SP 何でもありな乱痴気パレードの中異変が広がっていく
レースが始まった!
巨大なカボチャの馬車、魔女帽子を被った猫ちゃん、包帯ぐるぐる巻きデザインな竜、何かのアニメのキャラクター、眩く光るガシャポン‥‥
山車サイズの巨大な魑魅魍魎がモンスターパレード開始!荒野から始まったレースは土煙を上げて、大衆の歓声を背に早速動き出す。レースの様子を幾つもの中継ヘリが捉えて、都市の各所へ生放送を行っていた。
「山車に使えるマシンパーツは指定の物に限りますが‥‥ラインナップからの取捨選択と、操作のセンスが勝敗を別つので御座います!」
ブランさんが早速操縦席で幾つものホロウインドウを弄くり回し、山車を急旋回させる!
「おわっ?!」
「旦那?!」
「きゃあっ?!」
そのまま真横を走っていた、お菓子まみれの鯉の山車へ激突!衝撃で鯉さんがよろめいて‥‥
「あははっ!早速1キル〜!」
派手な音と共に横転しちゃった!フィクサーさんが中継の様子を教えてくれる。
『ああっ!早速ラフィチームが仕掛けました!鯉愛社、早くも横転!これには会場が湧き立ちます!』
風に乗って早速スタート地点のお祭り会場から歓声が聞こえて来た。そっか、皆が求めているのは仲良く手を繋ぐ平和なパレードじゃなくて。ランブルファイトさながらの山車をぶつけ合うドッカンバトル!
「早速やってくれるじゃねーか!おわっ?!」
鯉の山車から突っ込んで来たフル武装の傭兵さん、ヤスコさんが指した先に急に現れた壁を前に驚いてツンのめる。あわや激突って所で停止するも、傍に回り込んだタマさんの豪快な蹴りが横腹に突き刺さった!
「ゲフッ?!」
「出直して来なさい!」
ヤスコさんがボクへハイタッチを、ぴょんと跳ねたボクの手が合わさった。
「そんな事をしている暇はないぞ!」
カテンさんが自身に纏ったバリア装甲と魔法を弾く鱗を盾に、山車をグルリと巻いて四方八方からの魔法弾の射撃を防いでくれた。ルールに身体を張って守っちゃダメなんて無いからね!でもすっごい狙われてる?!
『早速乱痴気騒ぎが始まりましたね!ほら、どこもぶつかり合いに撃ち合いですよ!』
トイ・ウェポンから放たれた魔法弾は、色合いカラフルでパレードを賑やかす。可愛いデザインの山車の間を無数の魔法弾が飛び交い、勿論互いに隙あらば乗り込みあって全力で妨害合戦!
そしてハロウィンパレードの喧騒をどこかコミカルにするBGMが鳴り響いた!
「アタシもちょっと行ってくるわー。」
「アハハ、私も!」
タマさんとジャックさんが打って出て、ボク達が防衛に当たる。R.A.F.I.S.Sで繋がっているからピンチになったら直ぐにカバーに入れるよ。
「我はこのまま山車を守る盾役か。まぁ活躍はしているが。」
「あーしは主に防衛に山車の修理でございやすね。」
タマさん達と入れ違いに光学迷彩を纏った開拓者が。同じ旅団のメンバーらしい2人はピエロの格好、透明なのにボクとヤスコさんにピタリと居場所を見抜かれて驚いた風に狼狽えていた。
「噂通りかよ!」
「はいっ!見えていますから、こそこそはさせません!」
ステラヴィアを駆動!背中のアクアマリンが水路を作って、立体的な動きでボクは駆け上がる。瞬き一つの間に2人の頭上を取って、ヤスコさんも創り出した壁にカバーしながら正面からサブマシンガンを撃ち放つ。
開拓者な2人は業務用アプリのお陰で、ランク20前後の場数を踏んだベテランさんだって分かる。一目散に山車の側面へ飛び出し射線から逃げた。壁面を駆ける2人をボクとヤスコさんがそれぞれ追い掛ける。破壊工作はさせないよ!
