453、遥か未来へ送り届ける為の邂逅
R.A.F.I.S.Sが全部を伝播させ、皆が巨人の下へ集う。禍々しい見た目で、正に魔神って感じの印象だった。
「ミライさん!」
もう到着していたミライさんは、魔神の足元からゾロゾロと現れる眷属?みたいな見た目の敵と戦っていた。ヒト型で2対の手には剣を4本。槍を2本ずつ携えた者も居るし、弓を2つ構える者も居た。
勿論魔法を操って飛び回る危険な部隊も戦場を駆け回って、アサルトメンバーと自衛隊相手に数の暴力と死を恐れない特攻で戦っていた。
征伐軍を倒したと思ったら、今度は怪しい謎の軍隊と戦うなんて。
「ラフィさま、アレは遥か太古の地獄に君臨した‥‥ふぅむ。当時の名前に意味はありませんね。まぁ、魔神と呼称しましょう。そういう類の存在です。人界へ出向いて音信不通でしたが、その様子だと当時の英雄にでも袋叩きにされて封印されてしまったようですね。」
フィクサーさんは知っているみたい。魔神だなんて壮大だな。征伐軍の次は魔神が従える地獄の軍隊らしい。
「ですが大丈夫!あの魔神はユグストゥスと混ざり合った存在です。しかしユグストゥスを直接殴れないという、因果律に起因する縛りはユグストゥスのみに作用するもの。混ざってしまっては絶対の防御も台無しでしょう。」
魔神の巨大な肉体はほぼ100%魔神のもの。ユグストゥス成分はもう精神だけだって。精神を直接殴るのならともかく、魔神の肉体を損壊させるのは因果律の防御の範囲外。魔神はこの魔法に守られる存在じゃなくて、他の英雄と同じ扱いだろうから。
ボクももしかしたらって考えていたけど、魔法の専門家なフィクサーさんのお墨付きの推理だった。
ミライさんの戦いぶりは勇猛果敢で、この戦場でも一際目立った戦いを繰り広げていた。ミライさんが飛び込めば地獄の軍隊を一気に蹴散らしてしまう。
「遅れてすみません。」
「ラフィくん、援護をお願い!」
セイグリッド・エンジンを纏い、バルカン砲を一気に薙ぎ払えば目前の軍隊がバラバラになって吹き飛んで行く。凄い強力だけどそろそろ残弾が心許ないな。凄まじい数の弾丸を短期間に発射する分継戦能力は短め。セイグリッド・エンジンに積める他の武装も色々用意しても良いかも。
「それ凄いよ!あははっ!一気にデカい奴の所まで突っ込めちゃう!」
ミライさんが走って、自衛隊のヒト達も前線を押し上げる。バルカン砲が向いた先は、どこも前線が押し上げられて地獄の軍隊が追い詰められていっていた。
それでも地獄の魔法が飛んで来て一画を焼き払い、自衛隊へ少なく無い被害が出て行く。黒い炎は凄まじい熱波を放ち、大きな爆弾が落ちたような衝撃で大気を揺らした。
ボクの頭上にも落ちてくるけど、ミライさんを抱き上げてステラヴィアで滑走すれば捉えられず。
ブランさんとボクの射撃で魔法を操る部隊の頭を次々と吹き飛ばしていった。
R.A.F.I.S.Sに声が聞こえる。
重苦しくて、深海に沈んだ氷塊のような声。
【暫く寝ている間に随分な様変わりだ。】
ボクもR.A.F.I.S.Sで叫んだ!
「もう何百年も経っているんです!!貴方の時代は終わりました!!」
嘲笑するような思念が聞こえる。ボク達は絶対負けないよ!
何機も飛ぶ戦闘ヘリが地上への機銃掃射を打ち切り、魔神へ向けて一斉にミサイルを発射した!自衛隊の基地からもミサイルが次々と発射される!
