操っていたのだ。


「‥‥聞くけど、怪人はアンタだけよね?」


「気付いておろうに。魔王はどんな存在じゃ?ノクターンの執行者なら分かる筈じゃて。」


考えたくなかった。ラフィは既に10体の魔王を捕食し吸収している。もし他の魔王と同質の存在なら、捕食したヒトを怪人として使役するよう魔王を使役するのではないか。


ラフィの善性を信じているし、魔王の力を無闇に振るうタイプじゃない事も分かっている。ただ、この事をシブサワグループは受け入れるだろうか。


それともラフィが怪人を扱う可能性に既に気付いていて、知っていて付き合っているのか。普通ならラフィの怪人をミニフィーだと考えるが‥‥あれが怪物に過ぎない事を伝えるべきか、隠し通すべきか。


そしてもう一つ。ラフィが生み出す大怪獣はどんな存在か。


タマはその力が使われる事がない事を内心祈っていた。





「あら、もうお終いのようね。」


アウランと話すシルフィーユは残念そうに。湯気立つ紅茶と茶菓子の並ぶテーブルを囲って、アウランとラフィ談義に耽っていた。


ユグストゥスを手伝い切れなかった事には少しばかり罪悪感を感じてはいる。しかしシルフィーユ自身帝国へ忠誠心は無いし、英雄譚を求めて従軍しただけの根無し草。知り合いのお爺ちゃんのお手伝いをすっぽかした程度の罪悪感だった。


「もっと話したかったのに。まだトウキョウシティへ来てからの活躍を語り切れてないじゃない。」


そんなアウランへ、シルフィーユは指先を伸ばした。


「私は吟遊詩人。紡いだ物語を広く唄って伝えて行くのが使命なの。でも私はここまでだから。」


アウランの額を突く。


「もうこの世界の巻き戻す力は限界よ。多分次の世界は不完全なものになる。無かった事にならないのなら‥‥」


アウランの瞳にシルフィーユの笑い掛ける顔が映っていた。


「私の魔法を貴女にあげる。最期に面白いお話を聞かせて貰ったお礼にね。それと、もっと私に見せて欲しいの。この世界の行末を。」


有無を言わさずに、アウランの脳内へシルフィーユの魔法が刻み込まれてしまった。瞬き一つ後にシルフィーユの姿は無く。キョトンとするアウランだけが残されていた。



そして世界は廻る───最後の周回だった。

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