直ぐ近くを走っていた大きなドクロ山車がカッ!と光って側面が吹き飛んだ。内部に侵入されて、トイ・ボムを仕掛けられちゃうとあんな感じに壊されちゃう。そのままドクロは車軸が壊れて停止、破壊工作した傭兵と守る傭兵が銃撃戦を繰り広げているようだった。
ボクのスピードスターの銃撃をミスリルシールドで受け流しながら、開拓者さんはトイ・ボムを外壁にくっ付けようと隙を窺う。けれど真横から迫ったカテンさんの尾先が容赦無く引っ叩いて吹き飛ばす。
「さっきからチョロチョロ鬱陶しいぞ。」
「グアッ?!」
アクアマリンの水路は宙で姿勢制御に忙しい開拓者の懐まで真っ直ぐ、
「これでお終いです!」
突っ込んだボクのキックが激しく吹き飛ばし、近くを走る山車へ激突してしまった。パパッと帰還すれば、ヤスコさんもあっさり倒したみたいでもう戻っていた。
「あーしの技に対応出来る奴はそうそういませんね。何が起きたかも分からずにマヌケ面しちゃってさぁ。」
「頼もしいです。えへへ、勝ちましょう!」
次々魔法弾が飛んで来て、ボク達はヤスコさんの作った遮蔽に身を隠す。R.A.F.I.S.Sがタマさんとジャックさんの様子を捉えていた。
「サイバーゴーストのお出ましよ!」
ゆらりと姿を現したタマさんが、手にしたトンファーで2人に殴り掛かる。それぞれが手にしたミスリルシールドが防ぐけど、ジャックさんが数秒遅れで背後から現れて2人を殴り倒した。トイ・ウェポン製のブレードはバリア装甲を砕けても、強化外装は貫けない。突き刺すように殴り飛ばして山車から落としてしまった。
急襲に3人が銃を抜いて対応、ジャックさんが派手に暴れて大立ち回り。その隙に光学迷彩で姿を消したタマさんが操縦席に迫る。
「ディープを許すなんて、防衛戦は苦手かしら。」
操縦者の後頭部をトンファーがガツン!なんとか振り向くも、グリップで顎を殴り抜かれて意識が飛ぶ。取り出したるは磁石製の手錠。近くに手錠を貼り付けられた運転手が助けを呼んでも、ジャックさんに手一杯で誰も動けない。
口笛を吹いてタマさんは操縦を代わってしまった。クイックハックが軽くセキュリティを抜いて、送られたグレムリンが遠隔操縦権をタマさんに譲ってしまう。こうなったら完全にフォーマットを初期化する以外手がないっていう悲惨な状態に。
「クソッ!ハッカーかよ!」
「悪いわね。トリック・オア・トリート!」
ヘラヘラ笑って出ていくタマさんを前に、運転手さんは苦笑いするしかなかった。上もジャックさんがダメージを負いながらも制圧。首からお菓子の籠を下げたアヒルさん山車が、ボク達の山車に追走するよう付いて来た。
「こんなもんよ。」
ドヤ顔のタマさんに凄い!凄い!とくっ付いてわちゃわちゃ、ジャックさんもヤスコさんが片手でハイタッチを。
「アハハ!面白っ!一個乗っ取っちゃった!」
「付近のもどんどん追走させてやるわ。」
ボク達の山車はR.A.F.I.S.Sがあるお陰で、どれだけ気配を消して近付いても分かっちゃうから攻撃しにくい。でも他は高度な潜入技術を持つタマさんに対応し切れない。タマさんはノクターンの一流執行者なんだよ!潜入は十八番なんだから。
「ジャック、アンタ良い仕事するわね。その調子で暴れて目を引きなさい。アタシが中枢を奪ってやるから。」
「こっちはそーいうの分かんないしー。暴れるのは得意だけど!」
だけども皆積極的にボク達を狙う。大きく伸びたイルシオンが水の刃を纏って接近、乗り込んだショットガン持ち数人の足元を刈り取る。1人が転んだ拍子にそのまま山車から落下してしまった。
「なかなか暇させて貰えませんねぇ!」
