41.side3、SNSに浮かび上がる少年の姿はちょっと背丈が高くなりそう
料理は完成、次に受けたお手伝いは街への宣伝だった。幻のパンプキンモンスター様教は今や蜘蛛の巣街を中心にアングルスに広まりつつある。だけどアングルスの誰もがスマイルを持ってる訳じゃ無いし、パーティーやるよって事前に伝えて回らないとね。
収納内、ポスターの用意良し。ポスター設置場所の確認良し!ミケさんに伝えてお休みを貰った!今日は快晴!
お天気良し!と、ブレードランナーを起動する。胡蝶之夢の入り口前に早速ポスターをペタリ。踊るようにくるりとしながら通りすがった後ろで、3枚のポスターが並んでいた。
ポスターに大きく描かれた幻のパンプキンモンスター様はルナさんが描いたものらしい。そう、AI出力とか脳波投影じゃなくて手描き!なのにとっても可愛くて綺麗で凄い。このイラストを街中に貼って回りたいって思うようなものだった。
「幻のパンプキンモンスター様教、パーティーを行いますので!よろしくお願いします!」
色街のネオン輝く狭い通りを、青い軌跡を残して滑っていく。壁にペちっと叩き付ければ吸着してピッタリ。青い軌跡の後に可愛いイラストが続いて行く。
「ねぇ、何をするのか教えてくれない?」
と、路地裏から顔を覗かせた3人のお姉さんがボクを呼んだ。胸元が大きく開いた動きやすい格好は目のやり場に困る。その場でターンして目の前に着地、ポスターを見せつけた。
「カボチャ料理の出るパーティーですよ!誰でも参加は自由ですっ!」
お姉さん達はクスクス笑う。伸びた手が、尻尾がボクを撫でた。
「奥の方で一杯教えてくれないかしら?すっごい可愛い‥‥」
「噂の癒し、見せてくれない?」
「大丈夫、子供料金にするから。」
ほっぺを触る指遣いが何だかやらしい。ふわりと漂う色香に恥ずかしくなったボクは、するりとお姉さん達の間を通った。ぱぱぱっ、とその手にポスターを渡して路地裏の奥まで青い軌跡を残す。ボクを追って振り向いたお姉さん達に、にこりと笑顔を送った。
「きっと楽しいですよ!ご参加下さい!」
タン、とブレードランナーで跳躍。頭を逆さまに、お姉さん達の頭上を通って向かいの壁面に着地する。通りに足を下ろせばお姉さん達が楽しげに拍手を送ってきた。楽しませられたかな?お姉さん達から少し寂しげな気配を感じたから。
タマさんが前に言ってた。アングルスのヒト達は誰かを失うのに慣れているって。
だけどすれ違う皆の心の奥底はどこか冷たくて。パーティーが良いきっかけになると良いんだけど。折角ポスターを貼って回るんだし、コソコソやるんじゃなくて注目を引くよう動こうかな。
色街のネオン輝く通りをブレードランナーで駆ける。通りの壁面を滑って、歩く人々の真上をぴょんと跳ねて手を振ってみた。
「なんだ?」
「催し物でもあんのか?」
跳ねた先で街灯に片足を引っ掛けてくるりとその場で一回転!青い軌跡が輪を作り、街灯から街灯へ勢いを付けて飛び出していく。ボクが一回転した街灯にはポスターが貼り付けてあった。
「おおっ!」
「あはは、なにあれ?!」
「曲芸か?!」
皆の視線が集まり、その後に残されたポスターが注目された。
街灯の上に着地したボクは狭い足場でターンをして皆に手を振る。見上げる数人はヒューッ!って指笛を吹いて応援してくれた。
「幻のパンプキンモンスター様教のパーティーやりますよ!参加自由ですので、皆でカボチャ料理を食べに行きましょう!」
皆の笑顔が楽しい。色街を回った後は大通りまで足を運ぶ。雑然とした大通りは往来が激しく、多くの人々が行き交っていた。色街と比べるとネオンは少ないけど、その分実体のある古めかしい看板とかも沢山掲げられていた。
色街と蜘蛛の巣街を分け隔てる大通り。その真上には屋根と屋根を繋ぐ吊り橋が一定間隔で掛かっている。吊り橋の上、ボクは一気にイルシオンを伸ばした!
ドームの中は全体的に薄暗い。だからこそイルシオンの眩い白光が一際目立つ。頭上を照らされれば誰もが思わず見上げた。
宙を泳ぐ帯は複雑に動いてパンプキンモンスター様を模る。吊り橋から吊り橋へ青い軌跡を残して跳ねて移動すれば、イルシオンもその後に続く。その間もうねり、形を変え、綺麗な模様を宙に描いた。
やっぱりイルシオンはすっごい綺麗。見上げるヒト達は思わず口を開け、スマイルで動画を撮影してボクを追う。通りはざわつき、誰もが見上げる先でボクは踊った。
タマさんは開拓者は目立ってなんぼと言っていた。目立って名前が売れればそれだけお仕事が来やすくなる。これはパーティーの為だけど、目一杯目立って宣伝しなきゃ!
