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449、決戦の火蓋が切って落とされる

世界は廻る、されど両軍ぶつかり合わずに睨み合う。


太古のファンタジーからやって来た、神話の世界を統べる英雄達の軍勢。

煌めく文明の最先端、サイバーパンクの世界で頭角を現し英雄無き世で英雄となった者達。


魔法は奇跡を(もたら)す、“技術”という陳腐な言葉で表し切れない夢幻の可能性を秘めた神秘。

技術は原始の時代から人類文明が積み重ね続けて来て、“魔法”を現実の物へ実現させてきたヒトの可能性を確かなものにする歴史。


互いの戦力を知り合ったからこそ、動く前に入念な準備が要る事を知った。


シチーリャはユグストゥスへ踊り掛かる。


「もう魔法を解け!!何度我が将兵達を生贄にするつもりだ?!英雄共を呼んだとて、負けたではないか!!」


英雄の槍捌きを前にすれば、ユグストゥスと言えどそう簡単には反撃に転じれない。


「ここで勝ち、陛下の汚名を注ぐ為なら致し方の無い犠牲じゃ!!ここの弱兵共を幾度ぶつけようが万に一つも勝ち目がない事は分かっているだろう?!」


地面に現出した巨大な魔法陣の中、シチーリャは叫んだ。


「陛下を言い訳に使うなッ!!貴様の個人的な恋慕を果たす為だろう!!」


ユグストゥスは目を血走らせる。図星だった。


復活を果たした英雄の中には、姿の無い者も居た。ユグストゥスへ血を分け、同じ征伐軍へ従軍したのにも関わらず顕現しない者。


即ち未だ存命の者達。


諦めていたフーガが、まだ生きている事をユグストゥスは知ったのだ。


分かっていた。これだけ強大な文明がある以上、もう帝国は無いだろうと。仮にあっても、かつての姿はもう失っていると理解していた。どれ程戦おうが、勝利を捧げる先は既に無く。虚しい戦いに過ぎない事を。


だからこそ、最後に会いたいと思ってしまった。夜に咲く大輪、美しき吸血鬼の女王に。


(もし生きているのなら、フーガの事だ。ここで私が廻り続けている事に気付いているに違いない。この魔法の危険性をフーガは警告したのだ。戦争の終結と共に、私がどうなったかを探す筈。)


何処かで死して時限爆弾と化していないか、あの抜け目のない女王なら確認しない筈が無かった。しかし今の状況が、フーガでさえ1人ではこの魔法をどうにか出来る手立てを持たない事の証左となっていた。


そしてあの軍勢をフーガが呼び寄せたのだ。ユグストゥスの中で全てが繋がっていた。


どれだけ酷い事をしているかは分かっている。それでも、もし再び逢えるのなら───


兵達が魔法陣の中へ消え、召喚された英雄達がガヤガヤと語り合う。未知の文明の圧倒的な力を目の当たりに、探究心と血が騒いでいた。自分の力があの文明にどれだけ通じるか、試さずにはいられないという風だった。


英雄の1人がユグストゥスの肩を叩く。


「私は分かってる。フーガが居ないもの。逢わせてあげるわ。どの道そろそろ最後でしょう?」


この世界を構築する魔法が急速に劣化していた。外部から大勢のヒトや物が運び込まれ、巻き戻す度に魔法が軋んでボロボロになっていた。魔法自体が不完全なのに、外部から現れた大勢が魔法の作られた時代に無い技術を使って戦えばさもありなん。


それによる影響をリセットして巻き戻す事に対応し切れていなかった。もう破綻は目の前、後一度の周回が限界だろう。つまりこの戦争が最終決戦。


遥か昔に起きた征伐戦争の総決算となるのだ。ユグストゥスは力無く笑う。


「‥‥そうだな。私の我儘に大勢を巻き込んでしまった事をゲオリクの丘(あの世)にて謝罪しよう。陛下もゲオリク神の神秘の丘で待ってくれているだろうか。ただ‥‥(そし)られようが、私は諦めない。」


ユグストゥスの覚悟は固かった。


英雄達も皆そんなユグストゥスの事を理解していた。


「死の間際に愛した女に逢えるかもしんないんだろ?これは戦争だ。力ある者の我儘が通って、兵達が泥に塗れるのは仕方ない。」


「私は再び戦える場さえ整えば、どうぞお好きに。」


「ああ、無信心な者共へ神の鉄槌を下す聖戦に赴こうぞ!」


戦意は高く、遥か遠くの街の中で準備を進める未来の英雄達を油断無く見ていた。英雄とまで呼ばれ民衆を支える存在として生を全うした彼らは、人類の歩みのずっと先が何処へ向いているのかが気になっていたのだった。





