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SP あのハロウィンが1人の男を漢に変えた

アキラさんに繋がったお陰で執事さんの名前も分かった。トバリさんはジャックさんと激しく戦いながらも、完全に沈黙してしまったアキラさんの事が気になって仕方ない様子。


手にしたレイピアの剣先がブレる。ジャックさんはあっさり弾いて、


「片手間じゃ勝てないよー。」


交差したトイ・ブレードをハサミのようにトバリさんの首へ突き立てる。思わずブレードを手で抑えるも、背後から迫ったタマさんが徐に後頭部を掴み‥‥


鈍い音を立てて近くの壁へ叩き付けていた。勢いでブレードが首を削って、血が。


「動脈切れてないしヘーキ、チャンバラで怪我するのは良くある事でしょ?」


悪い顔で首を抑えて蹲るトバリさんを見下ろしていた。


「よくもまぁ堂々と無茶苦茶やってくれたわね。ただで済むと思わないでよ。」


ボク達は直ぐに自分の山車へ戻って行く。


「ラフィの旦那、敵はもう残ってませんぜ。」


「はいっ!」


「予想外の強敵だったな。」


レイホウさんも槍をしまって、ボクをギュウっと抱き締める。ひゃっ?!


「癒してくれ。」


「は、はい。」


レイホウさんの山車が派手に暴れて、アキラさんとボクの戦いに妨害が入らないようにしてくれていた。ありがとうっ!とボクも抱きしめたのだった。


何か言いたげなブランさんはカテンさんへ山車を押し出すように指示を飛ばす。ヤスコさんが作った帆が風を捉え、ボク達の山車が前進し始めた。


ゴール前まで行くと大勢の観客達が出迎えてくれる。口々にボク達の名前が呼ばれて、指笛が無数に響く。


『今、ラフィ連合の山車がゴールへと‥‥!!来ました!!一位!ラフィチィィィィーム!!!』


凄まじい歓声を浴びて、ボクの顔も嬉しさに火照ってきた。


「二位!ニッポンイチホールディングス!!」


続いてレイホウさんの山車が通り、壊れた山車達が風に押されるままに次々入賞していく。10位までピッタリボクの仲間達の社名で埋まった。


「ラフィ、やったわね。」


「はい!タマさん!皆!勝ちました!!」


ハイタッチを皆と交わす。


「激戦で御座いました。カテン、ボーナスを弾みましょう。」


「おおっ!そう来ないとな!我が居なければ勝ち目は無かったのだぞ!MVPってやつだ!」


「ああん?!MVPはラフィの旦那でしょうが!出しゃばるんじゃねぇですよ!」


「あはは、楽しかった〜。マジ映えるんですけど。ほら、ラフィも一緒にツーショット!」


そんなボク達を満足げにフィクサーさんは見下ろす。


『にゃはは、今年のハロウィンはとっても思い出深いものになりましたね。ですが、この後の予定もお忘れなきよう。』


トロフィーを授与されて、沢山写真を撮って、入賞者のインタビューにもそれぞれ答えていって。


夜に予定がある事をブランさんが伝えてくれたお陰で、少し早めに解散になった。一緒に戦った開拓者や傭兵の皆へ手を振ってお別れを。


「今日は一緒に戦えて楽しかったです!」


「おうよ!次もまた機会があったら共闘しような!」


皆勝てて上機嫌に、それぞれ帰路についていった。打ち上げは後日やるとして、今日は皆のハロウィンパーティーを優先しなきゃね。


場所はプライベートフォレスト。


応接室へ次々と仮装した仲間達が集まって、口々に似合ってるよ!可愛い!と感想とイイね!を送り合う。


「ラフィくん、今日のパレード配信見たよ!」