ヤスコさんの展開したドローンが、立体的な軌道で頭上を取り魔法弾が横殴りの雨のように。スピードスターの正確な銃撃がショットガンの銃身を撃ち抜いて撃たせず、驚いた顔のままバリア装甲を破損させながら落下していった。
ボク達の山車を中心に、カボチャケーキの山車と派手なアニメキャラクターの山車まで追従してくる。タマさんの暗躍がパレードの異変を段々ハッキリさせていっていた。
他の山車は戦い潰し合って脱落者が増えている筈なのに、ボク達の周りを示し合わせたように囲んで追従している。山車上にタマさんが設置したタレットがズラリと並んで、さながら機動要塞のようになっていた。
「アッハッハ!これよやりたかったのは!フィクサー、動画撮れてるでしょうね?」
『勿論。にゃはは、ライバル社を軒並みタレット要塞にしてペットのように追従させてみた動画として後日配信しましょうか。』
「どこもハッキング対策が甘過ぎるのよ。ま、アタシは一流だし。抜けないセキュリティはそうそう無いけどさ。」
生中継チャンネルも驚きの声を上げていた。
『これはどういう事でしょう?!ラフィチームの山車に他の山車が付き添っています!タレットが並んで要塞みたいです!』
「ノックアウトした連中は全員操縦席に押し込んで鍵掛けてやったわ。権限無いからもー何も出来ないってね。」
タマさんは最高に楽しそうに笑っていた。他の山車が近づこうとするも、向いた20機のタレットが凄まじい魔法弾の弾幕を浴びせ掛ける。慌てて進路を離そうとするけど、ブランさんがグイグイと幅寄せを。結局逃げれずにボロボロになって脱落してしまった。
うう、なんだかすっごい悪どい戦い方をしているような。でもルール違反じゃないし。
『同じような事を考えた奴は居ても、まぁそもそも操縦席まで侵入するのは至難の業です。ハッカー対策を軽く見ていたバカが痛い目にあっただけですよ。』
外部からハッキングを仕掛けても対策されて遮断されちゃうけど、内部から直接弄られたらどうしようもない。タマさんがふらりと出て行く度に、ボク達に追従する山車の数が増えていったのだった。
けれども数を合わせて集う山車はボク達だけじゃないみたいで‥‥レースが次の段階へとその様相を少しずつ変えていっていた。
お祭り公爵の山車が猛進する。それは巨大な海賊船で、船長のコスプレを楽しむアキラは豪快に笑う。
「おいおい!ラフィらの中継は見たかよ?!」
日頃からバカをやってつるんで来た仲間達と盛り上がった。レース中なのに酒を一杯、摘んだジャーキーをバクン。そんな様子をトバリは呆れ顔で見ていた。
「今回のレースは中々張り合いがありそうで良かったぜ。“用意”が無駄になっちゃ白けちまう所だった。」
アキラの山車へ忍び込む光学迷彩を纏った刺客。ソファーに巨体を預けてリラックスする背後から銃を向ける。数発の魔法弾が後頭部を直撃。
直撃‥‥?
その巨体は根を張った大木と見まごう大きさ。蹴っても撃っても揺れもしない。魔法弾程度、豆鉄砲。
バリア装甲すらも張っていなかった。
「俺様はラフィに勝てると思うか?」
問いに答えるトバリはただ、
「その体で本気で暴れればルールに抵触します。見せびらかす程度に留めて下さい。」
合図するよう片手を振っていた。
刺客は突然背後から狙撃されて転がる。
「なんだ‥‥?!」
思わず声を出して振り返った先、追走するカボチャプリンの山車の上から2人のスナイパーが狙いを定めてきていた。追走する山車の数が瞬く間に増えて行く。
「さぁ、ここからが本番だ。俺様を楽しませてくれよ。」
刺客があっさり蜂の巣にされて転がされる姿は、ついぞアキラの視界に映される事は無かった。