「あははっ、それでね。ラフィくんとタマさんが私の部屋に急に飛び込んで来たんだよ?お前は選ばれし戦士だー、なんて。ラノベの主人公になった気分。」


ミライは友人に囲まれて束の間の時間を過ごしていた。美味しいご飯を食べながら、今までの事を語り合って未来に想いを馳せる。


この結界が消えたら───分かっていても、誰もが未来の世界がどうなっているかを予想しあって。


「だからさ、ミライが全部確認して来てよ。この戦いに勝ったらね。」


「気が早いなぁ。私だってどうなるか分からないんだし。でも、なんて言ったって、こっちにはラフィくんが居るんだからね。絶対勝てるよ。」


時間が近付けばミライは立つ。友人達は手を振り‥‥目前に父と母が立った。


フジサキ・カズヤとフジサキ・ヤチヨ。


「パパ、ママ。」


「どうしてお前が戦わなければならないのか。ははっ、昔からいつも直ぐに飛び出して。」


カズヤの声にヤチヨも笑う。


「そうよ、子供の頃遊園地で迷子になっちゃった時は大変だったんだから。」


友人の手前気恥ずかしいミライは俯く。


「でもね、私は娘にこんな才能があったなんて驚きだし誇らしいと思っている。今の状況になって、沢山味方が来るまで持ち堪えたのは間違いなくミライのお陰だろう?」


大きな手が頭を撫でた。


「あんまり引き止めちゃ悪いから‥‥でも、お願い。」


ヤチヨの母の包容力にミライは黙って包まれた。安心する母の温もりの中、ミライは笑う。


「大丈夫だって。だって私は───」


「大丈夫じゃないよ!!もう!いつも凄い心配させて!!死んじゃうのかもしんないんだよ!!私はね!!アナタに健やかに生きていて欲しくて!!」


ふと気付く。あんなに大きく見えていた母の体は思いの外小さく、肩を震わせて泣く姿は母では無くヤチヨ個人を思わせた。


父、母と言えば大きな存在に思えていたのに。でも実際はそんな肩書をやっとこさ背負おうと日々努力を重ねているだけの1人の人間。ミライは今まで両親の事を、どこか偶像を見上げるような気分で見ていたのかもしれない。


どれだけ突っ走っても、両親は笑って見送ってくれると考えていた。でも実際はミライを心配し、娘を戦場へ向かわせないといけない現実に悩み苦悩する人間臭い一面を持っていた。


ミライが返すべき言葉は‥‥


「───大丈夫。パパ、ママ。私は、未来の技術で守られているんだよ?死なないし、絶対に帰ってくるから。応援しててよ。」


「皆と全部を終わらせに行ってくる。それじゃ、」


「行って来ます。」


去り行くミライの背中を、「行ってらっしゃい」の言葉が押してくれた。


学校へ行く時、漢字や英語の検定に出発する時、高校受験に出る時も。出かけていくミライの背中を押していた声が、戦争を終わらせる戦いに赴くミライを応援してくれた。


ただいま、を言う為にミライは振り返らずに虎薙を担ぎ上げて歩んで行った。





自衛隊の野営地の中、ボクは第4旅団のアサルトメンバー達と挨拶を交わしていた。


あのジークバールさんの部下の、シンイチ副総班長さんはボクへ敬礼を。ジークバールさんみたいなテンションで接される事もなく、カッコいい軍人さんって感じだった。


「ラフィ様、此度の戦いへ加わらせて頂くシンイチです。共に勝利を掴みましょう。」


ボクも敬礼っ!て見よう見まねで返す。シンイチさんは先陣を切って戦いへ臨む事を宣言した。


「我々が先ず前線を押し上げます。敵の攻撃は我々が守る前線へと向かいますので、後方への被害を防げるかと。大丈夫です、シブサワの精鋭の実力を信じて下さい。」


圧倒的な勝利を捧げましょう、と礼をして直ぐに出発準備を終えて配置に着く。


「ぼく達は遊撃で良いんでしょ?古代人なんか適当に蹴散らすから、ラフィは後ろから見てて。」


「ん。敵は全員やっつける。」


ラファエルさんとセツナさんに囲まれるボクへ、ルーフスさんが後ろから肩を引っ張って来た。


「私達もシブサワと一緒に前線を作りに行く。」


ルーフスさんに背中を抱かれてわちゃわちゃするボクを2人がジト目で見やる。


「だったら早く行ったら?」


「ん。(ラフィの背中を好きにするの禁止。)」


けどルーフスさんは意に介さず、ボクの癒しを堪能してから軽い足取りで配置へ向かって行った。


別によーい、ドン!で戦争が始まる訳じゃない。シブサワよりも早く既に前線へ向かうヒトも居た。


突然の銃声に野営地が騒めき、アスファルトの地面を破壊しながら暴れる大怪獣の姿を見た。全身から無数の機銃が突き出した大怪獣は、巨大な蛇の姿で地形を無視して動き回る。巻き込まれたビルが倒壊する音が響き渡った。