「私らもラズベリーの部屋に集まって応援していたぞ。」


「白熱する戦いだったじゃない!思わず叫んじゃったわ!」


「そっ。格闘戦、強化外装で体感時間引き延ばして観戦してた。」


ラズベリーさん達はまさかのデビルズ・エコーの衣装を着ていた。一緒に休日を過ごしていたらしいキャウルンさんは複雑そうにため息を漏らす。


「まぁ今日はお忍びだし、ハロウィンだし?目を瞑るけどさ。」


「因みに配信見てて一番興奮してたのキャウルンだから。」


「興奮し過ぎて飛び回ったキャウルンにヒップアタック貰っちゃった。あはは、ラフィくんが1位獲った時凄かったんだよ?」


キャウルンさんは尻尾で魔法少女達をペシペシ。ボクの頭にのしっとお尻を置いて、肉球をぷにぷにおでこに押し当てた。


「お疲れ様、ほら肉球好きでしょ。」


「好きです。くすぐったい‥‥」


見やればタマさん達も、クニークルスさんやデビルズ・エコーの皆と笑い合っていた。そんな中ブランさんはドローンも動員して手早く会場の準備を整えてくれる。テーブルが並んで、ハロウィンに因んだカボチャ料理がズラリ。パイからカボチャソース乗せの一口ステーキまで。カボチャの食材としての可能性を味わい尽くす、豪華なご馳走が良い匂いでボク達のお鼻をくすぐった。


ヤスコさんとジャックさんは早く食べたそうに料理に興味津々。けれどまだだからね、と引き留めた。


そしてモモコさんとレイホウさんも姿を現す。続いてアリスさんにビャクヤさんも。


「いやー、お疲れ!キミ達なら勝てるって思ってたよ。」


モモコさんと笑顔を向け合う。ボク達もいっぱい楽しめたし、今日は最高のハロウィンになった!モモコさんはボクが普段着ている、白と青のセーラー服を着こなす。オマケ程度にカボチャの髪飾りが揺れていた。


「ラフィのコスプレグッズは結構人気でさ。街中でこの格好のヒト結構多いんだよ?」


フィクサーさんがヤマノテシティのエビスタウンを中継する、ニュースチャンネルを映してくれた。ハロウィン一色に染まった街の中を、仮装した群衆が楽しい!を振り撒いてウキウキと足しげく。


『ハロウィンイベントも盛り沢山ですよ!エビスタウンだとハロウィンスタンプラリーに、ハロウィン当日限定メニューいっぱい。シナガワタウンでは魚達のARがハロウィン衣装を着込んで、タカダタウンでもハロウィンのパレードが。ああ、レースじゃなくて健全なやつです。』


「ボク達も今からお祭り騒ぎするんですから。負けないぐらい最高に今を楽しみましょう!」


アリスさんは魔女っ子の衣装でボクの感想待ち。素直な気持ちを声に出せば、笑顔と一緒に。


「トリック・オア・トリート!」


お姫様の格好をしたビャクヤさんと一緒にボクへ手を差し出した。収納からポン、とボクの好きなお菓子を手のひらへ。


「でも食べるのは後でですよ。」


「あら!くれるの?嬉しい!ほらラフィも!」


トリック・オア・トリート!


ボクの手に2人が好きなお菓子が乗せられた。可愛い包装のお菓子を手に思わず笑顔になっちゃう。モモコさんとレイホウさんもお菓子をボクの手に乗せて来て、ラズベリーさん達も。


ボクの小さな手に乗り切らないよ!ボクからも皆へお返しです!やっぱりハロウィンと言ったらコレだよね。孤児院でもサラ先生から皆へお菓子のプレゼントを貰っていた。遅くなっちゃうけど、明日孤児院に顔を出そうかな?お菓子を準備しておこうっと。


パーティー前になし崩し的にお菓子の交換会に。


トリック・オア・トリート!


言い合えば気分が一気にハロウィンに染まって来た。仮装して普段と違う皆と思う存分騒ぐんだ!