100mはあるヒト型の巨体のそこかしこにミサイルが着弾し、耐えきれずに魔神の体が吹き飛んだ。驚いた思念を飛ばしながらも直ぐに体を再生させながら起き上がる。
「ラフィ様。やはりあの魔神の頭部、眼窩の内部にユグストゥスの本体が御座います。どうやら体を再構築し抜けだそうと足掻いているようで御座います。」
ブランさんが超精度のレーダーで魔神の全身をスキャンしていた。
「ボクとミライさんでユグストゥスを討ちます!」
ユグストゥス自身を直接殴れるヒトは限られているから。
「じゃあ行くよ!早く終わらせないと!」
ミライさんも意気揚々とボクの腕の中でジタバタ。ミライさんは飛ぶ方法が無いから、ステラヴィアでアクアマリンの水路を滑走するボクが連れて行かないと。
「にゃは、道中の援護はお任せを。」
「当機が送り届けましょう。」
【何をした?!】
魔神の振るう腕が魔法陣を沢山出現させるけど、空を薙いだ12本の光線が腕を灼き貫いてしまう。魔法陣が壊され動揺する魔神の直ぐそば、セツナさんが飛び出し大経口のマグナム弾で的確に顎を狙い撃った。
魔神の足元から蛇型の大怪獣が突然現れ、足元からぐるぐる!と巻き付いて動きを止める。そのまま頭部に付いた巨大なキャノン砲が砲弾を発射、抵抗する前に魔神の腕を吹き飛ばしてしまった。
何処からか飛んできた巨大な炎塊が魔神の巨体を揺るがす。闘争を愉しむ笑い声が燃え盛る魔神へ届いた。
アサルトメンバーも身軽に地獄の軍隊を蹴散らしながら突き進み、魔神の足へ集中砲火を浴びせている。蛇に巻かれ、足を削り壊されてまともに動けず魔神の焦った思念が飛んで来た。
そして巨大な龍の姿に戻ったカテンさんの、凄まじい暴風が魔神を地面へ転ばせてしまう。真空の刃を纏った尾先が首を絶って、ユグストゥスの居る頭部が転がっていった。
頭が無くても魔神の体が動いて起きあがろうとする。魔神の放った大魔法が地獄の火炎を辺りに撒き散らし、尻尾に火が付いたカテンさんがひょうきんな声を上げてジタバタ。
ボクへ迫る火の粉は、フィクサーさんが距離を操って遠ざけてくれる。迫る軍隊をブランさんがacusで狙い撃ち近付けさせない。地獄の軍隊も混乱していて動きに統率感がない。バラバラに戦って、各個撃破されている状況だった。
魔神の力は強大でも、その速度は現代戦に対応出来ていない。大魔法は1発撃つだけでもかなり時間が掛かるみたいだし、巨体が身じろぎする合間にも何発ものミサイルと銃弾を浴びせ掛けられた。
昔なら巨体を前にまともに攻撃出来ず、大魔法が完成するのを絶望しながら見上げる事しか出来なかったのかも。でももうそんな時代じゃないから。昔の感覚で戦おうとして、まるっきり通用しなくて慌てていた。
【キサマらは何者だ?!】
「遥か未来の軍隊です!!」
R.A.F.I.S.Sを交わし合った時には、もう驚く顔の魔神をボクが見下ろしていた。首だけになって動けずその顔は驚愕に染まり、ちっちゃいボクを見上げている。誰かを見上げた経験はあるのかな?
「お邪魔します!!」
「わわっ?!」
ミライさんを放り投げ、ブランさんがキャッチ。ボクはラビットT-60A5へ履き替えて、そのまま時速300kmに急加速!
宙を蹴る駆動音を残して、そのまま魔神の片目を真っ直ぐ蹴り抜いた!!
大質量の眼球をそのまま貫いて、奥の空間でユグストゥスを見た。けれど先に来ていたフーガさんと睨み合っている所だった。
大魔神ゴトゥグレイアの精神がユグストゥスを蝕む。一介のヒトが抗える訳もなく‥‥ただ、精神の完全な消失を引き起こせば世界を廻す魔法が破綻する可能性があった。
事前の仕込みでユグストゥスの精神は魔神から切り離され、その顔面の裏側へひっそりと仮の肉体を構築して姿を現す。
肉体を失った英雄達をこの世へ再び顕現させる魔法を、ユグストゥスは己自身にも掛けていた。完全にとは行かずとも、何とか魔神を呼び出した上で自律を保つ事が出来たのだ。
黒い霧が荒れ狂う魔神の顔の内側へ、ユグストゥスの前で姿を現した。ヴァンパイアロード、吸血鬼の女王は憐憫の視線を投げ掛ける。ボロ布すらないユグストゥスの格好は浮浪者のよう。全てを投げ打って戦ったとして、この勝利を捧げる先も無いなんて。そしてこの奮闘が伝承に残される事も無く、シブサワの軍事記録として誰の目にも触れない場所へしまわれてしまう。
「久しいわね、ユグストゥス。」
「‥‥フーガ。ああ、久しいな。こんな格好で会いたくは無かったが、許してくれ。」
老人の顔はフーガへ笑い掛け、動くのもやっとな体を引き摺る。
「心配しなくていいの。フーガが貴方の全部を見ていた。後世へ語り継ぐ役目はフーガが受けてあげる。何年前かしら、フーガが指輪を無くしちゃった時。泥だらけになった貴方のあの顔‥‥」
「懐かしい話だ。女王様の指輪が糞売りの桶の中にあったなんて。数奇な体験だったよ。」
フーガはその時の指輪を見せた。ユグストゥスの目が見開く。
「この指輪の恩をまだ返していなかったの。そのお礼にフーガがずっと記憶して、貴方を遥か未来へ連れて行ってあげる。」
ユグストゥスの目から涙が伝った。
「そうか。本当に、お前には世話を掛ける。‥‥今の世界はどうだ?」
「とっても素敵な世界よ。全部が便利になって、全部が楽しくなって。貴方じゃ想像も付かない別世界になった。」
「それは良かった。お前がこれからも生きて行く世界が幸せな世界なら、私に悔いはない。」
ユグストゥスは魔法を唱え、その姿をメキメキと屈強な大男へ変貌させていく。
「最後は、私がお仕えする陛下の為。陛下が私の勝利を確信してこの大役をお任せしたのだ。」
丁度魔神の眼窩を貫き、守護天使と煌めく文明の英雄少女が降り立った。フーガは片手をユグストゥスへ振る。
「私は貴方の全部を見届ける。‥‥貴方に触れられもしないのは寂しいわね。」
ユグストゥスは両手に魔法陣を浮かべて2人へ向き合った。魔法陣が光る、銃口が向く。
フーガは黒い霧へ姿を変えて見守ったのだった。