その蛇の直ぐ近くを紅い執行者が行く。ジョン・ドゥさんとタマさんは先制攻撃を仕掛けに向かっていたようだった。


「チッ‥‥!あの馬鹿共。おい!我々も出るぞ!出撃だ!!」


何台ものジープが駆けて行く。シンイチさんの部隊が、自衛隊の先行部隊と共に出撃して行った。


街を守る部隊はもう展開を済ませている。ボク達は敵の出方を伺い、様子を見ながら戦場へ向かう。砲火で燃え盛るビルが、黒煙を上げながらまた一つ崩れる音を聞いた。




前線へと向かうシンイチは、勝手に戦い始めた元テロリスト共へ愚痴を吐きながらも猛進する。そんなシンイチ達の頭上から、煌めく雨が降り注いだ。


空に流れる流星群を横から見たヒトは多いだろうが、真正面から見たヒトはどれ程居るだろうか。無数の煌めきの正体は、魔力を纏った弓矢。


女帝が空中に出来た王の座へ腰を下ろし、片手を上げれば魔法の軍隊が一斉に弓を放っていたのだ。


「対軍バリア装甲展開───ッ!!」


シンイチの号令で一斉に巨大なバリア装甲が展開される。弓矢の流星群は、傘に防がれた雨音のように音だけ残して弾かれてしまった。


女帝へ向けて狙撃銃が撃ち放たれるも、何処からか現れた重厚な大楯を構えた巨漢がズラリと100人以上顕現する。銃弾は半分程貫いた後停止してしまった。


「フン、銃の備えはある程度はあるようだな。おい。」


「はッ!」


シンイチの指示で数人が戦列を外れて、女帝を始末する為に動き出した。

しかし英雄達も同じく動き出していた。


地面が揺れ始め、アスファルトを砕いて木の根っこが隆起する。シンイチの判断は早く、ここらを前線として確保する為に防壁バリア装甲の展開を指示した。


一斉に展開した防壁バリア装甲は、上空から地下深くまで一気にバリアで覆って前線に巨大な壁を構築する。登録されたIDを持つ者以外は中へ入れず、中からは銃を一行通行に発射して攻撃出来た。


持ち運べる都市防壁。怪物の群れとの交戦に於いて必需品となる防衛装置だった。


隆起した根っこが貫こうと迫るも、凄まじい強度に防がれ中へ侵入出来ない。しかしバリア装甲の表面を多い、侵食するよう根を張り始めた。


「いかんな。制御者を探せ!」


「自爆ドローンで周辺を探索します!」


ドローン部隊がホロウインドウでドローンを制御、自衛隊と連携して無数のドローンを発進させていく。サブマシンガンで武装した4足型バトロイドも次々と組み立てられ、群をなしてバリア装甲の外へ飛び出していった。


「では、私達はこのまま敵の本拠へ迫りましょう。」


バトロイドの群れに追従するよう自衛隊の本隊が動き出した。狙いはあくまでユグストゥス。英雄達の殲滅ではない。射程圏内に収め、狙撃する方針で動いていた。


海岸から続く市街地の先‥‥その近辺には大きな流通センターが存在し、敵はそこへ本陣を移動させて構えていた。トラックターミナルに野営地が作られ、ユグストゥスもそこに居る。巨大な建物の中へ逃げ込めば狙撃も回避しやすいだろう。


流通センターというだけあって、その辺りは車線の多い大きな国道が通っている。建物も案外まばらで、見通しが良い地形だった。見通しが良いと言うことはこっそり近付くのが難しく、この状況では間違いなく大規模な正面衝突になる。


幸い向こうでは大怪獣へ変身したジョン・ドゥが、タマと一緒に暴れている。国道沿いはボコボコ、建物の瓦礫で遮蔽自体は多い様子だった。


「ご武運を。」


「ああ、ひと暴れしてやりますよ。」


部隊を率いて向かうシモダ陸尉へ敬礼するシンイチは、その背中を見送った。


「さて。」


バリア装甲の内側、どうやってか音も無く侵入した伝説的なアサシンがシンイチへ迫る。数多くの偉人を暗殺し、様々な顔を噂され語り継がれた殺人鬼。その正体はユグストゥスの懐刀。時として話し合いだけではどうしようもない政治の邪魔者を、静かに仕留める男が光学迷彩の下で笑った。


そう、光学迷彩。


魔法で周辺の風景を再現し、纏う白の外套へ映して姿を消す。そんな独自の技術を持つからこそ、この男は伝説たり得た。


しかし、悲しい事にもう光学迷彩と言うだけでは姿を隠すには不十分な時代だった。


(我々が進軍する前から、付近の建物にでも潜んでいたのだろう。)


突き出された毒のナイフをバリア装甲で弾き、シンイチの袖下から伸びたライフルの銃口が男の頭を吹き飛ばした。


「さぁ、完璧に勝つぞ。」


シンイチは軍帽を正し、鋭い眼光で遥か遠くにいるユグストゥスの方を見やったのだった。

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