応接室のドアがまた開く。ウィッチワークス旅団の皆に、イシダさん達、そしてセツナさんとラファエルさんも。ちょっと遅れてコソコソって風にロゼさんとメリーさんが。


「今日の為に非番を死ぬ気で勝ち取ったんですよ。」


「ウチもそんな所ッス。マサルさんへ掛け合えば休みの1日ぐらい。」


総理まで巻き込んだの?‥‥聞かなかった事にしよう。


タマモさんにフレア・ローズさんまでやって来て、良いお菓子を皆へ配って回っていた。


プライベートフォレストが一気に賑やか、開拓者も傭兵も企業のヒトも。ボクと出会って一緒に支え合って走って来た皆がグラスを片手に掲げる。


「では!ハロウィンを楽しむ為に!皆で乾杯しましょう!」


「「「「乾杯ッ!!!」」」」


パーティー会場はARのハロウィンの飾り付けが木々を明るくする。プライベートフォレストの木々の幹に可愛いコウモリやドクロにお化けのARが。


美味しいカボチャ料理を堪能して、ビンゴ大会も開いてモモコさんやレイホウさん達が用意してくれた豪華な景品に夢を見る。


「ヨッシャァァァァァ─────!!!!」


イシダさん、渾身のガッツポーズ。


モモコさんが用意した虹天リゾートタウングランドプリンスホテル、2泊3日の旅のチケットをゲットしていた。おめでとう御座います!!


「流石兄貴ィィィィ!!」


「やるじゃないっすか!」


「ふん、運の良い奴め。」


「景気良いじゃねぇか!」


皆で大盛り上がり。喜んでくれて何よりだよ、とモモコさんは笑っていた。


「ふふふ‥‥来たわね!ぬるりと!」


フレア・ローズさんがゲットしたそれは‥‥!


ボクと一晩添い寝チケット?!何それ?!誰が用意したの?!


ピャッ?!と見やった先、タマさんが目を逸らす。


『お酒に酔った勢いで適当書きましたね?にゃは、ラフィさまをNTRされた気分は如何ですかー?』


「自分で引けば良いって思ってたのよ!あん時は!」


「アレだけラフィに執着しておいて、存外雑な事をする。猫は気分屋だからな。」


顎をさするカテンさんにタマさんのチョップが刺さった。


フレア・ローズさんに抱き締められたまま、もぞもぞするボクはビンゴの結果に思わず跳ねる!


「はい!ボクです!当たりました!」


「あら、良かったじゃない。」


何が当たったのかな?3段目横一列!景品は?!


「スパ・ニッポンイチリゾート、特別招待チケットだ。10人まで遊びに行けるチケット、誰を誘うのかな?」


レイホウさんはボクのチケット管理アプリへ送信してくれた。短いメッセに『運命を感じるな』とだけ。何の事だろう?


「ありがとうございます!!えへへ、今度行かせて貰いますね!」


チケットなら気兼ねなく皆を誘える。誰を誘おうかなって既にワクワクしていた。


その後もラズベリーさんが高級お料理セットを引き当てて、ヤスコさんが結構値の張るARお化粧アプリの招待コードを。ロゼさんも快適安眠寝具セット一式を手に入れた。


「わっ!このベッド50万以上するんですか?!」


フレームだけで40万円、マットレス25万円。グランドプリンスホテルでも採用されている最高級ブランドベッド。景品を持ち寄って参加する面々が凄いお陰か、ビンゴの景品がとっても豪華。


ロゼさんは嬉しいような、恐縮するような変なテンションでメリーさんの肩をバシバシ叩いていた。


ビンゴを楽しんで、お風呂に行きたいヒトは露天風呂へ。皆各々好きに過ごして夜が更けていった‥‥





「アキラ様、お目覚めになりましたか。」


自室のベッドの上、アキラは目を覚ます。かかりつけのサイボーグ専門医と助手が数名、そして執事のトバリが見下ろしていた。‥‥体が動かない。


「あーあ、派手に壊しちまったな。信じられるか?そこらの質量兵器じゃ傷付けるのも難しい、S.L.A.C(特殊液化アダマンタイトコーティング)だぞ?ははっ、ダンプに潰されたレンガみてぇにベキベキだ。」


8本の腕は完全に破損、制御系がイカれて脳との接続が切れている。散々蹴られた腹部は、一番頑丈な作りになっていたにも関わらず殆ど穴が開きかけていた。


金の力にモノを言わせたこの肉体を前にすれば、腕利きの開拓者でさえも手も足も出ない。傷付ける手段があまりに乏しく、凄まじい馬力の一撃はバリア装甲を易々と砕く。余程の規模でない限りEMPショックの影響も受け付けず、サイボーグの最上位を自負する最強の肉体。