誰かが大音量で軽快な音楽を鳴らした。リズムを体で感じて思わずステップを刻んじゃう。ボクを包んで回るイルシオンの中、ブレードランナーを細かく駆動させて回って跳ねてポスターをばら撒いた。
手拍子が拍手の波に変わる中、ボクは大きく跳躍して蜘蛛の巣街の方へ飛び出して行った。
蜘蛛の巣街には団地のように住居が敷き詰まった建物、コンテナをそのまま住居にして積み上げたような広場がごちゃ混ぜになっている。一軒家なんてものは無いし、全ての隙間を家にする勢いでヒトの寝床が並んでいた。
建物の前とかに掲示板あるんだし、ペタペタ貼っていけばいいかな?この時間はあんまり家の中にヒトは居ないしね。皆働きに出ちゃってるか、賭場に居るか、色街に行ってるか。
鼻歌まじりにポスターを貼って回ったのだった。
『#噂の天使 アングルスの大通りで発見!なんか新しい装備持ってる!』
『#噂の天使 #ラフィ めっちゃ綺麗な帯を纏う姿はまさに天使‥‥一杯撮ったから写真見て』
『#噂の天使 あれラインレーザーか?あんな武器初めて見た』
『#ラフィ すっごい幻想的、なんかパーティーの宣伝してた!』
『#噂の天使 #推しの開拓者 新装備超綺麗!強そう!可愛い!!お姉さん応援してるからね!!』
『#噂の天使 #推しの開拓者 音沙汰無かったけど生きてたか』
『#噂の天使 まだトレンドのトップに乗る程じゃないけどこの子絶対今後伸びる 今のうちに唾付けとけ』
『#噂の天使 #ラフィ 手を振ってくれた!ダンス超上手かった!踊るの好きなのかな?!』
お昼過ぎ、胡蝶之夢の用心棒控室にて。強化外装に立たされ、壁に寄りかかって待機するタマはニヤニヤしながらスマイルを眺めていた。SNSアプリ、ハムハムで宣伝効果を確認していたら案の定ラフィが目立っていた。
推しの相棒が皆にちやほやされる様子でしか得られない栄養素がある。宙に投影されたホロウインドウは通常、他人からは見えず。ニヤニヤしながら宙を眺めるタマは、スマイルの普及率の低いアングルスの住民から見て不気味なものだった。
アングルス育ちの用心棒の男がゾッとした目でタマを見る。
(こいつが噂の暴れ姫‥‥あの顔、正気じゃねぇ。何が楽しくてニヤついてるんだチクショウ。)
思わずタバコ休憩の口実で控室を後にした。
(タマ生命の連中から一旦身を隠す為にここまで来たけど、ラフィはやっぱり目立つわね。ま、場所が割れようがアングルスに居る以上そうそう手は出せないし。むしろ焦って迂闊に動いてくれれば噛みついてやれるのに。)
『#噂の天使 この前の開拓者試験で何があったか知ってるのかな?』
『#噂の天使 #この武器知ってる人集まれ あの光の帯結構速く動いてたしめっちゃ複雑な挙動してたな』
『#噂の天使 あの帯に巻き付かれたら大抵の強化外装が溶けそう』
『#噂の天使 やっぱ裏にでかい組織が付いてるパターンか?あんな武器知らんし入手経路謎過ぎる』
『#噂の天使 皆スルーしてるけどブレードランナーの乗りこなしヤバない?大人顔負けだろ』
『#噂の天使 #ラフィ 雰囲気ふわふわしてるのに挙動がやたら鋭いの笑う』
『#噂の天使 さっき追いかけてみたけど秒で見失ったわ ブレランでエアキャットみたいな挙動するのは変態だろ』
『#噂の天使 俺も色々質問しようと思ってたのに周りをくるくる回られてポスター手渡されてた』
『#噂の天使 真似してブレランでパルクールしようとしてさっき頸椎粉砕した開拓者は私です』
『#噂の天使 #ブレランマニア集まれ 流れてきたけどプロスケーターみたいな動きしててXD』
『#噂の天使 ブレードランナーって独特な慣性がなぁ あえてそれ選ぶ?』
う〜ん、タマの口角がによりと動く。パーティーの宣伝効果のチェックがいつの間にラフィのエゴサに変わってしまう。R.A.F.I.S.Sのお陰かイルシオンの扱いにもあっという間に慣れてしまった。試しに色々触らせてみてもラフィの武器の習熟速度は異常だった。
となれば色々使わせてみたくなるのが人情。
(次は何を紹介しようかしら?ソメヤの奴に聞いてみようっと。)
ラフィの知らない所で断片的な情報がその姿を形作っていく。しかしその姿は等身大か、大きくぼやけた偶像か。着実にその名がSNSの中に浸透していっていた。