それが廃品漁りのスクラッパーが雑に解体したバトロイドのよう、辛うじて原型を保ったヒト型へ成り果ててしまっていた。


あの小さな体から、とんでもない威力の蹴りが繰り出された事実に驚愕。あれじゃ蹴る度に強化外装ごと脚がブッ壊れている筈なのに。カラクリは分からない。ただブラックボックスアーツ程度じゃ説明出来ないような、凄みを体感していた。


「はははっ‥‥コレがシブサワのお抱え。都市を救った守護天使様の力か。何で敵うと思っちまったんだろうな。」


暫くの無言の間、トバリは何か言いたげに。言うべきか、どうか。迷いながらもその目は決心する。


「アキラ様が意識を取り戻す前、1名訪問者が来ていました。」


「あ?何だよ。」


「コウシン様です。」


聞くとは思っていなかった親の名前。まさか子供が怪我したから様子を見に?そんな訳が。


「当ててやろうか?俺を勘当しに来たんだろ。今回はちょっと暴れ過ぎちまったしな。シブサワと揉めるぐらいなら俺を切った方が早え。」


ズルい一手、トイ・ウェポン製の単装砲は早くも審判にかけられ、パレード運営並びにシブサワグループから抗議声明が出されていた。ルールには確かにトイ・ウェポンなら何でもとあるが、常識は無いのか。当たれば殺傷する威力の武器の持ち込みは禁止だと。


トバリは軽く咳払い。そして。


「派手にやられたものだな。跳ねっ返り小僧が、今なら聞く耳の一つでも持つだろう。再教育してやるから覚悟しろ、と言伝を。」


思わずトバリを見上げる。


「コウシン様はずっとアキラ様に次期代表を譲るかどうかお迷いになっていました。代表の座は今の立場とは比べ物にならない程に過酷で、危険なモノだと。このまま自身が脳を改造し生き永らえ、アキラ様が老衰するまで代表を勤め続ける事がアキラ様の幸せになると‥‥」


「んな訳あるかよ!!!」


トバリの目は真剣だった。


「そもそも全ての始まりは、アキラ様の反抗期です。貴方が金の力でギャング組織を勝手に立ち上げ、とんだ奔放な愚息としてふらふらしていたから。50にもなって反抗期引き摺っているんじゃありません!甘やかされクソ坊主が!!」


「お、お前‥‥!」


「コウシン様は私めに日頃から感じている本音を叩きつけよとご命令を下しましたので。」


アキラは動けない今の状況に腹を立てたが‥‥敗北。ラフィに完敗した経験が、何処までも子供を引き摺ったバカ息子の目を覚させた。案外自分は無敵では無かったし、何でもかんでも求めるばかりで応えられる度量のない我儘だったと。


名声が欲しい?親に認められたい?50にもなった大人の言う事か?青臭いにも程がある。反抗期に勝手に仮想敵を作って、跳ね返って、次期代表としての教養と経験を積む時間を嫌がって。機械仕掛けの図体を手に入れた子供は、天使の強烈なキックでバカな空想に生きて来た事を悟った。


トバリの視線に気付く。ラフィは自分に向けられた視線を大事にしろと言っていた。本音を叩きつけ、それでも真剣な視線を向けて来ている。侮蔑でも嘲笑でも無い、本気で支えようとする者の視線。


居て当たり前に思っていた執事の視線に、アキラは感謝の念を感じていた。


「‥‥世話を掛けたな。そろそろ引退して身を固めるべきかも知れねぇな。妻にも連絡しておいてくれ、コーポの世界に入っていくから嫌なら離婚してくれて構わないってな。」


ハロウィンの激闘が、1人の男を漢へ変えた。彼はこれから10年後。その行動力と判断力、裏にいるギャング組織の武力と親譲りの卓越した手腕によって次期代表の座に腰を下ろす事になる。


彼は言う。


あのハロウィンが俺様を変えた。守護天使様が腑抜けた俺様を蹴っ飛ばしてくれたんだと。

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